生まれた意味を問うよりも生きていく日々を歩く
栗がおいしい季節になりましたね。栗ようかんにモンブラン、焼き栗に栗おこわ。
けど、栗をわざわざ買って下拵えしてまで食べようとはしませんね。
あの渋皮を剥くのがつらい。子供の頃手分けして剝いていた時は特はそこまで苦じゃなかったけど、
大人になって一回だけ、立派な栗の木があって栗を拾ってお家で栗ごはんにしようと
剥いてみたら渋皮が堅いの。包丁で向いてもあれ難しい。
子供の記憶のまま、余裕だと思ってたらさすがにつらかった。そして、ようやく栗剥いて
栗ご飯炊いて食べたら、そこまで甘くなかったという取り越し苦労。
そのトラウマ?があるから栗は牽制してきたんだけれども、渋皮を簡単に剥く裏技を見て
またまたぁ~と思いつつ、ちょっとやってみようかなとミーハーなことを企む
そして、ディオスは魂だけになり自分の生き写しの依り代をじっと見つめた。体が地面に叩きつけられ身体が変なところに曲がっている。その身体にはレオという男が生きていた。変な気分だ。それは自分の末路を俯瞰し見ているようだった。
「これが死というものなのだろうか。やっと、自由になれた気がする。」
ここまで長かった。依り代と鏡を探し始めた時、真っ先に風の便りを使って予知した。そして、それが現れるのは1000年も先だった。文句を言おうにもテスカトリポカは自分の前には現れず、長い時を経て依り代と接触してようやくわかった。
初めからゲームなんて興味なくこのゲームを終わらせていく過程を奴は楽しんでいたんだと。そして、ディオスはもうどうでもよくなってしまった。あんなに執着していたことが風化していき、逆に魔王になったことで人間であったことを忘れられた。
魂だけの姿になってようやくロジャースのことを思い出した。どうして、今まで忘れてしまったのだろう。そもそも、なんで平和を望んでいたのだろうか。姿も変えて手に入れたかったものは、本当は時間だったんだ。人間の一生なんて本当に短いものだ。魔王になって気が遠くなるような時間を弄び、手に入れた物なんて一つもなかった。
「レオさん!!!レオさん!!!」
どこかから女性の声がした。この依り代の男を呼んでいるようだ。こちらに近づいてくる。
「レオさん?・・レオさん!!!」
その女性はその依り代を発見するなりすぐさま近づき抱きかかえた。ぐったりしている依り代に泣きながら何度も何度も声をかけた。
「いや・・!嫌よ!こんな所でお別れ何て!起きて!!起きて、お願い!」
そうか、依り代の男には妻がいたのか。生まれが違えばこんなことにならずに済んだのに。本当にすまなかった。
「謝るぐらいなら。最期まで責任を果たせよ。」
突然、言葉を向けられ振り返るとそこにはメティスがいた。
「お前は・・・。」
「こんなしみったれているのが魔王だって?冷酷無慈悲な野郎だったら良かったのにな。」
「余計なお世話だ。所詮は人間にも魔物にもなれなかった。何物にもなれなかった。そして、全てを失った。愚かな男だよ。」
「最期だから感傷に浸って、消えてなくなればそれで終わりか。身勝手で無様なものだな。」
「そうだな、何とでも言ってくれ。」
「なら責任を果たせよ。あのボロボロになった身体に入ってちゃんと人間になったらどうだ。」
「何を言っているんだ?もうあの身体では無理だ。」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。お前が撒いた種なんだろ。自分の無念を人に擦り付けるな!馬鹿!」
メティスは呪文を唱え始めた。
「おい、何を!」
ディオスはその場から逃げようとしたがメティスの術が発動し、ディオスは依り代であるレオの身体に入った。入った瞬間にディオスの頭の中にレオの記憶が流れてきた。それを走馬灯に見せられた後、なぜか自分の記憶とリンクし始めた。
痛い。身体中が痛い。そして、足の感覚がない首さえも動かない。この女性に泣きつかれてもどうすることもできない。そうだ。もともと、能力を分け合っていたのであれば使えるかもせれない。ディオスはこの身体が治癒していくイメージをして目を開けると身体は元通りになっていた。
ディオスはすっと起き上がり崩れた塔の残骸を一点に見つめた。そして、横にいた女性に目を向けるとこちらを見て唖然としていた。突然、レオが起き上がったのでユリアは驚いて言葉が出なかった。
「大丈夫か・・・ゆ・・ユリア。」
レオの記憶からディオスはユリアのことを思い出した。その声を聞いてユリアはレオをギュッと抱きしめた。
「良かった!良かったぁああ!生きててくれて!!」
その言葉にディオスはハッとした。そうか、今まで生き急いでいたんだ。やること全てが空回りし続けて己のことを見ようとはしなかった。気が遠くなるような時間を越えてようやく人間に戻れた。そして、今彼女の感触によってより実感が得られた。
けれども、元の宿主であるレオのことを考えると後ろめたい気持ちになってくる。記憶がリンクしたとき感じたのは、依り代だとしても本当は一つだったんだと気づかされた。そして、一言『ユリアを頼む。』と聞こえてきた。
ユリアは一瞬我に返り腕を振り解いた。
「けど・・・どうして、心臓がないのに動いているの・・・?」
その問いにディオスは自分の身体を見た。そういえばテスカトリポカに鏡を抜かれたのだった。けど、なぜ生きているのか分からなかった。
「ごめん、よく分からない。心臓を抜かれて意識を失ってから・・・。えっと、何か強い力に引き寄せられて気が付いたら蘇っていた。」
「そんなことあるんですか?」
「おそらく、何かの魔法なのだと。ところで、どうしてここへ。」
「心配で居ても経ってもいられなくて。カイノスをテスターさんの奥さんに預けて探しに来たの。」
「危ないじゃないか。」
ディオスはなぜか自然に会話ができていた。これがレオの記憶とリンクした結果なのだろうか。
「そんなこと。レオさんこそ危ないでしょ!レオさんがいなくなったら・・私・・。」
「ごめん。心配かけてしまって。」
ディオスはユリアの肩を抱いた。