この川の向こうにはきっと新たな冒険が待っている、のか?
アルヴァンが戻ってきたときにはすでに解体が終わって、レオは取ってきた食べられそうなものを広げて悩んでいた。
『何してんだ?マヌケ面。』
それに気づきレオはアルヴァンに言った。
「さぁテト、ここにあるものを食べられる物なのか分けてくれ。」
《俺に分けさせるのかよ。》
とアルヴァンはめんどくさがったが、取ってきたモーダリの種を紛れ込ませることが出来ると思い、あわせて採取したものの選別を行うことにした。
手にとって嗅いでみたりして
『これはまずいからいらない。』
『うーん、このきのこは煮込むとおいしい。』
とこんな調子で黙々と選別を行っていった。
選別を終えてモーダリの種を紛れさせることに成功したアルヴァンは料理ができるのを楽しみに待った。
「あの・・・アルヴァン様。さっきの選別の時自分の好みで分けていましたよね。目的はどうしたんですか目的は!」
シドは影から様子を伺っていた。
選別するのは言いにしろせめて毒草も紛れさせろよと言いたかった。
「えっ?嫌だけど。毒が入ってたら怖いじゃん。」
「あんたもともと食べる気だったでしょ!それに食べたとしても毒に耐性があるでしょ。」
「主に向かって『あんた』って。だとしても味が悪かったら嫌だ。」
シドは思った。アルヴァンのこう言うわがままなところが遠回りしている元凶だと再認識した。
料理が出来上がり、アルヴァンはレオのそばで鍋の中を覗き込んだ。
ほのかに甘い香りがしてあの獣が入っているとは到底思えない出来になり満足した。
「さぁ召し上がれ。」
レオからシチューの入った皿を手渡されると両手で受け取り、もう一度匂いを嗅いだあとで一口食べてみた。
《少し煮込みが足りないが味は悪くないな。》
とあっという間に平らげてしまった。
おかわりをねだった時、レオは嬉しそうに皿を受け取りシチューをつけた。
「アルヴァン様。人間より先に食べちゃダメでしょ。」
「ほら全然何ともないから不死身だった。」
「・・・。」
アルヴァンは完全に目的を忘れていた。
「テト。このまま川を下ってみよう。」
シチューを食べ終えて片づけた後、突然レオはアルヴァンに向かって言った。
《いつの間にか一緒に行くことになってる。》
アルヴァンはレオが謎に意気込んでいるのに違和感を覚えたが、丁度検証したいこともあったのでとりあえずあたりを見渡して大きな木のそばへ行った。
そして、手刀で大木を切り裂いた。
「テト・・・。なんで木を切ったんだい?」
《なんでって。川をくだるんだろ?お前が言ったじゃないか。》
アルヴァンは木を指さし次に川の方を指さした。
「さすがにそれは無理じゃないかな。この先滝があったら完全に落ちちゃうし。」
そんな言葉を無視してアルヴァンは大木を持ち上げて川のそばへ運んだ。
すると、森の奥からどんどん音が近づいてきていた。
「アルヴァン様。やっぱり来ましたね。根の方が。」
「さすがにあれと戦うのは・・。汚れるのは嫌だから、さっさと逃げないと。」
アルヴァンは器用に横に切った大木に大きなくぼみを作り、先端を鋭利に尖らせるように手刀で切り、残った木の所でオールを作って一瞬で即席のカヌーを完成させた。
「もう、魔物辞めてこういうお仕事をされてはいかがですか?アルヴァン様。その際は私を助手に。」
「ほんと口が減らないなぁ。」
早速作ったカヌーを川に浮かべてカヌーの先端に乗った。
その時、ついに森から奴が現れた。体長4メートルのクマの魔物が現れたのだった。
「テト!まずい、魔物だ!!テトぉ・・。」
カヌーに気づいたレオは咄嗟に川へ入りカヌーに乗り込んだ。
このクマの魔物はもう死んでいる。
正確にはモーダリの植物が魔物や動物の死骸に寄生して、体を乗っ取った時点で沼地にて生息する。
そうこの熊はアルヴァンが取ったモーダリの下の部分、根なのであった。
基本的には水で大きくなるが危険が迫ると下部の死骸を動かして身を守っている。
「どうしよう。追いつかれるよ!」
《あぁもう、依存してきやがって。少しは自分で考えられねぇのか。》
とアルヴァンは呆れて手に持っていたオールをレオに手渡した。
オールを手渡されレオは必死に漕ぎ始めた。
何とか川中まで離れることができ、モーダリも川岸で止まり睨みつけていた。
レオは漕ぐのをやめて息を整えた後でアルヴァンに強く言った。
「テト。一歩間違えていたら死んでいたかもしれないんだぞ。」
《いや、死んでくれても良かったんだけどなぁ。》
アルヴァンはレオの方も見ず、そろそろ滝に差し掛かろうとしていることにワクワクしていた。
「テト。ごめん。そもそも自分の意気地なさだよな。今度からは気を付け・・・えぇぇぇぇええええ!!!」
レオの感情の起伏さにアルヴァンは《忙しい奴だな。》と思いつつそろそろ飛ぶ準備をし始めた。
レオは逆らって漕ぎ始め岸に寄せようとしたが滝に落ちる。
その手前でアルヴァンは高く飛んだ。
「うわぁあぁあああぁあぁぁっぁぁぁ。」
レオの叫び声が響き、レオはカヌーごと落ちていく。
アルヴァンは大きな麻布を広げ落下傘代わりにしてゆっくりと滝底へ落ちていった。
少し行った岸に着地したアルヴァンは麻布をしまった。
すこし行き過ぎたかと川の方を見るとカヌーが丁度横切って行った。
しかし、レオは乗っていなかった。
「沈んじゃいましたか?」
「うーん軽いからもうそろそろ流されてくるんじゃ・・・。」
するとうつぶせの状態で流されてくるレオがやってきた。
アルヴァンは川の水面を歩き、レオを回収して岸に戻った。
レオは気を失っているだけだった。
あの高さから落ちてもショック死せず息をしていた。
「これも失敗でしたね。」
「残念。」
検証3 水死。不慮の事故でさようなら。失敗。
「さて、これからどうしましょうか。って分かっているんですけどね。どうせギンガルの村へ行くんでしょ。なら早くいきましょう。」
「なんでお前がめんどくさがっているんだよ。」
「アルヴァン様。冷静に考えてみたら、別にこの人間がカギになっているとは限らないのですよ。ただ、尋常なくらい硬いだけで戦闘力皆無な人間が果たしてこの先・・・」
《あぁいつものね。いつもの。》
アルヴァンは話に夢中になっているシドをよそにレオのリュックをカエルにしまった。
《けど、ここからだとまだ少し距離があるし、移動魔法するのも疲れるなぁ。》
「聞いていますか!アルヴァン様。」
「あぁ!もううるさい!わかったわ!」
「本当ですか?」
《こいつぅぅう!》
アルヴァンは心の声が漏れそうだった。
シドとの絡みが終わった後で、アルヴァンは再びレオを川へ投げた。
そして、浮いてきたレオの背中に乗って川を下って行った。
「人間ってこういう使い方があるんですね。」
「こういう時に不死身ってすごいな。」
川は緩やかに流れていく。
時には岩にぶつかりながら。
時には岩との間にせき止められた流木に引っ掛かりながら。
「コントロールが難しいなぁ。」
「これ普通に移動魔法使った方が早かったのでは。」
流木に引っ掛かったレオを再び投げ、すかさずアルヴァンは背中に乗り込んだ。
下流に近づいてくると次第に川幅は広くなり平原へと出てきた。
そして、その向こうにはギンガルの村が見えていた。
ご拝読ありがとうございます。
この度、テト~序章~が完結いたしました。
約一か月と順次掲載させていただきましたが、やはり仕事しながら書くのって難しいですね。
けど、物語の細部を考えながら書き進んでいくと本当に楽しいです。
何だろう、書いてて『そうか、テトは本当はこういう風に動いているんだ。』と気づくことや
新たに書き足すこともあります。
ただ、やはり辻褄が合わなくなっているのではと読み直して修正することもあり
書いていくにつれての難しさを感じているところもあります。
正直、どれだけの人が本作品を見ていただけているのかは分かりませんが
より楽しめる作品になるように引き続き執筆して参ります。
今後ともよろしくお願いいたします
安田丘矩




