今日から観察日記をつけよう。
お酒を飲み始めたとき甘い酎ハイやカクテルを飲んでいた。
ある日飲み会で羽目を外し飲み過ぎて悪い酔い、そして嘔吐と初めて悲惨な状況になった。
その時口に残った甘さが気持ち悪くてそれ以来、ビール、焼酎をたしなむようになる。
そして、現在。もう、飲みの席はビール一択。スナックの時は緑ハイか〇月で、っと大人になった?のか単におっさんになったのか・・・。歳は取りたくないものですね。
なんとかアルヴァンと合流できたシドはアルヴァンに言った。
「アルヴァン様。私は一生あなた様の配下ですので。どこまでも、どこまでもついていきます。永遠に。」
《重い。確かにやり過ぎたとは思っているがここまでこじれるとは・・・。》
アルヴァンはさすがに気味悪がった。
ただ、アルヴァンは単に逃げたくてこの南国まで来たのではなかった。ちゃんと近くの村で聞き込みをしていた。最初は小さい悪魔の存在に村人たちは気味悪がっていたが、ハミという肉食の魔物によって漁に出れず困っているところを助けたことで村人と仲良くなった。ハミがいなくなったことで大きな魚が取れ、そのお祝いに村人からごちそうになり、生活に困ることなくのんびりとバカンスを楽しんでいた。
「だぁ!かぁ!らあぁ!品格者の討伐はぁ!!」
「こわい、こわい。マジギレやめて。」
「いいですか、アルヴァン様。このままではあの忌々しいメージ率いるエネ・・。」
アルヴァンは耳を塞いだ。話が終わったころ合いを見計らって耳を塞いでいた手を下した。
「・・・。もう一度復唱しましょうか。」
「やめてください。それに別にバカンスもしてたけど、ちゃんと品格者の情報も集めたよ。」
「本当ですか。さすがアルヴァン様です。」
アルヴァンはシドに聞き込んだ内容を話した。ここ南国はアムパルト公国の南の果てにある。品格者のほとんどが隣国のベルリッツ王国を拠点に活動している。品格者は選定者によって魔具を用いて適性を審査し品格者の資質を見出す。審査を受けずとも明らかに特殊な能力を持っている者は品格者だと区別できるが基本は潜在的なの能力なので審査してみないと分からないケースが多いそうだ。
「なるほど。ということはベルリッツ王国へ向かえば品格者に遭遇する機会があるということですね。なら、その王国ごとつぶしますか?」
「その方が手っ取り早いけど、その王国の主都には昔品格者が討伐したことによって得た古代の魔王の代物があって、それによって主都は魔物の侵略から守られているそうだ。」
「そうなんですね。じゃあ中には入れないのですか。」
「わからない。行ってみないと。」
「アルヴァン様もたまにはおやりになりますね。」
《これだよ。こいつの調子こくところ。ぶん殴りたくなる。》
アルヴァンはシドに不満を抱きながらも話を続けた。
「一先ずは、ここから北上してリンドンの街へ行くことにする。ここにも滞在している品格者がいるみたいだからね。」
「かしこまりました。仰せのままに。」
村人見送られながら行商人の荷車に一緒に乗せてもらい北へ向かった。行商人がたわいもない話を聞きながら村や町を経由して一週間後リンドンにたどり着いた。商人とは商会の前で別れ街を歩き始めた。石畳の道に朱色の壁と繊細な装飾が施された美しい建物が連なっている。さすがに小悪魔一匹が街を歩いては浮いてしまうくらいに淘汰されている感じだった。影に紛れているシドがアルヴァンに言った。
「さて、リンドンにつきましたが思ったより文明が発達していますね。」
「どうやらここにはダダンという品格者が滞在しているそうだ。」
「そう言えば行商がそんなこと言ってましたね。」
「そいつはこの国でも相当な有力者だそうだ。なんでも、その能力は『圧縮』だと言っていた。一定の空間を圧縮することができるみたいで、どこまでの範囲まで効力を出せるのかは分からないが結構の魔物が殺られてるそうだ。」
「アルヴァン様。人間とのコミュ力高くないですか?一週間一緒にいたとはいえそこまで介入できるのですか?」
行商人はおしゃべりだった。さすがに馬一匹とでは心なしか寂しい旅路なのだろう。魔物だろうと話し相手がいることが心細さを紛らわしていたに違いない。とは言え、特に警戒や怯えることもなく行商人は好意的に接してくれた。アルヴァンにもどうしてなのか分からなかった。
「ただ、一方的に話を聞いていただけだ。特に何もしていない。話を戻すけど、ダダンは王国兵団駐在所にいるそうだ。」
「お約束みたいですね。」
「所詮人間の行動なんてそんなもんだろ。逆にそういう奴が古の城や神殿でいる方がキザでイタいだろ。まずはそのタダンを観察することにする。」
「すぐには行かれないのですね。」
「品格者がどんなものか全く未知数だから。下手に手を打つのはよくないかな。」
「定石ですね。」
「あっ、うん。」
アルヴァンはダダンのいる王国兵団駐在所へ向かった。
王国兵団駐在所に到着すると入り口に兵士が立っていたのでアルヴァンは塀を乗り越えて侵入し、近くの木の上から周囲を見渡した。白いの外壁に覆われた大きな白い建物がドンと構えており、アーチ形の窓や彫刻があしらわれた柱など、どこかの貴族様のお屋敷じゃないかと思うくらい豪華な作りになっていた。その建物だけではなく、広い敷地には訓練場や武器庫など軍備や防衛を兼ね備えられている様子だった。
「着きましたね。」
「そうだね。」
「それでどこから探します。」
「そんなの決まっている。」
「食堂はなしですよ。もちろん。」
「うっ・・・うん。」
シドはあきれた様子で提案した。
「品格者なんですよね。なら、明らかに軍の中枢を任されている可能性があります。なのでここは所長室を探して、どこかで張り込みしていれば遭遇できると思います。」
《たまにまともなことを聞かされると不安になるのはなぜなのか。》
「じゃあ所長室を探しに・・・。」
ちょうど入り口の方に目をやると明らかに兵士とは違う男が入ってきた。そして「おかえりなさい。ダダンさん。」っと一人の兵士が声をかけていた。
「あいつだ。探す手間が省けた。」
タダンは頑丈そうな金属の鎧をまとい、栗毛色の髪にシュッとした顔立ちの男だった。
「面白味もない、まんまでしたね。」
「だね。」
アルヴァンはダダンに気づかれないよう尾行し、観察を始めた。