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テト  作者: 安田丘矩
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ユリス エピソード1 己の未熟さを知る

もうすぐ世間では夏休みですね。まぁ大人には関係ありませんが。

こどもの頃、宿題もせずに時間を持て余していたな。

宿題のテキストも答えを丸写しして終わらせていたし、

工作も親と一緒に作ったものに色付けをしたくらい。

作文は当時、まったく国語ができない、本も読まないから何をどう書けばいいのか分からず。

作文用紙に家族で行った海水浴について書いて、行を埋めるために生き物の絵を書いて

完成させた。そしたら、先生に「これは作文じゃない!」って怒られたけどやり直しにはならなかった。

そんなこともあったなぁ。今じゃなろうで小説書いているんだから驚きだね。

ジェルマは父であるクゥトゥルフに嘆願した。

「父上、どういうことですか!あの化け物は。」


「ジェルマよ。落ち着きなさい。ユリス様は神の啓示を私たちのもとへ告げに来た方だ。そして、おまえを立派な王族として指南していただける。」


「いつ、私がお頼みになりましたか。そのようなこと必要ありません。」


「ジェルマよ。私はお前を心配しているのだ。私のもとに届く報告はいつも悪態ばかりだ。ユリス様に頼むこと自体お前の親として情けない事であるが、ここはユリス様を信じてはくれないだろうか。」


「けれど、父上。あれは魔物ですよ!」


「聞き捨てならないですわ。」

王の御前にユリスは颯爽と現れた。


「確かに私は魔物。それは変えることのない事実。けれども、あなたの父君に助けられた恩を仇で返すほど一生き物として腐ってないわ。いいわね若造。そもそも、あなたが父君に異を唱えることなど普通はできないと思いなさい。そもそも、あなたは今持っている権力は父君の威を借りているだけであなたの力ではない。そんなことも分からない若造に何ができようか。」


ジェルマは言い返すことができなかった。


「王様。私は責任をもってジェルマ様を立派な紳士として成長させて見せましょう。」


「これは頼もしい。期待している。」


王は喜んだ。そして、その日からジェルマの家庭教師としてユリスのパタリオスでの生活が始まった。




ユリスは早速ジェルマを王宮から連れ出した。まず、このひねくれ者のケツを叩かないといけないと考え向かった先は砂漠の谷の石切場だった。そこには、石を切り出して王宮へと運ぶため奴隷たちが多くそこで働いていた。


「こんな奴隷どもと同じ場所に連れてくるとは・・・愚弄する気か!」

ジェルマは怒った。


「あなたってほんとバカよね。確かに奴隷の身分は低いかもしれない。けれども、役人も奴隷を召使にする上流階級の人たちは決して奴隷を無下に扱はないわよ。なぜなら、奴隷はこの砂漠の国では貴重な労働力ですし、ちゃんと衣食住を保証されているのよ。


その昔、奴隷を無下に扱った国が奴隷たちによってクーデターを起こされて滅びた逸話も残っているし、恐るべきは群衆による憎しみの蓄積。だからこそ、一人間として扱わないとこの国の格差や階級が保てなくなるもの。そんなことも分からないで王族を語っていたの?滑稽だわ。」


ジェルマの怒りは逆なでされた。

「うるさい!だったら何だっていうんだ!たかが奴隷だろ。」


「じゃあ試してみる?けれども、その憎しみの矛先はあなたの父君になるけどね。ほんと、ガキって嫌よね。目の前に見えていることが全てじゃない。その行動によって、責任や贖罪が発生することを分かっていないですもの。だから、あなたはいつまで経っても認められないし、立派に自律もできない。」


ジェルマは悔しそうにユリスを睨みつけた。


「あなたをここに連れてきたのは別に社会見学しに来たんじゃないわよ。あなたには奴隷たちが運んでいるように石を王宮まで運んでもらいます。」


「はぁ!ふざけるな!なんで俺がそんなことを。」


「石の大きさは1メートル四方です。王宮までは60キロくらいだから一日ぶっ通しで運び続ければ到着できるわ。」


「俺がいつやるって言った!そんな事やってられるか。」


「そう・・・それは残念。ただ、私ってそこまで優しくないのよ。実はこの石運びのほかにもう一つ修行を用意していたんだけど・・・そっちにする?魚釣り?」


「魚釣り?そっちの方がいいじゃないか。」


「釣るのはこのパタリオスで有名なサンドフィッシュよ。この国でも討伐例はあるけど、毎年ラクダや人間に被害が及んでいるわ。そのサンドフィッシュを釣るんだけど・・・じゃあそっちにしておくわ。」


ジェルマは青ざめた。サンドフィッシュの恐ろしさは知っている。実際に、従妹を乗せたそりがサンドフィッシュの餌食になり帰らぬ人になっている。それを討伐なんて死にに行くものだった。


「どっちもやってられるか!俺は帰る。」

ジェルマはユリスの横を通り過ぎて帰ろうとした。


「やれやれ。これもダメ、あれもダメ。あなた一体何ができるの?何もできないのに今までほざいていたなんて呆れちゃう。」


「けぇ!何とでも言え!」




ジェルマは谷の入り口に居た役人からラクダを一体借りて、ラクダに乗って帰路に立った。その道中急に砂嵐が巻き起こった。ラクダから下りてラクダを伏せさせて寄り添いながら砂嵐が過ぎるのを待った。しばらくすると治まり再びラクダに乗って出発しようとした。しかし、ラクダは動かなかった。


「おい、どうしたんだ。」


ラクダはひどく暴れ出しジェルマは振り下ろされた。ラクダはそのまま谷の方へ逃げて行ってしまった。


「一体何なんだよ。」


ジェルマは立ち上がり周囲を見渡した。すると砂が盛り上がり始めた。ジェルマはようやく気付き脚が取られる砂の上を走り出した。砂から勢いよくサンドフィッシュが飛び出した。サンドフィッシュの見た目はウチワザメに似ていてこの砂の中でも簡単に泳ぐことができる。ジェルマは一目散に逃げるもすでにサンドフィッシュもジェルマを見つけ追いかけてきた。


「死にたくない!死にたくない!」


必死に逃げる中でジェルマはさっきユリスに言われた言葉を思い出した。口だけで自分じゃ何もできない。悔しさと情けなさがこの状況で湧き上がってくる。


「お願いだ!助けてくれ!!!!」


サンドフィッシュは砂から飛び出しジェルマに向かって口を大きく広げた。もう駄目だとジェルマは諦めかけたとき、ユリスが思いっきりサンドフィッシュの脳天に一撃加えた。サンドフィッシュは砂にたたきつけられ、ピクピクトもがいた。


ユリスはジェルマに近づいて手を伸ばして言った。

「まずは己の未熟さを知る。そして、そこからできることを探していく。それが生きていくことなのよ。」


ジェルマは気を失って倒れてしまった。


「あらあら、怖かったのね。しょうがないわね。一度王宮に帰っておねんねね。」

ユリスは肩にジェルマを担ぎ王宮へ戻っていった。


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