かわいい子には旅をさせろ
庭のグレープフルーツが枯れてしまって3年の月日が流れ、
一緒に植わっていたクリスマスローズも去年枯れてしまった。
去年は暑かったのでさらに追い打ちになってしまったのでしょう
このグレープフルーツも縁日で店を開いていた方からいただいたものから
種をうちの姉が植えて生えてきた代物
30年近くは生きてくれたのかな。時の流れとともに大きくなり実をつけて
たぶんカミキリムシかな?害虫被害で亡くなってしまったんです。
いい木陰になってくれたこともあり宿年草を植えていたんですけど残ったのはアキギリだけ。
その場所がぽっかりと開いてしまったのでライラックの木を植えようと耕していたら
無数のクリスマスローズの芽が出ていたんです。
ほんと、世代を変えながら生き続ける植物ってすごいと思います。
さっそく、別で植えたんですけどこれ大きくなったらどこに植えよう・・・またひとつ仕事が増える。
その夜のことアルヴァンは、ユリアの部屋にいた。
『俺たちについて行くのはいいけど、疎開先でどうやって暮らしていくんだ?』
「アルヴァンさんたちはギンガルに戻るのですよね。ならそこでお家を探します。」
『あまいな。ギンガルの人口はいま急激に増えていて大工を集結しても間に合っていない。ましてや新規に家を建てるとなるといつになることやら。しばらく野宿だな。』
「いやよ、そんなの。」
「相変わらずお嬢様なんだよ、おまえは。それにレノヴァのご令嬢ということは伏せておくんだよな。お前の身元がバレたら皆が騒ぎ立てるし、もし敵に存在がバレたら人質の可能性だって考えられるんだからな。」
ユリアはまじまじとアルヴァンを見て言った。
「アルヴァンさんって賢いのね。」
後ろで聞いていたシドが間に入って言った。
「いいえ。まれに賢いだけです。」
『シド、おまえ今回の件で一役買っているみたいだな。どういうつもりだ。』
「別に。ただ、アルヴァン様だったらきっとユリア様を連れて行くのだと思っただけです。」
『分かったような口を。』
「シドさんは悪く言わないで。シドさんだって私がついて行くことを拒んでいたし、それにこれは私のわがままなの。あなたたちに賭けてみたいってね。」
『とんだ穴馬になりそうだな。』
「むしろコケるような気も。」
『おい。』
ユリアはクスクスと笑った。
「お家の件ですが、あの者の家に居候するのは。」
『えぇー、さすがにご令嬢様をあんなヘタレの家に連れて行くのはちょっと。』
「あの者?ヘタレ?あぁレオさんでしたっけ?ジェイスから聞いています。あなたたち一緒に暮らしているのでしょ。」
『訳アリでな。たまたま一緒にいるだけで。あいつが身元保証人みたいな形でいるから仕方なく一緒に住んでいるだけだ。』
本当は品格者でさらに不死身であること。アルヴァンはこいつをどうにかしたいのだが、硬くて到底ぶっ殺すことができないので渋々見張りをしているだけとは言わなかった。
「じゃあレオさんって一体何なの?」
『勇者になれない落ちこぼれ?』
「勇者なの?」
『戦闘力0のな。』
シドが気をきかせて補足を入れた。
「正確には勇者候補生としてベルリッツの王都に行こうとしていた矢先に本当は勇者になりたくないとべそをかいているところを私たちが見つけて、それから一緒にいます。」
「そうだったのね。じゃあ何かしろの能力が使えるということなの?」
アルヴァンとシドは互いに見合った。さすがに勇者になれる条件は知っていたのかと思い、アルヴァンはこう答えた。
『それがなん能力なのか分からないんだ。まぁ本人が勇者になるつもりがないならそのままそっとしている。』
「そうなの?てっきり切り札かと思ったんだけど。」
アルヴァンはさすがに『察しがいいな。』と思い、下手なことを言わないように気をつけることにした。
「まぁ能力者は現状魔物に狙われる危険性があるので手の届くところで保護しておくのもありだと思っただけです。」
シドのフォローにユリアが納得しているのかは分からないがユリアはそれ以上詮索することはなかった。
『そういえば護衛ってどんな奴だ。』
「衛兵のシルバよ。腕が立つって言っていたし、ギンガルの出身みたいだったから里帰りということで一緒に行くことになったのよ。」
『誰の息子だ?』
「あら?息子じゃないわよ。娘よ。ご両親は王都に住んでいるのだけど、祖父は今でもギンガルで暮らしているとかで。最近、元気になったみたいで町のバルで働いているって手紙があったみたい。」
『バルって、あのじいさんか。』
「あら、知り合いだったのね。だから、彼女はおじいさんと一緒に住むことになるんじゃないかしら。」
『世間って狭いんだな。』
「それでギンガルに行くのはいいんだけど、その魔物たちの襲撃に備えて何か対抗策と考えはあるの?」
『ある訳ないだろ。とりあえず、ユリアが言っていたベルリッツのリンドンの湖に調査員を派遣して捜査しに行ってもらう。そんくらいだ。』
「案外危機感はないのね。」
「ユリア様。アルヴァン様はお天気屋なのでたとえ、危険が迫ろうと今までどうにかなってきてしまったせいか、行き当たりばったりなのです。」
シドは呆れながら言った。
「マイペースというか、怠け者っていうのか。これで世界を救えるの?」
ユリアは困った顔をしながら言った。
『おまえら言いたいことばっか言って。それに俺らの目的は世界を救うことじゃない!』
「結果的に同じなんだからいいでしょ。」
『良くない。俺たちは魔王に会うことが目的であって後のことについてはおまけくらいしか思っていない。』
「あら、いじわるね。」
『こいつ・・・。』
「ユリア様。これ以上アルヴァン様をいじめないでください。あんまり茶化すと攻撃してくるので。」
『おまえ、覚えておけよ。』
「アルヴァンさん。改めてこれからもよろしくお願いします。」
『けぇ。こういうときだけかしこまるんじゃねぇ。』
それからの話はギンガルに移り住んだ場合の王都での情報のやり取りについてだった。ジェイスが屋敷で取引している行商を定期的にこちらに寄こし、手紙を持たせるので何かあった場合はその者に伝えればいいと。
そして、住む家についてはジェイスがそちらに行って住むところを手配する予定であったが一先ずレオの家に住まわせるということでユリアは話をした。
男と一つ屋根の下で住まわせるのはさすがにレノヴァに反対されたもののアルヴァンも一緒に住んでいるということとギンガルの現状を話した上で何とか許可をもらったのだった。
「テトさん。その男大丈夫なんですよね?」
レノヴァがすごい形相でアルヴァンに問いただしてきて、さすがにアルヴァンもそれを見て引いてしまった。
『あっ・・安心しろ。奴はヘタレだ。』
アルヴァンは人間って時に怖いと思ったのだった。