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同期



 私は新たなる決意を胸に、鬼鞍先生をまっすぐ見据えた。


「鬼鞍先生、私はもう大丈夫です」


 もう迷わない、揺るがない。そう強く決意した瞳で鬼鞍先生を見ると、大きな手で優しく頭を撫でられた。このあたたかい大きな手が、どれだけ私を安心させてくれたことだろう。この人の存在は本当に心強い。


「あの、鬼鞍先生。私に少し時間をくれませんか? 色々とやりたいことがあって」

「うーん。それって1人でも大丈夫?」

「大丈夫です、絶対に無茶はしません」

「んー、そっか。分かった」

「ありがとうございます」

「なーに、可愛い香菜恵の頼みだからね~」



 それから私は1人で鍛練をつづけた。あの出来事から3年と少し、完全に鈍りきった体でいきなり任務へ行っても足手まといになるだけだから。


 たくさん学べるはずだった、もっと強くなれるはずだった貴重な3年間を私は捨てたも同然で、本当に惜しいことをしてしまった。


「過ぎたことを考えたって仕方ない、私のスタートはここからだ」



 原状回復はできたかな。以前くらいには動けるようになって魔専へ向かった──。



「おかえり、香菜恵」

「ただいま、鬼鞍先生」

「んじゃさっそく行こうか。仲間のもとへ」

「はい」


 魔専の真新しい制服に初めて会う仲間たち……か。少しだけ緊張する。中学から魔専にいる人たちからすると私は3年間以上も不登校なわけだし、結構気まずいよね。


「それにしてもやっぱりいい感じだね~、制服。とても似合ってるよ」

「そうですか? ありがとうございます」

「ねえ、なぁんか香菜恵の敬語って素っ気なくなーい?」

「え? そんなことないと思いますけど……」


 そんな雑談をしながら4年の教室に着いた。中学から高校まで一貫校で、高1は4年生という扱いになるらしい、魔専では。


「ちょーっとここで待っててね?」

「あ、はい」


 そして鬼鞍先生は謎のハイテンションで教室の中へ入っていった。やっぱあの人は基本的にどこでもハイテンションな人なんだなって再確認した私。


「うぉい! ほらほら、みんなぁ! 大ちゅうもぉーく! 今日からこのクラスに新しい仲間が増えちゃうよ!? というか、ようやくお出まし~的な! いやぁ、いいねえ! 青春の1ページ捲ろうか!」


 シーーン。


 いやいや鬼鞍先生? 滑ってない? 教室内が静寂に包まれてない? ねえ、勘弁して……?


「うげー、みんなテンション低くなぁい? なーに、低血圧? 低血糖? もぉ、若いうちからそんなんで大丈夫そう?」


 シーーン。


「ほらほら~、めちゃくちゃ可愛くて美人な子だよぉ!? みんなお待ちかねの!」


 ねえ、やめて? お願いだからそんな大袈裟なこと言わないで。恥ずかしいじゃん、こんなの余計に緊張しちゃうよ本当に。


「ちぇっ。つまんない奴らだねぇ君達は~。おーい、もう入っておいで~」


 入りたくないの一言に尽きる。緊張で胃のあたりが少しキリキリする、たぶんこれは鬼鞍先生のせいだ。でも入らないわけにもいかない。私は深呼吸をして、教室のドアを開けた。


 一歩踏み出して、一歩ずつ教室の床を踏み締めて進む。中央でその歩みを止めて、クラスメイトのほうへ視線を向けた。


「五十嵐香菜恵です、よろしくお願いします」


 全員の視線が私に向けられていて、正直気まずい。


「朝っぱらから無駄にテンション高ぇ気色悪い大人のせいで登場が台無しだな」

「この血も涙もない子は魔導具、主に大剣をひょひょいっと使いこなす大渕姫華(おおぶちひめか)

「よろしくな、呼び方は大渕でいい」

「せっかく可愛い名前なのにもったいなぁい」

「あ? それが気に入らねぇんだよ。アホのっぽは黙ってろ、ハゲらすぞ」


 ボーイッシュな女子だなぁ。私は結構好きかも、こういう女子。


「この子はゴリゴリの近接タイプ、体術メインの日下一紘(くさかかずひろ)

「うす」


 うん、無口そうな男子だ。


「んで、この子は索敵が得意な村田紗弥加(むらたさやか)

「ひょえ~、引きこもり極めてたわりに綺麗すぎなぁい? 世の中ってまじ不公平っしょ~。ほぉんと嫌になっちゃーう」


 なるほど、この子は生粋のギャルだ。


「この子はっ」

「自己紹介は他人にしてもらうものではない。私は、竹之内璃央(たけうちりお)。君の詳しい事情は知らないが馴れ合う気はない。私の足を引っ張るような真似はしないでくれ、以上だ」


 厳しい生徒会長みたいなタイプの男子。


「相変わらずだねえ、璃央は。んで、この子は治癒専門の東郷美咲(とうごうみさき)

「ああ、あたしは何度か香菜恵に会ってるけどねー。点滴交換とかで」


 きっと私が寝ちゃってる時だ……ちょっとそれはそれで恥ずかしい。


「んで、この子は何でも硬化できちゃうっ」

「おっす! 俺、間宮柊(まみやしゅう)! よろしくな、五十嵐!」


 元気ハツラツ系男子だ。


「で、この子は毒蟲を操ってあれこれしちゃうクレイジーガール、寺澤夏音(てらさわなつね)

「クレイジーガールではありませんが、よろしくお願いしますね! わたしは香菜恵ちゃんとも仲良くなりたいですよ!」


 こんなこと思ったらみんなに失礼かもしれないけど、パッと見この子が一番まともそうな人に見える。


「そんであと他に問題児3人がいるんだけどぉ……ま、好き勝手やらせてるから基本ここにはいないよ~。たぶん国内にはいるんじゃないかな?」


 いやいや、そんな適当がまかり通っちゃうの……?


「ほいで、あともう1人いるんだけど~」


 となると、この学年は私を含めて12人ってことかな。常識的な考えをするなら高校にしては少なすぎる人数かもしれないけど、ここは常識も普通も通用しない学園。この人数でもとくに驚きはないかな。少子化で魔術師も減少傾向にあるって鬼鞍さん言ってたし。


「!?」


 一瞬、ゾッと身の毛がよだつほどの恐ろしい感覚に襲われた。これは魔霊の気配! なんで魔専内に魔霊がいるの!?


 私は教室内を見渡した……けど、取り乱すこともなく全員落ち着いた様子。どういうこと? 何も感じてないの? いや、そんなことはありえない。こんな存在感を放つ魔霊に気づかない魔術師なんていないでしょ。どうしてみんな……いや、そんなことはどうだっていい。魔霊は私が祓う、ここで確実に仕留める。


 私は迷うことなく教室の窓を開けて、そこから外へ飛び降りた。

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