7 私によく似ている猫
私によく似ている猫
りんがいってしまう。
とつなは思った。
そこにはつなによく似ているぶさいくな猫がいた。
ぶさいくで恐ろしい、おばけみたいな猫。
でも、そのぶさいくな猫の歩いているあとを、りんがゆっくりと歩いてついていこうとしているのが見えた。
そんな景色を見て、つなは、りん! 待ちなさい! その猫は私じゃない。似ているけど、私じゃない。違う猫だよ! 私はここにいる。私がつなだよ。だからりん。そっちじゃない。はやくこっちに帰ってきなさい! とつなはりんに言おうとした。
でも、そんなつなの言葉は声にはならなかった。
なぜだか、つなは声を出すことができなくなっていたのだった。
つなは恐怖した。
りんがいってしまう。
……、りんが私のところからいなくなってしまうと思った。
それが、すごく、本当にすごく、怖かった。
夢から覚めると、まだ外は薄暗かった。
つなのおなかのところには、いつものようにりんがいた。りんはまだ、つなのでっぷりとしたおなかの上にその白くて小さな可愛らしいあたまをのっけて、すやすやと気持ちよさそうな顔をして、眠っていた。
「……、お母さん」
とりんは言った。
そのりんの言葉を聞いて、つなは思わず、(体を動かしてしまいそうになるくらい)びっくりする。
つなは、とても驚いた顔をしている。
お母さん。
それは、……、つなのことではない。
りんの本当の、見たことはないけど、きっとりんと同じ真っ白で鮮やかな美しい毛並みをしている、白い猫の、りんの本当のお母さんのことだった。(つなの空想するりんのお母さんはとても美しいほっそりとした白猫だった)
つなはじっとしている。
それから少しして、いつもの顏に戻ったつなはりんのほっぺたにキスをする。
りん。
……、りん。
とつなはりんのことをとても強く思う。(危なく、泣いてしまうところだった)