テト こっちが序章?
今の翻訳機能ってほんとすごいですね。
ニュアンスを拾って訳できているからたまに仕事や友達とのやりとりで使うんですが
昔、外国の方に道を聞かれて持っている語学力を活かして小学生レベルの道案内に成功した時
「私の英語歴はいったい・・・」と落胆したことを思い出した。
夜も更けた高原の一本の木の下に一匹の悪魔がいた。大きさは50センチくらいで一見悪魔とは思えない可愛らしいなりをして、裾がほつれ使い込んだローブを纏っている。
ちょうどいい石の上に座り,焚火に薪をくべ、ぱちぱちとはじける音に揺らぐ火を見ながら足をパタパタさせていた。虫の音と風の擦り抜ける音がさらに高原の舞台を盛り上げる中でも別にこの悪魔にとっては特に感性を持たず、ただじっと火を眺めるだけだった。
三日月がてっぺんから通りすぎた頃、この火に気づいた良からぬ輩たちが遠くの茂みからその悪魔を見ていた。そいつらは3人組の賊で強盗。必要であれば殺人、人さらいもする。
盗賊A「おい、あんなところにおチビちゃんが一人で。」
盗賊B「奴隷商に売ればまぁまぁな金になりそうだ。」
盗賊A「どうしやす。アニキ。」
盗賊の頭「無垢なガキだ。うまくついて来させれば手荒な真似をしなくて済む。むしろ、傷つけない方が儲かる。旅人になりすましてうまく近づくぞ。」
三人は何も警戒せずその悪魔に近づいて行った。
近づくにつれてそれが人間の子供ではないことに気づいた。
とんがった耳に三寸ばかりの角、魔物・・・。
三人は顔を見合わせたが足取りは止めずに二人は少し頭よりも下がり後ろについた。
だいぶ近づいたときに頭はその悪魔に声をかけた。
盗賊の頭「やぁおチビちゃん。こんなところで一人かい。」
その問いかけにその悪魔は振り向かず、ただ火の揺らめきをじっと見つめていた。
その反応に後ろ二人は腰の剣に手をかけた。
《魔物でも、ものによっては高値で売れる。見たところ特に警戒はされていない。隙だらけだ。》
盗賊A「お兄さんたちと遊ばない。おとなしくしてくれたら命までは取らないから。」
後ろの手下が剣を抜いた。しかし、その様子も見ずにその悪魔は木の枝を拾い上げ焼き焦げた薪つついている。これは、殺れるとにやけた顔を浮かべた盗賊の頭も自分の剣を抜いた。その悪魔の右手に回り剣を突き付けた。
「おとなしくしな。手荒な真似はしたくないんだ。」
頭が言いかけた瞬間、すべての音が消えあたりが真っ暗になった。火の明かりさえも見えなくなり、剣を突き立てていた悪魔さえも姿が見えない。その状況に驚きパニックになる三人。
「おい!なにも見えないぞ。」
「どうなっていやがる。」
ただ剣を握る感覚だけ。剣を左右に振っても何かにあたる感触もない。手下の一人が剣を落とし腰をぬかした。手下のもう一人は剣を構えながら右往左往に体を向ける。
「落ち着け。何かの魔法だ。『センサー』(近くにいる生き物を感知する魔法)を唱えろっ。」
言いかけた瞬間に感じた、後ろに何かいる。その気配に頭はゾッとした。
《あの悪魔なのか。でも何なんだこの明らかに獲物にされている感覚。》
剣を強く握った右手が震える。自分の本能が言っている。後ろを振り向いたら確実に殺られると悟った。
額から汗が流れ、生唾を飲む。
「おい!お前らいるか!」
返事がない。
「おい!どうした!返事をしぃ。」
何かが体全体にまとわりついた。もがいても取れない。絞めつけられる。声も出ない。
《やめろ!やめ…ろ…。》
その悪魔は火をじっと見つめていた。一匹の羽虫が火に飛び込んでいく姿にも目もくれずただその火の揺らめきを見つめていた。
「アルヴァン様、不埒な輩は片づけました。」
黒い布が体全体を覆い、その中心に赤い眼のようなものが光る魔のものが木のそばから現れ、その悪魔に話しかけた。
「アルヴァン様。このまま油を売っていてはエネヴァー様に先を越されてしまいます。すぐにでも品格者の討伐へと。」
その悪魔は立ち上がりその魔のものを見て言った。
「別に王になろうがならまいが興味はない。正直、退屈なんだよね。品格者相手にしたところでその場しのぎだし。それに相手にならないし。」
「いけません。アルヴァン様は王にもっともふさわしいお方です。王になってもらわないと私の側近としての立場が哀れすぎます。」
「それ主人に言うこと?」
「私は強気なのですよ。あの胸糞悪いメージなんかに負けたくありません。」
エネヴァーは魔王直属の幹部の一人でひょうきんな奴だが人をおちょくってはいさかいになることが多かった。アルヴァンもまたエネヴァーを嫌っていた。しかし、突然現れたどこの馬の骨か分からない奴がいきなり魔王の横に並ぶなんてエネヴァーとしては許せないと思ったに違いない。そしてメージはエネヴァーの側近で正直この魔のもの改めシドよりもはるかに礼儀正しく執事として完璧な影の悪魔だった。
それを考えるとアルヴァンは思った。
《どうして俺の配下はこんなにこじれるのだろうか。》
「アルヴァン様。言葉にしなくても何をおっしゃたのか分かるんですよ。勘で。たとえどう思われようと必ず、必ず王になっていただきたい。よろしいですか。」
《めんどくさいな・・・。》
「ほらまた!?心の声が漏れているんですよ!顔でぇ!!」
アルヴァンはシドの姑くさいところが嫌だった。一度本気でシドから逃げ切ってのびのびと南の国の桟橋で糸を垂らし釣りをしていたら突如嫌な気配が漂ってきた。振り返り砂浜の方へ目をやるとまがまがしい黒い物体が堂々と迫ってきていた。アルヴァンはその時思った。
《あいつ隠す気ないじゃんか。》
そもそも、シドは影に潜む魔物であり、普段はアルヴァンの影の中に身を潜めている。それが日が高くなった砂浜を歩けるんだと驚かされたのであった。しかし、ようやく目の前までやってきたとき
「やっ・・・やっと・・・。」
シドは力尽きて倒れてしまった。そのまがまがしい布が焦がれチリチリと燃えている姿にアルヴァンは再び思った。
《あーあーやっぱりな。》
さすがに死んでしまうのはよくないので自分の影にシドを突っ込んだ。アルヴァンは敵、味方から見つからずに移動することに自信はあったがここまで執念深く探しにくるとは思ってもみなかったため
《次はどこへ逃げようかな。》
内心楽しんでいた。そして今まさにシドから逃げようと思いついた。しかし、今は夜なので一進一退の逃亡戦になってしまう。小さくため息をついてシドに言った。
「日が出たら始めるさ。」
再び石の上に座り焚火の火をじっと見つめた。シドもそれ以上言うことなく影の中へ消えていった。