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テト  作者: 安田丘矩
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人づてに自分のことを聞かされると良くも悪くも相手の見る目が変わる

空気清浄機ってメンテナンスがネックなんですよね。

ズボラな私にとっては無理だ。カビの苗床が完成してしまう。

頑張ってエアコンの掃除だけは・・・梅雨前にしかやらないけど。

せめて寝るときだけは安眠を・・・心に安寧を。

鼻が詰まるのだけはほんと辛い。花粉症を抑える薬があるみたいだけど。

使ってことある人に聞いたら、まぁまぁってどんなもんなんだ。

まだギリ大丈夫だけどこれからだよね。これからだよね・・・はぁ・・


ギンガルで農場を営むテスター夫妻の話


 ぼっちゃんは、そりゃ大食漢なんだ。はじめて来たときは警戒したが、特に危険はなくむしろ、食べ物をせがんできたんだ。食べ物を与えるとおいしそうに食べてくれてね。あまりに親しみやすいから魔物だってことを忘れてしまうんだ。


それにすっごく強いんだ。一番最初にこのギンガルを訪れたとき、四足獣の正体不明の魔物に頭を悩ませていたんだ。そのことを食事をしながら話したその翌朝、でっかいボアの魔物を引きずってきたんだ。あの小さい体にいったいどれだけの力があるのかと驚かされたよ。村のみんなでその肉を食べたとき、ぼっちゃんは脚四本をペロッと平らげてしまったんだ。ぼっちゃんには驚かせっぱなしさ。


 一度ね、このギンガルから出ていってしまったの。まぁ元々どこかに向かっていたのはなんとなく分かっていたんだけど、そしたら半年くらいしてまたこの村に戻ってきたのよ。その時はレオ君も一緒にね。子宝に恵まれなかったから、ぼっくんが息子を連れてきてくれたんだと、勝手に思っていたんだけどこうやって一緒に生活してくれるようになってほんと感謝しているわ。



ギンガルの繊維問屋兼工場を営むマアサの話


ぼっちゃんはね、人間臭いのよ。ほんと家でご飯を食べに来る時でも我が子のようよ。そうそう最初ね、ちびちゃんって呼んでたんだけど明らかに不機嫌になるのよ。ほんと子供みたいよね。みんなぼっちゃんのことは魔物だとわかっているのよ。ぼっちゃんが私たちに危害を加えないのは単に気まぐれでそれで私たちがぼっちゃんに対して敵意がないからなのよ。だから、ぼっちゃんもそれがわかっているんでしょうね。


それに何より、あんなにおいしそうに食べてくれる魔物はこの世界中探してもいないわ。いつも家族のために料理を作ってきたけど一緒に過ごしているとそういうことも当たり前になってきちゃって、料理がテーブルに並ばれることが普通になっちゃうのよ。いくら手間をかけようが気を遣おうがね。そういうのってちょっと寂しいじゃない。けど、ぼっちゃんはね。いつも違う表情をくれるのよ。


今日の食べるペースは早いとか、今日は咀嚼して食べているとか、今日はちょっと好みじゃなかったかなとか。そういうぼっちゃんを見てるとね、明日何にしようかなって考えたくなるのよ。ぼっちゃんが来てからはほんと新鮮でうれしいことだらけよ。



ギンガルのバルで焼き場を任されている老人


 ちっこいのが村中を歩き回るようになってから村が活気づいてきた。老い逝くワシには傍観しているだけでちょうどよかった。診療所で薬を待って時が過ぎていくのをただじっと眺めているだけで一日が終わる。そんな生活があのちっこいのは不思議そうにワシを見るやいなやそばにやってきては隣でどっかからもらってきたおやつを食べ始めるんじゃ。来るものは拒まず、ただ食べ終わるまで一緒にいた。ただそれだけの関係だった。


 2年前に扁桃炎が発症し呼吸がうまくできず、ついに来る時が来たかと思っていたらあのちっこいのワシになんか葉っぱを食わせたんじゃ。それがひどく苦かった。思わずむせた後で『なにすんじゃあ!!』と声が出たんじゃよ。さっきまで息もままならぬ状態だったのに。それから思うように体が動かせるようになって今じゃこのバルで仕事をさせてもらっている。


おかしな話じゃろ。わたしはあのちっこいのに生かされているんじゃ。だからな、終わりゆく日まで頑張らないかんな。



ギンガルに住む子供たち


 あぁ、クロちびのこと?あいつ、いつも偉そうなんだ。俺たちがマアサのおばさんにおやつをもらっているとき、必ず大きいのを一番最初にとって食べちゃうんだ。魔物の分際で意地汚いっていったら、こっちを向いてわざとおいしそうに食べるんだ。ムカつくだろ。


 それでさぁ、俺たちがボールで遊んでいたらわざと取り上げて持ってっちゃうんだ。必死に追いかけても追いつけないし、へとへとになった俺らを見て嘲笑っているんだぜ。ほんと魔物のくせに中身腐ってるんだよ。


 うちの母ちゃんどうやら、クロちびに俺たちを監視してほしいって頼んでいるみたいなんだ。それで、ヤツの目を欺いて森へ入ったんだ。その時、イタチの魔物に出会っちゃったんだよ。みんな必死に逃げたけど一人が逃げ遅れて襲われそうになったところをあいつが助けてくれたんだ。この時はさすがにあいつがいなかったらと思うとぞっとしたよ。ほんと嫌な奴だけど頼りにしている。



シドに尾行させ、この他に何人かの証言を聞かされたアルヴァンは、

『おれ・・・魔物なのか?』


「ほんと、魔物じゃないですね。ただの食い意地の張ったがきぃいいいぐぅ!」


シドは思いっきりアルヴァンに殴られた。しばらく悶絶した後で痛みをこらえながらシドは言った。


「これほどまでに人間に敵意が見受けられないのも変な話です。」


『そもそも、人間に危害を加えれたこともないし。もともと一人で旅をしていたから特に人類撲滅なんて考えてなかった。お前だって人間に何かされたわけではないだろ。』


「そうですが、仕事ですし。」


『俺に危害があるものを排除する。それだけだ。』


「ただ単に食べ物で釣られているだけなのでは。」


『もう一度殴ろうか。』


「アルヴァン様。痛いんですからね!不意打ちは!」


『おまえが馬鹿にするからだろうが。』

これが昨日シドから聞いた内容だった。


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