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ユキア・サガ 航海① 海賊忍者とネフシュタンの魔片 第1巻  作者: ユキロー・サナダ 【ユキア・サガ(ハイ?ファンタジー)連載中!】
10/10

9.神約暦4015年4月5日 決着、そしてユキアの志 (完結)

この第9章で第1巻終了です。

完結までお付き合い頂けき有難うございます。

次巻航海②もよろしくお願いします。 m(_ _)m

 聖エレミエル号の結界内は、暫し沈黙が流れていた。名状し難い微妙な空気と共に。

 敗者は口を噤み、ファルカンを凝視して成り行きを見守ることしかできない。

 ファルカンはルム酒を呷り、深き息を吐き、葉巻に火をつけ、ぼりぼりと頭を掻く。

「二敗か。砕撃戦じゃなけりゃ俺達の負けだな……」

 コーサとジゼルがまとう空気から、二人の胸懐を窺っているようだ。

 二人は何も言わないが、それを否定してないのは、その眼が語っている。

 オレは「まだ決着はついていない。この闘いは闘技場の試合と違う。生き残った者が勝ちんんだ」()()()()()()()()()……この部分を強調する言い回しをした。

 ファルカンは最悪の事態を前に「言うじゃねぇか。お前の言う通りだ。

 全くとんだ邪魔が入ったもんだぜ」何か思量している風姿だ。

「や、だから邪魔したのはそっちだろっ!」オレは語気を強くして非難する。「この船から誰であれ一人でも拉致されることに、黙って背を向けることは、オレの義が赦さないっ!」

 オレの緋隻眼を燃やす『義志』は揺るぎない!

「海賊になったばかりの新顔(ニューフェイス)が言う台詞か?」ファルカンは何か決意した面で「よし、いいだろう。俺達の船とお宝は、一時お前に預けておく。

 言っとくが、俺達はこの勝負に負けてわけじゃねぇ。

 今日のところは、引き分けだ」

「確かに、どちらも生き残っているから、間違いなく引き分けだ」

 オレは、思いがけない結果にオレは同意。

 珍しくジゼルが自分から口を開き「本気なの?」

「ユキアが海賊である以上、この海のどこかでまたいつか出くわすだろう」ファルカンは冷静だ。「その時奪い返せばいい。

 それにな、ザザやレイがその気なら、お前もコーサも命を奪われていた。海で待ってる仲間達もな。

 それを考えれば、あの船一隻とお宝を合わせても、オレは悪い取引じゃないと思ってる」

 オレは、この近海で最強と認められているファルカンという人物の魅力が、その結論に溢れ出ていると感じた。

 仲間の命の値段は、新しい船やお宝を合わせても足りないと、と言っているのだから。

 然し、ファルカンが現実を把握したうえで決断したことを、オレは看破している。

 武人であり、術士でもあるオレ達3人は、ファルカンにとって謎だらけだろう。

 もし仮に今、ファルカンがオレと闘っても、あるいはレイやザザと闘っても、勝利を確信できない筈。

 何故なら、コーサやジゼルに完勝したザザやレイ、それにオレの真の実力を測りきれていないからだ。

 思うにファルカンは、レイやザザよりもオレの方が強いと、肌で感じとっているのだろうから、()るとなれば捨て身の覚悟をして、最悪でも共倒れを狙うしかない。 

 ルール違反だが、レイとザザにコーサとジゼルが再び挑んでも、二人を倒すのは難しい。コーサは術を使えないし、ジゼルには女海賊がいない。

 結界が張られているから、仲間達の援護も不可能。

 ファルカンは、今足掻いて闘っても生き残れる可能性が、極めて低いことを、認めざるを得ないということだ。

 冷静且つ賢明な思考力、判断力を、ファルカンは備えている。

 元オロアルマダ帝国海軍提督として、無敗でこの近海では最強を誇る男の 真価を、オレは改めて認めていた。

「そうな……」ジゼルが目を閉じ頷くと、額の五芒星の宝飾が煌めく。

 「俺達にはまだ1番艦がある。そして仲間達全員が生きている。それが一番重要だ」

 ファルカンの思いを噛み締めるように、コーサジゼルは頭を上下に振った。

 オレは切々と思う。 

 ファルカンは復讐を絶対に諦めていない。

 それについて、オレが善悪の判断をすることはできないし、赦されないだろう。

 神は、生命の限界が訪れたり、諦めたりしない限り、人生をやり直す機会も、何かに挑戦させてくれる場面も、何度だって与えてくれるに違いない。

 でも、その人生の舞台を支える命のやり直しは、たった一度だってできないんだ。

 だからこそ俺は、ファルカン達にそれぞれの命を大切にして欲しいと、赤心から願う。

 天国にいるファルカンの奥さんと娘さんは、クレブリナ海賊団の船長と副船長に、1日も早く天国来て欲しいとは、願ってない筈だから。

 なぜなら、人には生きる為に為すべきことを、きっと神から与えられている筈だから。

 神のご加護と恵みが、いつもファルカン達と共にありますようにと、オレは心魂をこめて祈りを捧げた。

「レイ、結界を」オレに従い、レイが結果を解く。

 蒼々たる大空に滲んで溶け消滅していく結界線をファルカンは苦々し気に見上げている。

「次は必ず俺達が圧勝するっ!」力強く誓うファルカン。

 そう言うと、眉目は晴れやかになり、穏やかで一点の曇りもない。

 ファルカンはオレに「ユキアお前は、散々オレに喋らせたが、今度はお前の番だ。

 お前は俺達クレブリナ海賊団と闘って、見事い引き分けたが……」

 ごほんっ、とファルカンは一つ大きな咳をして言葉を重ねていくーー。

 その両脇で、コーサとジゼルが思わず吹き出しそうになるのを、必死で堪えている。

「あー、船を手に入れた。おそらく仲間も」

 オレは背後に控えている追手、レイとザザの任務が、当然今も継続中だと考えている。

 然し、二人から刺客としての殺気や緊迫感は、全く漂っていない。 

 オレはそれに気づいていたから、実のところ当惑していた。

 ファルカンが葉巻を加えると、ジゼルが手慣れた仕草で杖を一振りして点火する。

「ここを立ち去る前に訊かせてもらおう」ファルカンはオレから鋭い両眸を離さず、葉巻を(くゆ)らす。「お前は何故海賊になった? 海賊になって何を求める? 命と仲間の次に大事な俺達の船を預けたんだ。その答えを聞く権利がオレ達にはある」

 答えを聞くまでここから1インチも動かないと、厳つい強面に書いてあった。

「そのお答えを、レイも是非お訊かせて頂きたく願いまする」

「オイラもでござる」

 二人の顔容(かんばせ)は真剣で、切迫した翳があった。 

「やーそんなの決まっているでしょ? 海賊になったら世界中を冒険できるし、世界j中のパンーーオレは自ら捏ねたパン生地を焼いて食べる程、パンが大好きなんだ。ルムウベッタが入っていると嬉しいーーや、世界中の酒も飲めるしさ!」

 それっぽく語ったオレに対し、居並ぶ者達ーー結界内にいるキラもーー敢えて無反応でいる。

 沈黙と目で、そんな短絡的な返答では得心できないと、凛烈に主張していた。

 オレは、周囲の斬るが如き目力を避け、蒼天を見上げ、碧海を見渡す。

 オレは観念して深呼吸し「詳しいことは言えないけど、レイとザザは知っている通り、オレは国の新国策に居並ぶ従うことは今でも絶対にできない。

 でもその結果、実の父親である国主から蟄居を命じられてしまった。そんなオレを励まし応援してくれる重臣や家臣達もいた。

 その人たちには、本当に感謝している。

 だけど、仮に蟄居が解かれたとしても国主の新国策に従えない以上、いずれ再び蟄居を強いられてしまう。

 最悪、今度は幽閉されてされるかもしれない。

 その時俺は気付いた。もう国にオレの居場所がないことを。

 自分の将来に思い悩む日々を過ごしていたある夜、不思議な夢を観たんだ」

 レイとザザ、クレブリナ海賊団の3人ーー結界内のキラーーもオレの言葉を訊き洩らすまいと、凝然として耳を傾けている。

「夢の中に現れた人物は、狭い牢獄のような場所にいた。

 ぞの貌は、眼帯をしてなかったけど、50歳前後のオレみたいだった。

 その男は言った。

 人の一生はどの世界でも、一度しかない。

 もし生まれ変わっても、それはまた別の人生でしかない。

 お前は、今自分の人生を全うすべきだ。

 そこで敢えて問おう。

 お前は自分が何をしたいのか、どうなりたいのか、自分の本当の夢は何なのかを、一度でも考えたことはあるか?

 おそらくないだろう。一度も。

 だから、目を逸らさず自分と向き合え。

 そして、自分が求める真実の答えを出し、それを実現する為に一生懸命、直向きに生きろ!

 お前が出した答えを、人が笑おうが、馬鹿にしようが否定しようが、そんなことは一切気にする必要はない。

 お前が諦めることなく、自分の思いに真摯に向き合う時、数々の試練が待っている。

 だが、それこそが、お前の目指している何かへと近付いている証しだと、むしろ感謝して、そのまま真っ直ぐ突き進め!

 そうしないとオレみたいに、後悔しても遅かったということになる……と。

 夢はそこで終わり、それと同時に深夜に目覚めて、夢の中の男が言ったことを反復し、無心に考えた」

 燦として耀く陽光が、オレの緋隻眼と緋髪に降り注ぎ、爛漫と煌めきを散らす。

「指摘された通り、オレは自分が何いなりたいのか、自分がどうしたいのか、自分の夢は何なのか、一度も考えたことはなかった。

 国主の嫡男であるオレは、その第一継承権を持つ者だから、父に勝る侍忍者にーー結界内のキラは『やっぱりユキア達は忍者だったんだ』と心中で呟き,』余程嬉しかったのか、両拳をグッと握り締めた。『もし彼等がΩに力を貸してくれたら……』と願ったことは、無論本人しか知らないーーになることしか考えてなかったんだと、初めて気付かされた。

 レイとザザにも話したことがない理由もあって、オレは国主である父を超えることだけを目指していたんだ」

 オレは一言、一言、自ら確認しつつ語を紡いでいく「そして、オレは思い至った。

 オレは誰かに用意された道を歩んでいくことに甘んじてはならない。

 今のオレには、他の誰でもない、自分自身が望む『夢』が必要なんだ、と。

 オレは笑顔で「レイ、ザザ、オレがそれを考えた時、心魂の中に浮かんできたものは何だったのか、想像がつくか?」

 レイもザザも見当がつかないようで、二人して首を捻っている。

「それは、国祖ユキムラ公が国訓として遺された『義勇』というあの言葉だったんだ。

 正に今、国主はこの国訓を葬り去ろうとしている。

 でもオレは、その為に生きていきたいと思った、

 それは、国主と真っ向から対決することを意味している。

 そうなった時、オレはロクネ、レイ、ザザ、オクトーをはじめ、オレにとって大切な人達を巻き込むことはできないと考えた。

 だから、独りで国抜けの禁を破ったんだ」

 オレはファルカン達に向き直った。

 3人は、オレの生まれ育った国で何が起こっているのか事情はが分からないものの、その決断が、身勝手なものではないということを信用してくれているのだろう。

 何も口を挟まない。

 3人は、オレがそんな人間ではないことを身をもって知っている。

 もしオレが、傲岸不遜で冷酷な人間だったなら、コーサ、ジゼル、ペロ他、多くの仲間達は命を落としていただろうと、感じ取ってくれているから。

 だから3人は思慮深げに、オレの物語にじっと耳を傾けてくれている。

 「ファルカンやコーサを襲った悲劇は、この世界のあちこちで毎日のように起こっている」

 海や沿岸部では海賊や海軍賊が暴れ回り、内陸では、山賊が襲い掛かってくるのが日常の世界。

 蒼氓は、不安や苦しみに、貧困や悲しみにいつしか飼い慣らされて生きている。

 賊に襲われても為す術もなく、守ってくれる筈の国が、賊を操り船を与え、武器を持たせ支援しているという矛盾。

 それを支える税を搾り取られるという理不尽。

 国は、国の名と領土を守り、拡大する為だけに存在しているという不条理。

 蒼氓は、国を支え守るという義務と責任を、それぞれの立場で負わされている。

「当たり前のようになってしまったそんな日常に、みんな本当は飼い慣らされている訳じゃない!

 痛みに耐え、怯えながら、怒りや悲しみを無理矢理、心の奥に封じ込んでいるだけだっ!」

 それこそが、人の心を、世界を喰らい尽くそうとする、あの漆黒の闇が求めている活力源なのではないかと、オレは確信している。

 その闇は、自分の心魂の中でも息衝いていることをオレは、確り自覚していた。

 だから、いつも一つでも多くの希望を持つように心掛けている。

 心魂が壊れてしまわないようにーー。 


★★★[蒼氓は、みんな悲しいまでに無力だから、抗わないことが目の前の現実に順応して同化してしまうことが、生き残る為のの術となっている」

 蒼氓の心の拠りどころとなるべき教会が、教区の拡大と信徒の獲得の為に、国を支援して手を組み、互いに利用しあっているという矛盾。

 神への愛を、金貨の重さで測るという理不尽。

 神にの名のもとに、教会は宗教の名と教区を守り、拡大していく為だけに存在しているという不条理。

 蒼氓は、教会の教義を守るという義務と責任を押し付けられ、苦しい環境下にあった。

「教会に救いを求めても、唯一の神を奪い合うような愚かな争いが起こっていて、頼みにならない。

 挙句の果てに教会は、数多の宗派に分裂している。

 神はその身を引き裂こうとする激痛に苦しみ嘆き、どの教会にも入れずにいることに、誰かが気が付くのを悲しみながら待っておられるのではないかと、オレは思うーー結果樹内のキラは沈痛な面持ちで首肯したーー」

 ファルカンは「神は教会の入り口の前で立ち尽くしているって言いたいのか?」怒りを押し殺した聲を絞り出し「だとしても、オレは神を信じることはできない。

 本当に人を救い幸福にしてくれる神がいるなら、罪の無い女房と娘が殺される筈がないだろっ!」

ファルカンは両手げ貌を覆い、しゃがれた聲を詰まらせ項垂れる。

 異端宗教のソフィア教を信仰しているーー魔術師はみんなソフィア教だったーー女魔導士ジゼルは、何も言わず俯き、コーサの怒りに燃える両眸は天に突き刺さっている。

「こんな時代に生きる者だからこそ」オレは自分自身にも肝に銘じながら「国祖ユキムラ公の国訓『義勇』という言葉を心魂に刻印して、直向きに行きたいと思う」オレは少し照れ臭かったがレイとザザに緋隻眼を重ね「メシア教の聖書にある通り有名な話だから、二人も知っていると思うけど、義の人ノアは神に従って導かれ、箱舟で大海原を漂った。

 そして希望の虹が示されたーー創世記第9章ーー。

 だから、オレも海に出て、海から始めようと思った。

 神がオレを導いてくれるかどうかはわからないけど」

 優しい波音が、聖エレミエル号を訪れては遠のいていく。

 遠くから鯨が穏やかに遠吠えしている。

「海に出れば、そこら中に海賊や海軍賊がいるだろ?

 だからオレも海賊になればいいと考えた。

 今や、国家が免状を発行して、海賊達を手懐ける時代だから、それくらいの気概がないと、この海で生き残れない。

 免状で海賊を操っている国は、オレに言わせれば、その国自体が海賊なんだよ!だから……」

 話が確信に近付いていることを予感しているのか、口を挟もうとする者はいない。

 糸屑が甲板に落ちてもその音を感じさせそうな程、全員が耳に神経を集中させている。


「オレは、海の義賊になるっ!!」


 一陣の潮風が、オレの足下から螺旋状に舞い上がり、天へと一気に駆け抜けた。

「だから、今日みたいに、罪の無い人たちを拉致しようとしたり、金品を奪おうとする海賊は、当然俺の得物ってことだな」

 オレがニヤっと笑うと、ファルカンは慌ててルム酒を呷った所為で、ごほっ、ごほっと咽たせた。

 またしてもコーサとジゼルが目を合わせて笑いを堪えている。

「オレはまだ、具体的には自分が何をしたいのか、どんな夢を持つのか、全然わかってない。

 今はただ、オレはこの海から己の心魂に刻印されている『義勇』という言葉に挺身し、直向きでありたい。

 そうすれば、おのずから、求める答えに辿り着けることを堅信してるんだ」

 オレの話を聞きファルカンは「然し、それは海の悪党共を、ユキア流に言えば、獲物にするってことだろ?」眉間に建地輪を刻んでいる。

「うん。そういうことになるなー」

「大したことないと言いたげだが」ファルカンは否定的に「そんな海賊なんてどこにもいない。それは、この海のすべての海賊、海軍賊が得物ってことだぜ? 

 志が高いのは素晴らしいことだが、難しい道ならぬ道だぞ?」

「わかってるさ。でもそれが今のオレがやらなきゃいけなことなんだ。だから、今はワクワクしてるんだ」誰が相手でも、オレの義に従い闘い続ける! 

ファルカンは「わかった。だがいいか!? 俺達と再戦する日まで、絶対に誰にも負けるんじゃねぇぞっ!

 それには、独りでも多く、信頼できて心の赦せる仲間を、一日も早く集めることだ。

 人間一人じゃ何もできねぇ。わかっているとは思うが、敢えて言っておく」オレの背後で沈黙しているレイとザザに意味深長な目線を投げかけた。

「若様、仲間ならここにレイがおりまする」

「オイラもでござる」

 時の間、耳を疑ってオレが振り返ると、二人は揃って甲板に片手、片膝をつき臣下の礼を取っていた。

 予測してなかった突然の展開に、オレは当惑させられてしまう。

 オレは、レイがチャクラの具現化が可能な術を、ジゼルに教えた理由が漸く理解できた。

 あの時点で、既にレイは俺と共に国抜けする覚悟をしていたに違いない。

 きっと、ザザもコーサと闘うと決断した時にはレイと同じ覚悟だったんだろうな……・

 オレは本当の思いは心魂の奥にしまって「レイ、ザザ、二人に言葉がたとえ嘘であったとしても、オレは本当に嬉しく思う。

 そうなれば、二人と闘わなくてすむから。

 けど、オレは二人を巻き込みたくない。国にいるロクネとオクトーも。

 オレの所為でみんなの未来に傷つけることは、絶対しちゃいけなと思う。

 だから二人には国に戻って欲しい。

 クレブリナ海賊団の襲撃の混乱に紛れて、オレが姿を消したってことにしてくれないか?

 勝手なことを言って申し訳ないけど、本当に済まない」心から詫びた。

 レイは頭を下げるオレに、両手を大きく振って「我等は我等の意志をお伝えさせて頂いたまでのこと、頭を下げる必要はありませぬ。

 頭を上げてください。

 若様、私もザザも国主の新国策には賛同できませぬ。

 されど、国に身を置いていれば、国主の命に従わぬは不忠。

 ロクネ、オクトーも含め我等は、若様がたとえ蟄居の身であっても国に残っていたなら、捲土重来の(とき)を待つのみと決心しておりました。

 然りながら、若様は二度目の国抜けをされた故、どうするべきか我等はどうすべきかロクネと談義していた折節、国主から直々に若様を追うよう、我等二人へ厳命を下されたのです。

 我等にとっては若様が今後どうされるのか、またその故由を知ることこそ、真の任務でした。

 されば、国主の命は寧ろ我等にとって良い好機(チャンス)となった由。

 ロクネは同行できないことを、かなり悔しがっておりましたが……」

 ザザも続く。

「オイラもレイも、今は若様が敢えて海賊となり、この世界にの大海原から、義勇の道を行くと旗幟を鮮明にされたでござる故、お供させて頂くでござるっ!」

 二人がオレに向けた目色には痛々しいほどの悲壮感が、誰の目にも明らかに見て取れた。3人の話を黙って聞いていたファルカンが突然問いを挟んでくる。

「深刻な話の途中すまんが、ユキアが言ってた侍忍者ってのは一体何なんだ?」

 オレが答えようかどうか逡巡していると、レイが応じた。

「本来であれば、それを外つ国人に話すことを、我等は固く禁じられてるが、私はそれ以上の罪とされる国抜けをしてしまった故、お答えしよう」

 国抜けしてしまったと口に登らせたレイに、オレがーーおいっ! ちょっと待てっ!--小声で怒った顔つきをしても、」無視(スルー)された。

「侍忍者とは、我等の様な千幻万朧の忍術を会得し、剛強無双の武術を体得した忍者を統率する者達のことだ。

 我等の国で侍忍者になれる者は、基本的には七つの家柄の者しかなれぬ」と説明をし、忍者の等級や制度についても話し「その規模人数までは教えられぬ」と締めくくった。

 コーサは納得顔で「まぁそうだろうな。ユキアはその国の嫡男って訳か」疑問を投げかけてきた。「で、お前達の国の名は? その国はどこにあるんだ?

 それに、お前達が反対している新国策ってのはどんな内容なんだ? 

 話を聴いてる限り、で判断すればユキアが掲げる義勇とは違うようだ。

 きな臭いな」

 オレは恬然として言った。「オレ達の国はこの世界でまだ認知されていない。完全鎖国国家だ。

 然も、国がどこにあるのかは同胞しか知らないし、教えたところで、厳重な忍術結界が張り巡らされているから、辿り着くのは不可能。

 新国策については、コーサの直感が正しい」

 パークスがレオン王国か、オロアルマダ帝国の乗っ取りを企んでいると正直に話しても、あまりにも話が突飛すぎて、却ってオレが疑われるかもしれない。

 でも、オロアルマダ帝国を棄てて海賊になったとはいえ、生まれ育った国に危殆が迫っていることを知れば、ファルカン達はそれを黙殺できるだろうか?

 そこには、大切な仲間達の家族や親族友人達がいるのだから。

 そう思うとオレの心魂は震えた。

 疑われたとしても、やっぱりもう少し、情報を与えるべきではないか、と。

★★★「神聖ロムルス皇国、オロアルマダ帝国、レオン王国の三国同盟は知ってるだろ?」

 オレはまずそれを確認し「その神聖ロムルス皇国とガリアス王国が交戦中で、神聖ロムルス皇国はガリアス王国領だったコル・ス島を奪取、占領に成功している。

 その後両軍は膠着状態だ。

 けど、おそらく両国は休戦する筈。

 ファルカンが知っている通りオロアルマダ帝国、レオン王国連合はクイーンズティアラのと海軍賊同士が、事実上代理戦争状態だ。

 もし、神聖ロムルス皇国とガリアス王国が休戦すれば、クイーンズティアラはガリアス王国にオロアルマダ帝国の背後を衝かせる為、メシア教の宗派を超え同盟を結ぶことになる。

 ガリアス王国は、コル・ス島を喪っているから、失地の穴埋めの目的に、この話に乗る。

 そうなれば、オロアルマダ帝国が危局に瀕するのは間違いない。

 その結果、、海賊は勿論のこと、他国もその戦乱に乗じてこの近海は殺伐荒涼とした世界が広がり、蒼氓の怨嗟の聲が溢れていく」

 ファルカンは一気にルム酒を飲み干すと「情報提供に礼を言う」有り有りと苦悶を浮かべている。

「戦乱に乗じるであろう他国の中に、お前達の国も含まれてるって訳ね」ジゼルの鋭敏な洞察に、オレ達は誰も答えなかったが、その沈黙はそれを雄弁に肯定していた。

「そういう国の方針を良しとせず、海賊になったって訳か。悪くない。

 俺はそういう奴が嫌いじゃない」

 コーサは嬉しそうだ。

「然し、お前達のような法術、武術を体得した武人が他にもまだまだ存在するってのは脅威だな」

 コーサの予感は強い警戒心が響いている。

 ファルカンは「まぁ、なるようにしかならん」と冷静に受け止め「だが、先刻も言った通り、それならなおさら尚更お前は1人でも多くの多くの仲間を、一日も早く集めないと、この海で生き乗れないぞ」と念を押す。

「若様、ファルカンの申した通りだとレイも考えまする。

 この海には、各国の国旗、海軍賊や海賊のジョリー・ロジャー(海賊旗)が我が物顔で掲げられ、帆を上げておりまする。

 さらばこそ、若様をお守りし支えさせていただくという任務を、レイは誰にも譲れませぬっ!」

 異議、反論は一切受け付けない、とレイの面に大文字で清書されていた。

「海だろうと、どこだろうと、若様が義勇の道を邁進される時、そこには必ず悪党が現れるでござる。

 それ故若様の、刀となり盾となることを、オイラはこの任務に、全てを賭けるでござるっ!」

 何を言われても翻意しないという強い意志が、ザザの面輪に漲っている。

 レイ、ザザ、二人もまた自分の国を含めた今の世界に、希望を見出すことは難しいと考えているのだろう……、オレはわが心魂の鏡を見ているようで、その痛々しさが悲しい。

 たとえそれが、国を棄て裏切ることになったとしても……・

 ファルカンがオレの心魂に強く訴える。

「俺が口をはさむこgとじゃないと思うが、ユキア、二人の覚悟と気持ちは、本当に心魂から生まれてものだぞ。

 国の命に従う心算なら、コーサもジゼルもペロも、オレの他の仲間も命はなかった。

 だが、二人は他の誰でもない、お前の命に従ったんだ。

 それが意味するところは、もうはっきりしてるんじゃねぇか?

 レイが言った通り、二人はもう国抜けの罪を背負っているってことだ」

 オレはその言葉には抗えなかった。

「レイ、ザザ、あとで絆の盃をかわそう。よろしく頼む」

 レイとザザは揃って「はっ!」と安堵したのか嬉しそうに応じた。

 ファルカンはうん、うん、と二つ頷き「ユキア、お前がこの蒼氓たる海原で、どんな戦いに勝利するのか、潮風の便りが俺達の元を訪れるを楽しみにしているぞ。

 よし、いつまでもディアスやペロ達を待たせる訳にもいかん。縄梯子を頼む。

 コーサ、ジゼル、出直すぞ!」

 ファルカンは立ち上がり長剣を腰に帯びた。

 ジゼルは、一度レイに振り向き微かに笑みを魅せ「次にまみえるまでに、魔術の研鑽、修練に刻苦勉励しておく。

 楽しみに待っているが良い」杖を掲げて舞い上がり、女海賊が待っているボートに向かう。

 コーサはザザと右拳を突き合わせ(グータッチ)「実はオレは昔メシア教カットリチェシモの信仰をしていて、体力回復の術を使った。

 だが、棄教してからは使えなくなった。今はソフィア教を信仰してるからな。

 ジゼルに術を伝授してもらおうと思う。

 オレはまだ強くなるぞ。また会おう!」

 ディアスの乗っているボートの向かった。

 最後にファルカンが縄梯子に向かうが、突然振り返り、ザザをじっと見た。

「ザザ、お前俺達の船に15人いたと言ったよな? だが、そんな筈はない。

 オレは11人しかだけしか残さなかった。

 お前が言う人数より4人少ない。一体お前は何を観たんだ?

 ひょっとすると、あの深く濃い霧の中、幽霊でも近くにいたのかもしれん。

 憑りつかれなくてよかったな」

 それを知ったザザは、瞬時に強張り、凝然と立ち尽くした。

 オレは、成程な、と考えたが、敢えてそれを口にはしない。

 ファルカンは「ガイアって女と、ナーヌス親子に、すまなかったと。伝えてくれ

 お前達と出会い闘えたことは、オレ達にとって学ぶべきところが少なからずあったことに、礼を言う。

 これでオレ達はもっと強くなれる!」

 オレに近付き右手を差し出す。

 オレもそれに応え、俺達は強く握手した。

 ファルカンは「俺達を追い払ったという話は、この近海で瞬く間に拡散するだろう。

 俺達は、この近海では最強と言われ無敗だった。

 海軍にいた時も、海賊になってからもだ。

 だからお前の名は一気に売れる。

 同時にお前の首を狙って名を上げようとする輩もあらわれるだろう」オレの肩をガシッと掴み「いいか! すべてねじ伏せろっ!」力を込めてきた。

 ファルカンはが船を降りていくと、ペロがボートを寄せた。

 ペロの胸板をファルカンは拳で一突きして、にこっと笑いボートの中央に腰をおろす。

 それから聖エレミエル号の俺達を見上げ「アディオス! またなっ!」再会を確信したかのような声色で一度だけ手を振った。

「野郎共、根城に戻るぞ!」

 酒焼けした大声はしゃがれていたが、力強さが迸っている。

 オレ達3人がクレブリナ海賊団を暫し見送っていると、結界から出てきたキラが美貌に喜びの笑みを咲かせて歩み寄り「本っ当に有難う!心から感謝してるの」オレに抱き着いてきた(ハグ)

 感謝の気持ちを表現したかったのだろう。

「あなた達には聞きたいことが沢山あるから、覚悟してね」オレとキラの間にさり気無く割り込み身を入れたレイが「乗客や乗組員の皆さんは?」オレの指示を仰ぐとキラはオレから離れた。

「うん。開放してくれ」とオレは顎を引く。

 でも、キラに抱き着かれて、オレの心臓はドキドキしている。きっと、貌も紅潮してるに違いない。

 レイはキラの結界と、船内の結界の術を解く。

 ザザが、甲板の昇降口を開いて、乗客と乗組員を開放した。

 聖エレミエル号は、歓喜の聲で満たされる。

 人々の中には、まさかの奇跡的な展開に、大喜びをしている者達がいる一方で、恐怖と緊張から涙を流す者もいた。

 オレは、人々の喜びが神への感謝の気持ちとなって、御前に届きますようにと胸襟で黙祷うを捧げる。

 それからオレは、不意に思い出した。

「昼餉の最中だったんだよなー。あぁー腹がへったなぁ」

 凹んだ腹を摩った。


ユキア・サガ 航海① 第1巻  了



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