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テト  作者: 安田丘矩
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ユリス エピソード2 本当のあなたを知らないだけ

最近、おみそ汁の具がワンパターンになっている気がする。

マイタケ、エノキ、わかめ、ネギ、大根、時々油揚げ。

まぁお味噌の種類によって入れる具材も変えたいところたいていここら辺がいつも。

お味噌汁に入れると甘くなる、サツマイモや玉ねぎ、かぼちゃは美味しいんだけど

おかずによっては入れない方がいい場合もあるよね。

そして、この暑さ。家族食べきりで作らないと・・・残しておくのもちょっと嫌。

冷蔵庫に保管して一日経つのも抵抗がある。ワカメがぐちゃぐちゃになるのが特に。

もっと新しい具材にチャレンジしてみた方がいいのかな?

ズッキーニとかブロッコリーとか?なんだかんだ言って定番に戻ってしまう。



ジェルマが目を覚ましたのは数日経ってからだった。目覚めた後ぼーっと部屋を眺めていると、サンドフィッシュに襲われた時のフラッシュバックが頭をよぎり叫び声をあげた。


「目が覚めたわね。一斉から元気が良くて宜しい。」


気づかなかったがベッドの横にユリスが立っていた。ジェルマは変な声を上げて後ろに引いた。


「自ら、サンドフィッシュの餌になりに行くなんて意外に頼もしいのかしら。」


「そっ、そんなんじゃねぇよ。だいたい、お前があんなところに連れて行くからこんなひどい目に遭っているんじゃないか。」


「まぁ本来だったらサンドフィッシュを討伐してもらわないとダメだから、また後日。」


「はぁ!もうあんなことしねぇよ。」


「じゃあ石運びね。」


「俺はやらない。」


「そう、じゃあ・・・。」

ユリスはジェルマをお姫様抱っこして部屋から連れ出した。


「ちょ!下ろしやがれ!!」


ジェルマは抵抗したが気にせずユリスは王宮から出て行った。




ユリスが向かったのはこども園だった。ここは、こども達の学び舎として勉学や遊びを通じて社会性を得るための場所だった。


「着いたわよ。あんたはここで先生になってもらいます。」


「おい、滅茶苦茶なことを言うな。なんで平民のガキの面倒を見ないといけないんだ。」


「あんたもガキなの。ここの先生には話をつけてあるからまずは挨拶をしに行くわよ。」


「俺は行かない。」


「王のご子息は約束事も守れずに帰って行ったと汚名がつくわよ。」


「知ったことか!」


「ここのこども園はあなたのお母様が未来ある子供たちに未来をと寄付金を募って作られているんだけど。あなた知らないのね・・・。」


ジェルマは止まった。母親はジェルマが生まれてすぐに亡くなってしまった。母親を失って寂しい思いをしないよう王は甘やかしてきたせいか、わがままで傲慢な青年になってしまった。そんなジェルマは母親のことを知らない。今、ユリスから母親のことを聞いてなぜか心のどこかを突かれた気分になった。


「だから、ここのこども園の先生や園長はあなたのお母様を知っているのよ。だからこそ、あなたは知らないといけないんじゃない。」


ジェルマは何も言い返さなかった。ユリスはジェルマの背中を押してこども園の中へ入って行った。



園内には元気に遊ぶ子供や先生に勉強を教えてもらったりのびのびとしている。校長室に案内されるとそこには白髪交じりの女性が待っていた。


「ようこそ。あなたがジェルマね。私はこの園の園長をしているリエシェルよ。」


ジェルマは戸惑いながらもあいさつした。

「クゥトゥルフ王の息子ジェルマです。」


その挨拶を聞いてリエシェルは跪いて頭を下げた。ジェルマは王族になって初めて正しい挨拶を受けた。


その様子を見てユリスは言った。

「あなたは誰も王族として認められていないせいか、挨拶もちゃんとしてもらえてなかったのね。王宮にいても誰一人。」


「うるさい・・・そんなこと知っている。」


リエシェルは立ち上がりジェルマに言った。

「今日ね、ユリス様からあなたに会う機会をもらって本当に嬉しかったわ。あなたはちゃんとお母さまの子として立派に成長しているわ。だから、王族としてもっと自信をもってちょうだい。」


なぜかジェルマの片目から涙がこぼれた。


「早速ですがリエシェルさん。担当する教室に案内してもらえますか。」

ユリスはリエシェルに言った。


「そうね。子供たちも会いたいと思っているわ。さぁこちらに。」



リエシェルの案内で担当する教室に入って行った。そこには5歳か6歳くらいのこどもが絵を描いたり、おもちゃで遊んだり、友達とお話ししたりして自由に過ごしていた。


「はい、皆さん。今日は特別に新しい先生が来てくれました。さぁジェルマさん。みんなに挨拶して。」


ジェルマはゆっくりと前に出て言った。

「我はジェルマである。今日は、そなたたちの先生として交流することになった。」


こどもたちはじっとジェルマを見つめて黙り込んでしまった。ジェルマはその様子にどうしたらよいのか困っていると。


「ごめんなさいね。この王子様ちょっとひねくれているのか顔が怖いの。けど、根はやさしい・・・はずだからみんな仲良くしてね!」


こどもたちは一斉に「はーい!」と言った。


「ちょっと待て!余計なことを言いやがって!」


「先生がそんなはしたない言葉を使ってはいけません。慈愛にあふれたご対応をよろしくお願いいたします。」


すると、こどもたちがジェルマの周りに集まり始めた。ジェルマはどうしたらいいのか戸惑っていた。


「ねぇ王子様って本当なの?」

「王族にこんな兄ちゃん居たのか?」

「たしか、末っ子にいるって父ちゃんが言ってた。」

「へぇー。」


ジェルマの様子を見かねてユリスは手を2回叩いた。

「はい、みんなぁー。このお兄さんがお歌を披露してくれます。」


「はぁ!俺がいつやるって言った!」


「あなたの唯一の特技でしょ。私が演奏するから歌いなさい。」


「そんな急に。」


ユリスはどこからかウード(弦楽器)を取り出して弾き始めた。その曲は『月よりも遠く』というパタリオスを代表する大切な人を思う曲だった。こどもたちは伴奏を聞くとすぐにその曲だと分かり静かに聞き始めた。


ジェルマは場の空気に呑まれ渋々歌い始めた。


「静まり返った街を月明かりが照らし、砂に還った者たちは空の向こうを旅する。追いかけても追いかけても、二度とたどり着けないだろう。だから、歌にしてこの風と共に歌おう。月よりも遠く。私を照らした後できっとそのやさしさに包まれて消えていくのだろう。せめて、今夜だけはあなたを思い出させて。そして、眠る。」


歌い終えると皆一斉に拍手をした。ジェルマはこどもとは言えこんなに喜んでもらえるとは思ってもみなかった。すると一人の少年が近づいて言った。


「僕ね。この曲好きなんだ。僕ね、お父さんお母さんからジェルマ様は恥さらしだって言ってたけど、僕はジェルマ様好きだよ。」


ジェルマはそれを聞いて複雑な気分になった。横からユリスがジェルマに言った。

「これはあなたがやらかしてきた蛮行のツケよ。けれども、いいでしょ。人々を喜ばせるのも。」


ジェルマはそっと頷いた。


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