美少女エルフが現れた!(ただし凶悪)
会社員は多忙なんだよ!そして、学歴も大事なんだ!!ᕦ(ò_óˇ)ᕤ知らんけど。
ある日、上司から呼び出しがかかった。
上司と言ったけれど、俺からしたら最悪の上司だ。
何が最悪かって?そりゃあ、色々さ。例えば、俺は心身共に成人男性にあたるのだが、ソイツは身体だけ女なんだ。世間的には心身共に女さ。だけど、あまりにもセクシャルでパワーなハラスメントを俺にけしかけてくるもんだから、趣味の悪い時代遅れなおっさんが転生した姿なんじゃないかと疑っているところだ。
たまにテレビとかで見るだろ?最近はYouTubeか。とにかく、昨今は特に多重人格だの転生記憶持ちだのがいるって話が絶えない。空想世界でも、現実世界でもな。
俺個人としては、そういう存在がいてもおかしくはないと思う。ただ、まともな精神を持ってる奴なら他人にわざわざ報告しない。少なくとも、夢も希望も絶望もない俺には、縁のない話ってこと。
「ーだったんだけどなぁ。」
「オイ。貴様、何か言ったか?」
「イエ。ナンデモナイデス。」
話を戻すが、俺は仕事の上司に呼び出されただけだ。しかし、気がついたころにはこの状況。
どんな状況?とてもじゃないが説明したくないね。
「で?そろそろ認めたらどうなんだ!」
中世ヨーロッパ感溢れる建物とは裏腹に、目の前にいる担当さん?はまるで明治時代の軍人のような格好をしている。顔が見えないが、女性だと分かる。何故なら、声が高いからだ。それに、夜の街の女王様が使ってそうな鞭を持っている。いや、どんな世界観だよ??
問題はそこじゃないのだけど。
「…またダンマリか。仕置きが足りないようだな?」
何故だ。何故、意味の分からん罪でしばかれなくてはならないんだ?!俺はMじゃないのに…。
留置所だからせいぜい狭い空間で逃げ回れば良いって思った人!それは良い考えだ。参考にさせてもらうよ。
俺が自由に動けたらな。
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「えーっと。円居誠、28歳。ハーン。ギリギリZ世代か。良かったな?」
「よくありませんよ。どういう冗談ですか?これ。」
内心不満が溢れ出しそうになっているサラリーマンは、ヒックと引き笑いをする。その手には手錠がかけられている。
「冗談?そんなことに付き合っている程、我々も暇じゃないんでね。」
刑事の男は、お気に入りの時計を確認しながら淡々と言う。
「2月2日午後0時ピッタリ。お前を逮捕する。」
正直、円居はこの状況にブチギレそうだった。
上司曰く非常に重要な書類を押し付けられて。やっと帰れると思ったら休憩してたソイツに呼び出されて。いつも通りセクハラされて辟易してたら、警察という救世主が登場。遂に、この女ともオサラバかと思ったら俺が捕まって。まあ、上司は驚いてたからグルではなさそう。アイツ、演技に限らず何にも出来ない無能だったからな。
それでも怒り狂わなかったのは、皮肉なことに今までの営業スキルによるものだった。お察しの通り、俺は中々なブラック企業に勤めていたため、実に理不尽な目に遭い続けた。意外と書類はまともではあるのだけれど、取引相手は例外なくロクでもなかった。
よって、脆弱な肉体になった代わりに強靭な精神を手に入れたという流れだ。
大丈夫。これは、いつもと何も変わらない。商談だと思えばいい。
しかし、この事件はそんなに単純ではなかった。
まず、警察関係者にまともに話を出来る人間がいなかったこと。当たり障りのない話なら問題なく行えたが、俺の罪状に関する話はさっぱりだ。とにかく、俺に「罪を認める」と言って欲しいらしい。これは、権力が関わってるな。
ここでのベストアンサーは罪を認めて大人しく捕まることだろうが、その手は使いたくない。まだ俺には汚い会社にしがみついてでも、やるべきことが残っている。
その後、警官達に必死に弁明したものの理解されず。最悪な日は最悪な気分のまま終わることになった。
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「さあ、楽になりたきゃ吐きな!吐かなかったら殺す。吐いたら優しく殺す!!」
どっちに転んでも死ぬんだが。というか、今の時代って拷問禁止だったよね?
そんなことはお構いなしに、担当さんは無慈悲に鞭を振り上げる。すると、その勢いで風が吹き彼女の顔を露わにした。
(…え?)
超絶美少女ォオ!!しかも、幼なげのある!
いやいや。問題はそこじゃない。そうだろ?別に、服の露出が多いなーとか、そういうことでもなくて!
耳だ。耳の形がおかしい。人間のように丸みがない。尖がった三角形をしている。これでは、まるで異世界もので見るエルフ…。
「何を見ている?」
「あ。いや。担当官さんってその服が標準なのかと思って。」
そもそも、建物とその周囲の外観がおかしいからどうでも良いいけど。
「そうだが?何か、問題でも?」
圧が凄い。なんか、誤魔化された気がするな。怖くて言い返せない。自分があのクソ会社で業績1位になったとは思えないほどビビってる。
「いえ…。ところで、ここって日本ですよね?日本って、こんなに広い土地ありましたっけ??」
「ニホン?何が2本あるんだ??」
え。もしかして、日本をご存知でない?このグローバル化が進む時代に。少なくとも、歴史の授業で出てくると思うのだが。
「日本国ですよ、島国の。」
見たところ日本出身ではなさそうなのでニッポン呼びで言ってみる。しかし、彼女は首を傾げている。
「貴様の出身はニッポンという国なのか?聞いたことがないな。」
ええい、ままよ。こうなったら彼女のことも聞いてしまおう。
「そうですか…。それでは、貴方はどこの出身なのでしょう?」
なるべく刺激しないように、あくまで不安そうにそう尋ねてみる。すると、彼女も不思議そうに俺を見てくる。
「どこって。王都マサノーラに決まっているだろう?」
ああ。なるほど。嫌な予感が的中したのか。
要するに、ここは異世界で、そしてー。
「俺は過労死したのか!」
「何を言っている?」
しまった。これでは変人扱いされてしまう。
ここから俺の考察になるが、俺の身に起きた可能性は大まかに3つだ。
1つ。俺は、夢を見ている。
これは1番現実味がある。今まで何度もおかしな夢は見てきたのだから、金髪エルフに拷問される夢もあるのかもしれない。俺の性癖ではないけれど、今の状況はある意味会社よりもマシかもしれない。
2つ。俺は死んで、転生した。
あり得ない話ではない。科学的に証明されていないが、死んだ後がどうなるのかは現代でも謎に包まれている。
3つ。俺を取り巻く関係が俺を含めて歪んでいる。
とんでもなく非現実的だ。ありえない。…普通の人間なら、そう思うんだろうな。
しかし、俺は知っている。今まで接待してきた客の中には、明らかに人外の未確認生物がいたことを。きっと、社員の度胸を問う会社側の仕掛けだと思っていたのだが、もしかしたらアレって現実だったのでは…?
「オイ!聞いているのか?」
「あ…。すみま…せん?!」
ヤバイ。過労死説が濃厚になってきた。エルフ拷問官の隣にピンクのメーターが見える。それと、自分の上には緑のラインが。
今は、変な言動をしているであろう円居を不審がっているようだ。そんな彼女の心の動きを表すように、ピンクのメーターが少し下がる。
美少女エルフに上下するピンクメーターって。恋愛シュミレーションゲームか?だとしたら、わりと嬉しいかも。
『時間です』
ふと、目の前にオシャレな文字フォントが表示された。な、なんだか、眠…く…。
気がつくと、俺は尋問室の椅子に再び座っていた。
ハラスメントって聞くと企業側の非が多い印象があるんだけど、最近はカスタマーハラスメントなどの客側の問題も可視化されてるよね。
話ズレるけど、可視化といえば最近、虐待とかの家庭的問題がよくニュースになるね。まあ、単純に発見基準が増えたから…でもあるらしい?
まあ、とにかく、そゆこと。世間に露見する量が増えんだから減ってほしいよね。