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テト  作者: 安田丘矩
54/144

テト 第参章

お待たせいたしました。第参章でございます。

出来立てなので冷めないうちにお召し上がりください。

書いてて思ったんですが、ある程度話の流れは出来ているので

それに沿って書いてはいるんですが、思ったより進まないな

おかしいなぁ脱線しているわけではないんですが付け足さないと

話の辻褄が合わなくなってしまうので書き足していけば行くほど進んでいかないジレンマ。

この作品は最終的にどれくらいの長編になるのか・・・

皆さま長々と突き合わせてしまい申し訳ございませんが

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

では、本編をご覧ください。

リリアが来てから生活が一変した。掃除や洗濯はもちろん料理までこなす器用さを持ち合わせており、レオは肩身が狭い思いをしている。一番に目が覚めて台所に向かうと彼女が先に起きていて「おはようございます。」とあいさつをくれる。そんな彼女の笑みを見るたびに頬がにやけてしまう。


故郷を離れてかなり時間が経ったがここで穏やかに暮らしていけていることに幸福を感じている。仕事があって帰る場所があって、そして、彼女がいる。もともと勇者として旅だったはずがまさかこんな風に変わっていくなんて思いもしなかった。これもあいつのおかげだ。


出会ってからとんでもなく災難が続き、可愛らしい見た目からは想像できないほどに強く、そして、よく食べる。魔物であるけれども、なぜだか恐怖を感じさせない不思議な生き物だった。


机に向かいながらため息をつき書類のチェックが進まない。立ち上がり台所へ向かい鍋を取り出しお湯を沸かす。沸々と湧いてくる泡を見つめボッーっとしているとふくらはぎを蹴られガクッとよろけた。


「いてぇ。」と視線を右下に向けるとテトがいた。何かもの言いたげな様子でこちらを見ている。


「何するんだよ、いきなり。」


最近、テトの仕草で機嫌や言いたいことがなんとなく分かってきていた。例えば今、こうやって視線を逸らして首を振り、そそくさと帰るときは俺に何か呆れていることだと思う。


そう、今この村での管理の仕事を任され勇者としての活動は皆無である。そんなことしなくても十分に暮らしていけるしそれに何もなかった自分でもこうやって村の人々から頼りにされて、これほどの生き甲斐はない。


それに・・・。彼女のことが気になってしょうがない。ある日テトと一緒に現れた彼女はいったい何者なのか。どこかのいいとこのお嬢様なのは素養から思っていたが、未だに何のためにこの村に来たのかはわからないまま。きっとあいつは彼女のことを知っているのだろう。なぜだろう、俺だけ仲間外れにされているようでヤキモキする。


「テト、リリアさんが来てだいぶ経つけど、何者なのか知っているんだろ。」


テトは無視して台所から出て行ってしまった。こんな調子で問い詰めても相手にしてくれない。なので、尾行することにした。テトとリリアは二人で出かける時がある。一体どこへ出かけているのかを探り、彼女の正体を知りたいと思った。




とある晩。テスターさん家でご飯を済ませた後でテトとリリアがどこかへ出かけて行った。それを見計らって、距離を取りながら尾行し始めた。


町の中心までやってきて二人はバルも通り過ぎ、古い家があるエリアに向かっている。そして一軒の家に入って行った。そこはバルで働くおじいさんの家だった。


そういえばお孫さんが戻ってきて一緒に暮らすようになったとか。名前はシルバさん。王都で腕の立つ衛兵だったそうでどうしてこのギンガルにやって来たのかは分からない。それに今、おじいさんはお店で働いている時間のはず。だとしたら、3人で何をやっているのか。


明かりが漏れている窓からレオは部屋の中を覗いてみた。すると3人で何かを話していた。聞き耳を立てていると、


「昨日、王都から連絡があり、レノヴァ様率いる衛兵団が魔物を討伐したそうです。」


「そうなんですか。物騒になってきていますね。」


「ちなみにその一体がどうやら能力を保持していたみたいでその魔物を討伐した班長が能力を得たと。」


「大丈夫なんですか?」


「能力は光の矢を放つ能力。一度使用した以後は使用していません。今のところおかしい挙動や性格が変わった報告はありません。」


「そうですか。」


「街の損壊と死者、けが人が出ており王都では警戒体制のままです。」


「始まってしまうのですね。」


王都で魔物の襲撃があったのか?それになぜ二人がそのことについて話しているんだ?考えていると背後から衝撃が走り地面に倒れた。


「いたた・・・一体なんだ。」


振り向くとそこにはテトがいた。窓の明かりに照らされて細い目が不気味に見えた。その声を聞いて窓が開くとリリアとシルバが顔を出した。


「まぁレオさん?どうして。」


レオは慌てながら言った。

「いやぁ、その、えー、二人がこんな夜遅くに出て行ったから心配で。」


「そうだったんですか。」


シルバが鋭い目でレオを見た。

「それでここで盗み聞きを?」


「ちぃ違います。ただ・・・えっと・・・すみません。」

レオはあっさり白状した。


「許してあげてください。レオさんは心配してくださっただけです。それにこちらがちゃんと話していないのがいけないので。」


レオはリリアのやさしさにときめいた。


「レオさん、ごめんなさいね。私、シルバさんに王都について聞いていたの。シルバさんは王都と連絡を取っているので内情を教えてもらっていたの。ご存じでしょ、この国に危機が迫っていると。」


「えぇ・・・まぁ・・・。」


「王都には家族や親せきを残してこちらに来ています。少しでも安否確認したくお願いしていたんです。」


「そうだったんですか。それで、王都が魔物の襲撃にあったと。」


「えぇ。王都では死者やけが人、建物に被害は出ましたが私の家族や知り合いは皆無事でした。」


シルバが間に入って補足した。

「現在、王都は警戒体制のままでよそ者の出入りは禁止されている。リリアさ・・・リリアさんが王都へ行きたいと言っても入れないと伝えていたところだ。」


「そうですか。心配ですね。」


「レオさん、ありがとう。もし、本当に危険な時は疎開してくるようにと連絡はしておくわ。今はそれくらいしかできないから。」


野暮なことをしたと反省したレオをよそにテトは変わらず細い目で見つめていた。


「悪かったよ。けど、お前だって勝手にどっか行ってしまうから疑わしい行動が過ぎるぞ。」


テトは不満そうにレオに近づきそして、脛を蹴った。レオは屈みこみテトは家の中へ戻っていった。




翌週になると、イレイアの王都で魔物の襲撃があったと知らせが入り、それ以降疎開してきて人がギンガルに集まりだした。しかし、受け入れる家もなく町は混乱してきていた。


マアサのお店にも求職者がやってくるようになり対応するも正直、以前のように嗜好品の仕事は急激に減り、軍事の仕事があるだけで人を雇う余力はなかった。テスターさんの農場も数人は雇えたものの、やはり断ることが多かったそうだ。


人口が増えることはいいことかもしれないが治安維持や防衛に関しては手つかずで、もともとギンガルに住む人たちにとってはこの状況は心配していた。そんな中で事件は起きた。


疎開してきた人の対応として仮設テントが一世帯ごとに渡されそこで一時的に暮らしもらうことにしていた。しかし、そんなある日人さらいが発生したのだった。一番外れに住んでいた家族と女性と子供の何人かが連れ去らわれたのだった。


シルバ含む警備隊が調査し、さらにギンガルを拠点とする冒険者も捜査に協力してくれていた。しかし、人さらいなど起きたこともなく、魔物の襲撃などはテトが片づけていた分、陰湿になってきていた。


「何だか物騒になってきましたね。」


レオとリリアは夜ご飯をテスターさんの家で呼ばれ自宅に帰ってきた後でお茶を飲みながら話をいていた。


「そうですね。移住してくるやら、疎開してくる人の対応が追いついておらずこんな事件が起きてしまうなんて。リリアさんも気をつけてください。」


「えぇ、気をつけないといけませんね。ところでテトさん知りません?朝から見ていないんですが。」


「あいつは突然いなくなっちゃうから探すだけ無駄ですよ。心配しなくても帰ってきますよ。」


「そうだといいんですが。」


「もう夜遅いですし寝ましょう。おやすみなさい。」


「えぇおやすみなさい。」


すると外から大きな物音が響き渡った。二人は驚きすぐさま外へ出て行った。家の外へ出ると南の空が赤く光り煙が上がっている。一体何が起きているんだ。二人で立ち尽くしているとこちらに誰かが走ってきた。それはシルバさんだった。


「リリアさん、レオさん!ご無事ですか?」


「えぇ、私は大丈夫です。何事ですか?」


「南の回廊沿いで魔物が出現し、テトさんが応戦しております。直ちに非難を。」


レオは言った。

「待ってください。あそこにテトがいるんですか?」


「はい。幸い、ギンガルより少し離れていますが魔法がここまで飛んでくる可能性があります。速やかに非難をお願いします。」


昼間から見当たらないと思ったらまさか交戦していたなんて少し心配しながらもテトなら大丈夫だと思い、

「リリアさん非難しましょう。」


レオはリリアに言ったが

「私はここに残ります。」


シルバはさすがに首を振りリリアに言い返した。

「ダメです。あなたにもしものことがあったら私はいろんな方に顔向けできなくなります。どうか非難を。」


レオは悟った。シルバとリリアは元々お互いを知っているんだと。そして、やっぱり偉い人のご令嬢なのだと。


「リリアさん。テトなら大丈夫です。ちゃんと帰ってきますから。あなたにもしものことがある方が問題です。」


「けど、このまま逃げることなどできません。それに・・。」


何かを言いかけるとシルバの後ろにシルクハットを被り、タキシードを着た何者かがシルバの後ろに立っていた。


リリアは「きゃあ!」と声を上げレオとシルバも驚きその何者かに気づいた。シルバは咄嗟に剣を抜き構えた。


「何者だ!」


「あぁこれは失敬。私、マルスと言います。どうぞお見知りおきを。」


「レオさん、リリアさんを連れて逃げてください。」


「けど、シルバさんが。」


「私は元々こういう仕事なので大丈夫です。」


「ダメよ、シルバ。その人実体がない。」


実体がない?レオはリリアの言った言葉に一瞬何を言っているのか分からなかったが、逃げることを優先しリリアの手を引いて家の裏手へ回りそのまま逃げて行った。途中、リリアは何度もシルバさんの名前を呼んだがレオは夢中で走り続けた。




森の奥地までやってきて身を潜めているとリリアが話しかけてきた。

「レオさんごめんなさい。取り乱してしまって。」


「いいんですよ。緊急事態なので。それに・・・リリアさん。さっき現れた・・・男?なのか分かりませんが、知っているんですか。」


「えぇ、あれは魔物です。幽霊の魔物よ。だから、普通では勝てないし・・・。いくら、シルバが強くてもどうすることも。どうか、どうか無事で。」


これ以上詮索するのはやめておこうと思い、レオは一先ずこの森を抜けて古い農村があった跡地まで行こうと考えた。


「リリアさん。夜遅いですし、ここにいたら魔物に襲われる可能性があります。少し歩きますが僕について来てください。」


「はい、大丈夫です。ありがとう。」


二人は立ち上がり古い農村の跡地へ向かおうとしたとき、

「いてぇ!」


背後から痛みが走った。手で背中を触ってみて手のひらを見てみるも別に何もなかった。


「おや?おかしいですね?ちゃんと狙ったのに外しましたか。せっかちな方々だ。先に逃げるなんて無礼ではないですか。」

マルスは突然現れた。


レオはリリアの前に立ち身構えた。しかし、武器など持っていない。ただ、彼女をかばうことしかできない。


「シルバは・・・シルバはどうしたのですか?」


「シルバ?あぁさっきの男なのか娘のなのか分からない人間ですか。なかなかの剣技でしたよ。ただ、熱くなりすぎて見落としがちでした。なので、串刺しにしておきました。ご安心ください。いずれ安眠できることでしょう。」


リリアは左手で口を押え「そっ・・・そんな。」とひどくショックを受けた。


「お前たちの目的はなんだ。」


「目的も何も、我々は人間からこの世界を奪う。それだけなのですが。強いて言うなら、ここにいる忌々しい魔物を討伐に来たというべきか。」


忌々しい魔物。テトのことかと思い当たった。今のマルスとのやり取りで、レオはテトが魔物から疎まれて、排除する対象なのだとわかった。けど、なぜテトなのかと考えてみると・・・確かに人間と交流すぎているのは言うまでもなく、魔物らしくないところを見れば同業から嫌な目で見られるのも当然なのかと正直このマルスがこのように言ってくるのも分からなくもないと思った。


「あの、うちのテトってそんなに悪いんですか?」


「うちのテト?悪い?」

マルスは笑った。そして、笑い終えてから言った。

「本当に面白い。あの方、テトと呼ばれているのですか。それに悪いも何も彼は私たちの同朋をからかい、さらに先日からの騒動で人間と結託して殺めたり。魔物に対する裏切り行為の数々。それを粛正するのは私の務めなので。」


「なら人間を、無力な人間を殺める必要なんてないじゃないか。」


「あなた立場を分かっておりませんね。別に人間なんて私たちにとって脅威ではございません。むしろ、餌か奴隷としか見ておりません。いくら死のうが問題ありません。ただ、それだけです。」


逃げたい。けど、このまま逃げたところで殺される。なら、ここで俺が戦うしかない。


「さて、このままおしゃべりをしていても時間の無駄なのであなたたちはここで消えてもらいます。では、ご機嫌よ?」


レオはマルスに向かって走り出した。マルスはこんな丸腰の人間が立ち向かってくるのかと思い

「面白いですね。かかってきてください。私はここでじっとしていますよ。」


マルスは両手を広げて余裕さをアピールした。レオは思いっきり拳をマルスにぶつけた。感触がある?そして、マルスは前方に吹っ飛んだ。


レオは目を丸くしながらリリアの方を見た。リリアはレオが殴り飛ばした光景を見て表情が固まっていた。


「ほほう、私に一撃入れるとは大した人間ですね。」

マルスは立ち上がり、首を回した。

「侮っていましたが、あなた相当やれるそうですね。」


レオは我に返り応えた。

「いや、その・・・まぐれというか・・・。たまたまというか。」


「謙遜するのですね。自身の力を隠し誇示しているは傲慢です。ここで粛清いたします。」


マルスはレオに襲い掛かった瞬間、マルスの頭上からテトがやってきて思いっきりマルスに直撃。マルスは地面にたたきつけられ、テトは両手を広げて着地した。


「テト…テト様ぁああ!」


レオはテトに駆け寄り泣きべそかいた。さすがにテトは引いていた。


「怖かった・・・怖かったよぉ。」


テトはレオの顔を見て溜息を吐いた。


「テ・・・テトさんご無事で。大丈夫ですか?」


リリアもテトに駆け寄ってきた。テトは指を立てて合図した。


「良かった。それと向こうで戦っていた敵は?」


テトは首を刎ねたジェスチャーをした。


「私を踏み台にした挙句に雑談とは余裕ですね。」

テトはマルスの方を向いた。マルスは立ち上がり土を払っていた。


「もうあなたは逃げられませんよ。」

マルスは消えた。そして、テトの背後にまわり手のひらをテトに向けて何かの術は放った。


テトは動かなくなり地面に倒れた。一瞬の出来事で何が起きたのか分からなかった。


「テト・・・テト!」

レオはテトを腕に抱え頬を叩いた。

「テト・・大丈夫なのか!しっかりしてよ。」


「無駄ですよ。私の得意なフィールドに持ち込んだのですからもう勝ちめぇぐふぇ!」

マルスは最後まで言えず何かの衝撃で吹っ飛んだ。


レオもリリアも何が起きたのか困惑しているとテトの懐に隠れていたカエルがいきなり鳥かごを吐き出し、そこに入っている火が鳥かごから飛び出した。渦を巻きながらマルスに向かって行きマルスはそれに気づきバリアを張って躱したが左からまた思いっきり衝撃が走り右手に飛んで行った。飛んで行ったマルスをその火が絡みついた。


「どういうつもりかは知りませんがこんなことしても私には効かなぁぁあああいぃいい!」

どう見たってマルスが苦しんでいる。その光景にレオもリリアも言葉が出なかった。

「はぁ・・はぁ。こんなことしてもエネヴァー様が必ずあなたを殺しに来ます。」


誰かに話しているようだが応答がない。レオは困惑した。すると巻き付いていた火がマルスの口の中に入って行く。悶えるマルスをよそにその火はみるみるうちにすべて入って行った。マルスは苦しそうに地面に倒れ、そして苦し紛れに言った。

「おまえらを恨む。」


マルスは弾け、業火に焼かれていった。するとレオに抱えられていたテトが起き上がり大きく伸びをした。そして、マルスを取り巻いていた火は鳥かごに戻りテトは回収し懐にしまった。その様子にレオはどこにしまったのか考えていた。


「あっ・・テトさん良かった無事で。」

リリアはテトに抱き着き喜んでいた。その様子を見てレオはほっとした。


「ほんとに一時はどうなるかと思った・・・。」

レオは地面に寝そべった。


「レオさんもすごかったです。あのマルスって魔物に立ち向かって一撃を入れるなんて。何か特別な力があるんですか。」


「いや・・別にそんな。」

レオは思った。品格者に見いだされたが何の能力なのか分からずにいたがもしかし

て、何かの条件で力が発揮できるものなのか。確証はないがすごい力を秘めているのかもしれない。ただ、意地を張っていたのかいざ強敵に直面しレオは怖気ついた。恐ろしい敵と交戦できるほどの器量もない、勇気もない。この力があることを封印して平穏に暮らしていきたい。そう思いレオは起き上がった。そしてリリアの方を向いて手を取った。


「リリアさん。僕と結婚してください。」


リリアは突然のことに驚き言葉が出なかった。


「あの魔物と対峙して分かったんです。リリアさんを守らないといけない使命感みたいなものが。けど、俺には戦えるほどの力などありません。だからこそいつ死ぬか分からないこの刹那をあなたと共に生きていきたいと思いました。」


真剣なまなざしにリリアは何を血迷ったのか

「はい。」

と答えてしまった。


リリアに抱きかかえられていたテトは腕を振り払いレオを突き飛ばした。

「痛いじゃないか!テト!」


テトは怒っていた。今のプロポーズに異議を唱えているようだった。


「俺は本気だ。お前が認めなくても俺はリリアさんと一緒になる。」

レオとテトはにらみ合った。


「二人ともやめて。私もいきなりのことで簡単に返事してしまったと思っているわ。けどね、レオさんが私を守ってくれたことは嘘じゃないし、私も一緒になれたらいいなと思ったのよ。」


テトはリリアの顔を見た。レオはリリアの言葉に感動していた。こうして、ギンガルを襲った脅威は去っていった。


南の回路沿いに出た魔物はテトが応戦していたが途中から謎の黒い魔物が応戦し勝利したみたいだった。テトの関係者が来ていたのか、詳細は分からない。そして、レオたちを襲ったマルスはテトとテトが持っている謎の火によって片づけられた。この一件でテトの保持している力が露になった。


そして、シルバはマルスに負けた後テトが通りかかり治療魔法を施された結果、なんとか一命を取り留めたようだ。すぐに診療所に運ばれ処置されたが致命傷は治療魔法のおかげか完治しており傷や打撲の治療で済んだそうだ。


一夜明けて、ギンガルの町は特に被害はなかったが、住人の点呼や被害についての調査が実施された。そして今回のことでギンガルの町も安全ではないと再認識させられた形となった。せっかく避難してきた人々も今回の件もあり、さらに田舎の方へ移住していく人が目立った。


町長は至急、町の保安のために外壁と兵士の常駐を打診しに領主のところへ向かったが現在王都では警戒体制がとられており人員を回すことは難しく動けそうにない。外壁も王都の防衛に回されているためこちらへの支援ができない状態。結局のところ町のことは町で解決しろということだった。




そして、レオとリリアはと言えば・・・


朝起床したとき


「おはよう。リリアさん。」

レオは頭をかきながら照れくさそうに言った。


「おはようございます。レオさん。いい朝ですね。」

リリアは優しい笑みを浮かべた。


「今日、バルで一緒に食事でもどうかな。プロポーズしたけど、お互いのことについて知らないことも多いだろうし。」


「いいですよ。今日仕事が終わったら一緒に行きましょう。」


その様子をテトは冷めた目で見ていた。



そして、その日の昼間


レオは工場にいるマアサに商談内容を伝えにやってきた。そして、紡績機で糸を紡いでいるリリアを見つけて手を振った。リリアもレオに気づいて手を振った。そして、テトは工場の扉の角から覗いていた。



そして、その日の仕事終わり


レオとリリアは二人そろってバルに向かっていた。


「今日は二人っきりなので新鮮ですね。」


「そうですね。でも、テトさんを連れて来なくてよかったんですか?行きたそうでしたけど。」


「いいんですよ。たまには二人っきりになったって。それに勝手に出かけて町中の人から

ご飯を呼ばれている奴に気を遣う必要ないですよ。」


「レオさんの意地悪。」


二人は笑いながら歩きそしてバルに着いた。店に入るとクレアが気づいて挨拶した。

「いらっしゃいませ。あら、レオさんとリリアちゃんじゃない。それ・・・と?」


「あぁ今日はテトはいません。二人っきりです。」


「えー何それ。デート?」


「もうクレアさん。茶化さないでください。そうなんですけど。」

リリアは恥ずかしそうに言った・


「やっぱり、男女二人で、それに一軒家で何か起きないはずないわね。」


「クレアさん!」

レオは顔を赤くして視線を逸らした。あまり目立たない2階の席に案内されて二人はお酒を注文した。


「ごめんよ。こんな田舎じゃ気の利いたレストランなんてないから。」


「レオさん。それはパーチさんとクレアさんに失礼ですよ。私はこのお店好きです。」


「そうかい。それだったらよかった。」

二人が話しているとクレアがお酒を持ってきた。


「はい、お待ち同様。じゃあごゆっくり。」

にやにやしながらクレアは離れていった。


「どうしよう。明日、クレアさんから問い詰められそう。」


「そうだね。気が利いて、素敵な方なんだけどお節介なところあるからね。」


二人は見合いながら笑った。お酒を手に取って乾杯をしていると誰かが2階に上がってきた。


「あれ?レオさんじゃないですか。」

そこへやって来たのは冒険者のアルマとその仲間たちだった。


「それにリリアさんも一緒にいる。もしかしてデートですか?」

アルマの仲間のカトレアがリリアに歩み寄り聞いてきた。


「いえ、まぁ・・そうです。」


「えーそうなんですか。リリアさんおめでとう。」

カトレアははしゃぎ出した。


「ほぉレオもやるときはやるんだな。」

アルマの仲間のガトレーがレオのポンポンと肩をたたき言った。


「えぇーそうなのか。あれもリリアさん狙ってたのによ。」

アルマは悔しそうに言った。


その様子を見てレオは苦笑いするしかなかった。だんだん店の1階が騒がしくなっていき、ふとアルマが2階から見下ろすと知り合いの冒険者を見つけて

「おーい!こっちこっちだ!レオさんがリリアさんひっかけてるぞ!」


下にいたアルマの知り合いの冒険者たちが一斉に

「何ぃぃぃぃ!」

と叫び何組かが2階に駆け上がっていった。


レオの周りをむさい野郎たちが取り囲み尋問が開始され、次々に酒が運ばれていった。二人っきりになれるはずもなく、レオは冒険者からの酒の追加続きで泥酔した。


そして、レオが目覚めたときには朝だった。完全に二日酔いになったレオは頭を抱えていた。誰かが家まで運んできてくれたのだろう。けど、バルでの記憶は最初の時しか覚えていない。そして、なぜか裸で寝て左に誰か寝ている。


「えっ・・・俺、何をした・・・。」

独り言をつぶやき恐る恐る左を向くとそこにはアルマが裸で寝ていた。


「ぎゃあぁぁぁあああ!!!」


レオの断末魔を聞きつけてリリアが入ってきた。

「どうしたんですか!いやぁぁあああ!」


リリアはベッドから飛び起きてベッドの横で全裸で立っているレオを見て叫んでしまった。


「うわぁあああ!」

レオは大事なところを隠し、リリアは部屋から逃げて行った。


「うわぁ・・・朝っぱらからうるさいですよ。」

アルマが腰を上げて瞼をこすりレオを見た。

「おう。おはよう。」


「おはようじゃねぇ!何があったんだ!なんで俺は全裸なんだ?!俺は何も犯していないよな!」


「全裸?あぁ昨日の晩ね。」




昨日の晩


「やっと二人っきりになれたね。」


「うん。そうだね、レオさん。」


「リリア!もう離さない!俺のものだ、俺のものだけでいてくれ!」


「はい。」


「ダメだな。キザすぎる。」

ガトレーのダメ出しに周りの冒険者たちも頷いた。


リリアとカトレア、そしてクレアは3人で店を出てどこかへ行ってしまい、残された男たちは1階に移動し談議に盛り上がっていた。


その話題はプロポーズだった。二人の馴れ初めを酔ったレオから聞いた冒険者たちはさすがに痛いと思い理想のプロポーズについて実践している最中だった。レオは頭が落ちそうになりながらもその様子を見ながら表情を変え楽しんでいた。


「だったらガトレー、お前もやってみろよ。」

さっきのレオ役をやっていたアルマが不満そうにガトレーに言った。


「俺は遠慮しておく。」


「あぁずるいぞ。」


「こういう時は、クレアさんを射止めたパーチに聞くのがいいのでは。」


冒険者たちはにやにやしながらパーチの方を向いた。突然の投げやりにパーチは店の奥へ逃げようとしたが何人かが急いで捕獲し席に連れてこられた。


「おいおまえら、人をなんだと思っているんだ。」


「まぁまぁ、こんなむさ苦しい男集団でも色恋はしてみたいものなんだ。アドバイスということで話してもらえないか。」

ガトレーはパーチをなだめた。パーチも観念したのか話し始めた。


「元々嫁さん・・・。」


「嫁さんかぁ・・・。」

アルマを筆頭にほかの冒険者もうっとりした。


パーチは咳払いをして話を戻した。

「嫁さんがこっちに移住しに来たとき、ギンガルはまだここまで発展していなかったが新しくやってくる輩が増えてきていた。はじめて会ったとき、気立てがよくかわいい子が来たとは思っていた。」


「そうか、ひとめぼれだったんですね。」

ガトレーが茶々を入れた。


「おい、茶化すな。」


「続けて続けて。」

アルマが犬のような目でパーチを見た。


「最初は母さんの工房での縫製要員で仕事を求めてきたんだけど、人口もこれから増えて忙しくなると見込んでバルにも人が欲しいと思っていたんだ。だから、すかさずバルで働かないかと誘ったんだ。」


「そうか・・その手があったかぁ。体のいいナンパ。」

アルマが頷き言った。


「ナンパじゃねぇ!仕事だ仕事。」

パーチは不機嫌そうに言い返した。


周りから「それでそれで」と聞いて来るのでパーチは話を続けた。

「快く引き受けてくれた後は、仕込みとかバルでの接客方法とか教えて・・・一緒にいる時間が長いせいかお互い意識していたんだ。いつか一緒になるって。それはそんな遠くないって。」


「うわー。ずるいっすよ、パーチさん。」

アルマは興奮してパーチを突っついた。


「おまえいちいちうるさすぎだ。まぁだから数か月後には結婚しようって言えたんだが。」


「こういう時間の積み重ねからのプロポーズですか。策士ですね。」

ガトレーは酒を飲みほした。冒険者たちはパーチの話に感銘を受けて騒ぎ出した。


「もう、おまえら帰れ!店じまいだ。」


冒険者たちはブーイングしたがパーチが怒りそうだったのでお開きとなった。



外に出された冒険者たちは外で解散となったが何人かはレオを送っていこうと肩を貸して歩いていた。さっきの話を思い出しながら皆で騒いでいると急にレオが肩を振り払い前に出た。


「みんな、俺はリリアが好きだ。ちゃんとプロポーズもしたぞ!!」


冒険者たちは感嘆した。「いいぞ!」、「男の中の男!」「イカしてるぞ!」「結婚してくれ!」と騒ぎ立てた。


調子に乗ったレオは走り出して小川の橋の上で止まり

「俺は、幸せな男だ。これからもずっと幸せ!」

レオは叫びながら川へダイブした。


冒険者たちは驚き駆け寄った。川に落ちたレオはうつ伏せで倒れていた。幸い浅い川なのでおぼれていないが急いで川から引きずりだした。救い出されたレオはびしょ濡れのまま眠っていた。



「ってなことがあって俺もレオさん引き上げるために川に入ったんで服がびしょ濡れなので外に干して寝ました。」


レオは安堵して床に座った。そして、もうお酒は飲まないようにしようと誓った。そして、その様子を扉の袖からテトが見ていたことをレオは知らない。




しばらくして、レオの家に誰かが訪ねてきた。扉を開けるとそこには立派な髭と明らかに貴族の服装をした年配の男性が立っていた。


「あの・・・どちら様で。」


「き・・・貴様!娘をたぶらかしやがって!!!ゆるさぁぁああん!」

男はレオの胸ぐらを掴みそのまま押し倒した。その音を聞きつけてリリアが出てきた。


「お父様!何をしている!」


「ユリア!お前は黙っていなさい。私はこの男を成敗する。」


「やめて、そんなことするお父様なんて嫌いよ!」

その一言にお父様は固まった。そして胸ぐらを離し立ち上がり棒立ちになった。


レオは震えながら後ずさりした。突然のことに驚き少し身の危険を感じてしまった。そして、冷静になって気づいた。


「この方って・・・リリアさんの・・・。」


「そうです。私のお父様です。父がひどいことを。」


レオは棒立ちになるお父様と目を合わせながら会釈した。客間に案内して、お父様とジェイス、そして、なぜかテトも一緒に入って椅子に座った。レオは緊張しながらリリアと一緒に座った。


「それでご用件は・・・。」


お父様はまだ動けなさそうだったのでジェイスが代わりに話し始めた。

「シルバから手紙を受け取りまして、レオさんがリリアお嬢様にプロポーズしたと。それでそれを知った旦那様が居ても立っても居られず参上した次第です。」


レオは頭の後ろを掻いてそして言った。

「そうでしたか。こちらこそ、ご連絡が遅れてしまい申し訳ございません。本来でしたらこちらから伺うのが道理だと。」


「いえ、王都の方では警戒体制に入っておりますので参上するのは無理かと。こちらもお嬢様がお世話になっていますので、こちらこそ一度お話しする必要があったと思いまして。」


「あの・・・。それでジェイスさんとリリアさんの関係は?リリアさんから聞いてた話は嘘なんですよね。」


ジェイスは頭を抱えたときお父様が話し始めた。

「はじめまして、レオさん。私はイレイア国の魔導士、レノヴァと申します。ユリアの父です。」


「はじめまして、レオと申します。レノヴァってあの国の大魔導士様でしたか。ってえっ?」


リリアが話し始めた。

「隠しておけませんね。そうです、レオさん。私は大魔導士レノヴァの娘で本当の名前はユリアと言います。ジェイスは私の家の執事です。私がこのギンガルに来たのは王都での魔物の侵入があった折、疎開する目的でこのギンガルに来ました。もちろんその時テトさんの助けもあってここに来たんですが。」


やっぱり、テトは知っていて隠していたんだとレオはテトの顔を見たが目を逸らされた。


「襲ってきた魔物は知性が高く、私の身元を知られるわけにもいかないため偽名と身分を装いこの町に来ました。」


「そうだったんですね。大変だったんですね。」

レオは疑問に思っていたことが分かりすっきりしていた。


レノヴァはレオに言った。

「それでレオさん。それを踏まえて言います。プロポーズを下げてもらえませんか。」


「それは、どう言う・・・。」


「私は結婚には反対だ。ユリアの身分を隠している以上婚約などできまい。それこそ危険を強いられる可能性だってある。」


「それは身分を隠してでもダメなのでしょうか。」


「我々は貴族です。二人が愛し合っていても超えないといけないハードルはある。それを理解していただきたい。」


レオは少し考えた。納得は言っていないがどう返答していいのか困っていた。


その様子を伺いユリアが言った。

「お父様ずるいわ。私はレオさんと一緒にいたいのよ。それに貴族だからなんて関係ない。そのハードルを押し付けないで。」


「とんだわがまま娘になったものだな。私もお前の幸せを優先したい。けれども、立場というものがあるんだ。それは令嬢として生きてきたお前も見てきたのだろ。ユリア、お前もわがままを言うのなら私もわがままを言おう。私は大魔導士レノヴァだ。この国の防衛を担う者であり威厳たる存在であらんこと。どうか理解してほしい。」


ユリアは何も言い返せなかった。レオはその言葉を聞いて言った。

「つまり、お嬢様と結婚するためには旦那となるものの器量と成果が欲しいということですね。」


「最低限の話だがな。」


「分かりました。」


「レオさん。」

ユリアは心配そうに見つめた。


「お父様に認められるように行動いたします。」


「お前にお父様呼ばれる筋合いない!」

こうして、レオはお父様に認められるために動くのであった。それはユリアのため、結婚するために。


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