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テト  作者: 安田丘矩
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もう過ぎたことなのにこんなにも胸いっぱいな気持ち

イチゴの季節が終わります。

結局、終盤までイチゴ高かったですね。

まともに食べたの3月終わりくらいでした。

イチゴ狩りの農家が近年周りに増え始めていますが、

個人的にはパックで買えればいいかなと思ってしまう。

1時間くらいで2500円~3500円が相場でかつ

そんなに食べれるのか?

けれど、その体験が大事だと家族に言われました。

そう言われても行く気になれずかれこれ何十年以上も行ってない。

それに聞くところによると農家によって当たりはずれがあるとか。

結局、パックイチゴで十分と買ってしまう、今日この頃。


今回の件での被害報告は、死者20名。けが人140名。全壊建物、260棟。半壊建物780棟。特に南門と中央付近での被害が集中していた。被害状況の確認が済んだ後で街では瓦礫の撤去や炊き出しが行われた。


今回の襲撃では、首謀者エネヴァーの配下アネッサ捕縛。シーマ討伐。マルス逃走。その他の魔物240体が討伐された。ドミニク主導のもと死骸の駆除と研究資料としての保管が行われた。


人々が亡くなった人たちを悼みながら棺に花を手向ける姿をアルヴァンは静かに見つめていた。


「犠牲が少なく済みましたね。」

ドミニクがアルヴァンの横で言った。


「この国を守ることに命を使うなんて正直滑稽だな。本当に守りたかったのか。」


「アルヴァンさんは厳しいですね。そうですね、命を使う理由ってのは場所だったんじゃないでしょうか。そこに好きな人がいて、そこに好きなものがあって、そこには生活があって。それを失うのが怖いんですよ。それを失ったら未来が見えなくなるから。失ったらまた新しいものを見つけていくのは難しいことだと思います。」


「そんなものか・・・。」

アルヴァンはドミニクに言われたことを受け流そうとしたがふと遠い記憶を呼び起こした。



ミランダがカイノスをあやしながら教会のベンチで座っていた。エリナとシージェーは焚火の前で座り取ってきた野草の葉を揃えていた。

アルヴァンはエリナから野イチゴを手一杯にもらいミランダの横に座り食べていた。ミランダは子守唄を歌いカイノスはまだはっきりと目は見えていないが母親の顔を見てどこか嬉しそうだった。


「キッテさん。カイノスが笑ったわ。」


ミランダはアルヴァンのことをキッテと呼んだ。キッテは神話の書に登場するカイノスと共にこの地に命を宿すたびに旅立つ仲間だった。そこから拝借しただろう。けど、アルヴァンはキッテのことは好きじゃなかった。

キッテは基本怠慢でカイノスの行く道中で突然いなくなり、どこかでさぼっているのだった。結局、毎回カイノスが探しに来て注意する。アルヴァンはそこまで落ちぶれていないと内心もやっとしていた。


『ほんと子ザルだな。』


「キッテさん。あなたには本当に感謝しているの。だって、あなたがこの子に逢わせてくれたのだから。けど、今の私はあなたに何もしてあげられないわ。」


『別に何もいらない。ただのお節介だったからな。あとは自分で何とかして生きればいい。』


「私の住んでいた街はもう跡形もなく瓦礫となってしまった。そして、夫も死んでしまった。私にはこの子しかいない。だから、いつかこの子が幸せに暮らしていける場所へ行こうと思うの。」


『おめでたい話だな。野党がウロウロして、乞食どもが追剥ごうとする世の中だぞ。どこに幸せがあるんだよ。』

アルヴァンは呆れた顔をした。


「あら、明らかに呆れたような顔をしているわね。そうよね。難しいことよね。けど、私一人だとこの子に居場所を作ってあげることはできないかもしれない。お腹いっぱい食べさせることも、安心して眠らせてあげられることも。人って誰かに依存しないと生きていけないと思うの。だからこそ、私は人を頼りながらもこの子が大人になっても大丈夫だと思える場所を残したいの。」


『そんなものなのか?』

アルヴァンは首を傾げた。


するとシージェーがミランダの前にやってきてカイノスの顔をじっと見つめて言った。

「ほんと、カイノスは幸せそうね。ミランダの腕の中がほんと好きなのね。」


ミランダは笑顔でシージェーに「そうね。」と返した。




アルヴァンはあの時のことを思い出しながら言った。

「人間はそんなやわじゃないさ。ただ、未来を見ることをやめない限りしぶとく生き続けているただそれだけだ。」


「ほんと、アルヴァンさんは魔物らしくないですね。」

ドミニクは笑った。


「うるさい。」




アルヴァンたちは再び王の間に呼び出されてレノヴァ含めてお偉いさま方たちと一緒に謁見していた。レガリス王は跪いて頭を下げた。


皆突然のことに驚きレノヴァが慌てて言った。

「王よ。頭を上げてください。」


「いや、今回のこと誠に皆大儀であった。そして、君たちの助力がなければ到底敵うはずもなかったと思う。何か褒美を取らせようと思うが。」


アルヴァンとドミニクは目を合わせた。ドミニクは一歩前に出て王に話しかけた。

「いえ、何もいりません。むしろ、この国の方々が望んだ結果だったと思います。それに敵を排除することが私たちの目的だったのでそれで充分です。もし、報酬を渡そうとお考えのようでしたらそれを街の修繕にお役立てください。」


「分かった。そのように致そう。今回の件誠に感謝する。」


その後、アルヴァンとドミニクは王の間に残された。皆がいなくなり王は口を開いた。

「やはり君は先代と面識があるのでは。」


「あぁやばい。尋問が始まるぞ。ドミニク何とかしてくれ。」


アルヴァンはドミニクに助け船を求めた。

「えっと・・・王様。さすがに400年前の魔物が存命しているなんていませんよ。」


「そうかもな。なら、魔物違いでもいいから聞いていてほしい。それは、先代の母ミランダの手紙だ。」

王は手に手紙を取り出して読み上げ始めた。




キッテさんへ


あなたがいなくなって年月が経って私はおばあさんになりました。

もう長くはないかもしれません。せめて、もう一度あなたに会いたかった。

けど、きまぐれなあなただから現れてくれないでしょう。だから手紙にして残しておくわ。

いつか、この手紙があなたに届くように。


あなたと過ごした村はだいぶ村らしくなってみんな元気にやっています。

まさかあのボロボロ協会から皆が集まって村を作ることができるなんて思ってもみなかった。

そして、カイノスは同盟軍を作り、国を統一しようと各地を行脚しています。

誇らしいことだけど心配でたまりません。

けど、ずっとあなたに憧れていたからこそ止めることはできなかったわ。


あなたのことだからそんなカイノスに呆れていたのよね。

私が寂しくなるからって察してくれていたのかしら。

ごめんなさいね。あなたにたくさんもらってばかりなのに何一つ返せてないわ。

だからせめて、あなたに渡したいものがあるの。

いつかあなたに受け取ってもらえる日を待っているわ。

ありがとう。


ミランダより




そして、王はアルヴァンに近づきあるものを渡した。それは、ナイフだった。


「ミランダはずっと持っていたんだな。悪い兵士からくすねたナイフを。」


「そのナイフは一体何ですか。」


「妻帯を切ったんだ。」


「えっ・・・。」

ドミニクは少し困惑した。


王は気になって聞いてきた。

「その手紙とナイフは君に授けよう。魔物違いだったとしても君にもらってもらえば先代の母も喜ぶだろう。」


アルヴァンはくすんだナイフの刃を見た。ずっと大事に持っていたがさすがに時間が経ちすぎたのか光沢はなくなってしまっている。


「ドミニク。王に伝えてくれ。ありがたくもらっておくって。」


ドミニクは頷き王に話した。

「大切にさせていただきますと。おっしゃっております。」


「そうか。ありがとう。」

王は嬉しそうだった。


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