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テト  作者: 安田丘矩
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荒療治はやっぱりよくない

自分が新社会人の時初給料で何を買った使ったのか。

もうすぐ新社会人が世に放たれる季節が来ましたね。

皆さん何を買うんでしょうか。

やっぱりよくあるのは親を食事に連れて行くとか旅行をプレゼントするとか。

そういえば、自分は何に使ったのか。初給料は特に何もしなかったかな。

ただ、長期連休が取れた時に沖縄旅行に行ったことは遠い記憶。

それよりも入ってから早々に忙しかった記憶が強いので使う機会がなかったのもあったんだけどね。

新社会人になる皆さん素敵な未来になることを祈っております。

アルヴァンは山に入っていた。理由はいろいろだが一番にレオから離れたかった。マアサの懇願によりレオは見栄を張ってしまったせいか、なんとか面子を保とうとアルヴァンに付きまとっている。さすがに面倒なのでテスターさんが行っていた熊の討伐にやって来ていた。


「アルヴァン様、モテモテですね。」


レオから離れたところでもシドに茶化されるので結局休まる気もしない。


「あんな軟な男にモテるなんて世の末だな。」


「アルヴァン様が追われる側になるなんて、あの品格者大物になりますね。」


「殺す手立てもなくされるがままなのもしゃくに障る。」


しばらく散策しているとき木々が一方向へなぎ倒され所々破壊されている場所にたどり着いた。その何者かが通った足跡がずっと続いていた。


「アルヴァン様が思い付きで食べたいと言い出すからこんなことに。」


「別に言い出してない。実験だ、実験。」


「いや果肉は全部食べたでしょ。」


「それにしても派手にやらかしているな。」


「モーダリってこんなに暴走しましたっけ?」


「確かに。なんかおかしいな。」


アルヴァンは足跡を追って歩き出した。だんだん森が開けていくと草も何も生えていない荒地にたどり着いた。明らかにここだけ不自然になっている。


「おぉここだな。」


「一筋縄ではいかないようです。」


シドは何かの気配に気づき影の中に戻った。振り向くとそこにはレオが立っていた。


『あいつ、ここまで追ってきたのか?』


アルヴァンは少し驚いた。


「こんな山奥に行っているなんて。テスターさんから聞いたよ。大型の熊の・・・うわっぁぁぁぁ!!!」


地面が振動し轟音が鳴り響いた。そして、地中からモーダリが飛び出してきた。アルヴァンは一瞬遅れたが飛びかかってきたモーダリの右腕からなるかぎ爪を手刀からの斬撃で相打ちにした。すぐ後方に下がり身構えたがレオが硬直して動けていない。


『あっまずい!・・まずくはないか。』とアルヴァンは一瞬焦ったがすぐ冷静になった。


モーダリはレオに思いっ切り左腕をぶつけようとした。レオは声も出ず目を閉じた。


『よっしゃ。チャンスだ。あいつがおとりになってくれてる隙に。』


モーダリの左側に瞬間移動しレオに攻撃を加えた瞬間、地面を蹴り飛び上がりモーダリの本体である背中から生える植物の部分を斬撃で切り刻んだ。レオは右側に吹っ飛ばされたが本体を失った熊の部分はよろめき倒れこんだ。


「ふぅー。楽勝だったな。ラッキーラッキー。」


「なるほど。おとりに使うにはもってこいですね。」


シドは感心していた。そして、アルヴァンは吹っ飛ばされたレオの元へ近づくと気を失っているだけだった。外傷はなく口をポカンと開けた間抜けな顔があった。


「勇者としては0点だな。」


「村人Aだったら満点なんでしょうね。」


アルヴァンはモーダリの熊の部分を見た。本体を失い悪臭を放ちながら解けていた。


「うおぇ。気持ちわりぃなぁ。」


「おそらく憑代としても限界だったんでしょうね。だから、あんなに荒れ狂っていたのでしょうか。」


アルヴァンはモーダリの本体に近づいていった。バラバラになった植物の部分は萎れていた。それを拾い集めてカエルから麻袋を取り出し中に入れた。


「それどうするんですか?」


シドはアルヴァンに問いただした。


「モーダリの植物は回復薬に使われる貴重なものだぞ。取っといて損はない。」


「知っていますが。新鮮な状態でなければいけないのでは。」


「細かいことは気にするな。」


シドはこれ以上問いかけるのをやめた。


「さてさて、今日はよく働いたな。帰るかな。」


「あの村人Aはどうします。」


「うーん・・・。川に流す?」


「それ前回やりましたよね。」


「冗談だよ。」


するとレオは意識を取り戻し起き上がろうとしていた。咄嗟にシドは影に戻り身を潜めた。


『今回は思ったより早かったな。』


「あれ・・・テト。」


レオは周囲を見渡したあと思い出したかのように自分の身体を触れ始めた。


『なにやってんだ。』


「テト!俺、無事だよな。どこもケガしてないよな。」


『うわぁ。迫ってきた。どうしよう。』


とりあえずアルヴァンは頷いた。


「はぁ・・よかった。吹っ飛ばされたからもうダメかと。」


『まぁ普通は無事では済まないがな。』アルヴァンはこの能力のすごさに脱帽した。


「ところで熊は・・・。」


レオは鼻を抓み悪臭のもとになっている溶けている何かを見つけた。


「うわぁ。これはひどい。もしかして、あれがあの熊なのか?テト!どうやればこんなことできるんだ。」


『説明するのが怠いなぁ。このまま帰るかな。』


アルヴァンはレオの問いかけに応えられるはずもなく、もと来た道を歩き出した。


「ちょっと待ってよ。」


レオはアルヴァンの後をついてきた。


『せっかくこいつから離れられたのにこう尾行されたら一溜りもないな。』


「テト。お願いだよ。指南を付けてくれよ。」


『魔物に指南をつけてもらう勇者がどこにいるんだよ。普通俺らは敵なんだぞ。』


しつこくレオが懇願しているとアルヴァンは立ち止まりさすがにブチ切れた。


『あぁぁぁ。もうそんなに指南をつけてほしいんなら。』


アルヴァンはカエルから何か所か穴が開いた石を取り出した。それを思いっ切り穴に息を吹き込んだ。しかし何も起こらず、レオはそのアルヴァンの行動をただじっと見つめた。吹き終わるとアルヴァンはレオの前から瞬間移動し消え、近くにあった高い木の上へと移動した。アルヴァンが突然消えてしまいレオは動揺していた。


「さっき吹いたのはオオカミの鳴き殻ですね。」


「そうこれを吹くと山中のオオカミたちがここにやってくる。」


「まぁえげつない物もってますね。」


「不死身のあいつには特に問題ないだろ。あとは自分で何とかしてもらうまでだ。」


「アルヴァン様。ハードルがすっごく高すぎですね。」


「当然。」


するとどこからかオオカミの声が聞こえてくる。至る所から会話をしているかのように遠吠えが山に響き渡っていた。


「さぁ来るぞ。」


レオは短剣を鞘から抜いて身構えていた。そして、森の茂みから3頭のオオカミが飛び出してきた。


「さすがに3頭じゃ分が悪いのでは。」


「あいつは死なないから大丈夫だ。」


1頭のオオカミがレオに飛びかかってきた。レオは短剣を振り回し応戦し、オオカミは手前で着地し詰め寄ろうとしていた。レオは3頭のオオカミから目を逸らさず、すり足で後方へ下がるも後ろから別の群れのオオカミもこちらに向かってきていた。


「忙しくなってきたな。さぁどうするかな。」


「アルヴァン様。思うんですが、たとえ不死身だとしてもこのまま複数のオオカミに襲われ続ければトラウマになるのでは。」


「まぁなるだろうな。」


「そうすると後々厄介になりませんか。」


「というと。」


「恐怖心から我々すら畏怖の対象になって寄せ付けなくなる。そして、自害しようとしても死ねないことに気づく。ボロボロになって心が死に扱いづらくなる。」


「なおさら殺すことにつながるんじゃないか。」


「自暴自棄になった人間が何しでかすか分からないし、それこそ介護が必要になってきますよ。今後。」


「それは・・・嫌だ。この歳になって若造の介護なんて。まだ正気があった方が扱いやすい。」


「それでどうします。もう後ろから飛びかかてきてますよ。」


「ほんとだ。」


アルヴァンは『仕方ないな。』とレオに向かって強化魔法を放った。一時的に素早くなる魔法でレオは後ろからオオカミに飛びかかられたが一瞬よろめいた後右足でこらえ、体の向きを左にひねりオオカミを躱す。そして、声を上げながら短剣を振り上げ右側に着地したオオカミに振り下ろした。オオカミの左の背に命中しオオカミは悲鳴をあげた。その悲鳴にオオカミたちはひるみ威嚇する音が近くから聞こえてきた。


ケガを負ったオオカミは体制を崩し重心が右に傾いた後、レオはそれを見逃さず再び剣を振り上げ頭をめがけて振り下ろした。オオカミの首は落ちなかったものの見事に仕留めることができた。息をあげ上げながら返り血を浴びたレオは休む間もなくがむしゃらに前方にいた3頭のオオカミに向かっていった。


「ちょっとずるいが少しは戦う気にはなれたみたいだな。」


「窮鼠猫を嚙むと言いますか。」


「まぁいい経験になるだろう。」


剣術は疎かだが、レオは素早い分オオカミたちを翻弄し続け集まってきたオオカミを数匹仕留めることができた。その状況に恐れをなしたのかオオカミたちは逃げて行った。レオはしばらく動けずに身構えた状態で20分くらいしてようやく膝から崩れ落ちた。短剣が手放し変な声を上げてうずくまった。アルヴァンも木から下りて恐る恐るレオに近づいて行った。


『おーい。生きてるか・・・。』アルヴァンがレオの目の前に来て顔を覗こうとした瞬間思いっ切り肩を掴まれた、さすがにアルヴァンは『ひぃい!』と変な声を上げてしまった。


「テト・・・テト、テトテトテトテェええトぉおおお!こわかったぁあああ!」


レオの顔は涙一杯で鼻水を垂らしひどい顔をしていた。さすがにアルヴァンは硬直ししばらくレオに揺さぶられるままだった。

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