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テト  作者: 安田丘矩
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希望、そして、明日へ

最近、涼しくなったせいか一枚何か羽織らないとちょっと寒い。

先日まで日傘をさしていたのに季節がガラッと変わった気分。

けど、このまま季節ものの服を買っていいのか結構迷う。

今、順に季節が変わっている感じはあるけれども、また暑くなったり

もしくは急に冬やってきましただったら、どうしよう。

ここ何年も、季節の移り変わりがだいたい極端すぎたから信用できない。

まぁ自然相手ですからって言われてしまえばそこまでなんですけど。

せめて、ジップアップのパーカーかネルシャツくらいは買ってもいいよね。

ロジャースは炭鉱の町で暮らしていた。父親も鉱夫をしていて、この町の男らは大体この町の炭鉱に勤めている。ロジャースも炭鉱で働き家族の助けをして暮らしていた。しかし、戦争がはじまり、鉱夫たちは安い賃金で働かざる負えなくなり、家計が苦しくなっていた。そして、しばらくして徴兵令がだされたが、鉱夫については任意だったためロジャースは戦争に行かなくてホッとしていた。


戦争が過激さを増していくにつれて生活は苦しくなり、その日食べるのがやっとだった。そんな中で炭鉱の町で事件が起きた。敵がこの炭鉱に攻めてきたのだった。国の管理下になったため軍が常駐していたがその兵よりも圧倒的に多く、町にいる人間を手あたり次第殺していった。ロジャースと家族は辛うじて町から逃げることができたが、故郷が戦場と化して帰る場所を失ってしまった。


何とか、国の都市に近い街で暮らそうと試みたが街には仕事や戦火から逃れてきた人たちで溢れていた。そんな中で仕事も食べ物のある訳がなかった。その中でロジャースが見つけたのは志願兵の案内だった。戦争には行きたくなかったが、軍に志願した場合月ごとにお金がもらえる。家族は反対しながらもやせ細っていく家族を見ていられなかったロジャースは軍に入ることを決断しお金の家族に仕送りした。


ロジャースは訓練を受けた後、補給班として回され荷物運びや負傷兵の回収をしていた。そして、今回の作戦に呼ばれ出兵したのだった。


「一度、敵兵が隠れていた襲われた時があったんだ。あの時の顔は今でも忘れられない。俺が知っている人間という生き物ではないんだ。完全に人間を辞めてしまったんだ。だから、何者にでもなれるそんな感じだった。それはただただ恐怖でしかなかった。

体を押さえつけられて剣を突き付けられた時、一気に走馬灯が流れて、そして死を覚悟した。その時、戦闘兵が敵兵を切り倒してくれて俺は命拾いした。その敵兵の血がかかって手や服は汚れた時、震えが止まらなかった。その敵兵に目を向けた時、何かを呟いて、泣いていたのを覚えている。

その最後は戦闘兵によって首を斬られ地面に血が滲んでいった。その戦闘兵に立たせてもらって、俺は何も考えず撤退した。」


「ロジャースはそんな状態だったのにどうして戦場に立てるの?」


「もちろん、家族のためでもあった。けど、俺ももう人間を辞めたからだと思う。あの一件依頼拒絶反応はあったんだけど、結局戦場で自分の役目を全うしないといけない。だから、もうそこにある死は考えないように淡々と役目をこなしていった。

そしたら、そこに死体が転がっていてもなんとも思わなくなった。それが普通じゃないって分かっているんだ。けど、それを考えてしまったら自分がおかしくなりそうで怖かった。俺はもう人間には戻れないんだと、そして、そんな俺を家族には見せられない。そうか、これが戦争なんだと悟った。」


「けど、ロジャースは解放してくれたじゃないか。ロジャースはロジャースだよ。」


「ありがとう。けど、違うんだ。本当は自分を慰めていたんだと思う。負傷兵を運んで救護所に連れて行ったとき、言葉をかけるんだけどそれが何だか自分に言っているような気がしてならないんだ。人のためになることをしている時だけ素の自分に戻れる気がしてな。最低だろ。」


「悲観的に考えないでくれ。今こんな天気でもちゃんと晴れるから。」


「ディオスは面白いことを言うな。そうかな。そうだといいな。ディオスのことも教えてくれよ。どうして、軍兵に?徴兵か。」


「あぁ・・うん。徴兵令があってね。令に背いたら家族が罰せられてしまうから。嫌々出兵せざるを得なかった。」

ディオスはロジャースに自分のことを話し始めた。


ディオスの家は酪農を営んでいる。祖父の代から続く酪農家でディオスも家の手伝いをしていた。戦争が始まって、国からの通達で家畜の提供を求められほとんどの家畜を手放すことになってしまった。作物の栽培もしていたので食べ物には困らなかったがこの戦争によって今までの生活を踏みにじられてしまった。


そして、今回の徴兵令だ。家族は「逃げてもいいんだよ。」と言ってくれたけれども自分一人のために家族を犠牲にすることはできなかった。ディオスは出兵して、駐屯基地で訓練を受けた。体力仕事には自信があったものの剣の扱いなどしたことはない。上手く使いこなせず監督官に何度も叱られ続けた挙句、物資班に回され倉庫作業をすることになった。戦闘兵には陰口を叩かれるものの、こういう仕事は嫌いではなかったので正直ラッキーだった。


けれども、今回の作戦に駆り出されることになった。何でも、相手の物資を奪った後の整理と帳簿係として参加することになった。さすがに拒否することができず今に至ったのだ。


「それは災難だったな。」


「それはお互い様だろ。」


「違いないな。」


二人で笑った。そして、ロジャースは真剣な顔をして言った。

「ディオス。これは内密な話だが。この戦争でこの国は負ける。」


ディオスはそれを聞いて呆然とした。そして、我に返り聞き返した。

「ロジャース、それは一体。」


「戦場に出てると分かるんだ。明らかに向こうの勢力が強まっていると。それに、聞いてしまったんだ、上層部の話を。内通者がいたらしくこっちの戦法が筒抜けになっていたって。だから、負けるのも時間の問題かもしれない。」


「そんな・・・。戦争が終わるのは嬉しいけど、負けたらどうなるの?」


「そりゃ・・・どうなるんだろう。向こうの国の奴隷か、もしくは虐殺か。どちらにしろ、勝戦国の思うがままに利用されて敗戦国はずっとその過ちや罰を償い続けなければならないかな。」


「未来はないのか・・・。」

ディオスは目を伏せて落ち込んだ。


「そうなった時のために亡命を考えている。ディオスも一緒にくるか?」


「えっ?いいのか?」


「ここで出会ったのも何かの縁だ。」


「けど、家族がいるから。」


「あらかじめ、手紙を書いて家族も亡命すればいいさ。後に合流すればいい。」


「そんな上手くいくのか?」


「上手くいくさ。俺は明日を生きたいから。」


その言葉にディオスは少し勇気をもらった。お互い大きな木の下で話しながら夜になりその時には雨が上がっていた。


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