親の心子知らず、子の心親知らず
海がいいか、山がいいか
判断基準は虫の有無か、過ごしやすさか、日焼けしないか?
どちらかと言えば海の方が好きかな
ベタベタするって言われてるけど別に海水浴しなければ問題ない。
暑いのはもう毎年だし、近隣の海の家や喫茶店で眺めながらでよし。
山に関しては、子供の頃あれが苦手だった。
あの血を吸うアブ。血を吸うのは蚊だけだと思ってたから、
あんなデカい虫に刺されていたって知った時っゾッとした
もちろん怖くはないけど、純粋に気持ち悪いと思った
だから、山はちょっとなぁて。それに山への運転が苦手です。
蛇行と坂道や下りが続くのは結構応える。長時間は嫌。
ここはベルリッツ王国のとある村。雪化粧して村は静まり返っている。村の主要の道は雪かきをされていて路肩に雪が積もれている。そんな雪の中を小さな足跡をつけながら歩く一匹の魔物がいた。
「誰もいませんね。」
シドが言った。
「冬眠でもしてるんじゃないか。」
「やはり、ここまで統治が回っていませんでしたね。ラッキーでした。」
「けど、ようすがおかしいな。田舎だからかもしれないが、異様に活気がないような・・・。」
村の酒場を通り過ぎると入り口が木の板で塞がれて入れなくなっている。最寄りの商店も明かりが灯っているが入りづらい。
「あいつの家ってこの先の農場の隣だっけ?」
「確かそうだったと。」
しばらく歩いていると農場を越えて一軒の家が見えてきた。アルヴァンはその家のドアをたたくと一人の女性が出てきた。
「きゃあ・・・魔物?」
女性は驚いたが困った顔をした。
『なんだ?魔物じゃ悪いか・・・あれ、ここってじじばばが住んでんじゃ?』
アルヴァンは首を傾げた。
「どうした?ブランカ?」
奥からごつい男性が玄関にやってきた。
「かわいい?魔物がいる?」
『誰がかわいいだ!失礼だろ。』
「本当だ。魔物?だ。やばいやつか?」
「うーん?ノックをしてくれているからお行儀がいいんじゃないかな。」
『そういうことなのか?』
ブランカは屈みこみアルヴァンに話しかけた。
「君はどこから来たの?」
『どう伝えればいいのか?』
アルヴァンは指先を下に2回指示し、2本指を立てて両掌を上に向けた。ブランカは少し考えた後話し始めた。
「もしかして、前にここに住んでいたチェスターさんのことかしら。」
アルヴァンは頷いた。
「そっかあ。チェスターさんを訪ねてきたのね。けどね、残念ながらチェスターさんは亡くなったのよ。数年前に。」
『マジかよ。せっかくここまで来たのに。』
アルヴァンはがっかりした。
その様子を見てブランカはアルヴァンを家に招いてくれた。台所の椅子に座り小粒の焼き菓子とお茶を出してくれてアルヴァンはためらわず食べ始めた。
「私たちね。リンドンから疎開してきたの。何年か前に魔物が襲撃されて駐在兵がなくなった事件でさすがに怖くなってね。ほんと、ここまで来てよかったと思うわ。今、リンドンは魔物が溢れかえり人権なんてないから。」
『あぁあの時か・・・。結果的に疎開できたなら良かったな。』
「その時にリンドンにやってきて住まいと働き口を探していたんだけどさすがに何もなくてね。その時、チェスターさんに出会ってお世話になったの。その後、息子さんが品格者となって出て行ってしまって、さすがに不自由だと思って一緒に住むようになったの。」
『そうか、あの後から一緒に住んだのか。』
「息子さんのレオ君はもうあれから帰って来てないし、幸い訃報が届いていないから生きているとは思うんだけど・・・心配だわ。いつでも帰ってきてもいいように部屋はそのままにしていて、チェスターさんが大切にしてあった物も一緒にしてあるわ。」
『そうか・・・何か手掛かりはないか。』
アルヴァンは椅子から下りてブランカの服の裾を軽く引っ張った。
「何?部屋に行きたいの?」
アルヴァンは頷いた。ブランカはレオの部屋に案内してくれた。部屋の中は物でごちゃごちゃしてるよう感じもなく片づけられていた。
『特に何もないな。』
アルヴァンはブランカが言っていたチェスターさんの遺品が入った箱を開けた。その箱には子供の頃に使っていたおしめやおもちゃ、住民登録書など入っていた。そして、日記があった。
「私もその日記を読ませていただいたわ。奥さん豆な人だったから詳細に書いてあるわよ。」
アルヴァンはブランカと一緒にその日記を読むことにした。
〇年○月○日
西の森の木の下に捨てられていたこの子を今日から私たちで育てることになった。お医者様に見てもらいどこもケガや病気もなくてよかった。ただ、なぜこんなところに捨てられていたのか。むしろ無事だったのが不思議なくらいだった。
子供に恵まれなかった私たちにとっては神からの授かりものだと幸運に思った。こんな歳になって子育てができるなんて夢のようだわ。
『この時にはすでに能力は備わっていたか。』
それからはずっと奥さんの子育て奮闘記が続いていた。
×年×月×日
すっかり大きくなって近所の子たちと遊びに出かけることも多くなった。少し心配だけれども彼の意思を尊重したいと思う。最近気づいたんだけれども背中に痣?なのか模様なのかそれが出てきていた。特に問題はなさそうだけれども不思議。
△年△月△日
ふとレオの部屋から声がするので見に行くとうなされていたので、大丈夫?と声をかけると「もう時期にすべてが終わってしまう。これは呪いなんだ。ダメだ!ダメだ!」と。翌朝、体調を聞いてみると特に問題はなかったのでホッとした。正直、怖かった。一体どんな夢を見ていたのかしら。
□年□月□日
今日、夫と一緒にレオを連れて拾った場所を案内した。彼はやはりずっと気にしていたんだと思う。血が通っていないけれども家族だとしても繊細なところまでは補うことはできないから。到着すると一本の楢の木が立っていた。ここで夫が彼を見つけて来てくれた。
不思議なのはその根元にゲンチアナの花が咲いていた。季節でもないのに。レオは黙ってその場所を見つめた後で、もう大丈夫だよと言ってくれて笑ってくれたけど内心は複雑だったのだろうと思う。
〇×年〇月×日
ある男性がレオを訪ねてきた。レオは農場の手伝いで隣の村に出かけていたから不在を伝えるとそそくさと帰って行った。一体何だったのだろうと不審に思い帰ってきたレオに聞いてみたらそんな人知らないって。もしかしたら・・・。そんなんじゃないわよね。
『この男って・・・日付から考えたら俺らが探索をはじめて間もない頃だ。ディオはここに来たのか?なら、王の依り代がここにあることを知っていたのか?』
最後のページ
レオが旅立ってしまった。あの子がいた部屋は空っぽになってしまった。家に残る残像を追っては面影を探してしまう。もういないのにおかしいわよね。威勢よく旅立っていったけど本当は行きたくなかったんだと分かってた。
この村での狭さを知っていた分、憧れは強かったと思う。王国が品格者を求めてもそれは犠牲者を募るだけのものしかないわ。あの子の意思を尊重したけれども、それが最善だったなんて思わない。だから、いつでも戻ってきてほしい。ずっと待っているから。だから、元気でいてね。きっとよ。
アルヴァンは日記を閉じた。