8 冬がやってきた。
冬がやってきた。
つなとりんの暮らしている街に冬がやってきた。
冷たい風が吹いて、とっても世界は寒くなって、つなとりんはお互いの体を寄り添うようにして、そんな冬の暗い空をみつめていた。
もうすぐ真っ白な雪が降り始めるようになるだろう。
だから、つなはりんと一緒に旅に出ることにした。
もうこの街では食べ物を手に入れることは難しくなってきた。(川は凍ってしまうくらい、冷たくなってしまうだろう)
これ以上、この街で生きていくことはできないとつなは思った。
そのことをりんに言うと、りんは「わかりました。つなさん」と明るい顔でつなに言った。
「この私たちの生まれて育った街を捨てることになるけど、本当にいいの?」とつなは言った。
「はい。いいです。つなさんと一緒なら」とにっこりと笑って、りんは言った。
そして、つなとりんは旅に出た。
二人でずっと一緒に暮らしてきた、住み慣れたねぐらをあとにして、ゆっくりとした足取りで大地の上を歩きだした。つなとりんはとてもお天気のいい、まるで二人が初めて出会った日のような、晴れ渡っている青色の空の広がっている日に旅立つことにした。
「いい旅になるといいね」とつなは言った。
「つなさんといっしょなら、きっと大丈夫です」とりんは言った。
それから二人は楽しそうに会話をしながら、緑の大地の上を歩き続けた。
そうして、冬がやってくるころに、つなとりんはひっそりとこの街をから出ていった。
この街から、二人はいつの間にか消えてしまった。
……、やがて(つなが思っていたように)しんしんと真っ白な雪が降り始める。
世界は真っ白になって、そのあとには、二人の残した大きさの違う、大きいものと小さいものの、ふぞろいの二つの猫の足あとだけが雪の上に残っていた。
「あの、つなさん」
「なんだい?」
「『お母さん』って、呼んでもいいですか?」と恥ずかしそうにしながら、りんは言った。
ねえみて。ほら。わたしたちの歩いてきた足あとが残ってるよ。
猫の聖域 ねこのせいいき 終わり