珍味だと言われて食べてみると生臭い
4月1日エイプリルフール。この無駄な風習を広めたのはいったい誰なのでしょうか。
なんか、噓のなのか本当なのか分からないギリギリのラインを攻めてくる人たまにいますよね。
一回本当に信じて、後で嘘だよって言われたとき・・・「〇す!」と思ったことがあった。
ちょっと調べてみたら日本には大正時代にやってきたと、そんなに古いんですね。
てっきり、どっかの組合や団体が営利目的に渡来させたのかと思ってたんだけど違うのね。
やっぱり、思うんです。嘘はよくないと。
ただでさえ、いい大人が平気で自分の保身のために嘘をついて部下が
痛い目に合うことも見てきたしされたこともあるから。
そういう人間は物理的に排除できればいいのだが・・・。アハハ!
「これより手術を行う。まずは上部の切開から。」
セイルは特に白衣を纏うことなく、とりあえずロリコの頭を切れそうな鋭い刃物をもって構えていた。
「セイルさん。これはどっちが頭なんですか。なんか変な触角が出てて気持ち悪いんですが。」
ドミニクは困りながらセイルに言った。
アルヴァンが移動魔法で飛んでいった先は研究室だった。ベルリッツのリンドンへ潜入する方法がないか聞きたかったこともあり、このイレイアに潜伏していたこいつを持ってきたのだった。
『こいつどっからしゃべってるのか分からないんだけど。標本とか解剖図とかないのか。』
「さすがにロリコさんみたいな特殊な魔物の記録なんてあるわけ・・・ある!」
セイルが思い出して何かを探しに行った。ロリコは眠らせているため大人しくなっているが今のうちに始末したいところ。
「アルヴァンさん、こいつバラしたら食べるんですか?」
ドミニクはトングみたいなものでロリコの身体を突っついていた。
リカルドが診察台によじ登りその様子を見て言った。
「さすがにゲテモノはだめですよ。逆に寄生されちゃいますよ。」
『おまえら俺をなんだと思っているんだ。さすがにこいつは食べたくない。むしろ、廃却処分したいところ。』
再びセイルが戻ってきて何かを持っていた。
「アルヴァンさん、これっすよ。健康診断の記録。」
通常の診断はもちろん、レントゲンや透過解析など行っているため身体の中の構造が分かる。早速、広げて見てみるとシンプルにでっかいナマコとしか思えない。それより臓器のつくりもほぼナマコに近かった。違うのは魔流管が身体全体をめぐっているため表面のいぼ足が触手のように伸びていたのだった。そして裏側に端についている丸いところがどうやら口のようだった。
「アルヴァンさん、ナマコみたいっすね。これ、わたいけるんじゃないですか?」
セイルは何も考えずに言った。
『おまえまで。そんな珍味みたいに言うな。』
「じゃあこのままバラシて標本にさせてもらいますわ。」
リカルドがナマコの健康診断書を見てふと思った。
「アルヴァンさんこのナマコさん潜入させませんか。」
『ヤドカリ、こいつはもう潜入していたんだぞ。』
「そうじゃなくて、リンドンへ潜入させるということですよ。」
『おいおい、そいつを利用するっていうのか。さすがにこいつは協力しないだろ。』
「このナマコさんを改造して思うがままに操るんですよ。」
『そんなことできるのか。』
「僕のこの枝を体に埋め込むと差し芽が身体に生えてきます。そうするとこのナマコさん僕が操ることができるんです。」
『ヤドカリ・・・リカルドさんやるじゃないか。』
「こういうときだけ名前でよんでくれるんですね。」
ドミニクが二人の話に割って入った。
「じゃあ、リカルドの枝を移植してこいつを操作するってことでいいですか。」
『ちなみに操作範囲はあるのか?』
「枝が移植されているため。どこからでも操作できます。ただ、僕が意識を集中させて視界をジャックしながら操ることになりますが。」
『リカルドさん、お願いします。』
「アルヴァンさん、もうヤドカリでいいです。」
ドミニクはそのやり取りを聞いてさらに付け加えた。
「なら、脳の部分は切除しても問題ないか。こいつが自我を取り戻しても厄介だと思う。」
「問題ないです。基本、枝が媒介して操作するようなものなので、脳がなくても問題ありません。」
「よし分かった。じゃあ、セイルさんお願いします。
「任せてくれ。けど、これで切れるかな?」
移植と切除の手術はかなりの時間を要した。ロリコの表皮はとても固いため魔力を込めたメスを少しずつ表皮を削りながら切り裂いていくため時間がかかった。開いてからは切除と移植は容易に済んだ。脳を切除したところに枝を移植してそのまま閉じて適当に接着剤でくっつけて終わった。
「終わりましたね。」
リカルドは近くで改造されたロリコの様子を見た。
『最後は雑でいいんだな。』
「まぁ死んでるようなものなので。」
セイルは接着剤を工具箱へ片づけていた。
「アルヴァンさん、こいつをそのままリンドンに送るんですか?」
『それは・・・どうしますヤドカリ先生。』
「・・・そうですね。いちばんは鳥に飲み込ませて運んでもらうのがいいでしょう。このナマコさんが寄生した生物は操れるのであればこちらで操るのと変わりませんから。」
『先生、ありがとうございます。』
「ところでアルヴァンさん、リンドンのどこへ潜入するつもりなんですか?」
『リンドンの近くの湖だ。』
ドミニクは気を利かせて書庫からベルリッツ周辺の地図を持ってきた。地図を広げてみんなで位置を確認した。
「リンドンはここなのでそこから近いのは・・・北西に向かってこれでしょうか。」
ドミニクは指を指して言った。
『すまない。名前までは分からないんだ。たぶんそこだとは思うんだけど。』
「そのスターフィッシュって何者なんでしょうか?そこにいるんですか?」
リカルドは疑問を抱きながらアルヴァンに言った。
『正直俺も聞いた話だからな。神話が独り歩きしているようなものだ』
「それじゃあ信憑性も何もないのでは。」
『今回の件に関しては正確なことが何も伝えられないまま始まっていて、誰一人確信をもって動けていないと思う。ここは藁をもつかむということで行ってみる必要がある。』
「そうですか。わかりました。」
セイルがある生き物を連れてやってきた。
「アルヴァン様、こいつに寄生させるのはどうでしょう。」
セイルが連れてきたのは一匹の鵜だった。
『鵜?』
「そうです。鵜です。」
『大丈夫か?間抜けそうだぞ。』
「安心してください。改造するんで。」
『改造・・・ですか。』
「はい、任せてください。」
セイルが満面の笑みでアルヴァンに応えた後でリカルドが言った。
「あと僕の枝をアルヴァンさんにお渡ししておきます。これがあれば僕と思念で連絡が取れますので。」
『先生。ありがとうございます。』
こうして、リンドンの潜入の件は一端研究室チームに任せてアルヴァンは再びカイノスへと戻っていった。