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テト  作者: 安田丘矩
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シャル ウィー ダンス?

聞いてくれ。合鴨の親子が飛び出してきて車で引きそうになったんだ。

そんなことってある?いや~びっくりしたよ。

言うても、もう子ガモも親ガモと同じ羽の色になってきていたから可愛さは半減されているけど。

あぁ言う動物を引いてしまった時ってどう対処すればいいんだ?

警察を呼ぶ?そのまま放置?亡骸を供養?分からない。

運転中に狸さんや猫さんがお亡くなりになって道路にぐでぇーんとなっているのは見るけど。

市役所や保健所を呼ぶのが正しいのかな?

まぁ人間だって車に轢かれたことがあるんだし(現に私も車に轢かれたことある。)

躱しようがない場合を除いては安全運転で。

アルヴァンたちは山下りていた。そして、何故かアルヴァンはレオの手を引いて歩いていた。レオはオオカミたちに襲われた恐怖がぬぐい切れず涙ぐみながらアルヴァンの手に引っ張られていた。


「アルヴァン様。今度は子守りですか。忙しいですね。」


影の中から茶化すシドに


「お前、あとで覚えていろよ。」とご機嫌斜めのアルヴァンだった。


ため息を吐き歩きながらレオの様子を伺い『どうして俺がこんなことに。泣きべそをかく勇者様を手を引いて歩く。これでいいのかお前は。』アルヴァンは呆れていた。


テスターさんの家に着くと返り血まみれになったレオを見て奥さんが叫んだ。レオは玄関の前で膝から崩れ、テスター夫妻はレオに駆け寄りなぜか三人で抱き合っていった。


「そうか、そうか。怖かったな。」


「よく無事で帰ってきたね。」


と涙ぐみながら慰める夫妻の姿を見てアルヴァンは『甘すぎる。』と冷ややかだった。寝る間際にさすがにこいつと一緒に居たくないと出て行こうとしたら、


「置いて行かないでくれ。」


レオは部屋から出て行こうとするアルヴァンを両手で掴み阻止しようとした。アルヴァンは抵抗したがレオの方を向いて不満そうに睨んだ。


『いい歳した男がめそめそと・・・恥ずかしくないのか。』


「一人になると怖いんだ。テトはいつも一人でどこかいっちゃうし。お願いだから一人にしないでくれよ。」


しつこく離れないので結局なぜかレオと添い寝して眠りにつくのを待ったアルヴァンだった。レオが眠りにつきやった解放されると部屋を出ようとした時、オオカミの遠吠え聞こえた。かなり離れてはいるが間違いなくこっちに向かってくるのだろう。アルヴァンは家の外へ出て村と森との間の草原に向かった。


「あんなもの吹くからこんなことに。」


道中シドが呆れて言った。


「そんなもん知るか。一々細かいこと気にしてられるか。」


「じゃあ、どうしてわざわざ事後処理に?」


アルヴァンは言い返せなかった。


風が草原を走る。下弦の月が見下ろしながらその様子を細めで伺っているようだった。アルヴァンはオオカミの鳴き殻を吹いた。風の音に交じり遠くへと伝わっていったのだろう。オオカミたちの声があちらこちらから聞こえ始めた。


「さぁパーティが始まるな。」


「これは仲間を殺されたオオカミたちの復讐なのでは?」


「だから、死の舞踏会メメント・モリなのさ。さぁ輪になって。」


オオカミたち森から飛び出しアルヴァンたちを円を描くように回り始めた。威嚇する声、逆立つ毛、いつ飛びかかってきてもおかしくない状況。


「アルヴァン様。思ってたより数多いですね。5・・60匹はいますね。」


「パーティは大勢だやるものだ。供物はいくらあってもいい。」


「そうですね。たとえ獣臭くてもアルヴァン様ならぺろりと・・・。」


「バカを言え。俺はグルメだぞ。まずい物なんて食わん。」


「それは単なるわがままなだけでは。」


二人が話している最中、一匹のオオカミがアルヴァンに向かって突撃し始めた。


「シド。見てろよ。舞踏会というものはちゃんとステップを踏んで・・」


アルヴァンは短い脚でリズミカルにクルクルと周りオオカミの突進をひらりと避けた。アルヴァンが右手を月に向かってあげると両側からオオカミが順番に飛びかかってきた。姿勢を低くし一回転、右手を胸部に向かって張り手。そのまま大きく宙返りしオオカミの背後へ。ワン、ツー、ターンからの裏拳。両手を上に前方に走り出し飛び上がり、前方から来たオオカミ顔を踏み台にさらに宙へ。そして、回転しながら火魔法を放ち渦巻きながらオオカミを翻弄する。火が草に燃え移りあたりが火の海に変わりオオカミたちは逃げ惑う。着地し右手を空に上げたと同時に空に水魔法を放ち頭上に大きな水の玉を作り、手を下すと同時に落下した。それは洪水のように燃え広がっていた火を消し去りオオカミたちも流される。水の流れが収まり再び立ち上がったオオカミたちはアルヴァンの姿が見失いあたりをうろうろとし始めた。


そして、空から雪が降る。雲一つもなく月と星しかない空なのに。柔らかく、地面に落ちては溶けていく。その光景に動きを止め群れ同士お互いを見つめあうオオカミたち。どこからか強い風がさらに雪を吹雪かせ、危険を察知したのか逃げようとするオオカミたちはなぜか身体が思うように動かない。さっき濡れたせいか毛が凍りつき、急激な温度変化に動きが鈍くなっていた。吹雪はオオカミたちを囲うように回り始め、オオカミたちは一つに身を寄せ合い始めた。吹雪の中から一匹の悪魔が一つに集まったオオカミたちの前に現れた。


「さぁフィナーレだ。眠れ、眠れ、眠れ・・・。」


アルヴァンはオオカミたちの周りを舞いながら吹雪の中へと消えていく。吹雪はオオカミたちをさらに包み込み、そしてついにオオカミたちは凍え死んだ。吹雪がやんだ後は一つに集まったオオカミたちの亡骸だけになっていた。


「あぁ!しまった!毛皮のこと忘れていた!」


さすがに凍り漬けになってしまったら解凍しても毛や皮に痛み使い物にならない。


「アルヴァン様。こんな時でも卑しいんですね。」


「うるさい。」


すると村の方から光がゆらゆらと何個か近づいてくる。村人がやってきたのだった。


「おや、坊ちちゃんじゃないか!オオカミの声とあたり一面が火の光ですごかったからびっくりして来てみたけど・・・、派手にやったものだな。」


テスターさんは寝巻のままだった。そしてこの状況を見渡し何があったのか頭の中で推察しているようだった。ほかの村人たちもこの裸になった地面とオオカミの死骸に唖然としていた。そして、当の本人であるアルヴァンはこの状況をどう説明したらいいか迷っていた。


「レオ君が言ってたオオカミの群れだな。そうか、ぼっちゃんが村を守ってくれたのか。ありがとう。」


『そういう理解で済むなら、まぁいいか。』アルヴァンは考えるのをやめた。


「前の四足獣の時もそして今回もぼっちゃんには助けられっぱなしだな。」


『いやぁそれほどでも。』アルヴァンは頭を掻いた。そもそもオオカミの鳴き殻を吹かなければこんなことにならずに済んだことをアルヴァンはずっと黙っておくことにした。

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