変なところで力を発揮するな!
この作品では久々!麦畑だよ(`・ω・´)
お待たせして申し訳ない。怒涛の展開が始まるよ〜!
「さあ、楽になりたきゃ吐きな!吐かなかったら殺す。吐いたら優しく殺す!!」
システムさーん?何も変わってないんですケド。
円居誠は絶望した。
俺、ちゃんとミッションやったんだが!?なのに、報酬がりんご味の飴って。
円居はため息を我慢するのに必死だった。しかし、ネチネチと過去を引きずっている暇はない。
「…間違えて紅茶を飲んだのか!」
とりあえず、前回と寸分変わらない言動をしてみよう。繰り返すことは、営業では当たり前だ。なるべく多くの人と契約を結びたいので、同じ内容の説明を別の顧客に正確に行う必要がある。勿論、顧客によって話し方や話題の展開は変えているけれど根本は皆同じ。別のことに例えるなら、学校の先生がひとつの授業を多数のクラスにそれぞれ受けさせることに近い。
しかし、全てが前回同様だと欠点が発生する。
「は?何を言っている?」
ほらね。ドン引きされた。前回の俺は唐突に紅茶のことを思い出したので、話に脈絡が無かったのだ。
ここで脈絡のあるように修正しても良いのだが、言動が変化したことでシナリオに影響を与えないとは言い切れない。
「コウチャ?なんだ、それは?名前か??」
よし!前回と同じ流れになっているな。
「紅茶、というのはですね…。」
この後も、俺は前回と同じ行動をした。すると予想通り、美女エルフの反応は殆ど変わらなかった。
『コツを掴んできたようですね、勇者マコトよ。』
出たな、オシャレフォント!!
『貴方様にはミッションが残されています。進むためにはミッションを達成する必要があります。』
そうそう。そして、この後に例の3択を出されるはずだ。
『しゅいんっ』
円居の目の前には、これまた洒落た横向きバーが3つ出現していた。バーにはそれぞれに行動パターンが刻まれている。
『ミッション1:エルフ拷問官の猛攻を止めよ』
《そんなことより私とお茶しません?》
《疲れた…》
《手錠なんかよりもっと縛られたい》
…ん??
円居は自分の目を疑った。前回と選択肢の内容が違いすぎるからだ。最後の選択肢がM野郎発言なのは変わっていないけれど。
「嘘だろ…。」
思わず、絶望が口から溢れてしまった。
「?どうした??」
エルフの視線が刺さる。
本当に勘弁してほしい。何故。効果音だの説明だのは雑なのに、死へ直結するであろう選択肢は無駄に凝っているんだ!?
「…あれ?」
円居は視界の右下が白く光っていることに気がついた。よく見ると、それは選択肢とデザインがそっくりな小さなバーで《シャッフル》と書いてある。
もしかして、選択肢をシャッフルし直せるということか?
円居は期待する。しかし、前回はそんな枠は見当たらなかったのに、どうして突然現れたのだろう。これはゲームにおける周回要素というものだろうか。
ものは試し。円居はマジックハンドもどきを動かして《シャッフル》を選択する。
『シャッフルが選択されました。シャッフルにはアイテム【りんご味の飴】を1つ使用します。使用しますか?』
なるほど。尋問室での報酬はシャッフルで消費するアイテムだったのか。
もちろんYESだ!
円居は《はい》を選択した。
『アイテム【りんご味の飴】を消費し、シャッフルを開始いたします。』
スクリーンの選択バーが収納されると、円居を中心に地盤が揺れ始めた。
「っ!?か、看守さん、地面が!揺れてます!!」
円居は必死に訴えるが、エルフは身動きひとつしなかった。先程まで彼を拷問しようとしていた女が、瞬きひとつもしない。これは…。
「システムの影響か…!!」
円居は納得する。しかし、納得と同時に疑問を覚えた。
現在進行中の地盤の揺れは十中八九【シャッフル】の影響だ。しかし、選択肢はいつも円居の視界にだけ物理法則を無視するように存在していた。そして、選択肢を選ぶ時は直の手ではなく、マジックハンドもどきを使う。つまり、あのシステム画面はこの世界の物質には直接干渉しないということだ。それなのに、地盤が揺れている。
嫌な予感がする。
『ゴゴゴゴゴ…!ボカン!!』
いや、地盤の破壊音まで再現しなくていいから。
『タラタラッタターン』
揺れが止まった。どうやら、【シャッフル】が終わったらしい。
「お、終わったか…。」
円居は気持ち悪くて吐きそうになっていた。本当は耳や口を押さえてダメージを軽減させたかったのだが、残念なことに彼の手は未だに手錠のサイズぴったりに収まっていた。それでも吐かなかったのは本能的に目を瞑っていたからだろう。上半身の勝手が効きにくい代わりに腕以外は比較的自由なので、円居は衝撃で自分の足腰を折ってしまわないか心配だった。
「身体に、異常無し…うぷっ。しゃ、シャッフルは…?」
円居は目を開けて、マジックハンドもどきの存在を確かめる。その時、システム画面が再び起動した。
『シャッフル完了。初期位置から移動しました。貴方の現在位置は普通エリア2階西階段付近です。』
うん。知ってた。
「シャッフルって、部屋のシャッフルかよ…。」
呆れたことに、システムさんは各要素の力の入れ具合にかなりの差があるようだ。
それにしても、やたらと静かな気が…。
「…看守さん?」
スクリーンに夢中で気がつかなかったが、看守の姿が見当たらない。先程まで目の前にいた看守が…だ。
「仕組みは分からんが、多分これもシャッフルの影響…ということか。」
つまり【シャッフル】とは、牢獄内での自分の位置をずらして看守の監視から一時的に逃れる術の1つのようだ。今まではエルフにずっと脅されて、まともに周囲が確認出来なかったから、これはありがたい機能と言える。
美少女だからついつい彼女の方を見てしまう…というのもあったが、鞭が四方八方に横切るのでとにかく視界が悪かったのだ。
あと、普通に怖い。鞭が。
一方、この機能にはデメリットもある。そのひとつは事実上の回数制限だ。今回は尋問室で手に入れた【りんご味の飴】を使ってシャッフルを発動させたが、現在は他にアイテムを所持していない。そのため、次のアイテムが手に入るまではシャッフルを使うことが出来ない。
もうひとつは選択肢の仕様。シャッフルはあくまで移動手段であり、選択肢には効果が発動しない。ミッションリストを確認したが、選択肢は移動前から変わっていなかった。結局のところ、看守が戻ってきたらあの3つの中から選択する他ないということだ。
「胃が痛い…。」
最早、一連の出来事が残業よりも辛く重たいものに感じてきた。仕事人間且つ営業マンの円居にとって、タスクと心理作業の掛け合わせがトラウマを抉るトリガーとなっているからだ。
まあ、とにかく。今は心を落ち着かせて状況を把握しようではないか。
まずは牢屋内。広さは移動前と然程変わらない気がする。異なるのは、以前よりも視界が良好になったことー。
「っ!!」
円居は、左斜め向かいに人影らしきものを見た。
「あのっ!そこの人」
「人じゃない!」
呼びかけを遮って返って来た答えは、円居の想像を遥かに超えていた。
「え?」
「人じゃない。」
人影がゆっくりと、そしてはっきりと繰り返す。
腕を伸ばし、段々と牢屋の方に近づいてくる…。
「はっ?!」
もしかして、物凄く関節が柔らかいのだろうか。または関節を外した…あるいは関節が存在しない生き物?
そういえば、俺が接客してきた相手の中には明らかに人外のシルエットした几帳使い貴族様も居たような。
「人じゃない。スライムだ。」
前のめりに此方を見つめるその顔は、原型を留めていなかった。
監視に「ごうもん」ってルビがついてるけど、本当は違うんだから。勘違いしないでよねっ!
…監視って常用漢字だし、検索すれば一発か。しかし、言わないで文句言われるのもヤダしな。




