ここで昔の話をしようか
今年の桜はまだ先そうにないですね。
来週ごろから開花し始めて、世間的に入学式などの門出の日に満開だとか。
そういえばどこかの市が桜祭りを取りやめることになったニュースを見ました。
桜が老木となり倒木や枝が落ちてくる可能性があるため安全を考慮してのこと。
桜も寿命がある。よく樹齢何百年もの桜が見頃ですとか聞くと
桜って長命なんだと勘違いしてしまうんですけどね。
花は桜、散り行くも儚い。いつかは亡くなるもの。
この瞬間に目いっぱい焼き付けておかないとね。
ここはイレイア国の主都カイノス。その昔、カイノス卿がこの地を収めこの地のすべての民を集結させ国を作ったのが始まり。その絶対的指導者になぞらえてこの主都の名はつけられた。
別名、白いベールを纏う町といわれ、白光する石材が町の道や壁に使われているため、白を基調とした街づくりになっていることから陽光にさらされると優しく反射した光がまるでベールを纏ったように見えることから呼称つけられた。
そして、今アルヴァンがいるのがレノヴァの屋敷。この国で最強と言われる魔導士の屋敷であり、飛ばした魔法を放物線上にかつ直角にコントロールすることができる魔術を生み出した強者だった。これにより魔術戦闘において幅の広い戦闘を可能とし、軍事力の発展に大きく貢献した偉大な存在だった。
「っと調べてまいりました。」
シドは得意げにアルヴァンに言った。
「ご苦労。んでここがその偉大な御方の屋敷だと。」
町の一等地に構え外壁は高く白く、手入れされたお庭が明らかに上流階級のお宅だと誰が見てもわかる。正面玄関の中心には石像が立っていてこれがこの地を収めたカイノスであった。
「相当崇められているんですね。」
「まだ、こいつが赤ん坊の頃に子守をしたのが懐かしいな。」
「そうなんですね・・・ってえっ?」
「何を驚いているんだ?」
「この人に会ったことあるんですか?」
「あぁ。まぁ先に出会ったのは母親のミランダだけど。この土地は昔互いの領地の奪い合いが激しく。巻き込まれた人々が安寧を求めて彷徨っていた。治外法権などないから、他国の人間を奴隷にしようが、女を慰み者にしようがお構いなしだった。」
この国が成立する400年も前のアルヴァンの話
焼け焦げた街を歩きながら食べ物を探していた。そこら辺に焼け焦げた人間の死骸や負傷して壊死してもう助からない者などがあちらこちらに見受けられた。勝者の国の連中がこの街で使えそうな人間を集めてどこかへ連れて行こうとしている。おそらく自国の奴隷として使うのだろう。
人間とは立場や優位を持つだけで倫理も捨てることができるのだから驚きだ。最初からその狂気性を前面に出していればいいのに、どうして理性的に動けているのかとアルヴァンは不思議に思っていた。
小屋の残骸に焦げた麻袋の塊があったので表面だけ削ってみるとそこには根菜がちょうどいいぐらいに火が通っていた。齧って食べてみるとまだまだ食べられると思い自分の持っていた麻袋に食べられそうな根菜を詰め込んだ。
すると近くのがれきから声がした。
『うぅ・・うぅ・・・。』とその声の下へ近づくと崩れた屋根が覆いかぶさっているところから聞こえてくる。
アルヴァンはその瓦礫を軽く持ち上げ退けてみるとそこにはベッドがあり、すぐ横の床に女が一人倒れていた。近づいてみるとまだ息があり外傷はないがひどく痛みをこらえ下部が濡れていた。
一体何が起きているのかアルヴァンは動揺したが。その女はアルヴァンの片足をつかみ
「お願い・・・この子だけでも助けて・・・。」
必死の訴えにアルヴァンは一先ず女をベッドに横にさせてベッドごと持ち上げてどこか静かな場所へ運んで行った。
近くの川原について地面にベッドごと女を置いた。女の様子は息が上がって弱っている。川で水を汲み少しずつ女に飲ませて様子を伺った。
まじまじと女の全体を見てみるとお腹が膨らんでいることに気づいた。アルヴァンはようやく女が妊娠していると気づき、川原を見渡して何かないかと探していたら老婆と小さい女の子が身を寄せながらかがみこんでいるのを見つけてアルヴァンは近づいた。
その二人は最初驚いた声を上げた。アルヴァンはその声にひるむことなく老婆の袖を引っ張りベッドにいる女に指をさした。老婆はその奇怪な状況に驚きながらもベッドに近づき横たわる女を見て状況を理解した。
「これは大変だ。何か布を。そして湯を沸かさないと。」
老婆は子供が産まれるときに立ち会ったことがあったのだろう。街が焼けて何もなくなってしまったにもかかわらず今目の前で苦しんでいる女と子供を助けたいと動いた。
アルヴァンは布と鍋を用意して湯を沸かした。小さい女の子は女の手をつないで『大丈夫。大丈夫。』と声をかけていた。
さすがに老婆から妻帯を切るための刃物が欲しいと言われたときは街中探して見つけるのは大変だった。捜索している最中、何人かの兵士に攻撃を加えられやもえず亡き者にした。
一人の兵士がちょうどいいナイフを持っていたので拝借した。その時にその殺した兵士が持っていた手記には家族への思いと必ず帰る旨が書かれていた。
アルヴァンはくだらないと近くの燃えている瓦礫に投げ入れた。
お産は日が陰るまで続きそしてようやく生まれた。赤子は無事に生まれたが女はひどく弱っていて助かるのか分からない状態だった。老婆は言った。
「このままお母さんが助からないとこの子のお乳もままならないわ。」
老婆は女の頭を撫でて無力なことを哀れんだ。アルヴァンは赤子の顔を見て思った。
『ほんとサルみたいだな。』
産声を上げる赤子に耳障りだなと思った。それと同時に、
『人間が生まれた時って俺よりも小さいんだな。』
アルヴァンは女に近づいて回復魔法を唱えた。
使いたくはなかったが約束だったから仕方なくこの魔法を唱えた。
女の容体は落ち着いていき老婆と小さい女の子はうれしくて涙を流した。
母子ともに健康だが様子を見て2,3日経ってからこの場を移動することにした。