手紙
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フィンちゃんへ
元気?
お母さんは元気です。
早く帰ってきてお顔を見せてね。
そうそう、お友達はできた?
この間、ミリルちゃんのお母さんから連絡を頂きました。
ミリルちゃんも無事に入学式を終えたそうよ。
フィンちゃんと会ったかな?
また小さい頃みたいに遊ぶのかな。
お母さんにも教えて下さい。
体に気をつけて。
またお手紙書くわね。じゃあね。
母より
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鞄をあさり、返信を書くために便箋を探す。
その間も、母の友人の娘ミリルについて思い出していた。
思い出を総合すると、たぶんだが、性格の相性は良かった。嫌なことはされなかった。
五歳くらいの時に一緒に遊んでいた。
どんな人物だったのかの印象はほとんどない。
同い年で、家も近所。その割に母に促されなければ会うこともなかった。どう興味を持てばいいのか分からなかった。
今思えば、不快でなかっただけでも儲けものだったのだろう。しかし、ただ一緒にいるだけとか、くだらない話をするとか、なんやかんや遊んでみるとか、その時は出来なかった。母の交友関係がイコール自分の交友関係でもあったに等しい当時、それをつまらなく思いながらも、かといって引き合わされた相手との遊び方も思い付かない。そう言うしょうもない子供だった。
悪気はなかったが、遊んでもらって悪かったような気がする。あちらはもっと嫌だった可能性もある。こっちは貴族のお嬢である。当時は立場の違いなど考えなかったが、あちらにすれば断れなかったのかも知れない。
まだ近所にいたはずだが、家の敷地から出ない私との接点はなかった。
貴族の屋敷が立ち並ぶ山の手から見下ろすように庶民の街が広がっており、ミリルの家は街の方にあった。
母の生家から歩いて数分のところにミリルの一家は住んでいた。母に言わせれば近所である。
庶民出身の母は、その美貌を買われて貴族の妻になったと、母の親戚から聞いたかが、疑わしい。
というのも、母と私はそっくりなのである。
ではなぜ妻になったのか。それは知らない。