ユリス エピソード3 ピンチはチャンスに
車検だの、修理代だの、新しいものに買い替えなど。
どうしてこうもお金が出ていくことが重なるのでしょう。
かつかつ生活で悲鳴を上げたくなるわ。
なんか、せっかくお金が貯まってきたのに同じくらい出ていく。
困っちゃうねぇ。もっと生活にゆとりをもって暮らしたい。
これはもっと働けっていう付箋なのか、それとも節約しろって言う説教なのか。
どちらにせよ、次のボーナスまでご褒美はお預けってことかな・・・泣く。
それからのジェルマはユリスの言うことを素直に聞くようになった。石運びもブツブツ言いながらもちゃんと王宮まで運び、サンドフィッシュもユリスから誘い出す罠や倒し方を教わり時間がかかったものの一人で討伐することができた。ジェルマは達成感に浸り自分に自信がついた。
それから数年、ユリスは家庭教師を続けジェルマは周りからも一目を置かれるように成長した。そして、ユリスは思い切ってジェルマに外交をやらせることにした。
「そもそも外交ってどこへ何をするんだ。」
「まぁ聞きなさい。ここ数年であなたの王としての素養はだいぶマシになったわ。ただ、王族として顔が売れていないのよ。それは致命的であり、今後の影響力にも起因するわ。そこで、隣国のリステルに行ってきなさい。何を交渉するのか、何を目的にするのかはあなた自身が考えなさい。」
「そんな難儀な。」
リステルは国交はあるものの基本的には穀物や農産物のやり取りが主で、国同士が盛大に交友の場を設けることは特にしてこなかった。それは仲が悪いというわけではなく、そこまでする必要性がなかったと言える。お互いに欲しいものを適切な値段で交渉し買っていたため、外交は補佐官が行っていた。
「外交に向けて情報を手にいれることも大切よ。外交前日にあなたがどのような外交をするのかを聞くからそれまでにはプランを練るのよ。」
ジェルマは困りながらも外交に行っていた補佐官に聞き込みをして、過去の交易のやり取りを調べ外交に向けて準備し始めた。そして、前日になってユリスに外交予定を伝えた。
そしてジェルマが一通り話し終えた後で言った。
「全然だめね。」
「なんでだよ。今後の穀物の適正価格の見直しと交換留学提案、その他にもリステルの王族についてのこともちゃんと調べたんだ。何が問題なんだ。」
「じゃあ話を変えるけど、あなたは国同士ウィンウィンに関係を築きましょうプランだったけど、はたして向こうの国は仲良くなりたいと思っているの?」
「どういうことだよ。」
「不思議に思わない?そもそも、補佐官が外交をやっているのよ。そして、向こうもこちらに招いたりしていない。確かに交易はやってくれているけど、それって互いに不誠実じゃない。」
「けれども、過去の資料や歴史書を見る限り争いなどなかった。」
「そうね。争いはなかった。じゃあなんでだと思う。その答えはあなたがリステルに行けば分かるわよ。」
「ますます分からない。」
「しょうがない。外交に行ったら何が起こるのか話しておくわね。話しておかないとあなたパニックになるから。」
「なんだよ焦らしやがって。」
ユリスはジェルマに何が起こるのか伝えると驚いていた。
「そんなはずは。そんなことしたらそれこそ戦争になりかねない。」
「さぁじゃ改めてあなたがこの危機的状況を止めてみなさい。」
「そんなことできるか!」
「いや、できるわ。だって、あなたしかできないことだから。」
「俺にしかできない?」
ユリスはとある資料をジェルマに手渡した。ジェルマは戸惑いながらもその資料を読んだ後で一つ考え付いた。
「そうか。そういうことか。」
「本当はそこまで一人で導いて欲しかったけど今回は及第点ってことにしといてあげる。さぁ明日が楽しみね。」
そして、翌日ジェルマとユリスは召使と護衛数名を連れてリステルに旅立った。
一週間後リステルに着いたが、城の門は開いていなかった。すると、ジェルマ達団体の後方にリステルの兵士たちが剣を向けて構えた。逃げ場を失って皆両手を上げて拘束された。
ジェルマ一人がリステルの王へと案内され謁見した。
「これはこれは遥々我が国にお越しいただきありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそユニークな歓迎を受けて驚いた所存です。」
「面白いことを言うな。君はこの状況を分かっていないようだね。君たちは人質として捕まっているんだ。」
「そうなんですか?てっきりサプライズだと思っていましたよ。」
「戯言を。まぁサプライズと言っても過言ではないか。これから、パタリオスは手中になる。商人たちをすでに買収しているしこのまま交易を止めればパタリオスの民は飢え死にしていく。」
「そんなおぞましいことをなさっていたんですか・・・。心外ですね。」
「心外?ふざけたことを。我々はパタリオスが過去に行った所業を忘れていない。」
「疫病の封じ込めですか。」
「まさか知っていてここへ来たのか?」
「百年前に発生した疫病でリステルから来た人間から伝染したと広まり隔離した挙句に隔離されたリステルの人は皆死んでしまった。」
「あの中には我が一族の人間がいた。お前らが見殺しにした。」
「見殺しになどしていません。その時の診察記録が残っていて、ちゃんとリステルの人々を看病し続けていました。」
「嘘を言うな。お前らが見殺しにした。」
「わが国でもその疫病によって死者が出ました。リステルの人たちを差別することなどしていません。」
「もういい。話にならない。この者を牢に連れていけ。」
ジェルマは一呼吸置いた後歌い始めた。
「シャラマンタの花が咲くころにきっと戻ってくる。鳥になって旅立つ我が衣では濡れている。北から吹く風は冷たかろう。残していく父よ母よ、寂しい思いをさせてしまうだろう。必ず帰るから。渡ってくる砂の波を越えて、海をも超えて。愛しき人よ、どうかお元気で。」
そこにいる全ての者はその歌を聞き入った。そして、リステルの王は言った。
「なぜだ!なぜその歌を!」
「この歌はリステルの古くから伝わる旅立ちの歌なのですね。この歌を我が国のこども園の校長から教えてもらいました。校長のお母さまは当時リステルの看病に携わっておりました。そして、この歌はあなたの王の一族のお嬢様に教えてもらったそうです。お嬢様は疫病で弱りながらも必死に生きようとしていた。けれども、死期を察してこの歌を口ずさんでいたそうです。」
「そんな・・それじゃあずっと誤解していたというのか。」
「そうかもしれません。けれども、我が国もその疫病が過ぎ去った後歩み寄ることをしてこなかったことがより不信感を募らせたことでしょう。」
リステルの王は跪いて深く頭を下げた。
「本当に申し訳なった。」
「いえ、誤解が解けて良かったです。」
「それと、お歌がお上手ですな。」
「ありがとうございます。」
ジェルマの初めての外交は互いの争いの火種を沈下し、よりよい関係を築いていこうと誓いあうことができたのであった。