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ユキア・サガ 航海① 海賊忍者とネフシュタンの魔片 第1巻  作者: ユキロー・サナダ 【ユキア・サガ(ハイ?ファンタジー)連載中!】
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3.神約暦4015年1月5日  新国策 前編

ユキアが掟を破って国抜けする背景を、途中にユキアの幼少期の物語を挟んで、

前編・後編にわけた前編です。

お楽しみいただければ幸いです。


 世界から全く認知されてない国が小国がある。

 それがオレが生まれ育った傭兵国家『パークス』


 レビヤタンの咆哮より、600年前壊滅時代に遡る。レオン王国の大船団に乗り込み、侍という武人達が極東の島国ヤマトから、はるばる神聖ロムルス皇国の首都レムスにやって来た一族郎党がいる。

 彼らは、幻妖な法術を操り、壮絶な武術を体得した戦闘技術を誇る傭兵軍だった。

 桁外れの戦闘力に戦慄しながらも魅了され、時の神聖ロムルス皇国皇帝は、この一族郎党に城と領土を与えようとしたが、祖先はそれを固辞する。

 その後。時を置かずしてこの傭兵軍団は忽然と姿を消す。

 一族郎党が神聖ロムルス皇国に足を踏み入れたという史実は、過ぎ去っていく時と、レビヤタンの咆哮によって、すっかり消失してしまった。

 傭兵軍団の長は一族両党を現在のレオン王国第2の都市リスボアから、ほぼ西南方向のアトラス海上に浮かぶ小さな島に導いた。

 この島で、長は建国することを宣言し、その国祖くにのそとなり、国主くにぬしと呼ばれるようになる。

 オレの祖先の国祖は姓を改め、ユキムラ・ヴェルスと名のった。

 国土となる島を故郷を意味する『パトリア』と名付け、その国の名は平和への願いを込めて『パークス』と命名。

 以来、5000年間で、レビヤタンの咆哮を辛くも乗り越え、その後も何度となく人口が激減した時代を経験をしている。

 近代に入り、漸く人口は急激に増加しているが、小さな島だから、その領土は手狭になり、深刻な問題になりつつあった。

 パトリア棟には、パークス独自の厳重な3つの結界が張り巡らされている。

 建国以来、この3重結界を突破したものは皆無と伝えられている。

 パークスにたどり着けるものは、同胞以外には存在しない。

 世界から敢えて姿を隠し、ひっそりと命脈を保ってきたオレの祖国パークス。

 そこには、相伝しながら守ってきた千奇万幻の法術と、強力無敵な武術がある。

 が、それらは、いずれも門外不出の秘伝、秘技とされた。

 この掟は同時に、パークスからの出奔ーー国抜けーーは絶対赦されないことを意味する。

 パークス独自の法術と武術が他国に伝授されることを阻止しなければならない。

 延いては、パークス言う小国の存在を、世界が知ることも防げるからだ。

 赤子、幼児を除き、国主を筆頭に国民の多くの老若男女を傭兵としたのだ。

 元々パークスの蒼氓は、極東の島国ヤマトにいた頃から傭兵を育て束ねてきた戦闘国家の一族郎党。

 国主くにぬしは代々幻奇妖夢の法術と、強強剛剛の武術を生業にして、同胞を生かし、活かす政策を採り、この国を存続させている。

 赤子、幼児を除き、国主を筆頭に国民の多くの老若男女を傭兵としたのだ。

 元々パークスの蒼氓は、極東の島国ヤマトにいた頃から傭兵を育て束ねてきた戦闘国家の一族郎党。

 祖国の戦略により、他国に入り込んで紛れ、傭兵として雇われたり、他国から攻め込まれれば一致団結して、命がけで闘う。

 現代は他国に攻め込まれる心配は無いから、専ら傭兵稼業に励んでいる。

 同胞はその稼ぎの大半と、外つ国の詳細情報をパークスにもたらした。

 こうしてパークスは常に、義のある国が軍いくさに勝つ為に陰から支え、世界平和のの実現に向け、死力を尽くして闘いに身を投じ続けている。

 ヤマトでは彼らのことを『ニンジャ忍者』と呼んだ。

 然し、その国で忍者はユキムラ・ヴェルスとその一族郎党が離れて600年後には絶滅している。

 今の時代、忍者はパークスの他には存在しないーー・


※※※※※


 オレがいた国パークスの国土パトリア島は、温暖な気候で秋と冬は短いけれど、春、夏と四季があった。

 美しくもどこか儚い季節の移ろいを、緑豊かな山々の樹々や花々、湖、河、海が惜しげもなく魅せてくれる。

 国祖ユキムラ公は、この島に上陸した夜の宴で同胞の輪に入って肩を組み、喜びの歌ったと伝え聞く。

 その場所にパークスの首都カネレを建設。カネレとは歌うという意味だ。

 党内と領海では、多種多様な生物が生息している。

 鮮麗な紫一色の羽で舞う紫皇蝶(しこうちょう)

 艶々と耀く天鵞絨ビロードに似た羽からは、微かに金粉が零れ落ち、それを浴びると幻獣や幻獣人族が生きる世界『幻界』に入ることが出来るという。

 国祖ユキムラ公は永眠す前に、

「もう1度幻界に行って、一献傾けたいものよ。

 芳醇な良き香りに満ちた、美しく壮麗な佳景が広がる世界だった」

 しみじみ語ったという。

 鶏冠の代わりに、立派な黄金のたてがみを持つ、鶏の変種、コマガッルス。

 素早く動き、鋭い嘴で攻撃してくる為、飼いならすのは困難。

 蟹よりも鋭く巨大な鋏を持ち、横走りできる海老の変種、ガンペケル。

 あらゆる方向に逃げるうえ、人間の指などサクッと切断する恐ろしい鋏を持つので、捕獲は至難の技。

 これらは、おそらくパトリア島にしか生存しない生物だろう。

 美しくも恵み豊かな神秘の島。

 それがオレの故郷パークスの国土、パトリア島なんだ。

 この島に巍然としてサナーレ山が島のほぼ中央に聳え立つ。

 サナーレ山の南面から、国内最大の河川アルケラス河が島の南東に位置する首都カネレの中央を、南に向かって横断しながら、アトラス海へと流れていく。

 河の流れに沿う並木道は、春先に花開く『虹桜』が美しい。

 その花びらは、1日に7回、7色に変化する奇しき樹木だ。

 花びらを、パークスでは食用として、また薬用としても活用している。

 花びらの色によって、味も香りも変化する。

 虹桜の桜桃で造った桜桃酒は、光に加減で7色に変わり、和かな花の香と甘酸っぱい味が美味で、高価だが、パークスの蒼氓に愛飲されていた。

 薬用とする場合も同様で、花びらの色により、効能が異なるので重宝されている。

 1年に1度、7月7日に、白桃色の花びら時、その下で思い人と過ごすと、2人の恋は成就するという浪漫伝説もあった。

 但し、1日のうちに、いつ白桜色の花火になるのかは、日ごとに変わるのでわからない。

 虹桜の並木道に沿うアルケラス河を利用し、パークス国主の居城『昴城』を巡らせて支流を引き、外濠にしていた。

 外濠の内側に並行して、銃眼が並ぶ厳つい石造りの城壁が6つの塔を六芒星の形に結んでいる。

 城壁内の中心に鎮座する8層建ての城は、一風変わった姿をしている。

 極東の島国ヤマトで天守閣と呼ばれる建築物と、ゴーティコ様式建築物を、洗練された技術を用い融合させたもので、他国に同様な城は皆無。

 地上から3層部分はゴーティコ様式の城で8つの鋭い尖塔があり、その上には5層の大天守閣が峙つ。

 内部には万が一の有事に備え、独特の仕掛けがあちこちに隠されていた。

 城そのものにも、四囲にアルケラス河から支流を引き込んで、内濠を備えている。

 城の周囲は入り組んだ道が走っていて、石造、木造、大小様々な建物が連なり城下町を形成していた。

 国主ソウガの嫡男であるオレと、次男ナツヒが共に暮らす居館『龍鳳館』も、昴城の直ぐ側に建っているーー。


※※※※※


 神約暦4015年1月5日。 


 この日、昴城の桜舞の間で、新年の恒例国事。互礼の義が執り行われた。

 新年を迎えた喜びを互いに祝し、その年の国家指針を国主が宣す日となっている。

 ヴェルス家の一族に名を連ねる、マリス家、ラーディックス家、スペース家の御三家と、フルーメン家を含めパークスの四獅王と称されている重臣達に加え、他の家臣と共に総勢30名が列席した。

 この日ばかりは、出席者の男も女もそれぞれとっておきの魅せ武具、魅せ法衣や外套で着飾り、桜舞の間が華やぐ。

 オレはそういうことには無頓着だ。

 桜舞の間は城のゴーチィコ層3階にあり、広さは60畳。

 白檀の腰板で囲まれ、蘭奢待の香気が漂い、さり気ない風韻があった。

 粉雪溢れる寒さ厳しい日だったが、アエルで室内はぽかぽかに温められている。

 天井には、白蛍光岩ーー周囲が暗くなると、日中畜光していた光を自動的に放射する。非常に高額。黄と青が一般に使用され、他に緑、桃色等があるーーが嵌め込まれていた。

 上座には、3か所に床の間が並ぶ。

 左側には、オレが尊敬する国祖ユキムラ公の遺品と語られてきた家宝が飾られている。

 生々しい刀傷が幾筋も刻まれていて、指を触れがたい神聖さと、どこか怪しい魅力のある、緋鉄二枚胴具足だ。

 右側にも家宝がある。

 金糸、銀糸で表装された掛け軸には、国祖ユキムラ公が筆を持った『義勇』という文字があり、国訓としても大切にされてきた。

 武人とは想像出来ない繊細な筆運びは、その言葉が持つ力強に加え、深く暖かい優しさが滲んでいる。

 オレはそれを誇りに思っている。だから、ユキムラ公のようになりたいんだけど……。

 オレの父であり当代国主ソウガは、左右の床の間より一段高く広い中央の床の間で胡坐を組んでいた。

 居並ぶ家臣達より一回り小さな体だが、それを感じさせない威圧感を強烈にはなっている。

 人を射抜く鋭い眼矢を隠し、瞼を閉じているが、全身から発している野望を秘めた覇気までは抑制出来ていない。

 一歩下がった右隣には10年前他国からその一族と共にパークスにやってきて、父ソウガの側室となり、1年後国主の二人目の正室になったリビが座している。

 オレと、ナツヒの義母でもあった。

 眉間に漂う気と、険の潜む目付きは、気性の激しさを容易に感じさせる。

 二人の前、右の列筆頭に御三家当主の一人、デーン・マリス、ナツヒ・ヴェルス、その横に四獅王以外の重臣、ラピス・リューが並び、末席から2番目にオクトー・ラーディックスーーコウザン・ラーディックスの嫡男ーーを含め15名が出席していた。

 左の列筆頭に御三家当主コウザン・ラーディックス、同じく御三家当主ルーナ・スペース、四獅王以外の重臣の一人、老師クーゴ・マゴと続く。

 末席から3番目にオレ、2番目にロクネ・スペースーールーナ・スペースの嫡女ーーを含め15名が出席していた。

 国主ヴェルス家と重臣の列に加えられているマゴ家とリュー家は、パークスの特別な身分で、侍忍者のの一族。

 他の一族は、文官や一部の例外を除き多くが忍者の身分となっている。

 忍者は、上忍、中忍、下忍という階級があり、それぞれ一等から五等の等級があった。

 桜舞の間に出席を許されているのは、一等上忍と文官幹部だけに限定されている。

 列席者が揃い、居住まいを正し、桜舞の間に緊張感や、水を打った静けさが広がっていくと、

「これより、互礼の義を執り行う、皆の者、国主に礼っ!」

 国主と対照的に背が高く、端正な顔立ちのデーンが一同を見渡す。

 デーンは御三家マリス家の当主で、海の者と呼ばれている戦闘集団を率いている。

 海の者は、操船、水中活動に優れた技術を修得している者達だ。

 海。湖、河の関わる作戦には欠かせない。

 大海原に生きるこの時代にあって、パークスでの存在感は絶大だった。

 デーンは言葉を継ぐ。

「今年はソウガ様より、我らパークスの未来を切り開く、極めて重要な国策が伝達される。

 皆、心して耳を傾け、各々それに従い、任務の完遂に努めよ」

 デーンは父ソウガに向き直り、一礼した。

 国主は、重々しく口を開く。

「皆の者、今年もこうして我が昴城に集結してくれたこと、嬉しく思う。

 新たな年を迎え、皆と共に良き一年としたい」

 父は、浅く頭を下げ、続けた。

「今年はパークスの発展を目指し、まずその足掛かりを作る一年とする。

 国祖ユキムラ公は、皆も知っておる通り『義勇』とは、自ら進んでその一身を世界平和のの為に挺身することだという信念を持っておられた。

 世界各地で起こっている軍で、義がある側の味方し、傭兵としてパークスの名は決して出さず、陰ながら争いを終結させる道を我らに示された。

 ユキムラ公自身、戦いに明け暮れておられたことはモナ皆も知っての通りの伝説じゃ。

 以来パークスは、これまで何も迷わず盲目に、愚直に駆け抜けておる。

 じゃが儂は、いつまでもそれでよいのだろうかと、国主として自問自答を繰り返す日々を送って来た」

 その答えを一言たりとも聞き逃すまいと、家臣一同父ソウガの演説を傾聴している。

「我が創生の人口が増えていることは、誠に喜ばしい。

 じゃが、その結果我が国は領土が手狭になってきとる。

 このまま放置すれば、近い将来確実に土地が不足してしまう。

 それゆえの不幸を招くのは、儂には耐えられんのじゃ」

 多くの家臣が父の危惧に同調して、思案顔で首を縦に振った。

 パークスの国土は、四つの地域に分割されていて、それぞれ国主ヴェルス家と御三家が城を構えて統治している。

 領土不足が原因と思しき争いは、近年増え続ける一方で、頭の痛い問題となっていた。

 互礼の義に出席している者の間でも、土地の境界線をめぐって争いのある者達が、実際に何組かいる。

「国主として儂は思う。これまで我らは他国の平和に十分尽くしてきた。

 それでも見よ! 世界に平和は訪れぬ、

 儂には、争いこそが人の生きる力になっているようにすら映る。

 争いがあるからこそ、人は寄り添い、助け合っているようにすら思う。

ーー争うこと、それが人の生きる運命なのではないかと感じるのじゃ。

 最早、神仏の御業と御徳をもってしてもこの世界から『争い』をぬぐいさることはできぬじゃろう。

 ならば、そろそろ我がパークスの為に、我らが進むべき道標を変更しても決して神仏やユキムラ公も、お怒りにはならないのではないかと」

 家臣たちの面容から反応を読み取ろうとしているのか、父はゆっくり首を回した。

 そこに手応えを感じた語気で、力強く新国策を宣べる。

「そこで近い将来からは、3、4人の忍者小隊をパークスの者とは悟られぬよう、戦地に送り込むという基本方針を変えることに致す。

 今しばらくの間は、パークスの名は伏せるが、各国と交渉の上、堂々と我が蒼生を忍者部隊、則ち傭兵部隊として差し向ける。

 その第一目的は、申すまでもなく、領地じゃ。

 従って今年は世界各地の軍の情報収集と、各国との縁を結ぶ為の準備期間とする。

 差し当たり、不穏な空気漂うクィーンズティアラと、水面下で既に海軍賊同士が闘いを起こしている、オロアルマダ帝国と、レオン王国連合、この三国での任務を完遂せよ。

 我が忍者部隊がいつでも、且つどの国の闘いにも参戦できるように動いていくこととしたい。

 各忍者部隊は、我がパークスが誇る四獅王と老師の指揮下におく。

 愚息二人に申し出によって、リビを正室としたが、お陰で国を留守にして、儂も皆と共に戦地に向かうことが出来る。その日が楽しみじゃ!

 皆のこれまでに勝る忠勤を期待しておる。以上じゃっ!」

 熱のこもった父ソウガの新国策の明示が終わると、桜舞の間は俄かにひそひそ声が広がっていく。

 オレは、黙していたが、こみ上げる怒りを緋隻眼をぎゅっと閉じて俯いた。

 領土問題を解決する手段として、父と同じ考えを持った物がこれまでいなかった訳では無い。

 それでも実行されなかったのは、相応の理由があった。第一にパークスの存在を明らかにしない以上、他国内に領土を持つことは、その国の蒼氓になるのと同義であること。

 第二に仮にパークスの存在を明らかにして他国に接触すrことは、パークス本来の国土パトリア島を知られてしまう蓋然性を排除できない。

 それは、他国と問題が発生してしまった場合、パトリア島に攻め込まれる危険があること。

 第三に」、他国の領土をわがものとしてはならぬ、という国祖ユキムラ公の遺訓あったことが一番大きい。

 他にも理由があったが、主なものはこの三点。

 一方で、他国内ではなく、未知の地、未開の地をパークスの領土にという意見もあった。

 でも、実際のところこの近隣にはそれに該当する島で、人が生活していけそうな地は、これまで発見されていない。

 あったとしても、パトリア島と同等の幻術結界を施すことが出来なければならず、その条件はいくつかあって、それが難題だった。

 父ソウガはーー今しばらくの間はパークスの名は伏せるーーと公言した。 

 その言葉が、オレには引っかかった。

 それはいずれパークスの実在を、世界に宣言すると言っているに等しい。

 パトリア島が世界に認知されるのを覚悟せよ、と言ったようなものだ。

 居並ぶ家臣達が、不安気にざわめくのも無理はない。

 もし、パトリア島が攻めこまれて、その戦いに敗れれば、全てを失ってしまうのだから。

 約4600年昔、極東の島国ヤマトが二つに割れ、天下の覇権をかけた大軍があった。

 ユキムラ公は、敵総大将の首級を挙げたが、それでも結果は敗戦となり、全てを失い、パークスを建国したという歴史をこの場にいる全員が熟知している。

 今の平和を壊してしまうことは回避したいのが、多くの者の本心に相違ないだろう。

 けれども、問題解決の代案を、国主に進言できる者は誰一人ない。

 ところが、スペース家の女当主が、さらりと質疑を述べて皆の意表を衝く。

「恐れ乍ら、オロアルマダ帝国とレオン王国と三国同盟を結んでいる神聖ロムルス皇国や、かの国と交戦中のガリアス王国では、情報収集の必要ではないのでしょうか?」

 落ち着いた柔らかなルーナの声に、桜舞の間は静けさを取り戻した。

パークス一の美女と誰もが認める、ルーナの艶麗さと清楚さを備えた」稀なる美貌は、殺伐とした闘いの中に身を投じている侍忍者とえない。

 ルーナは御三家スペース家の女当主で、月の者という戦闘集団を率いている。

 月の者は、暗闇や夜でも昼間同様自由自在に動くことが出来る技術や忍術を会得している加えて医療忍術も習得している。

 暗闇や夜、諜報活動や医療活動が関連する作戦には欠かせない。

 にも拘らず、今回の新国策が自分に全く完治させず決断をされていることは、内心思死億ない筈だ。

 だが、そんな素振りは一切なく、優美な笑みを湛えて居る。

 オレの弟、ナツヒが応じた。

「神聖ロムルス皇国とガリアス王国は確かに交戦中ですが、神聖ロムルス皇国がコル・ス島を占拠した後は、目立った動きはないようです。

 新たな戦局が開く迄は、人員を割く必要はないという国主のご判断です」

 童顔のナツヒだが、肥満体型と落ち着いた物言いには、若さをかすませる貫禄が備わりつつあった。

 俺より年上にみられることも、珍しくなかった程。

 パークスでの地位は第4位の席次であり、第5位のルーナより上だった。

「では尚更のこと」ルーナは何らかの確信を持っている概で「両国の情報収集と外交窓口は必要かと」

 父ソウガは意外そうに「何故じゃ? 」ルーナに対し左に眉を少し上げた。

 右隣のリビが、余計なことをと言いた気に、月の者女当主を露骨に睨んでいる。

 リビが自分より美しく聡明なルーナを嫌悪していることを、家臣達で知らない者はいない。

 それでもルーナはそ知らぬふりで、「神聖ロムルス皇国とガリアス王国共に、現在動きのないことは私も存じております。

 ラティウム都国が両国の仲裁に入ったようです。

 もし、両国が休戦すれば、クィーンズティアラがガリアス王国に、オロアルマダ帝国の背後を衝かせるべく、軍事同盟を持ち掛けるのは必定。

 ガリアス王国は、神聖ロムルス皇国にコル・ス島を奪取されてますから、失地の埋め合わせの好機チャンスとなります。

 故に、この軍事同盟が締結されることは間違いありません。

 そうなれば、ガリアス王国も参戦することになるでしょう」

 ナツヒは溜息を零し、「成程、では、神聖ロムルス皇国も参戦する可能性がある、ということですか?」

 然しルーナはその予測を言下に否定した。

「いいえ、神聖ロムルス皇国はラティウム都国の仲裁を受け入れるのであれば、ガリアス王国と干戈を交えることはありません。

 参戦することはないでしょう。

 メシア教カットリチェシモの剣と盾なってラティウム都国を守護することが、かの国の最大なの務めですから。

 それ故、世界最大の宗教宗派都市国家ラティウム都国を擁するレムスは、世界の首都と呼ばれているのです」

 席次第二位のデーンが誰に言うでもなく、慎重に考量を始める。

「つまり、オロアルマダ帝国とレオン王国は、神聖ロムルス皇国とガリアス王国に、今休戦されるのは困るということか。

 ならば、神聖ロムルス皇国とガリアス王国の新たな戦端を開かせる工作を、両国が仕掛ける可能性もあるのぅ。

 ゲルマ王国にガリアス王国の背後を衝かせる手もありか」

 それを聞いた面長で丸メガネのラピスが、ナツヒの耳元で囁く。

「神聖ロムルス皇国はオロアルマダ帝国とレオン王国と三国同盟を結んでいますが、ラティウム都国との間に挟まれる形となりましたな。

 されど、ソウガ様の御計画の中に、神聖ロムルス皇国やガリアス王国の領土を得るというお考えはありませんでしたから、休戦になろうと、新たな戦端が開かれようと、我らにとって然程の関係ないのでは?」

 席次第7位のこの男は、現在ナツヒの補佐役として取り立てられたことで、席次純をずらしている。

 元々はコウザンの片腕だったが、父の命により、現在の地位を得ていた。

 本来の席次は、クーゴの位置だがナツヒを補佐する為に、その右隣りに座っている。

 ルーナはラピスを視野に入れる気配もなく「デーン、その通りよ。だからラティウム都国はオロアルマダ帝国とレオン王国に気取られぬよう、現在極秘裏に卯木いているようね。

 この動きを掴んでいるのは、今のところ我らパークスのみよ」

 自信たっぷりといった趣だ。

 父ソウガは全く首を動かさず、目線だけをルーナにぶつける。

「さすがはルーナじゃ。その情報はいつのものじゃ?

 それに、仲裁に入ったラティウム都国の目的は何じゃ?」

 その両眼には、冷厳な光が沈んでいた。

 ルーナは目礼して「有難う御座います。4日前の情報です。

 どうやら、メッカ教に支配権の大半を奪われてしまっている聖都奪還の為、神聖ロムルス皇国の兵と、可能ならガリアス王国の兵も動員して十字軍を派遣することが目的ではないかと」

「そういうことか、わかった」父は即座に断を下す。

「ではガリアス王国にも配下を回せ。

 神聖ロムルス皇国は、コル・ス島を版図に加えておるから、ラティウム都国の仲裁を受け入れると読む。

 ガリアス王国も、ガリアス本島を攻められるのは回避したいじゃろうから、やむなく仲裁を受け入れる筈じゃ。

 従って、神聖ロムルス皇国とラティウム都国の諜報活動はこれまで通り月の者に任せるが、今以上の人員を割く必要はない」

 オレの見解だけど、傭兵部隊戦略の成果報酬として領地を得るのは、本国パークスから東西南北いずれの方角にせよ、可能な限り近い国がいい。

 となると、レオン王国、オロアルマダ帝国に魅力があるだろう。

 逆に、神聖ロムルス皇国、クィーンズティアラ、ガリアス王国はパークスから遠く、現時点ではそれらの国々から領土を得ても、却って国家経営が難しい。

 パークスとしては、レオン王国、オロアルマダ帝国で領土を得るには、この二つの国に力を貸すのが必然の方針となる。

 である以上、ガリアス王国に背後から動かれるのは、何かと面倒だ。

 その動向を探り把握しておけば、パークスの盾になるとルーナは推断しているのだろう。

 父ソウガは、それが理解できない程愚鈍ではない。

「儂は我がパークスをこの近海で列強国と呼ばれる国々と肩を並べる大国にしたい。

 そうなれば、今のように、ひっそりと引きこもってパトリア島のみで生きていく必要はなくなるじゃろう。その1番の近道は……」

 オレの父ソウガは、少しためてから、激しく吠えた。

「パークスに近い国、レオン王国、、或いはオロアルマダ帝国を丸ごと乗っ取ることじゃっ!」

 不敵極まる父ソウガの野望に、老師コウザン、四獅王グラビィス、御三家のコウザン、ルーナや、殆どの家臣が驚愕している。

 これでルーナのみならず、コウザン、グラビィス、クーゴといった重臣も、新国策の創案参画してないことが判明した。

 話の流れからすれば、ソウガ、デーン、ナツヒ、ラピス。おそらくリビを含めての合議だったのだろうと家臣団も察したようだ。

 然し、実のところ小国パークスの国主が新国策の実現に向け決断をしたのは、パトリア島が手狭になっていることだけが、その故由ではない。

 新国策の成功を裏付ける確信があった筈だとオレにはわかる。

 デーンが自信に溢れた双眼を耀かせて、

「ここにおる皆が明確に気付いておる筈じゃが、列強と呼ばれる国々においてさえ、我らのように術を操る武人はいないに等しい。

 さればこそ、我らはこの世界で生き残ってこれたのじゃ。

 他国に並び立つ存在の無い、千奇万幻の忍術と。無敵無双の武術があれば、多少の兵力差なら赤子の手を捻るように引っ繰り返すことが出来る。

 それを我らは、既に身をもって経験してきておるじゃろうが。

 国主の大望は、決して夢幻ではないっ!」

 間を置かずラピスが付け加える。

「今のパークスは人口は増え、それなりの部隊編成も可能になりました」

 父ソウガは満足気に力強く顎を引き、ナツヒに両眸を移す。

 それが合図だったかと感じさせる時機タイミングで、ナツヒは朗々と語り始めた。

「良い機会ですから、列強国の術士や武人と、我ら同胞との戦力差がいかに大きいのか、冷静に分析してみましょう。

 列強国を含むこの世界には、様々な法術が存在しています。

 それらは、それぞれ何らかの宗教と結びつきが強いことは、ご列席の皆さんもよくご存じの事でしょう」

 ナツヒはそれらの法術について、まずは分類を始めた。

「メシア教、シナイ教とも呼ばれるラウズ教、メッカ教等一神教との関連性が強いとされる『聖術』

 タオ教、シャカ教、アガスティア教等多神教との関連が強いとされる『仙術』

 ケルズ経を代表とする自然崇拝との関連が強いとされる『精霊術』

 ソフィア教、拝火教等を代表とする異端宗教との関連が強いとされる『魔術』

 全ての法術との関連があるとされる『召喚術』

 その他にも確認できている法術がありますが、何れもすでに列挙した法術から派生したものです。

 それら全ての法術に対し、我らの忍術は凌駕しております」


※※※※※


 オレ達の忍術は、仙術から派生した陰陽術を起源としていた。

 その陰陽術が開花したのは、海滅時代パークスの国祖ユキムラ公が神聖ロムルス皇国に渡った頃より

数百前年のこと。

 開祖は、エンノオヅヌと呼ばれた人物だ。

 この人物が、天賦の才と血の滲む修行、刻苦勉励の末、陰陽術を生み出したとされる。

 それは仙術のように、火、水。風、土の四元素属性の術を操り、聖術が誇る光属性の陽術と、魔術が得意とする闇属性の同じ陰術を加えた。

 更には、術札に術式を書き込んで術を発動する手順のみならず、殆どの法術関係同様術式を詠唱することでも、それを可能とした。

 この陰陽術を操る者の中から、次の舞台への進化を目指すものが現れる。

 陰陽術を含むすべての法術士には、常に天敵がいた。それが武術士、則ち武人だ。

 それはオレ達の時代でも同じ。

 武人には強力な法術を操ることは、まず出来ない。

 然し、詠唱中の法術士や術札に筆を走らせる道士・術士に致命的な痛打を与える攻撃が、遠距離からも近距離からも可能だった。

 だから、法術士は武人と戦闘する殆どの場合、単独での闘いを極力回避、仲間の武人と共闘するのが基本とされている。

 単独戦闘を逃れられない場面では、危険を覚悟の上で適切な距離を取る以外な手段がなかった。

 この法術士の弱点を克服するには、自ら武人と渡り合える武術を身に着けるしかない。

 でも、法術士は通常、一つでも多くの術、より強力な術を会得し操る為に、人生の殆どを術の研鑽、修行に励み費やす。

 それは武人も同じで、一つでも多くの技を駆使する為に、技をより強力にすべく、生涯の大半を捧げ、生きる。

 こうした両社の姿勢、考え方は現代でも変わらない。

 術と技を同時に体得することは、それ自体が困難で、結局何れも極められないというのが定説となっている。

 それでも一部の陰陽術の術士達は生涯を賭け、親から子へと諦めることはなかった。

 法術と武術を身に両方を身に着けること。

 武術の一種、剣術でいうところの『二刀流』に挑戦を続けた。

 苛烈極まる修練に心魂こころだましいましいと肉体を捧げ、不可能なことに挑んでいると批判され、嘲笑された俺達の祖先の人生。

 けれども、揺らぐことのない鋼の心魂が道なき道を拓き、遂に陰陽術と武術を修得した者を生む。

 その者の名は、キイチ・ホウガン。

 抱いた志を賭け、全てを耐え忍んだキイチ・ホウガンとその仲間達は、それ故に忍んだ者『忍者』と呼ばれるようになった。

 陰陽術、聖術、魔術以外の法術は、光、闇。四元素のうち。一つの属性しか身に着けれないとされていた。

 聖術は、光属性と四元素属性の一つを身に着ける。

 更に光属性に抜きんでている聖術士はそれに四属性を融合させ、複合術を発動することが出来る『聖導士』も存在することが知られていた。

 闇属性が強力な魔術は、これに四元素属性を混成させ、複合術を発動することが出来る『魔導士』がいる。

 が、陰陽術は、光属性の陽術、闇属性の陰術両方と、その上四元素属性のいずれか一つを身に着けることが可能。

 この3種類の属性を組み合わせた複合術を操る陰陽師も活躍していたという。

 陰陽術は、海滅時代のある一定期間において、世界最強の法術だったろうとオレは思う。

 その上、忍者は召喚術と同種の『口寄せノ術』の会得にも成功している。


※※※※※


 ナツヒの声は自信に溢れ、力強さを増していく。

「全ての法術には、光に対しての闇、闇に対しての光、火に対しての水、水に対しての土、土に対しての風と、弱点になる反対属性があります。

 然りながら、我らの忍術には反対属性の術士であっても、強力な威力を誇る属性破りの術がある故、どの術士に対しても攻撃可能です。

 然も近代に入り、四元素属性を複数備える者も現れています」

 ナツヒは、他の法術に対して忍術が勝っている優位店を、諄々と列挙する。

「国祖ユキムラ公は、陽、陰に加え四元素属性な全てを操られていたという伝説もありますから、いずれ然様な者が出現する蓋然性も、十分あり得ると考えられます」

 次男ナツヒの能弁に父ソウガは目を細めていた。

 家臣達も、パー7クスの若き重臣の語る言葉にじっと耳を傾けている。

「更に我らの先達は、召喚術と同類の口寄せノ術の開術を成し遂げました。

 若輩者の私が、ここにこうして席を得ているのは、この術のお陰だと言っても過言ではないと思っています」

 桜舞の間にいる者全員が、ナツヒの強力な口寄せノ術に一目置いていた。

「加えて、我らの術が他の術を圧倒しているのは『印』の活用方法を開発したからこそだと言えます」

 オレもその通りだと思う。

 印とは、両手、或いは片手を様々に形作り、それを組んだりーー結ぶともいうーー、立てたりして、詠唱や銃札への記述を省略できる画期的な術の発動法。

「これによって」ナツヒは続ける。「他の法術士のように詠唱や記述を必要としなくなったので、術の発動を大幅に時短することを実現しました。

 されば、我らは他の術士との戦闘において、常に先手を取ることが出来ます。

 そのうえ、予め術札に術式や、術名を記述しておくことで、術の発動が可能になりました。

 我らの術は、仙術や陰陽術とは明確に区別され『忍術』若しくは『忍法』と名付けられていることは、ご列席の方々御存知の通りです」

 ナツヒは一同を見回し、

「我ら忍者は、世界最強の忍術を駆使するのみならず、剣槍術、柔拳術、銃弩術等の武術を戦場での闘いを前提として、無双と言われる程極めています。

 大口を叩く心算つもりは毛頭ありませんが、我ら忍者は武術を体得した最強の法術士であり、法術を会得した最強の武人だと断言します。

 それは我がパークスの戦闘力が、世界最強だということと同義だとも換言できます。

 故に、国主の新国策が実って成功し、パークスの未来が訪れるのは間違いありませんっ!」

 もうその日が近づいているのだという喜び笑みを顔中に浮かべ、一礼して締めくくった。

 一部の家臣は、大国となった未来に思いを馳せ、伝染した笑みが零れている。

 大国の貴族や騎士達の華やかで豊かな暮らしを心中に思い浮かべているのだろう。

 オレは、ナツヒが言及できなかった忍術と武術の進化を知っている。

 オレ達パークスの忍術は、世界で唯一の四阿羽黒流(あずまやはぐろりゅう)

 パークスの国主の代々就くヴェルス家を、マリス家、ラーディックス家、スペース家、この御三家が支え、守り相伝してきた。

 海滅時代には、様々な流派があったが、現代では俺達の忍術しか残ってない。

 パークスの蒼氓は5歳になると一人前の忍者を目指し、厳しい修行鍛錬が始まり、術と技を身に着け磨く。

 それは、この国に生まれたものの宿命。

 ナツヒが言った通り、オレ達はこの世界にパークスの忍者に肩を並べる術士や武人が殆どいないことを確り把握している。

 術を操る剣闘士、格闘士、その他の武人がいない訳ではない。

 然し、今のところそのすべてが、オレ達の忍術とは比較にならなかった。

 一方で武術を身に着けた法術士もいるにはいるが、オレ達の戦場戦闘に特化した武術を前に、それは児戯に等しかった。

 然もオレは、老師と少ない仲間達しか知らないが、忍術と武術を融合させる新たな術技を、既に編み出しているが……。

 ナツヒの熱弁委気を良くしたであろう父ソウガは、

「ガリアス王国を含むすべての諜報任務の総指揮はルーナに一任する」

 自らの国策が実をなし、パークスが列強国と肩を並べるべく、世界の表舞台に躍り出る日は、そう遠くはないという自信を示す軽快な声付きで命じた。

 ルーナは優雅に「畏まりました」その頭を下げた。


 ところがーー・


 強い目力、低くしゃがれた声でコウザンが、

「無敵の忍術と武術を誇る我らパークスがその気になれば、一国を陥落させることは可能。

 ソウガ様のご期待に副う働きをすることは困難ではないが……」

 自信に満ちた発言とは裏腹に、その面輪は険しい。

 コウザンは、御三家ラーディックス家の当主で、根の者と呼ばれる戦闘集団を率いている。

 根の者は、暗殺、潜入工作優れた技術と忍術を体得している者達だ。

 戦地では欠かすことが出来ない要員。

 でも、ルーナ同様それが初耳だったこの重臣の襟懐を穏やかに保つことは難しいだろう。

 然し、コウザンの顔付きは、そのことよりも、新国策に対しての心騒ぐ何かを感じているのが見て取れる。

「ソウガ様、他国と報酬を交渉の上で軍に部隊を送り込むとなれば、その指揮権は他国の者に握られてしまうことになりまするが、さらば、義の見える国に勝たせるが為、我らが敵、味方に分かれて諸々の工作活動を行うことは、非常に困難となりまするな」

 コウザンのこの発言は、大国に憧憬の念を抱く者がいる一方で、国が抱える問題を解決するとはいえ、新国策に対し、不安や、疑義を生じている家臣達の代弁だった。

「そうなるのぅ」父ソウガは素っ気ない。

 老師クーゴが「では、敵、味方に判れて敵地に潜入する戦略を今後は採らぬということでござるか?」小さな体から想像もつかない大音量で国主である父ソウガに堂々と質す。

 真紅の道服を纏い、丸で仙人を想起させる外貌をしたこの老臣は、年齢が不祥という謎めいた人物で、その術も技も劣れを全く感じさせず、武術でも四獅王最強のグラビィスに一歩も譲らない。

 心優しき老人で、戦地で散った者のその身寄りのない子供を引き取って育てたりしている。

 だけど、忍術と武術の修行は厳しいことで有名。

「全ての国に参戦できるようにと、儂は言うた筈じゃが、聞こえんかったか?」

 この父の答えに、不安が的中、疑義が明らかになったことで、桜舞の間は騒然とした。

 傭兵部隊の指揮権が他国にある以上、それが意味するのは、パークスの同胞間で闘う時が来るという悲惨な現実だったからだろう。

 オレは、父である国主ソウガに対し、視線は落として願い出る。

「ですが、そこに義を見出すことはできません。

 義にない闘いに我らの術や技を用いるべきではないと思います。

 この国策については、ご再考を願います」

 敵、味方と別れた仲間達と闘い、何れかが勝利して領土を得たとしても、そこには同胞の地が染まっている。

 その悲嘆の血涙溢れる地で、少なくともオレは、そこに蒼氓の幸せな暮らしを思い描くことはできない。

 父は身を乗り出して怒鳴る。

「お前は今日ここで何を聞いとったんじゃ? 多義名分はある。

 増え続ける蒼生に生活を営む領土が必要なことは、お前もわかっとるじゃろうがっ!」

 オレは奥歯をギリギリと噛みしめた。

 他国を乗っ取ると宣言した以上そこに大義名分を振り翳すことは出来ない。

 他国の蒼氓はパークスに対して、何一つ咎がないにだから。

 醜悪な野心が透けて見える父に、オレは唾棄してやりたいくらいだ。

ーーご再考を願います。

 と言われたことに、父ソウガは激昂している、

 オレは逆鱗に触れてしまったらしい。

「兄者」ナツヒがオレを「これからの闘いの目的は国主が宣言された通り、パークスの我らが蒼生の為に領地を得るということじゃ。

 更にこのパークスウを列強国と並ぶ大国にすれば、蒼生は小さなパトリア島に隠れて生きる必要はなくなるじゃろう。

 されば、他国のどこが軍で勝利しても目的は果たせるよう、そのいずれの国にも部隊を送り込むのは、陽線約じゃろうが」

 父ソウガは、我が意を得たりの体で、大きく肯んじた。 

 父は、オレに理路整然と弁を立てた次男ナツヒを殊の外可愛がり、大切に育てて国の重臣に引き上げている。

 ところがオレは、弟ナツヒよりも、23席次が低い。

 実績において、オレがナツヒより劣っている訳では無い。

 でも、オレはヴェルス家の嫡男としてあってはならない罪を犯している、

 オレはナツヒの言葉を耳にしながら、その時の記憶を鮮明に思い出していた。

 約8年前、オレは『国抜け』という掟破りを決行し、結果失敗に終わり、国主の長子であったことから死罪を逃れ、現在に至っている。

 10年前、父ソウガが他国から迎えられたリビが正室となった。

 この一件が、その背景に重々しくも暗い翳を落としている……。 

読んで頂きありがとうございます。

駄作ですが、ご感想を頂けると喜びます。

これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m

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