生き物を飼うにも面倒見ないでしょ
新しい鞄を買いました。
なんたって春ですし、使い込んだ鞄は合皮なのか表面がボロボロに。
思い出もありますが裏地が紺色なものであまり周りが暗いと中が見にくく
「あれ?財布は?えっ!置いてきた!!」
と探し始めるが見つからず、もう一度鞄の中を探ると・・・普通に入っていた。
これが一年に一回起きるからやばいよね(笑)
今回は白く可愛らしい鞄を。そして裏地はシックなベージュ。
これで見落とさない・・・はず・・・。
「っと言うことで、ここにモッフィーがいます。」
アルヴァンはモッフィーの番い数組を連れて研究室を訪れていた。
「アルヴァン様、すごいっすね!絶滅したと言われているモッフィーを見つけてくるなんて。」
セイルは完全に騙されていた。その横でドミニクは一組のモッフィーの前に屈み込み撫で始めた。
「魔界ではもう見なくなったがこうして人間界で見つけることができた。なので、このモッフィーの繁殖を任せたい。」
「こんな重要任務与えてくださるんですか?アルヴァン様尊敬します。」
アルヴァンは照れて頭を掻き始める横で冷たい目で見下ろすシドがいた。
「あれシドさんなんか怖い顔してません。まだ体調悪いんですか?」
セイルは気を聞かせてシドに話しかけた。
「いえ・・別に、何も。」
「そうですか。なんか大変だったみたいですね。ヤドリギの件。」
「あぁ。あれは、羽目を外し過ぎただけです。」
アルヴァンはシドの方を見て言った。
「羽目を外し過ぎた・・・ねぇ・・・。」
「アルヴァン様、ここはお互いに異論なく。」
シドはアルヴァンに釘を刺した。アルヴァンは不満そうだったがここはぐっと堪えた。
「ほんとお二人仲睦まじい。オシドリのような。」
「おい、お前それはやめろ。」
「えぇダメなんですか?じゃあ竹馬の友?」
そんなやりとりをしている一方でドミニクはお腹を見せたモッフィーを触診していた。そして、アルヴァンに言った。
「そう言えばこのモッフィーって何を食べていたんですか?」
「こいつらか?森の草だが?」
「ここで飼育するのはいいですが、魔界で繁殖するためにも向こうで何を食べていたのかを調べる必要があります。」
「そうなのか。繊細さなもんだな。」
「とりあえず、ここで預かる個体は魔界の食べ物を食べさせてみますが、口に合わなかったりもしくはそれを食べないと病気や免疫が作られない場合もありますので。」
「ドミニク・・・おまえすごいな。」
「まぁこれが仕事なんで。」
こうして、モッフィーを預けたアルヴァンはギンガルの村に戻っていった。
アルヴァンがギンガルに戻るともう陽は高くなっていた。先日のヤドリギ騒動からだいぶ平穏を取り戻し、根が飛び出て荒れた農地は村人総出で修復された。
「もう昼かぁ。今日のご飯は何だろうな。」
「それでどうやってモッフィーをテスター家に取り入れさせようとするおつもりで。」
アルヴァンはカエルからモッフィーを取り出した。お腹が膨れて妊娠しているようだ。
「とりあえずこいつを縛る。」
「それで?」
「差し出す。」
「ほうほう。」
「ここで飼うことになる。」
シドは少し間を開けてから話した。
「アルヴァン様・・・安直ですね。」
「うるせぇ。」
「普通の人間は魔物を怖がるんですよ。いくらモッフィーがまだ比較的大人しいからと言って、実際に突進されたら骨が粉砕されるくらいの衝撃がある攻撃力高めの魔物ですよ。」
「そうなのか・・・その博識さをもう少し活かせるといいな。」
アルヴァンはシドを冷ややかな目で見た。
「なんですかその眼は。私はアルヴァン様の僕として・・・。」
「もういいです。十分です。」
アルヴァンはモッフィーを押さえつけてすべての脚を一つに縛った。モッフィーは手荒な真似をされ鳴き声を上げ、その声を聞きつけたのか家の中からテスター夫妻とレオが出てきた。その光景を目撃し理解したのかレオは話しかけてきた。
「テト。また狩ってきたのかい?まずは昼食にしよう。それから捌いてあげるから。」
『相変わらず察しの悪い奴。』
アルヴァンは首を横に振り、モッフィーに指を差した。
『よく見ろ。どんな目してんだよ。』
レオは近づいてモッフィーを観察し気が付いたみたいだ。
「テト、まさかこの魔物飼おうと言うんじゃ。さすがに魔物は飼えないし、危ないよ。」
「ほら、言ったそばからこうなるじゃないですか。」
影に隠れているシドが言った。アルヴァンは少しムッとなりつつ、家の納屋の裏の空き地に行きカエルからあるものを取り出した。
『魔界で取れるただの石!これがあれば魔獣なら大人しくなるんだ。理由は不明。』
「あぁ。その手がありましたね。」
シドは影の中から納得した。アルヴァンは取り出した魔界の石を空き地の真ん中に置いてモッフィーのロープを解いた。
「おい、テト!それじゃウサギ・・・が?」
モッフィーは大人しくなり、アルヴァンはその頭を撫でた。恐る恐るレオも近づき間近でモッフィーを見て、驚きながらも目を丸くしてじっと見つめた。
『その足りない頭でも分かるだろ。さぁ飼え。』
レオはテスター夫妻と目を合わせそして、
「えっと・・・まず・・は。囲いを作らないとね。」
『分かればいい。』
「ほぼ無理やり押し付けたような・・・。」
シドは呆れていた。こうして、テスター家の農場の空き地でモッフィーの飼育小屋が作られ、さらに追加でモッフィーを連れてきて大所帯となった。順調に繁殖を続け、かなりの収穫ができるようになった。そして、
「ぼっちゃんお待たせ。ウサギ肉のローストよ。」
食卓に豪快にウサギ肉をオーブンで炙ったお肉がドンと真ん中に置かれアルヴァンは待ちきれずお皿ごと自分の方に寄せて脚をもぎそのままかぶりついた。嬉しそうに食べてる姿をテスターさんの奥さんは呆れながらも嬉しそうに見つめた。