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テト  作者: 安田丘矩
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忘れちゃいけないことがあるんだ

最近、京都へ行ってきました。

○○寺や○○神宮などいろんな名所があるんですが。

ちなみにここって何のお寺なの?何の神様が祀ってあるの?

名前は知っている。何が有名なのかも常識の範囲内でなんとなく分かっている。

けど、わたしの歴史の知識は高校1年で止まっている。

世界史を先行したのでそこから具体的な勉強は皆無です。

日本に住んでいるのに何も知らないんですねって言われたらだいぶ急所に当たる。

今でこそ〇ーぐる検索をすれば事足りるが旅行する前に予備知識は付けておくべきだったと反省する。

それからしばらくして郊外にある古い教会に身を潜め生活することになった。母子と老婆とその孫と魔物の不思議なグループながらもいがみ合うことなく食べ物を分け与えながらこの混沌とする世の中で小さな明かりを灯しながら暮らしていた。


母親の名はミランダと言った。瓦礫に埋もれていた時もう助からないと思っていた矢先にアルヴァンが瓦礫をどかして現れたとき、殺される覚悟で懇願したそうだ。少しは凶悪な魔物に見えたのだと正直うれしかった。ミランダはアルヴァンに言った。


「ねぇ魔物さん。この子に名前をつけたいの。何て名前がいいかしら。」


アルヴァンは別に適当につければいいんじゃないかと思ったが、このアルヴァンという名前をつけてくれた人のことを思い出した。


~名前ってあなたがあなたでいるための目印なの。だから、あなたがあなたでなくなるときその役目を終えていくの。だから、今あなたがここにいる以上この目印を大切にしないといけないの。それは名づけてくれた人の願いだったり、未来だったりするの。忘れないでね。~


けど、その人の顔も名前も思い出せずヤキモキした。

アルヴァンは昔拾った本を取り出しミランダに渡した。この本は神話の書だった。


滅びた国の砂に埋まっていたので再び捨てようとしたが、なぜか捨ててはいけない気がしてそのまま持ち歩いていた。本の中身は単純にカイノスという英雄が滅びた土地の記憶をたどり、もう一度この地に命を宿すために古の神々を探す話だった。


皮肉なものだ。滅びた国でこの本を拾うなんて。けど、ミランダはその本をじっくり読んだ後で、


「ありがとう。わたし、この子をカイノスって名付けるわ。」


このサルはカイノスと名付けられ、小さい女の子は頬を撫でながら何度も呼びかけた。


ほとんどの家事は老婆のエリナが行い、ミランダは赤子を見ながら老婆を手助けしていた。小さな女の子はシージェーと言った。シージェーは赤子の面倒を見たり、老婆と一緒に野草を摘む手伝いをしながら周りに明るくふるまっている子供だった。


時が経つにつれて行き場をなくした者たちがここに集まるようになり、ここを拠点に周りに小屋が建てられ一つの村のようなものが出来上がった。もともとこの教会があったところには家の土台があちらこちらにあったので昔は一つの集落があったのだろう。人々は開墾し、耕し、作物を植え、野放しにされていた家畜を引っ張ってきて酪農をはじめ、次第に豊かになっていった。


そこで元気に育ったのはカイノスだった。カイノスはやたらアルヴァンの後ろをついて来るのでアルヴァンは疎ましく思ったが、さすがに生まれてからここまでの成長を見ているとなぜだか無下にできなかった。


ただ、カイノスには魔法の才能があった。アルヴァンが火をつけようと薪を集めて火魔法を放った時、カイノスは興味を持ってアルヴァンにどうやってやったのかせがんできた。言葉では伝えられないのでアルヴァンはカイノスの手を握り、手のひらに魔力が流れている感覚を覚えさせた。すると、その日のうちに火を放つことができたのだ。それを見てアルヴァンは驚いた。いとも簡単に魔法を習得出来てしまうカイノスのセンスに驚かされたのだった。


カイノスが成長するとともに魔術もかなり上達していった。それを聞きつけたよからぬ輩がカイノスを唆したり、脅したりしてきたがその度にアルヴァンが始末した。さすがに始末した輩の親玉が黙っていないと思い蹴散らしに行こうと決心した矢先に立ち上がったのがカイノスだった。


もう成人してこの村のために魔術を用いながら役に立っていた彼が自分の生い立ちから争いの中で育ったこと、今まで見てきたこと、それらを踏まえこれからの未来のために戦いたいと望んだのだ。


カイノスは仲間を募りこの村から旅立つときミランダは今まで見たことないくらいに泣いた。立派に旅立っていく後姿を見たときアルヴァンは思った。


『どうして、人間は誰がために生きれるのだろうか。あんなひよっこがいつの間に大きいことを言えるようになったのだろう。それがたとえ死路であっても歩んで行けるのはなんでなんだろうか。』


不思議に思いながらアルヴァンもその翌日この村から旅立った。そして、何十年の時が流れてこの地はイレイア国として成立した。しかし、それをアルヴァンが知るのは100年も後のことだった。


「アルヴァン様。この国を成立させた人間を助けていたんですか?」


『たまたま、身籠っていた女の腹にいただけだ。』


「それに魔法を教えたのもアルヴァン様なんですか?」


『あいつうるさいんだ。どうやってやったの?教えてよ教えてよってせがむから仕方なく。あと魔導書を数冊渡した。魔界の。』


「それまずいんじゃ。一種の情報漏洩なんでは。」


『当時なんてガバガバなんだから、情報漏洩になんてならない。それに基本的に魔物の言語なんてわからないから、書いてある魔法式を読み解いて自力で覚えたんだろう。』


「ズボラな魔物が天才を生み出してしまったと・・・。」


『おい。馬鹿にしているのか。』


「テトさん。」

先に屋敷に入っていたジェイスが戻ってきた。


「お待たせしました。中にご案内いたします。レノヴァ様は本日夜に帰ってまいりますのでご一緒にお食事をと。」


『こういう貴族のテーブルマナー自信ないな。』


「アルヴァン様。大丈夫です。マナーなんて考えたことないでしょ。」

シドは影の中から茶化した。


『ほんと口が減らないなお前。』

ジェイスの案内でアルヴァンは屋敷の中へ入っていった。


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