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テト  作者: 安田丘矩
77/145

テト 第肆章

やっぱり思うんです。

話が長くなると過去に何を書いたっけ?とか、あの人の設定ってこれであってた?とか。

これは、歳のせいなのでしょうか?それともただアホになっただけなのか・・・。

残念ながら皆様を唸らせるような学のある言い回しや語彙力がある訳でもありません。

ただ、精一杯書いてる感が伝わればいいなと思っているんですけどいかがでしょう。

かれこれ、半年の連載になりテトも第肆章に突入しました。

ぶっちゃけた話、レオの部で第1章とくくった方が良かったとか思うときあるんですけど

もう、ここまで書いちゃったしと内心アバウトで終われせる。

本章はドラゴン退治に行くレオは果たして退治することができるのか。

そして、ユリアとの結婚はいかに。第肆章開幕。

引き続きお付き合いください。よろしくお願いいたします。


安田丘矩

前回のあらすじ。一つ屋根の下で鼻の下を伸ばしてリリアを見つめていたレオは、ギンガルにて魔物の襲撃に遭うも自分の秘めた力とテトの活躍により危機的状況を打破した。吊り橋効果というものなのか、魔物を退治した直後リリアにまさかのプロポーズをしてしまう。

二人は浮かれていたが、リリア改めユリアの父レノヴァが許すはずもなくドラゴン退治を条件に結婚を許すと無理難題をたたきつけるも、レオは認めてもらうべくドラゴン退治に行くことになる?はず?




レオは絶望していた。先日レノヴァから直々に届いた手紙にはこう書いてあった。


レオ様

この度、娘へとの婚約の件こちらとしてはお主自身の力量を判断したいと考え、ドラゴンの討伐を依頼する。エンボス山にて時折被害をもたらすドラゴンだが現状、山周辺には追い払う策が講じられておる。

なので、今回の討伐においては治療薬の材料としてドラゴンが必要になり、ぜひ主の力量を試す機会だと考えた。

ドラゴンを1体討伐することができたのなら娘との結婚を許そう。ただし、テトさんと協力したりして討伐するのは禁止する。お主自身の力で討伐してみせよ。良い知らせを期待している。


レノヴァより




決して結婚することに対して軽く見ていたわけではないが、なぜドラゴンの討伐することになるのか。レオは頭の中を巡らせ様々な打開策を考えていた。


そんな考え込む様子を見てユリアがレオに言った。

「レオさん、大丈夫ですか?すごく思い悩んでいる様子なので。」


彼女を不安にさせまいとレオは顔を作ってユリアに応えた。

「心配してくれてありがとう、リリア・・・ユリアさん。」


「急に呼び方が変わるのもおかしいですよね。けど、人前ではリリアと呼んでほしいです。」


「わかりました。」


「ドラゴンの討伐の件ですよね。お父様も意地悪だと思います。ドラゴンを討伐できた人はイレイアができてから手で数えるほどで、単独で討伐できたのは建国者カイノス様しかいません。」


「そうなんですか。」


「お父様は昔魔導士たちを引き連れて過去に討伐に成功していることから、自分を越えてみろってことだと思います。」


レオは思い悩んだ。そもそも大魔導士が部下の手を借りて討伐できるのに、こんな田舎上がりの逃げ出し勇者に何ができようか。


レオは思い悩んだ挙句ふと思い出した。

「そういえば、あの魔物をぶん殴ったんだっけ。」


「えぇレオさんかっこよかったです。」

レオは少し顔を赤らめた。


「これはもしかしたら品格者の能力なのかもしれない。」


レオは立ち上がりどこかへ出かけて行った。




出かけた先は警備隊が作った練習場だった。敵と見立てたかかしにレオは思いっきり剣を振ってみた。胴で引っ掛かり切れそこなった。レオはあの時の感覚を思い出せば魔物も倒すことができ力を発揮できるのではと考え試行錯誤しながら発動の練習をし始めた。しかし、切っても殴っても特に発動した様子もなくすぐに行き詰ってしまった。


そこへ

「あっ、レオさん!」

やって来たのはアルマだった。


「へぇーレオさんが練習とは珍しい。どういう風の吹き回しなんですか?」


「婿修行ってやつだな。」


「婿になるって鍛錬が必要なんですか?厳しいですね。」


「厳しいどころじゃない・・・ドラゴンを討伐しろと・・・。」


「えっなんか言いました?」


レオはため息をついた後でもう一度言った。

「だから、ドラゴンを討伐しないといけないんだよ。」


「またまたぁ。婿になるためにドラゴンを討伐しないといけないなんて頭おかしいですね。


「普通じゃないからこんなことになっているんだと。」


「けど、なんでドラゴンを討伐しないといけないんですかね?冒険者依頼が出されるのは分からなくないですが、レオさん単独で・・・それも婿になるためって。」


「それは・・・。」


さすがにユリアの父親が国を代表する大魔導士の娘とは到底言えるはずもなく、

「男の・・・憧れだろ・・・。」

レオは意味不明なことを言ってしまった。


「レオさん・・・かっこいいっす!」

単細胞アルマにはハマった。


「そっ、そうかな。」


「そりゃあ、ドラゴンなんて討伐したら男の中の男っすよ。やっぱり、レオさんはリリアさん引っかけてから男を上げましたね。」

レオは失敗した。これで完全に引けなくなってしまったと。




レオは藁にも縋る思いで警備隊基地にいるシルバを訪ねた。


「お前が訪ねてくるなんて珍しいな。」


「ユリアさんの事情は聞きました。」


「ほう、それでそれを踏まえて私に何の用だ。」


「ど・・ドラゴンの倒し方を教えてください。」


「・・・。お前はバカなのか?」


「正気です。」


どうやら、シルバは婿入りの条件にドラゴンの討伐をすることになったことを知らされていなかった。レオは事情を話し、シルバは頭を抱えた。


「また無謀すぎることを。まぁ我が身が大事なら諦めることだな。」


「諦められません。」


「しかし、お前にドラゴンを討伐できる力なんてあるのか?」


「ありません。」


「悪いことは言わない、諦めるんだな。それにドラゴンに挑んで、もし死んだらユリア様が悲しむ。それでもやるのか。」


「それでも・・・うん・・・。」


「まぁお前の人生だ。それに少し話が逸れるが、ギンガルで男女合同パーティを開催することになった。お前も参加してみては。」


「それって。」


「そのままの意味だ。」


「・・・。」

レオは無言のまま基地を後にした。しばらく考え込みながら歩き続けレオはとある場所に向かった。




テスター産地の牛舎。テスターさんが藁を一頭一頭に与えテトは牛の頭を撫でていた。テスターさんはレオに気づいて手を止めた。


「おや、レオ君かぁ。どうしたんだい?」


「あぁちょっと気分転換に。」


「聞いたよ。リリアちゃんのお父さんが来てたんだって?挨拶できたかい。」


「えぇ・・・まぁ・・。緊張しました。」


「そうだろ。俺も母ちゃんの両親にあいさつしたとき、昔から顔なじみではあったけど、お互い家族という関係を持つことになると不思議と緊張したものだったよ。」


レオは正直その気持ちが分からなかった。生まれてからレイドール家の老夫婦に育てられて貧しいながらも暮らしてこられた。ただ、どこか家族って感じもなく遠慮しがちなことが多かったと思った。


「またごあいさつには行くんだろ。」


「えぇそのつもりです。」


「良縁だといいな。まぁリリアさんを見る限り立派な親御さんなんだろう。」

テスターさんは微笑んでくれたが、レオの内心は複雑だった。レオは牛を撫でているテトに近づき話しかけた。


「テト・・・。あのさぁ、俺に戦いを教えてくれないか?」


テトは無視した。


「そりゃあ怒るよな。実際、戦う機会だってあったというのに全部テトに任せてきたから。」


テトはこっちを見てきた。何の表情も変えずそして、そのままレオの横を通り過ぎて牛舎から出て行ってしまった。この日テトは夜まで家に帰ってこなかった。さすがに声をかけられずまた明日頼んでみようとレオは眠りについた。





朝目が覚めると空が見えた。起き上がると岩礁と低い木々が生い茂る場所に一人だけ。なぜか防具が装備され、剣が横に置いてあった。


「ここは・・・どこだ?」


少し寒く、匂いも違う明らかに知らないところだ。


「だれか!だれかぁ!」

叫んでみたけれどもなにも応答がない。


一体ここはどこなのかと歩いてみた。針葉樹が山肌を多い、その山肌の所々にはげているところがある。


不安が積もり、この山から下りないと考えていた矢先に

「ぎゃうぅぃいぃいいいん!!!」

と何かの鳴き声が響き渡った。


レオは驚き姿勢を低くした。


「一体何なんだ!」


見渡しても特にその声の主は見当たらない。けれど、風が上空から吹いてくるのを感じ見上げるとそこには大きな翼を広げこちらを見下ろすドラゴンの姿があった。レオは状況が理解できず呆然と立ち尽くした。


ドラゴンはレオに向かってくる。レオは本能的に走り出し、低木の陰に滑り込んだ。ドラゴンはレオを掴み損ね再び上空へ行き旋回し始めた。レオは息を整えながらドラゴンを見た。


このまま下手に出れば捕まる。何とかして見つからないように逃げなければと考えていたら、ユリアの顔が浮かんだ。


このドラゴンを倒せたらユリアとの結婚が認められる。けど、ドラゴンを討伐できるくらいの力は持っていない。どうすればいいのかと低い姿勢のまま辺りを見渡しているとドラゴンは大きく息を吸い込み、そして、吐き出した息は風に乗り刃のように鋭くレオを襲った。


考えている暇などない。レオは低木の陰から出て剣を構えた。その様子を見たドラゴンは再びレオに向かってくる。

レオは恐怖を通り越してなぜか落ち着いていた。どうして、こんな状況なのにも関わらず落ち着いていられるのかは分からないがそっと目を閉じた。


空気がうなる音が耳障りに響くのを感じる。

その音と空気の震える感覚が大きくなり、その気配が近づいてくる。

レオは大きく剣を上へと構え、一瞬の間を置いた後でそのまま振り下ろした。

なぜそうしたのかはレオにも分からない。無意識的な行動だったのだろうか。

何かを切った感触はない、何かぶつかった感触もない。


レオは目を開けて見ると剣に血がついている。後ろを振り向くと胴と右翼の間を負傷したドラゴンの姿があった。おかしい。ドラゴンを切ったなら何かしろの衝撃や悲鳴があるはずなのに。俺が本当に切ったのか。


ドラゴンはレオの方を向いて大きく息を吸い、そして吐き出した。その息は炎となりレオに襲い掛かった。レオは臆することなく剣を左横に構え、炎が迫りくる直前にそのまま右方向へ振り払った。炎は横に切り裂かれて飛散した。


レオは自分の保持している力を自覚した。けれども、これが具体的にどういう力なのかは分からなかったが、ドラゴンの方へ一歩一歩と近づく。ドラゴンは続けざまに炎を吐くがレオは剣で切り裂いた。あと5メートルくらいまで近づくとドラゴンはレオに向かって突進してきた。


レオは再び目を閉じて剣を上に構え、そのまま振り下ろした。目を開ける目の前にはドラゴンが頭部を縦に切り裂かれて倒れていた。


レオは剣を落とした。そして自分の両掌を見つめた。震えている。けど、達成感とは別にむしろ恐怖を感じた。一体この力は何なのか。これが品格者の力なのか。


しばらく立ち尽くしていると遠くから声がする。ゆっくり声の方を向くと兵士数名がこちらにやってきていた。近づいてくるにつれて状況を確認すると兵士たちは驚いた。ドラゴンが倒れている。


驚きを隠せず兵士の一人がレオに声をかけた。

「これは一体どういうことですか?」


レオはなんて答えればよいのか分からなかった。ただ素直に応えることにした。

「自分がやりました。」


「そんな馬鹿な。ドラゴンだぞ。」


「信じてもらえないと思いますが確かに俺がやりました。」


「そもそも、なんで一人でこんなところにいるんだ?」


ただただ説明に困った。急に目が覚めると、ここにいて散策していたらドラゴンに遭遇して、ここがエンボス山ってことは分かった。けど、どうやってここまで来たのかは分からない。


連れてこられたのか?エンボス山まで馬を走らせても1週間はかかる。そんなことできるのか・・・。そういえば前にも似たようなことが・・・。レオはふとテトの顔が浮かんだ。


あいつだ。あいつがここまで連れてきたんだ。そしてベルリッツからイレイアまで連れてきたのもあいつだ。

けど、なぜだ。そもそも、あいつは結婚に反対だったのでは?それか、殺す気だったのか?


考えを巡らせながらレオは応えた。

「実は、レノヴァ様の依頼でドラゴンの討伐をしに来ました。あいにく、書状は家に置いて来てしまいました。つきましては、レノヴァ様本人にご確認いただければいいかと。」


兵士たちは今し方信じられず、一先ずレオを麓の駐在基地まで連行した。


数日間軟禁された後に確認が取れたらしくレオは解放され迎えの馬車が用意された。


レオがドラゴンを討伐した知らせを聞いてレノヴァは言葉を失った。ドラゴンの討伐などできるはずもなく、これでユリアを諦めると思っていた。それを手紙を送ってから2週間でやり遂げたと聞いたら、さすがに信じられずテトさんがいるのか?力を借りたのか?とそこにいた兵士に何度も問い合わせたがレオ自身で退治されたと報告され、もはや信じるしかなった。。


ドラゴンの単独討伐は前代未聞なことであり、レノヴァを通して王や上層部に報告されレオの力量が王都にまで響き渡った。そんなこととはつい知らずレオは馬車に揺られてギンガルの帰路についていた。


レオがギンガルに着くと皆慌ただしく集まり町総出でレオの健闘をたたえた。ユリアが駆け寄りレオに声をかけた。


「レオさん、突然いなくなったから心配したわ。けど、まさかドラゴンを倒しに行っていたなんて驚いたわ。」

ユリアは目からは涙が溢れ続けて言った。


「私のためにありがとう。大好きよ。」

ユリアはレオを思いっきり抱きしめた。

レオはゆっくりと腕を後ろに回しそっと抱き返した。その光景に皆歓喜して二人を祝福した。





後日、レオとユリアは王都に呼ばれることになった。今回の討伐の功績は国上げての偉業であり、王直々に謁見したいと通達があった。もちろん、レノヴァにも会いに行くことにもなっている。


あまりにもこの短期間で事が進んでいくことにレオは頭の整理が追い付かずしばらく仕事を休んでいた。ベッドに寝転がり天井の木目を見つめる。品格者として見出された時、俺は平凡な人間じゃないんだと思えたけど、いざ旅立ってみたら特に強くなったわけでもなくこのギンガルでのんびりと過ごす生活を選んだ。


そして、そんな俺がドラゴンを退治したことは嘘じゃない。けど、この力は自分の持っている力じゃない気がした。ドラゴンを切りつけたとき、不思議と恐怖心はなくただ、剣を上にあげて振り下ろせばドラゴンを切れると思えた。けど、なぜだかそれは自分の本当の意思でそうしたのか分からない気持ち悪い感じだった。


レオは起き上がり近くの林に歩いて行った。一本の木の前に立って目を閉じた。この腕を上げて振り下ろせばこの木は切れる。感触はない、倒れる音もしない。レオは目を開けるときが切れて横たわっていた。これが品格者の能力なのだろうか。


ふと背後に気配があり振り向くとテトがこっちを見ていた。そういえば、ここずっとテトに話しかけていなかった。


「テト。お前が俺をこのギンガルに送ったんだよな。そして、今回のエンボス山までも。」


テトは何も表情を変えなかった。


「お前の目的は何なんだ?確かに、旅立ったあの日俺がお前に弱音を言ったのは覚えている。それを聞いて遠くに飛ばしてくれたなら理解できる。けど、今回のエンボス山の件は明らかに無理があったと思う。死にに行けばいいのか?俺は?」


レオはテトに文句を言っててふと気づいた。


「いや、違う。おまえ俺の能力のことを知っていたんだな。」


テトは踵を返し町の方へ歩いて行った。


「ちょっと待てよ!やっぱりそうなんだな!」


テトは立ち止まり振り返りレオの方を見た。その眼差しは何かを訴えかけていた。テトは指を鳴らした瞬間、つむじ風がレオの足元に出現し巻きあがる風にレオは目を覆った。


目を開けるとテトはいなくなっていた。それからしばらくテトの姿は見なくなった。




2週間経って、レオとユリアは王都へ来ていた。今日、王との謁見があり二人は緊張した面持ちだった。


「ユリアさんは王様とあったことあるんですか?」


「ごあいさつ程度にはお会いしてことはあります。いくら、お父様の立場があっても簡単に会える人ではありません。」


「俺でいいんでしょうか?本当に。」


「自信を持ってください。レオさんは偉業を成し遂げたんですよ。」


「実感がなくて・・・。」


いよいよ王の間に案内された時でさえ頭の中真っ白だった。ここに来る前に城の執事の方から礼節等を教わったけれども余計緊張を煽り、頭の中でイメージトレーニングしながらも所々抜けていないか心配になってしまう。扉が開いて案内されるがままに入って行くと正面の御座に王が座っていた。


衛兵たちが剣を正面に翳し上へ、膝をついて剣先を上部に向け胸元に寄せた。それを合図に皆膝をつき一礼をした。レオは皆につられるがままに一礼した。


「面を上げよ。」


皆一斉に頭を上げ、衛兵は剣を鞘にしまった。レオは来賓者を見るとそこにはレノヴァがいた。こちらを見ずに王を注視していた。


「この度はドラゴンを単独で討伐したと報告を受けて驚いた。まさかこの国に魔術師以外で討伐できたものが現れるとは。それがあの魔物の主であったと。」


レオはハッとした後で話し始めた。

「はじま・・はじめまして、王様。レオ・レイドールと申します。私のような平民に王様直々にお声をいただいたこと誠に感謝いたします。」


「肩の力を抜きなさい。それにどこかで覚えてきたような挨拶は不要だ。そのままで話してもらって構わない。」


「あっ、ありがとうございます。」


「今日は、テトは連れていないのだな。」


『あれ?王様はテトに会ったことあるのか?』

レオは疑問に思いながらも応えた。


「えぇ、先日からどこかへ出かけているようで。あいつは目を離すとすぐどこかへ行ってしまうので放任しています。」


「はは、そうか。そこは魔物らしいのかもな。では、本題だ。この度は大儀であった。ドラゴンは貴重な薬の材料となり、現在イレイアにおいてはいつ奇襲があってもおかしくない緊張状態が続いている。この薬の材料はかなり重宝するし、糧となるだろう。」


「もったいないお言葉です。」


「それで、相談なんだが・・・。ドラゴンを討伐できるくらいの力量をもつそなたを田舎町に置いておくことは正直国にとっては見逃せないのだ。」


今、王の言葉を聞いてレオは気づいた。

『そうか、自分が本来望んでいたことを自分で壊してしまっていたんだ。』


これから、魔物の襲撃があるたびに王都から招集があり、戦場に駆り出される。そうするとギンガルでの暮らしが失われてしまう。昔は、勇者事に憧れていたけど、今はどうだろう。正直、国のための兵士なんて望んでいない。けど、自分は知らない間にその人生を選んでいた。ふとレオはテトの顔が浮かんだ。

そうか、あいつこうなること分かっていたんだ。


なのに俺は・・・。

「王様、残念ながらお考えになっていることについては辞退いたします。」


周囲がざわついた。


「理由を申してみよ。」


「今回私がドラゴンを討伐した理由はレノヴァ様からの依頼を達成しユリアさんと結婚するためです。周囲がなぜ私の人生をどうしようかと考えているのか不思議でたまりません。それに、一人の女性を守れない男に国を守る資格などないと思います。私は隣にいるユリアさんを幸せにしたい、守りたい。ただそれだけなのです。」


来賓客の中から偉い人が怒号を上げた。

「貴様、何を言っているのか分かっているのか!我が国に背く気か。」


周囲は一斉にレオに鋭いまなざしを向けた。レオは、自分でも不敬に当たるのは分かっていた。けれども、これ自身の責任だ。ちゃんと自分の言葉で考えを伝えないとこの先また何かを失ってしまう。レオは深く頭を下げた。


王はレオの発言に少し悩んでいた。すると、つむじ風が王の目の前に吹き荒れ皆顔を伏せた。周りの衛兵は王を守ろうと接近した。すると、その風の中からテトが現れた。会場は驚きの声が上がった。


「テ・・テト?」


レオはテトがなぜこの場に現れたのか分からなかった。


「おぉテトか。主のピンチに駆けつけたのか。」

王はなぜか嬉しそうだった。


衛兵はテトに剣を向けている。しかし、テトは王に近づきそしてビンタした。皆、その光景に言葉が出ない。


そして、誰かが言った。

「何をしている。その魔物をころせぇ!」


衛兵が剣を振りかぶろうとした時、テトはその衛兵を睨んだ。衛兵は身体が動かず怯え始めた。


テトはため息を吐いた後で何かを取り出して王に渡した。王はそれを受け取った。

それは手紙だった。


その手紙を読み進めて行くと次第に王は涙目になっているのが分かった。しばらく場が沈黙した後で王は言った。


「皆の者。謁見はここまでだ。レオの処分は不問とする。いいな。」


皆お互いを見あいながら返事をした。テトは一体何を王に吹き込んだのか分からず執事の案内で退席させられた。




レオとユリアは一時レノヴァの屋敷で待機していた。本来だったら、祝賀会が催される予定だったが中止となり、夕食を食べた後で二人でバルコニーでお茶をしていた。


「テトさん。大丈夫でしょうか・・。」

ユリアは心配そうに言った。


「たぶん、大丈夫だよ。あいつなら、どこへでも逃げれるさ。」


「そうね。けど、レオさんが堂々と人前でプロポーズするとは思いませんでしたわ。」


今になってレオは顔が赤くなった。

「いや、その・・・。ただ夢中でつい。」


「レオさん。国のためになんて思わなくていいんですよ。国に背くことだと思われますが、国が一個人の命や人生を奪う権利なんてありません。それに今回についてはお父様が悪いと思いました。勝手に結婚条件を出して、いざ達成されたら吹聴して。レオさんの気持ちも考えずに行った結果が苦しめてしまったと思っています。本当にごめんなさい。」


「いいんですよ。俺はユリアさんと一緒にいたいと思った。ただそれだけですから。」


二人がいいムードで見つめ合っていると視線に気づき部屋の方を見るとそこにはテトがいた。


「うわぁびっくりした。なんだよ、もう。」


「あっ、テトさん大丈夫でしたか?不敬罪になりませんでしたか?」


テトは首を振った。


「テト・・あのさぁ・・・ごめん。それでありがとう。」


テトは特に何も表情を変えずどこかへ行ってしまった。


「怒っているかな。」


「そうね。怒っているかもしれませんね。けど、それでもレオさんは私を選んでくれた。間違いだなんて思わないで。」


レオは言葉に詰まったが言い直してユリアに伝えた。

「思わないさ。これから先もずっと一緒だ。」


レオとユリアは初めてキスをした。かっこ悪い自分含めて大切に思ってくれるユリアにちゃんと答えられる人になろうとレオはこの日誓った。




その後、レオはレノヴァに呼び出されレノヴァの部屋に通された。部屋に入ると書斎机に座って何かの帳票を見ているレノヴァの姿があった。


「やぁレオくん。呼び立ててすまなかった。」


「いえ、お忙しい中お時間を取っていただきありがとうございます。」


少し沈黙した後でレノヴァが話し始めた。

「すまなかった。ユリアにも怒られたが今回の王の御前で私は大魔導士として恥ずべきことをしたと思っている。君は一人の力でドラゴンを討伐したにもかかわらず、その力を保持するあまり君の考えや意見を無視していた。それは王自身も同じことを言われていた。」


「それは・・・テトからの手紙が関係あるのでしょうか?」


「あぁ・・・あの魔物、テトさんは初代王となられたカイノス様を助けた魔物だった。」


レオは信じがたいことに言葉が出てこなかった。


「君が信じられないのも無理がない。けど、王はなんとなく分かっていたと思う。正確にはカイノス様の母君を助けカイノス様が生まれたのだ。あの手紙はカイノス様が若くして旅立つときにテトさんに宛てた手紙だ。全部の内容は分からないが、こう書いあったそうだ。


『君はきっと怒るだろう。せっかく助けてやった命を無駄遣いするんじゃないと。それでも、僕はこれから先の未来に人々が豊かに暮らして恐怖を抱かず安心して暮らせる国を作りたいんだ。君が守ってくれたこの村のように僕は自分もたくさんの人を守っていける人になるよ。』と。


テトさんがそんなに長く生きているなんて信じられなかったが、王はテトさんにビンタされこの手紙を読んだ時、己を恥じたと言っていた。この国の起源を授けてくれた魔物に私は一人の民を戦いに出そうとした挙句、先代の志に背いていたと。


私たちは平和ボケしすぎていたんだ。いざ、脅威に直面していくら防壁を張ろうと臆していることには変わりない。けど、君はたった一人でドラゴンに立ち向かった。たとえ、私の意地悪いけずだとしても。本当に申し訳なかった。」


レオは、何を言えばいいのか困っていた。自分の知っているテトは食いしん坊で、厄介ごとを持ち込んで俺には意地悪だ。けど、本当のテトの姿って一体なんだろうと考えたとき正直分からない。今、レノヴァ様から聞かされた話を聞く限り別の魔物なのではと思いたくなるように美化されていると思った。


けど、建国者であるカイノス様は本当にテトのことを大好きだったんだと素直に思った。


「レノヴァ様、頭を上げてください。正直、自分も我がままだったと反省しております。大事な娘をどこの馬の骨なのか分からない青二才に託せるほど柔軟な親などいないと思います。それに自分は両親がいません。レイドール家の老夫婦に拾われて大事に育ててもらいましたが、どこか遠慮しがちでした。だからこそ、家族が欲しいんです。もちろん、レノヴァ様もお義父さんになってほしいんです。」


レノヴァは少し間をおいてから話した。

「そうだな。こちらこそこれからもよろしく。」


レオは嬉しそうに微笑んだ。




レオとユリアがギンガルに戻って間もなく結婚式が行われた。昔からギンガルには小さな教会がある。今は人口が増えたことにより立派な礼拝堂が建てられたが二人の希望でその教会で式が執り行われる。テスターさんやマアサさん一家など親しい来賓の方はもちろん、レノヴァ様もいらっしゃる。そもそも、普通に参加してもいいのか疑問が残るがわざわざ来てくださり嬉しく思う。


ユリアは家から黄色主体でレースが金色の立派なドレスを持ってきていてそれを着ようと思っていた。式の日が近くなりマアサさんが突然ユリアを呼び出して見せたのはチューリプの花をひっくり返したような可愛らしいでドレスで白を基調として優しい緑色の装飾や刺繍が施されていた。


マアサは結婚の話を聞いてから内緒で自室で制作して隠していたそうだ。ユリアはあまりに嬉しくて涙を流しながらマアサに抱きついたそうだ。


そして、目の前にそのドレスを着て現れたユリアを見てレオはあまりの美しさに言葉が出てこず見取れてしまった。


その様子を見て、周囲からはヤジが飛んだ。

「おい!鼻の下伸びてるぞ!」

「しゃんとしろ!!」

その声にレオは我に返り、一度顔をつねった。皆そんなレオを見て笑った。


ユリアはレノヴァのエスコートでレオに近づきそして二人は横に並んだ。ユリアはレオにニコッと笑いかけて言った。

「レオさん。しっかりしてくださいね。」


「ごめん。つい。」


二人は神父の前に立ち愛を誓った。


その晩は礼拝堂を貸し切って披露宴が行われた。親し人たちのあいさつに始まり、たくさんの料理や酒が並べられレオは残念ながら酒を浴びるだけ飲まされ労われた。泥酔したレオを横に介抱するユリアは困っていた。この状況でレノヴァは文句を言いそうだが、ギンガルの人に寄ってたかられそれどころではなかった。

そして、テトは礼拝堂の屋根の上で見下ろしていたが誰も気づきはしなかった。




結局レオが目覚めたときには家の天井が目の前にあった。全く、披露宴での記憶が残っておらず何をしでかしたのか覚えていない。腰を上げると右手に何かが当たった。

恐る恐る見てみるとそこにはアルマが裸で寝ていた。


「うわぁあああああ!!!!」


その叫び声にアルマが飛び起きてレオの方を見た。

「うわぁびっくりしたなぁ。なんですかいきなり。」

アルマはこの状況に動揺していない。


「なんですかいきなりってお前こそなんでいるんだ?!」


「えっと、あれから飲み直して気づいたら・・・あれ?なんでレオさんの家?それに・・・えっ、ちょ!レオさん・・・まさか!」


「誤解だ!それに俺も酔っていて何も知らない。」


「昨日誓ったはずなのに、レオさんが不貞を・・・。俺お婿に行けない。」

アルマは悲しんだ。


「だから、違うんだって!」


その声を隣の台所でユリアとテトが聞いていることも知らずにアルマともめるレオだった。


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