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テト  作者: 安田丘矩
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テト 第弐章

いよいよ、第弐章開幕です。

特殊な話の組み立て方をしているのでどうしてもレオパートを書き終えないといけないので苦労する。

なかなか死なないのでこちらもこのレオパートいつになれば終わるのか?

(まぁそのいつかはある程度分かっているんだけれども。)

そして、食いしん坊テトがまた搔きまわしながら物語が動いていく。

今回は重要人物が登場するので一体この重要人物が何者なのか

予想しながら読み進めていってくれる幸いです。

少し日が空いてしまいましたがこれからもよろしくお願い致します。


安田丘矩



目が覚めるとベッドの上にいた。ここはどこだろう。最後に覚えている記憶は滝から落ちるところ。腰を上げ右横手にある窓の外を見た。見慣れない景色だ。遠くには山々と見渡す限りの農園だろうか緑が一面に広がっている。そうだテトは?テトはどこいったんだ?部屋の中に視線を戻し見渡すと誰かの家の中なのはわかるが全く見覚えはない。ベッドから降りてこの部屋から出た。するとダイニングにつながっていて人はおらず机の上にはバスケット一杯に入ったプラムのような果物が入っていた。台所は綺麗に整えられていて、釜の上にあった鍋には何かおいしそうな物が煮込んであった。ちょうど台所の横に勝手口があったので外に出た。心地よい陽気が差し込んで、穀物だろうか背の高い植物が辺り一面に埋まっていた。そして振り返り家の様子をみた。家の壁はすすれていたがまだ比較的新しいようだ。左の方から声がするので回ってみるとそこに一人の男性とテトがいた。


恐る恐る近づくと2人が気付いてこちらを見た。


「お兄ちゃん起きたか。災難だったな。川で流されるなんて。びしょびしょのままこの子が運んできたから驚いたよ。」


テトがここまで運んできてくれた?それよりもこんな目にあったのはテトのせいなんだが。横目でテトを見たが視線を逸らされた。


「助けていただいてありがとうございます。ところでここはどこですか?」


「ここかい?ここはギンガルの村だよ。まあ特に何もないがキビの栽培が盛んでここでは砂糖も作っているんだよ。」


レオはもう一度一面の畑を見た。風に揺れて葉っぱがサっと音を立てる。少しほっとしている自分がいた。


「兄ちゃんこそ、どこか行く予定だったんじゃないかい。」


「あっそうなんですが・・・。」


そもそもギンガルの村なんて聞いたことない。気候も育ててるものもまったく違う。どこか違うところに飛ばされてしまったのか。品格者であることが分かり勇者になるために王都にいこうとした挙句にテトと出会って、夜にゾンビの魔物が出て、その夜を明かしたら深い森にいて、魔物に襲われ、川に流され・・・。気が付いたらここに居た。普通に考えたら頭がおかしくなったとか思われるだろう。このことは黙っていた方がいいのだろうか。レオは少し考え、自分が品格者としてベルリッツ王国の王都に向かっていることは黙っておいた。


「実は記憶が飛んでいるせいか覚えていないんです。」


「なんだって。記憶喪失ってやつか?それは大変だ。」


「すみません。」


心の奥底で後ろめたさを感じた。


「謝る必要なんてないさ。しばらく休んでいるといい。」


「ありがとうございます。えっと・・・。」


「あぁすまなかった。名前がまだだったね。テスターだ。よろしくな。」


「レオです。こちらこそ。」


テスターさんは水牛の世話があるので牛舎の方へ向かっていった。それにしてものどかな場所だ。それに懐かしい気もする。そう、勇者になることなんて夢だったんだと思わせてくれるほどだ。テトはこちらをじっと見つめ伺っている。


「テト。一体何があったんだ。もう本当にわかんないよ。」


テトは少し考えた後で小さな麻布を取り出しレオに渡した。受け取ると中には銀貨が20枚入っていた。


「このお金どうしたんだ。」


テトは近くにあった木の棒を拾って地面に絵を描き始めた。細長い獣?あのテンの魔物のことか?そして、四角?だが出っ張りと下に細長いのが?


「あぁ、魔物の毛皮か!」


テトは頷き、この道の先を指さした。その先には家々が集まった場所があり、どうやらそこで買い取ってもらったと言いたそうだった。


「そうだったのか。テトはこんな交渉もできるのか。すごいな。」


テトは頭の後ろを掻いた。改めてそのお金を手に取って見た。その銀貨には『イレイア国』と書かれていた。イレイア国なんて聞いたことないし、ましてやこの国での通貨価値も分からない。そう言えば、出発前に持ってきたお金と司祭様から渡されたお金もあった。一度部屋に戻ってリュックの中を確認した。持ってきたお金は銀貨10枚と銅貨40枚。この国の通貨ではないから役には立たないので再び染め布の巾着袋に戻した。着替えと短剣をなくしてしまい、川で流されたせいか皿やフォークなどの日用雑貨の一部もなくなってしまった。そして、今気づいたが今着ているこの服も俺のものでもない。テスターさんが着替えさせてくれたものだろう。できればもう一着服があればいいのだが。ふと視線を下すと部屋まで付いてきていたテトがいたので思いつくがままに言った。


「テト。村の中心まで案内してくれるかい。」


テトは理解したのか部屋を出て玄関に向かっていった。


「ちょっと待って。もう行くの?」


テトは一瞬振り向いたがそのまま玄関の扉を開けて外へ出て行ったしまった。レオも追いかけるようにテトの後を追っていった。




村の中央に付くと不揃いな平らな石が道に敷き詰められデコボコしている。家々が列をなして建っているのではなく少し丘になっているところを中心に壇上に一軒一軒建てられている。とんがり帽のような屋根が特徴で外壁は青白い石の壁になって木々や草花となじんでいた。


とある一軒は診療所でひげを生やした老父が日当たりのいいバルコニーのベンチで処方箋を待っているのだろうかくつろいだ様子だった。そこから少し上がった家は雑貨屋だった。ちょうど探していたところだったので早速雑貨屋の扉を開けた。少し建付けが悪いのか『キィー』と軋む音を立てた後、扉のふちに付いたベルが店内に響いた。数か所の丸い窓から陽光が入り、誇りが微塵と舞上がり光り輝いているように見えた。


店内を見てみると正面の机には白い陶器のお皿とカップが並んでその横には水瓶の中に箒がさしてあった。壁には布の記事が丸めて立ててあり、床に積み上げられた型紙があった。『服のご利用の方は店主まで』と立てかけられた板に書いてあり、どうやらーダーメイドで服を仕立ててもらえるみたいだった。そしてとあるものに目を留めた。この店に並んでいる商品とは明らかに浮いているものでそれは丁寧に装飾されていた箱だった。手に取ってみるとネジが付いていて、ためらわず回してみると聞きなれない曲だが優しい旋律を奏でた。こんな珍しいものがあるのだとじっと眺めていると


「いいでしょ。それ。」


いきなり横からこ声を掛けられ思わず変な声が出てしまった。


「ごめんね。おどかすつもりはないのよ。あまりに見惚れていたから。」


「すみません。勝手に触ってしまい。」


ここの店主であろう中年の女性でふっくらとした顔立ちをして笑い皺が目立っていた。


「いいのよ。それはオルゴールよ。まぁお貴族様の嗜好品だけどね。昔この村には工作所があってね、オルゴールを作っていたの。今は都で貴族様向けに特注で作ることが多くなり、ここにあった工作所もたたんで都へ移ってしまったわけ。そのオルゴールはここで作られた最後のオルゴールよ。」


「そうなんですか。」


レオはオルゴールの横になった値札を見たら『金貨5枚』となっていた。それを見てオルゴールをゆっくり元に戻した。


「あら?ちびちゃんじゃないの?また、毛皮を取ってきてくれたのかい。」


店主の女性はテトを見つけて近づいていった。そうか、テトはここで魔物の毛皮を売ったのか。テトは首を振って応えていた、


「また取ってきてくれたら換金してあげるからね。」


「あの、すみません。服が欲しいんですけど、作っていただけませんか。」


「あぁ仕立ての注文ね。どんな装いだい?」


レオは型紙を一枚一枚見てみた。完成図と一緒にパタン画も載っていて作りが忠実に分かるようになっていた。綿の生地で肌着とパンツ、麻布でシャツを2着、とズボンを仕立ててもらうことにした。


「これだけお願いしたいんですけど、いくらぐらいかかります。」


「そうね。3銀貨ぐらいかな。麻はヘンプでいいかい?」


「大丈夫です。あとはお任せします。」


ふと、テトが羽織っているローブを見て思い付きで店主に言った。


「すみません。あと、ローブを一着。そのちびちゃんのを。」


「あらあんた、ちびちゃんの知り合いだったのかい?どんな生地で作ろうか。」


テトのローブはかなり着込んでいるのか所々にほつれがあり、何ヵ所か直した後がある。店主がテトに「ちょっと見せてね。」とテトのローブをさわって見た。


「これはリネンの生地だね。けど、縫い方が特殊ね。まるで模様のようにみえるわ。」


レオも近づいて見てみた。確かに何かの模様のように見える。ローブと同じ色の糸で縫われていて分かりにくいが、葉っぱのような、羽のような模様があしらわれていた。


「きっと、特別に作ってもらったものなのね。」


テトは俺と出会う前にも人間にあっていたのか。こんな人慣れしている魔物なんて見たことない。こいつは一体何者なんだ。レオはテトに話しかけた。


「新しいローブをプレゼントしたいんだけど受け取ってくれるかい。」


テトは首を横に振った。そして、戸棚を指差した。レオはテトの指差した先を見に行くとガラスのビンがおいてあった。


「これがいいのかい。」


テトは頷いた。


「一体なにに使うのだろうね。じゃあせめてローブのほつれを直してあげよね。」


「すみません。いくらですか。」


「いいのよ、サービス。ビンのお代はいただくけどね。」


仕立代とビンのお金を払い、テトにビンを渡した。受け取るとテトはすぐさま外へ出ていった。


「テト!ローブを手直しするから置いていって。」


しかし、声も届かず店主にお礼を言って外へ出た。テトは来た道を引き返していた。


「テト待って!」


追いかけるとテスターさんの家への道を外れ、農場の方へ向かっていた。そして、テトは牛舎へ入っていた。牛舎に入るとテトはテスターさんにビンを渡していた。


「テト。急にどうしたんだよ。」


テスターさんはこちらに気づいて話しかけてきた。


「おや?君かい。それにテト?」


「あぁ、その魔物のことをテトって名付けています。」


「テトかぁ。ピッタリな名前だな。」


テスタさんは高笑いし始め、テトは不満そうに何かを訴えていた。


「ところで、テトはなぜテスターさんにビンを?」


「あぁこれかい。牛乳を分けてもらいに来たんだよ。」


「牛乳を?」


テトの方を見るとテトはこっちを向いてなぜか怒っているように見えた。


「飲むのかは分からないがおそらくチーズをつくりたいんだと思うが」


「テトがチーズをですか?」


テスターさんは詳細を教えてくれた。どうやら、先日の昼食にパンとスープを出してあげた際にそのパンの上に水牛の乳で作ったチーズを添えたら大喜びして家にあった1斤のパンをたいらげてしまったそうだ。これにはテスターさんも目を丸くしてしまったそうだ。チーズをねだったそうだがその日チーズを切らしてしまい、なら自分で作ってみればと提案したそうだ。


「さすがに厚かましすぎる。けど、テトってチーズを作れるの?」


テトは少し考えた後で親指を立てた。


「まぁ分からなければ雑貨屋のマアサに聞けばいいさ。発酵菌も持っているはずさ。」


あぁ雑貨屋の店主さんか。そんなこと言ったらこいつ頭なしに雑貨屋へ行ってしまう・・・でもいいのか。


「テト、マアサさんが君のローブのほつれを直してくれるから。牛乳をもらって雑貨屋へ戻ろうか。」


テトは2回頷いた。調子のいいやつだと思いながらもテスターさんから牛乳をもらい再び雑貨屋へと戻った。




ギンガルの村での生活はとても心が穏やかになった。テスターさん夫妻は温かく迎え入れてくれて、農場での手伝いや水牛の世話をしながら暮らせる。さすがに居候の身。申し訳なさからテスターさんには少しばかりお金を渡そうとしたが受け取ることはなく、むしろ、仕事を手伝ってくれて助かっていると言われくすぐったい気持ちになった。時々魔物の被害があるたびにテトが率先して森や山に入っていくのでついて行く。オオカミの魔物の群れを壊滅させたり、寄生樹という周囲の木々を枯らす魔物を伐採、先日から大暴れしていた大型のクマの魔物を討伐。村人からお礼にいろんなものをもらっては平らげてしまう。あの小さな体のどこにあんな大量の食べ物が腹の中に入るのか不思議でたまらなかった。


獣の魔物を狩るたびに捌いては毛皮を剥ぎ雑貨屋さんへ持って行くと買い取ってくれる。そのおかげで懐も豊かになった。新しい短剣も新調し、丈夫な帷子と小手などの防具も身に着けられるようになり、だいぶ勇者ならぬ冒険者には見えるようになったと思う。しかし、実際に魔物狩りへ行くと魔物に追いかけられるたびに


「テト!助けてくれ!!」


とついついあいつの名前を呼んでしまう。すれ違い様に相手の正面へ飛び出すテトは相手の一撃を交わし、相手の懐に入り死角から首めがけて一撃でしとめる。膝をついて息を整えている間にはもう事は済んでいて狩った魔物を俺の前に持って来るのだった。そう、万年後処理部隊として下っ端なのだった。自分では分かっている。武術や剣術を習い、魔物を討伐しないといけないと。けど・・・『こわい!』。結局、お金の使いどころはテトの食費と日用雑貨ぐらいしか使っていない。お金がたまる一方で状況は何も変わっていないのだった。


そして雑貨屋さんのマアサさんはというと、テトの狩った魔物の毛皮の脱脂、なめすのに忙しく、どうやら魔物の毛皮はご貴族様のお召し物の素材に重宝され、冒険者たちの所属するギルドへ依頼は出されるが刺し傷や痛みによって状態はあまりよくなく、テトのように急所めがけ一振りで魔物を殺すため状態がキレイなのだ。その毛皮のことを聞きつけ行商がより多く来るようになり買い付け額も上がったことから雑貨屋さんも潤い始めた。


ただ、テトが安定して狩に行っているわけでもないのでその時々で手に入る量もまちまち。それになめす職人もなくマアサさんは予約制みたいな形で行商に卸していた。




とある朝、目が覚めるとテトがいなかった。勝手にどこか出歩くことは日常なので特に気にせずテスターさんの手伝いをしていた。昼頃みんなで昼食を取ろうとしていたとき、テトが帰ってきた。そして、外から獣の声がしてみんなで外へ出るとふわふわした毛並みをしたウサギの魔物が脚をロープで絞められ身動きが取れずうごめいていた。


「テト。また狩ってきたのかい?まずは昼食にしよう。それから捌いてあげるから。」


テトは首を横に振った。そして、魔物に指を差して何かを伝えようとしている。何だろうと思いそのウサギの魔物に近づくとだいぶお腹が膨れていた。それを見て察した。


「テト、まさかこの魔物飼おうと言うんじゃ。」


テトは頷いた。


「さすがに魔物は飼えないし、危ないよ。」


それを聞いたテトは家の納屋の裏の空き地に行きそこに黒光りする結晶を取り出した。今、どうやって取り出したのかは分からなかったが空き地の真ん中に置き、そのウサギの魔物を連れてきて脚にしば縛っていたロープを解いた。


「おい、テト!それじゃウサギ・・・が?」


ウサギの魔物は大人しくなり、行動が遅くなっていた。テトはウサギの魔物を撫でている。一体何が起きたのか分からないがテトに近づいてみた。そのウサギは身を丸くして寝始めた。魔物が大人しくなる?そんなことって。テトはここで飼えと言わんばかりに訴えてきた。後ろで呆然とその光景を見ていたテスター夫妻と目を合わせ再びテトに視線を戻した。


「えっと・・・まず・・は。囲いを作らないとね。」


自分でも何を言っているのか、と思いながらそのウサギの魔物を飼うことになった。最初は魔物を飼うことは反対だったが雑貨屋のマアサさんにこのことを話した時、テトがどうしてウサギの魔物を連れてきたのかが分かった。


「テトちゃんが遊びに来てくれた時に取ってきてくれた毛皮の山を見て指を差していたの。それであの子に毛皮をなめす仕事も手一杯で、けれど、毛皮も安定して手に入るものでもないから人を雇って招くこともできないって話したの。たぶん、それで毛皮になる魔物を取ってきたのだと。」


正直、善意でやっているのか食い意地でやっているのかはさておいて、過疎になった村で新たに雇用を生むのは難しい。今の機会を逃すといつかはこの村まで廃村となってしまう。ここは善意と取って、テトが取ってきた魔物を飼うことを改めて決めた。




テトが何回か魔物を狩りに行った際にまた数匹ウサギの魔物を連れてきて空き地に作った飼育場へ放した。結局、世話係をするはめになり、テスタさんの農場で育てて散るキビの葉や皮の部分などいらないところをもらい飼い葉代わりにしたり、村の商店へ廃棄の野菜などを破価でもらいそれを餌にして育てた。魔物の繁殖力はすさまじく一回の出産で5匹ほど生まれ、2か月くらいで成体になる。個体の管理が大変だが数が増えてくにつれて間引いていく数も安定していき一月に30枚は取れるようになっていった。


それにこのウサギの魔物の肉はすごく味が良かった。捌いたウサギの身がキレイなピンク色をして鶏肉のような油の照りをしていたのでテスター夫妻と一緒にこの肉を焼いて食べたところ鶏肉と変わらない触感と何より肉に甘みがあった。すぐさまテスターさんはこの肉を卸に行ったところ評判となり、商人だけでなく冒険者や旅行客などが訪れるようになった。このウサギ肉を目当てに人が増えたことで村唯一のバルもこのウサギ肉を提供しはじめ次第に忙しく手が回らなくなった。あの診療所でベンチでゆったりとしていた爺様も今じゃ焼き場でウサギ肉の串を焼くはめになっている。


このウサギの魔物の皮と肉は村に富をもたらし徐々にこの村にも活気が付いてきた。空き家だった家は新しく内装工事がされ新たな住人が迎い入れられた。それでも村への入居希望が絶えず昔オルゴールの工房だったボロボロの建物を修繕して他の町から大工を住み込みで働いてもらうよう呼び込んだ。新しく家を建ててもらいさらに村人が増え続けていった。建ててもらったものはそれだけでなく、雑貨屋の横には工房が建てられ鞣す職人や縫製する女の働き手が勤め新たな雇用が定着していった。


そして、3年が経ち、村は町になった。テスターさんの家は大農園になり、従業員を抱えるほどに成長した。農場でのキビの栽培はもちろん、ウサギの魔物の世話も増員して日々世話しながらも充実している。マアサさんの工房は商会との提携により工場となった。それによりマアサさんの雑貨屋は商会の窓口として発展し、小売りだけでなく買い付けに来た商人を一括して取引するまでに発展した。


俺はというとテスターさんの空いている土地に家を建ててもらった。これもすべてテトのお陰である。大きな家ではないが部屋が2部屋と客間と台所、浴室もついている。そして、農園を見渡せるテラスもついている。テトと一緒に暮らすには十分な家である。今は、マアサさんの手伝いをしながら商会の人とやり取りをしテスターさんの所で取れる毛皮やキビなどの生産品の卸や管理をしている。この仕事かなりお金になり、忙しい日々で使うことはないが暮らしに困らないぐらいの貯蓄を得られた。


テトは相変わらず町をうろちょろしては町の人からいろんな食べ物をもらっては食べ、困っていることがあれば解決してまた食べる。ただ、テトが町の人と交流するたびに町の中も気持ち豊かになっているのを感じている。やはり、テトは『神の遣い』なのだと思ってた。


そう言えば、あれから3年が経ったが完全に勇者になることを忘れていた。正確には忘れてはいないがあまりにここでの生活が充実しているため勇者になる必要がないと分かったからだ。それと、行商とのやり取りで海の向こう側がどうやら故郷のある大陸があると知り、育ててくれたレイドールの義父母に手紙を書きたい気持ちがあったがさすがに勇者をあきらめてこの地で元気にやっているとは書けず、いつか必ず帰ると心に刻みこっちでの生活を満喫している。




そんなある日のこと俺の家にイレイア国の主都から使者の方がここを訪ねてきた。家の前で一礼され戸惑いながらもこちらも一礼した。


「はじめまして。王都から来ました、ジェイス・グラレンスと言います。」


「レオと言います。わざわざこんな田舎に脚を運んでいただきありがとうございます。どうぞおあがりください。」


ジェイスはかなり格式高い身なりをして従者も連れてきていた。こぢんまりとした客間に向かい合わせになりながら一体何用で来られたのかと少し警戒した。そして、貴族社会の礼儀作法も知らないのでどのように対応すればいいのか分からず


「すみません。正しいふるまいも教わってこなかったので失礼があるかと。」


「いえ、構いませんよ。突然押し入ってきてしまったこちらこそ不躾だったかと。」


軽く会釈して返した。


「ところで今日は何用で?」


「はい、実はあなたが飼われている魔物についてです。」


「えっ?テトのことですか?」


「そうです。ここギンガルの発展の話は伺っております。その立役者にそのテトさんが噛んでいると。」


確かにギンガルに来てからここでの生活は豊かになった。テトが村を豊かにしたいと思ってわけではなく、おいしいものがいっぱいあってみんなからたくさんもらえるからという理由で本人はやっていることについては言った方がいいのだろうか。


「確かにテトは村人、いや町の人々と交流していますが直接的に発展にかかわっているわけではないです。」


「はて、そうなんですか。」


「テトは魔物です。村の発展とかはべつに考えてはいないかと。単に町の人のお手伝いをしてきた結果このようになっているだけです。」


「では、それは偶然とおっしゃるのですか。」


「テトが村の発展に関してきっかけをくれてるのは事実かもしれません。けど、それはテトが望んだことではないんです。」


使者の方は少し考えた後で話した。


「レオさんは海を渡った隣国のお話は聞いたことありますか。」


「隣国ってベルリッツ王国ですか?」


「そうです。今、ベルリッツ王国は魔物によって支配されてしまったのです。」


レオは一瞬固まった。そして聞き返した。


「今、なんて?」


「ベルリッツ王国はとある侯爵家が魔物と手を組み謀反を起こしました。それによりベルリッツ王国の王は失脚し、現在はその侯爵家が王の座につましたが決定権はその魔物が握っていると。」


「そんなことって。実はベルリッツ王国の田舎には身内が暮らしていて。」


「そうでしたか、我々が知っているのは各街や村には魔物とその侯爵家の手が入ったものが駐在していてそれぞれが統治していると聞いております。いくら魔物とは言え虐殺など考えはしないと。今のところは・・・。」


バカな俺でも分かった。いくら人間を手を組んだところでそこは魔物だ。いつ手のひらを反すのか分からない。限りない猶予の中をベルリッツ王国の住人は天秤にかけられている。


「お話を戻しますがそう言った事情があり、テトさんも、もしやその手先なのではと考えた次第でこちらに。けど、こちらに伺う前にいろいろと調査しておりましたが危害を加えるどころか人間と交流し、何よりよく食べる変わった魔物だと分かりました。」


『ドン!』と台所の方から何か大きな音が聞こえたが気にせず話した。


「それは、このイレイア国にも危機が迫ってきているとおっしゃりたいのですか。」


「お察しの通り。この国だけでなく他隣国も脅威に立たされていると過言ではありません。」


「尚更、俺たちはどうすればいいのですか。」


「イレイア国には大魔導士レノヴァ様がいらっしゃいます。レノヴァ様の下で魔導士たちの育成及び防衛を担っているため戦力としては申し分ありませんが、話によるとその魔物たちは魔法とは違う変わった能力を使うそうで、その対抗手段がないのが現状です。」


この3年もの間で国の情勢がここまで変わってしまうなど思ってもみなかった。村のみんなは無事であろうか。ここからだと半年以上かかる道のりだが今からベルリッツ王国へ向かうべきか。


「ここからベルリッツ王国へは行けるんですか。」


「残念ながら、現在ベルリッツ王国からの船の受け入れを禁止しているためこちらからも行くことはできなくなっております。身内の方々を心配されているとは思いますが自国の民を危険にさらすことはできません。」


「そう・・なんですか。」


なす術はない。けれども、こんな俺がベルリッツ王国へ行ったところで何ができようか。そう言えば俺の品格者の能力は一体何なんだ。分かったところで俺にはどうすることもできないが。


「けど、どうしてこの情報を自分に?町の人も知らないのでは。」


「確かに今このベルリッツ王国の状況を知っているのは封鎖している港町の所と王都での貴族や職員のみ。しかし、この事実が知れ渡るのも時間の問題かもしれません。あなたにお伝えしたのはやはりテトさんの主ということであり何らかの手段があるのかと思いまして。」


それは買いかぶりすぎるのではと思った。イレイア国の抱える現状を考えれば藁でもなんでも掴んでおきたいのだろう。


「ジェイスさん。言いたいことはわかりました。しかし、テトは魔物であって確かに強く頼もしいところがある。けれど、こんなちっぽけな魔物に国の命運を背負わせるほど確かな対抗策にはならないかと。」


すると『ドンドン!』とまた台所からまた大きな音がして座りながら扉の方をみた。テトが騒いでいるのかと気にせずジェイスさんの方に視線を戻した。


「そうですね。申し訳ございません。行きなりこちらに参上した挙句に手を貸してほしいなどと虫が良すぎますね。」


「いえ、非常事態になりそうなゆえにこの国を脅かすのであればこちらも考えなければいけないかと。」


「その若さでご立派です。感謝します。」


ジェイスさんは一礼をした後で家から出て行った。ジェイスさんを見送りながらテトのことを考えた。テトがこの国を守れる?出会って3年が経ったがいまだにテトのことなんて知らないし、確かなことは食べ物につられている魔物で食いしん坊ぐらいかと。人に危害がないからといってそこまで信頼できるものだろうか。ジェイスさんの姿が見えなくなり家に入ってテトを探した。けれども、テトは家にの中にはいなかった。


「あれ、さっきまで台所にいたのに。」


そのうち帰ってくると思い特に気にもしなかったがその日テトは帰ってこなかった。町のあらゆるところ探したが見つからず、町の人も心配して一緒に探してくれたがやはり見つからなかった。確かではないが森の中へ入っていったのだろう、そのうち帰ってくると判断し気長に待つことにした。




そして、テトが帰ってきたのは家出して1か月が経った頃だった。ノックの音で目が覚めて寝ぼけ眼のまま扉をゆっくり開けるとそこにはテトがこちらを見上げていた。


「あっ!テトおまえどこ・・に・・・。」


気が付かなかったがテトの左側には女の人が立っていた。少し考えた後で話しかけた。


「えっと・・・どちら様で?」


凛とした顔筋にきりっとした大きな目、ブロンズの髪をした美人な女性だった。丈の長い羽織をかけているが身なりからしてどこかの貴族様の令嬢のような感じがした。


「はじめまして。えっと、リリアと申します。アぅ・・・あっテトさんに連れられてこちらに来ました。」


「テトが連れてきた?」


テトに目をやるとこちらをじっと見つめ手を挙げて何かを伝えていたが分からない。


「実は・・・とある悪い組織に追われていて、逃げている道中にテトさんに助けていただいてそれからこちらへ案内していただきました。」


こいつ厄介ごとを持ち込んできてないか。悪い組織って何?えっこれはどうすれば・・・。


「すみません。状況が分からないものなので、役場の方にご案内しますのでそちら、いてぇ!」


話している最中にテトに脛を蹴られた。痛いあまり屈み込み、リリアさんが『大丈夫ですか?』と近寄ってきてくれた。そして、テトは仁王立ちして、リリアさんに指を差して次に家を指さした。どうやら匿えと言っているようだが。


「テト!痛いじゃないか!それに匿うなんてできないよ。それにどこのお嬢さんか分からない人を男一人、魔物一匹の家に住まわせるのか?普通?」


テトはムッとしている。見かねてリリアが割って話した。


「ごめんなさい。レオさんの言っていることはごもっともだわ。迷惑もかけられませんし。」


どこか不安そうな様子なのはわかった。だいぶ痛みが引き、立ち上がりリリアさんに言った。


「とりあえず中にお入りください。お茶でもお出しします。」


「いえ、ご迷惑になるかと。」


リリアさんはそういうが、これはもうテトの思う壺だと分かっていた。一先ずリリアさんから状況を聞いた後で返事をしよう。


「テトが連れてきたんだ。お茶の一杯も出さないなんてこちらこそ無礼です。どうぞ、お入りください。」


リリアさんは微笑みながら『ありがとうございます。』と言った後で家の中へ上げた。あれ?俺の名前ってリリアさんに言ったっけ?まぁここに来る前に町の誰かに聞いたんだろう。リリアさんを客間に案内し話を聞くことにした。




リリアさんは主都で商売で成り上がった貴族の令嬢のようだ。商売が上々としていくにつれて同業者から嫉妬の眼差しを向けられることもある。どこの差し金なのか分からないが商会に嫌がらせがあったり、リリアさんも主都で連れ去られそうになったことも。なぜテトが主都まで行ったのかは分からないが、リリアさんのご両親が身を案じてか娘だけでも安全なところへと疎開させようとしてリリアさんはそこへ向かう道中だったそうだ。そこで悪い組織の人間に襲われそうになったところをテトが助けた。本当に助けたのか?と思いたくなるがそういうことにした。襲撃に会った際に一緒についてきた使用人はリリアさんを守るためけがをしたため疎開先に行くのが困難になり一度主都へ引き返したそうだ。一度主都に戻った後、そこでテトがこの町なら案内できるとリリアさんのご両親に打診して彼女を連れてここまで来た。


何か違和感を感じるがこのままリリアさんを返すわけにもいかないので、


「分かりました。ただ、あいにく部屋がなく客間をなんとか使っていただいて。」


「そんな大丈夫です。こちらこそご迷惑おかけする身なので。」


リリアさんは申し訳なさそうにしている。するとテトが自分の部屋を指さして訴えかけていた。


「えっ?テトの部屋?けど、ベッドが一つしかないし小さいよ。」


「テトさんとご一緒なら床に寝ようが全然平気です。」


「いや、それではこちらの立場が・・・。」


こうして、リリアさんが家に住むことになり、ベッドは大工さんに新しく作ってもらいテトの部屋で居候になることになった。ただ、町の人々はリリアさんがやってきたことで『レオに嫁が来た!』など騒ぎ立て、事情が事情なため本当のことは言えない。ここへ来た理由を脚色しながらこの町に出稼ぎに来たということでマアサさんの工房で裁縫の仕事を担いながら生活することになった。男一人、女一人に魔物一匹の生活が始まったのだった。



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