その人にとってはガラクタ、その人にとっては宝物
昔、縁日でヒヨコが売っていたんだけれどももう見ないね。
まぁ飼えるご家庭もほとんどないのもそうだけれども、やはり鳥インフルエンザのせいもあるだろうね
あれ見てると欲しいなと思ってしまうから怖い
可愛いけれども、成長すると逞しい姿になるからねぇ。
そもそも、なんで縁日にヒヨコが売っているのか不思議。
まぁペット販売の名目なのはわかるけれども・・・
あれ、もっと昔を辿るとご自宅で鶏を飼っていたご家庭があったからかな?
大きくなった鶏を捌いて食べていたから、食用および卵も目的なんかな。
ただ、飼いはしないけれども売っているところをもう一度みたいなぁ。
墓地での一件でアルヴァンはケツァルコアトルに言われたこと、テスカトリポカが言っていたことを思い返していた。約束の日を言いかけてケツァルコアトルは消えてしまったが、昼間なのに夜になる時は日食しかない。ただ、日食がいつになるのかは分からないため、カイノスへ行って調べることを決めた。
そして、テスカトリポカの鏡だ。その在処がどこなのか分からないし探す当てがない。もし、ケツァルコアトルの推測が正しければテスカトリポカが持っていると考えられる。どう接触すればいいのか。けれども、持っていない可能性もあるため容易に会うことはできない。
それに、あいつは俺を次のおもちゃにしようとしている。俺は、あいつに会ったことがあるのか・・・ケツァルコアトルにも。願いも継受されているってどういうことだ。確かに品格者を殺めて能力は持っているが、継受された能力を持っている。けれども、まったく思い出せない。もしくは覚えていないだけなのか。自身の存在が神々と接点があることを知りますます分からないままでいた。
エスリーの家に戻ってきたアルヴァンは上の空だった。エスリーはアルヴァンに声をかけるも聞こえていないようだったので少し心配しその様子をじっと見つめていた。椅子に座って無心に焼き菓子を食べて、お茶の入ったカップを見つめているアルヴァンに、何となくミランダ様やカイノス様のことを思い出してしんみりしていると思い声をかけた。
「キッテさん。私の母からあなたの逸話を聞かされていたけれども、あなたに出会う前までは信じられなかったの。もちろん、カイノス様がいてこの国が建国されたことは事実だけれども、そのきっかけを与えた存在が魔物であるあなただったなんて。
けど、その話を大事に話してくれる母もまたその母からその話を受け継いできたと考えると本当に素敵なことだと思えた。だから、この教会のシスターになってあなたを待ち続けることを選んだ時、あなたのことを信じられなかったけれども時を繋いできた重みって温かいんだと感じたからこそここまで生きてこられたんだと思うの。そして、あなたに出会えたことは私にとっての宿命だと。」
アルヴァンはエスリーを見た。
『また大袈裟なことを。別に信じなくても生きて行けるし、風化しても仕方ない事さ。ただ、ありがとうな。俺がお墓参りをする機会を残しておいてくれて。』
アルヴァンはカエルからあるものを取り出してエスリーに渡した。エスリーは不思議そうにそれを受け取った。それは、人形だった。継ぎ接ぎだらけだが大事にされていたのがよく分かる人形だった。
「この人形ってもしかして。」
アルヴァンは頷いた。
『あぁ、それはシージェーがくれた人形だ。』
カイノスが大きくなってシージェーお姉さんとしてカイノスの面倒をよく見るようになった。シージェーには大事にしている人形を持っていた。それは、亡くなった母親が最後にくれたプレゼントだそうだ。内戦から祖母と一緒に逃れるときも肌身離さず持っていた。とある日シージェーはアルヴァンにこの人形を差し出した。
「キッテ。私のこの人形をあげる。」
アルヴァンは首を振った。
『えっ、いらないけど。ボロボロだし、玩具なんて必要ない。』
「ほんと、あなたってデリカシーがないんだから。ずっと、お礼をしたかったの。本当は残してきた家族と一緒に死んだほうが良かったと思ってたの。けれども、おばあちゃんは強引に私を引っ張ってついて行くしかなかった。私の故郷が焼けていくところを遠くから眺めたとき、声も出ずただ涙が溢れるだけだった。
もう、このまま死んでもいいと思っていた時にあなたが現れた。はじめは一体何事かと思って少し怖かったけれども、ついて行ってミランダおばさんに出会って、赤ちゃんが生まれるところに携われた。そして、カイノスに出会えた。
失った分、また希望って生まれてくるんだと思えたの。そりゃあ、はじめは何にもないから明日も生きて行けるか不安だったけれども、あなたが居てくれたから今日も生きていられる。だから、せめて私の大切なものを受け取ってほしいの。お願い。」
少し強引に手渡されたものの渋々アルヴァンはその人形を受け取りカエルにしまった。
ただ、特に使う機会もなかったのでずっとカエルの中に仕舞いっぱなしだった。だから、子孫であるエスリーに渡すのが一番この人形にとっても幸せだろうと思いアルヴァンは渡したのだった。
エスリーは嬉しそうにその人形の頭を撫でた。
「ありがとう。素敵な贈り物だわ。」
『まぁ俺が持っていてもカエルの肥やしになっちゃうだけだからな。』
「キッテさん。今日は泊っていってください。それで、明日お祈りの時に会わせたい人たちがいるの、いいかしら。」
『会わせたい人?』
アルヴァンは少し迷ったが、どちらにせよ行く当てもなかったので今日はエスリー家に泊めてもらうことにした。
翌日、教会でお祈りが始まった。特に宗派がないためアルヴァンは後ろの方で人々たちが祈りを捧げている姿を眺めた。お祈りが終わった後でエスリーは皆に言った。
「お集りの皆様。今日は素敵なことがあります。それは、このオリエンティの前衛の村を支え、あのカイノス様の母君を救ったキッテさんがこの街にいらしてくれました。」
エスリーがアルヴァンに歩み寄り祭壇の前まで手を引いて皆に紹介した。アルヴァンは少し困った。突然見知らぬ人の前に出されて何をすればいいのか分からずにしていると、人々は皆跪いて両手を合わせた。その光景にアルヴァンは戸惑いエスリーを見た。
エスリーは微笑んでアルヴァンに言った。
「キッテさん。ここにいる皆は、あなたが守ってきた村に住み着いて今まで生きてこれた子孫たちよ。」
『と言われてもなぁ。誰が誰でとか分からないし。』
人々は顔を上げた瞬間、アルヴァンの目には一瞬当時の人々の姿が見えた。不思議に思いながらもアルヴァンはお辞儀をした。