6 前を向いて、生きていこうよ。
前を向いて、生きていこうよ。
つなは自分の体がゆっくりと溶けていくのを感じた。
自分の体が少しずつ溶けだして、まわりの風景の中に混ざりこんでいくのがわかった。
つなは、……、ああ。私は今、世界と混ざり合っている、と思った。
私はこれから溶けてなくなってしまって、……、ううん。ちょっと違うな。なくなるんじゃない。世界と一つになるんだ。そこで私は、猫としてではない、違うなにかに生まれ変わるのだと思った。
ゆっくりと時間をかけて。
意識を失って、次に目を覚ましたときには、きっと、私は違う生き物になっている。
そんな予感がした。
私が私ではなくなっていく。
そんなことを考えて、つなは、……、そもそも私ってなんだったんだろう? とそんなことを疑問に思った。
でも、そんなことを考えても、答えなんてわかるわけないか、と思って、つなは笑い、その考えをそこでやめた。
私はこれから、世界と一つになる。
世界は私になり、そこに煩わしい境界のようなものはなくなってしまうのだろう。強い風が吹けば、その風に流されるようにして、私はどこまでも遠くまで、薄く引き伸ばされるようにして、飛んで行って、やがて、風と一緒になるのだろう。
つなはそんな薄く引き伸ばされている自分のことを空想して、小さく笑った。(なんだか、とってもへんてこだったからだ)
不思議と、あんまり怖くはなかった。(全然、怖くないわけじゃなかった。自分が消えてしまうのだから、やっぱり、少し怖かった)
でも、それがとても自然なことのように思えたんだ。
とても普通のことだと思った。
きっと、私が知らなかっただけで、私が今まで出会ってきた猫たちにも、きっとこんな風にゆっくりと溶けて、世界と混ざり合っていったのだろうとつなは思った。(そして、今度はつなのばん、というだけなのだ。うん。きっとそうだ)