君とだったら生きていける・・・めぐり会えたら
皆さん何か習い事ってやっていますか?
私はもう一度書道に通いたいんですが、最寄りに教室がないんです。
中学までやっていて一応2段まで取らせてもらったのですがそれからはからっきし。
当時は、まったく興味なく文字が上手くなるからという理由で入ったものの
正直、字が上手くなったなんて思ったことなんて一度もない。
今、この歳になって草書体や楷書体などの文字の癖や形を見るとその表現方法に驚かされるし
また書きたいと思い書道を家でちょこっと嗜んでいるんですがやはり見てもらいたいんです。
いくら段を持っていたってこんなぺいぺいが適当に書いてるだけで正しく書けていないと思う。
字が上手くなりたいというより、その字を自分なりに表現してみたいと思えるようになったからこそ
正しく学ぶことの大切さを実感するんです。
ユリスの研究室は魔王城の地下にあるが、実際にそこへ行ってみると研究室なんてない。行き止まりになっている。これは行き止まりではない。『行き止まり』という生き物なのだった。行き止まりは無理にこじ開けると消滅するため許可した者しか入れないようになっている。エネヴァーもさすがにこれをこじ開けることはなかっただろう。アルヴァンはこの行き止まりの入り方を知っていた。壁を撫でる、そして、
「いい子にしてたか。ただいま。」
アルヴァンが言うと行き止まりは上下に口を開けた。アルヴァンはためらいもせず中へ入っていった。そう言えば、実験体3号は戻ってきたいるのか?そんなに早く帰ってくるとは思わないが。
「あっ!アルヴァン様じゃないですか!」
セイルは普通に掃除をしていた。
「お前どうやって帰ってきた?そんなに早く帰れるのか?移動魔法か?」
「移動魔法ですけど、俺魔法は使えないのでユリス様が持たせてくれた『おかえり君』を使ったんです。」
セイルは『おかえり君』を見せてくれた。何かの魔物なのかキャラクターなのかはわからないが手のひらに収まるくらいの小さな人形が憎たらしい顔をしていた。これは魔具の類になるのかと疑問を持った。
「来るんだったらちゃんと連絡くれないと。茶菓子が切らしているんで買いに行かないと。」
「あぁごめん。こちらこそ何かを・・。」
「アルヴァン様。遊びに来たんじゃないんですから。」
シドは呆れてツッコんだ。
「聞きたいことがあって、ここにドミニクっている?」
「あれ?アルヴァン様ドミニクのこと知っているんですね。ユリス様惚気て話しちゃったんですね。」
アルヴァンとシドは顔を見合わせた。
「お会いになります。今奥で仕事しています。」
『仕事?』アルヴァンは人間にやらせる仕事って何だと考えながらセイルに案内させれるがままに奥の部屋へと入っていった。そこには確かに一人の体格のいい男が何かをしていた。何をしているのか近づいてみると実験用の小型の魔物から体液を抽出して何かの溶液と混ぜ合わせているところだった。
「おい、ドミニクお客さんだぞ。」
セイルの声にドミニクは振り返った。少し驚いた様子でこちらを見たがすぐに冷静になり話しかけてきた。
「お客さんって魔物。まさかバレたんじゃ。」
「心配するな。ユリス様のお友達のアルヴァン様とシドさんだ。」
「そうなのか。はじめまして、ドミニクだ。」
報告書の内容からもっと厳つく悪だくみをしている輩を想像したがゴツいわりに普通に研究者をやっていることに驚いた。
「あっ、アルヴァンです。ちょっと聞きたいことがあって訪ねてきた。」
「俺にか?」
「ユリスがお前と出会ったとき品格者を追っていたんだ。それでその時の話を聞きたい。」
ドミニクは少し考えた後で話した。
「あぁ。あの特殊能力者か。けど、直接俺は関わっていないぜ。その当時は国のお偉い方が目をつけて国軍の一部隊として活躍してるやつがほとんどだった。ただ、ユリスがどうしてもっていうから演習場へ行ってその品格者の様子を見に行ったことがあったな。」
「詳しく。」
「そこで、光の矢を放つ能力者と悪夢を見せる能力者、触れただけで硬い岩を破壊する能力者。その三人を見た。」
「確かに報告書にはその能力者について書かれていました。」
アルヴァンはシドを見て言った。
「お前あの短時間でよく読めたな。」
「続きが気になったものなので。」
「あっそう。」
ドミニクは話を戻した。
「その品格者についてだが何だか少し妙なんだ。やたら傲慢な奴らが多くて、冒険者の間ではあまりいい印象はない。その能力だけで成り上がった奴なんか特にだ。」
「それは単なる嫉妬とかではないのか。」
「いや、そういう感情は抱いていない。ましては軍での特待生だった人物が能力を得られたことで急に人が変わった話も聞いた。」
「ちょっと待ってくれ。品格者たちが湧きだしたのはいつぐらいなんだ。」
「えっと・・・突然王都の至る所で変わった力を得たと騒いだのは3年位前かな。そうそう、その時流星群があったんだ。それはすごかったな。みんな外で酒を酌み交わしたものだ。」
「流星群?」
「空のお星さまが夜空を一斉に流れるあれだよ。」
「それは知っている。流星群があった後で品格者が湧きだしたって言うのか。」
「そりゃ、理想や願いを叶えたい輩が集まる場所だ。星に願ったりしてもおかしくはないだろう。」
「3年前の流星群・・・。そもそもそんなことあったのか?」
アルヴァンはシドに問いかけた。
「魔界では見られないとか。」
「同じ空の下なのに?」
「俺が知っているのはこれくらいかな。」
ドミニクは一通りしゃべり一息ついた。
「そうか。、ありがとう。」
「ところでユリス様のどこが良かったんですか。」
シドはアルヴァンをよそに興味津々でドミニクに問いかけた。ドミニクは視線を逸らし斜め上を見て言った。
「よせよ。はずかしいじゃねぇか。あいつは・・・。俺の命の恩人であって、それに理解者だ。それだけのことさ。」
アルヴァンは小声でシドに話しかけた。
「あいつ、ユリスが中性の男よりって知ってて言っているんだよね。」
「たぶん。変装していたことは湯あみをしているユリス様を覗いた時にバレたって68ページに書いてありました。」
「お前すげぇな、すごくいらない情報。」
「いや、馴れ初めが気になってしまって。」
アルヴァンは何も言い返さずドミニクに話しかけた。
「あいつが今行方不明ってこと知っているか?」
「あぁセイルから聞いた。けど、俺とユリスは『血の絆』で結ばれているからもしあいつが死んだら俺も死ぬからユリスは生きている。だから心配していない。あいつは強い。俺をおいて死ぬことは絶対ない。」
血の絆は、呪いである。お互いに血を採り、混ぜ合わせた後で呪いの呪文を唱える。互いにその血を飲み儀式は終了する。古い魔物同士の契りに使う儀式だがユリスはあえてこの儀式を人間で言う婚姻の儀として行ったのだろう。どちらかが裏切った場合お互いに命を落とす儀式だが、この儀式によってドミニクはユリスの力も共有することができるが、当の本人は多分そのことを知らず、永遠の誓いとしてとらえているのだろう。
『そうか・・・これが愛なのか。』とアルヴァンがしみじみと思っている横で啜るような音がした。シドを見るとなぜか涙ぐんでいた。
「おまえ、今泣くところあったの?」
「アルヴァン様。これは超越した愛です。」
もう勝手にやってくれと思ったアルヴァンだった。