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テト  作者: 安田丘矩
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いつだって使用する側に責任がある

春ですね。梅の花が咲き里山にはたんぽぽと風情がありますね。

今度、旅行へ行くんですけど春の装いがないので買おうかと。

けど、最近春が一瞬で終わったりして着そこなったり、買わなかったり。

だとしてもおしゃれに行きたい。生きたい。春には春の服が欲しいんです。

去年のこと。伊勢神宮でお参りに行ったとき。その日は夏前で少し汗ばむ陽気。

お参りに合いそうな服を着て歩いていたんです。古い人間なのでそこはちゃんとしたくて。

けど、通りを歩いていて思ったのはすごくラフな格好で

近所の公園に来たのかな?って思うくらいの人がほとんだった。

そんな感じでいいんだ・・・。と思いきやカップルが前から歩いて来て

明らかに女性の方はファッション誌を読んでいるくらいの綺麗でスレンダーな装いをしている

にもかかわらず男性の方は、短パン小僧のような感じ。

それはダメだろ!とツッコミたくなった。

なんだろう・・・おしゃれじゃなくてもある程度ドレスコードは大切だと思った。

一方、ギンガルの村では轟音で驚いた村人たちが外へ出て行くと巨大なヤドリギの根を見て悲鳴を上げていた。まだ少し距離はあるものの村人たちはすぐさま家から飛び出しその根とは逆の方向へと逃げ出していた。そして、テスターさんの手伝いをしているレオもそのヤドリギの根が迫っているところを目撃していた。


「テト!どこ行ったんだぁ。」


今朝から行方知れずのアルヴァンを大声で呼ぶとその背後にアルヴァンがいた。


『こんな至近距離で大声で呼ぶんじゃねぇ。』


アルヴァンは移動魔法で村に戻ってきていた。すぐ背後にアルヴァンがいたので少し驚いたレオは


「どこに行ってたんだよ。それよりあれを見ろよ。急にでっかい赤いのが地面から飛び出してきたんだ。」


『あぁ。これは厄介な。』アルヴァンはどうやって倒そうか迷っていた。広範囲過ぎてどこが急所なのか分からない相手。それに地中にいるとなると明らかに不利。頭を抱えているとユリスとお茶した時のことを思い出した。




ユリスはビーカーに茶葉とお湯を入れ煮だした後でアルヴァンの前に差し出した。


「よく来てくれたわね。さぁどうぞ。」


アルヴァンは手に取りそのまま飲み干した。


「上品なお味だけど、さすがにビーカーだと普通はやけどするぞ。」


「あら、やだ。ちゃんとカップに入れないといけなかったわ。おっちょこちょい。」


二人でにこやかに過ごしていた。


「そうそう、この茶葉ね。驚かないでね・・・ヤドリギなの。」


「ヤドリギってあのやばいやつの?」


「そうなの。手に入れるの苦労しちゃった。だって葉っぱの部分って核に生えている一本の枝しか採れないのよ。」


「そうなのか。じゃあユリスはヤドリギから取ったのかい?」


「まぁヤドリギを倒さないと無理だけど。方法はね、石灰なのよ。」


「石灰?」


「ヤドリギの体内は酸性なの。だから、中和してあげると本来の力は出せなくなって弱くなる。さらにアルカリ性を強くすると萎縮していくの。そうなると生存本能で核である一本の枝にまとまるのよ。そこを一撃で仕留めるのよ。」


「そもそも、石灰どこにあるんだい?採掘するのか?」


「あら、アルヴァンちゃんって頭カタいわよね。」


アルヴァンはムッとした。


「あらら、怒らないで。売っているのよ普通に。」


「そうなのか。どこに?」


「それは・・・。」




アルヴァンはテスターさんの農具庫へ向かいあるものを見つけ出した。それは『消石灰』。肥料や土壌改善に使われるため置いてあるのだ。アルヴァンはそれを運び出し、ヤドリギの根の近くまでやってきた。水魔法を発動し、水を球体にとどめながら消石灰と混ぜ合われいてく。石灰水となった水をアルヴァンは勢いよく放出し根にぶつけた。石灰水をぶつけられたヤドリギの根は萎縮し地中に戻っていった。


アルヴァンはその後を追い地中の中に入った。暗くトンネルが続きメティスをカエルから出し明かりを灯した。


「これ相当長いな。」


「あんだけのデカ物なんだからこんなもんだろ。」


「シドは出てこないんだな。」


「体力消耗して寝てるんだろ。魔力量が多い魔物をコントロールするとそれだけ消耗が激しいからな。」


「けど、シドの魔力はお前から基本供給されるんじゃ。」


「そうなんだよね・・・。ほんとどうしよもないな。」


地中のトンネルを歩き続けていると広い空洞に出た。そしてそこにうごめく木の幹と根が見えた。


「あれか。」


「あれだね。」


「どうするんだ。」


「シドだったら『燃やせぇ!』となるけどこんなところで火を使ったら酸欠で死ぬとところだっただろうね。」


「マジで洒落にならないな。」


「まだ石灰は残っているから。使っちゃいます。」


すると、ヤドリギの根がアルヴァンに攻撃を仕掛けてきた。上手くかわしたアルヴァンは大きな根に飛び移り中心に向かって走った。そして持っていた石灰を振りかけた。ヤドリギのささくれになってい表皮はさらに逆立ちそしてボロボロと崩れていった。赤褐色だった表皮は黒くくすみ縮んでいった。その中心に一本の枝を生やしたヤドカリみたいな生き物がいた。


「まさかこいつが本体か。」


「間違いない枝を生やしてる。そしてその葉っぱのお茶を俺は飲んだ。」


「割に合わない代物だな。これどうする?」


「お茶を飲む。」


「さぞ高級なお茶だな。」


「お待ちください!」


どこからか声がしてあたりを見渡したが特に何もいない。


「こちらです。」


このヤドカリがしゃべりかけてきた。


「おまえしゃべれるのか?」


メティスは驚いてヤドカリに話しかけた。


「えぇまぁ・・・。」


「やっぱり、お茶になる方がいいよな。さすがに身の部分は食べられるのか不安だし。」


アルヴァンの頭の中は食べること前提だった。


「申し訳ございません。命だけはお助けを。」


アルヴァンとメティスはお互い見合った後話した。


「けど、うちの僕が頭おかしくなってるし、村に被害が出てるし。生かすのはちょっと・・・信用できない。」


「あいつが頭おかしいのは今に始まったことじゃない。」


「あの・・・。基本的に私たちは穏やかに暮らしています。」


「どうしたんだ急に。」


「ヤドリギの一族は基本的にリクガメに寄生しながら暮らし、宿主のリクガメが死んでは困るので病気やケガなどの治癒、免疫を授けながら共存しています。」


「それで。」


「この寄生をする特性と自己治癒力の高さから私たちは実験に使われるようになりました。狂気性を高め支配する力をつけるために薬品を投与され一族はバラバラになりました。」


「そんな悲しい過去が・・・。あれ?そういえばユリスがそんな実験をやっていたな・・・。」




それはその時のお茶しながらの会話。


「まだお茶のおかわりあるからね。」


「茶菓子がほしいな。」


「もう、しょうがないわね。昨日買っといたバタークッキーでいいかしら。」


「問題なし。」


ユリスは戸棚から包みに入ったクッキーを取り出し、お皿に盛りつけてアルヴァンに差し出した。


「それにしてもヤドリギって危険じゃないの?」


「そうね。昔の失敗作なのよ。」


「失敗作。」


「もともとヤドリギ自体悪い生物ではないの。ただ、特殊な性質を持つことから兵器利用を考えたのよ。私は薬品を投与してその経過観察をしたの。けど、だめね。完全に自我を失って制御できなくなるから。結局この研究は終わったのよ。」


アルヴァンはお茶を見つめてさらに問いただした。


「じゃあ、なんでヤドリギが外部に?」


「エネヴァーよ。あいつ実験体を盗んでそれをおとりにして敵国の城を落としたのよ。見事に成功したけどヤドリギがその土地の生気を奪っていったからその土地は今じゃ砂漠よ。そして、ヤドリギは繁殖し続け今に至ると。」


「あいつ、ほんとにゴミ野郎だな。」


「そういう私利私欲に使う奴って人の迷惑を考えないものね。死ねばいいのに。そして、このお茶は駆除したヤドリギの亡骸です。」


「あぁ・・はい。」




アルヴァンは思い出した後で言った。


「犯人あいつだった。」


「物思いにふけって一人で納得するなよ。」


メティスは呆れて言った。


「この件については魔王城側に責任があるということかな。」


「そうなのか。」


「なので、このヤドカリを助けることにする。」


ヤドカリは嬉しそうにアルヴァンに言った。


「ありがとうございます。あと、私はヤドカリではありません。リカルドです。」


「似たようなものだ。ニックネームでヤドカリだ。」


「あっはい・・・。」


「おまえなかなか横暴だな。」


「一先ずはカエルの中に入ってもらって。あとで魔王城の研究室で保護してもらうということで。」


こうしてアルヴァンたちはヤドリギを保護し解決したのだった。

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