俺に拒否権はなかったらしい
遅くなってゴメンネ!麦畑だよ〜( ´∀`)
会社員って大変なんだねー。みんなは上から見下ろすのと思考を捨てて犬になるの、どっちがいい?
腕痛っ。というか全身がバキバキなんだが。この前の残業途中の寝落ち並に辛いのだけど!!
「…は?」
中世ヨーロッパは何処へ行ったのやら。気がつくと円居は尋問室の椅子に座っていた。
いまいち状況が飲み込めない。俺は確かに留置所もどきにいたはず…。
「おい。…おい!聞いているのか、円居誠!!」
皮肉なことに、円居を現実に戻したのは警察官の男だった。尋問室の窓からは朝日が差し込んでいる。
ーもう朝になったのか。
殺風景な空間は、時を加速させてしまうようだ。考えてみれば、俺の周りにはいつも何かがあった。殆どが書類だが、書類が無い時は上司か客がいた。
最悪な職場にしみじみしつつも円居は考える。俺には時間が必要だ。
「全く!しっかりしろよな。お前にはまともな応対をしてもらわきゃあ困るんだよ。」
なんてこった。国家公務員様が怒ってら。怒りたいのはこっちなのに。
まともな応対?まともな応対をすべきなのはお前らだろうが!
円居は心の中でそう叫んだが、ここはいわば相手のフィールド。無理をして冤罪を背負わされるのは勘弁だ。とりあえず「はあ…」といった感じで眉尻を下げておいた。
それにしても、俺は夢を見ていたのだろうか。ここで疲弊して一晩寝てしまった…という方がしっくりくる。いや、それとも…?
「あの。今は西暦何年何月何日でしょうか。」
円居誠の記憶が正しければ、今日は2025年2月3日のはずだ。まずいな。そろそろXデー:2月14日が来てしまう。あの日は毎年、重鎮がいらっしゃる売り時なのだ。要するに、行かなきゃ死ぬ。
「はあ?」
しまった。細かく聞きすぎたか。しかし、これだけは聞いておかなければならない。
もしあの体験が現実だったのならば、こちらに戻ってきた時にあちらの世界の時間でタイムスリップしている可能性もあるからだ。つまり、今が2025年とは限らないということだ。考えるだけで寒気がするが昨日のことを考えるとはっきりさせておかなければ。
「何を言っている?今日は2025年…」
2025年。認識と同じだ。どうやら、俺の杞憂だっt
「ー2月2日だが。それがどうかしたか?」
…ん??
「え。あの、2月3日ではなく?」
「そうだ。今日は2月2日。間違いなくな。」
刑事がご丁寧にスマホの画面まで見せてくれたが、日付は2月2日。時間は、俺が逮捕されて取り調べを受け始めた時間と殆ど一致している。
えっ。嘘だろ…。
円居誠、人生最大の不幸は刑事の発言により現実のものとなった。
△△△△△
うわあああ。
もしかして、アレが?ループに閉じ込められたのか??なんか、最近そういうホラーゲーム流行ってたな…。
まあ、別世界説は既に予想はしてたわけだからもういい。それよりも問題なのは。
円居は刑事の方をチラッと見る。彼の横にはこの前見たばかりものが。そう。
ピンクのメーターが見える…!!
「いやいやいやいや!なんで刑事さんも?!」
「は?何がだ??」
しまった。つい口から心の声が漏れていたらしい。
唐突に叫んでしまったせいか刑事の男は困惑しているようだ。ゴホン、と咳払いをすると視線を外に投げた。
「このままだと取り調べもままならなそうだな。まともに応答できるとは思えん。」
ガチャリと尋問室の扉が開き、外から女性が現れた。この人の耳は…普通だ。ということは、少なくともこの尋問室はこちらの世界またはそれに近い部類で間違えなさそうだ。
『警告:ミッションが達成されていません』
はい?
今度は目の前に巨大スクリーンが見える。刑事の男の頭に被っているのがなんとも面白い。
しっかりしろ。現実逃避をするな、俺。思い出せ。…これ、俺の意識が薄れる直前に見たものと同じものじゃないか?
『残りミッション数:1回』
ミッション?何のことなんだ??
説明が一切なかったところから考えると、何処かにメール欄でもあるはず…
あ。手紙の封筒マークがスクリーンの横にあるな。押してみるか。
刑事が後ろを向いている間に、スクリーンに手を伸ばす。しかし、腕は虚空を切っただけだった。
『マウス操作をお願いします。』
マウス操作?ここにマウスなんてないし、持ち込めるわけもない。刑務官は別かもしれないけど。
もしかして、フリをすればいいとか?
半信半疑ながらも机の上に手を這うように動かす。こちとら営業マンだ。事務作業なんてお手のもの。毎日やってるからな。むしろ感覚が消えなくて困るくらいさ。
意外にもスクリーンには見慣れたポインターが現れ、マークにどんどん近づいていく。
マークの色が変わったことを確認した俺は左クリックでメールを開いた。ピンク基調の背景に金の縁。そしてー
『あっ!やっと開いたね?遅いよ、もーっ!!』
さっきと文体が違くないか?さっきまで明朝体だったフォントも丸まってる可愛らしくなってるし。
『時間がないから要点だけ先に書いておいたんだ!ずばり、君は恋愛の勇者になったんだよ♪拒否権はないから安心してね(๑╹ω╹๑ )』
うん。勇者ね。はいはい。
うーん。なるほどね?
これ以上の情報は俺の情緒が保たなさそうだ。
というか、時間がないってー。
「円居さん?円居さーん」
「えっ?」
顔を上げると、少し前に入って来た女性が俺の肩を掴んで身体を揺らしていた。わりとぐわんぐわんするんだが。
「駄目だこりゃ。お前、今日はもう休め。」
刑事の男が目頭を押さえた。そしてもう一度、扉の開く音がした。
扉の向こうにはデジャヴを起こしそうな草原がはっきりと見えた。
…あ、死んだな。こりゃ。
最近はバ畜って言葉もあるらしい。日本人の睡眠時間がとっても心配になるね。




