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テト  作者: 安田丘矩
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回顧、そして、遠い記憶

昨日、スーパーで大きな良さそうな梨を買いました。

だいぶ果物も秋めいてきましたね。順番に梨、リンゴ、洋ナシ、みかん、いちごと続いてくのでしょう。

先月まで桃を食べたいとか言ってたのに移り変わりが早いこと。

そういえば、日本人の果物の摂取量が年々減ってきていると聞いたんですが本当のなのか?

外国の友達から聞くと日本のフルーツは値段が高いって言ってました。

これは日本人でも値段的に高く感じているということなのでしょうか。

けど、冬場みかんを食べまくれば年間摂取量は容易に越えられるのではと

勝手に思っているんだけど・・・まぁ越えればいいって問題でもないか。

思うんです、やっぱり季節のものはちゃんとその季節に食べないといけないって。

果物に限らず、野菜とか料理とか。それって人間としての贅沢であって一つの価値だ。

そういうものを軽視していると自分の選択肢も狭まってくると思います。

美味しいものは美味しと言えることを忘れないでほしいですね。


「西の山岳地帯に野営地を発見した。二手に分かれて奇襲をかける。敵が寝静まった時に狐笛を吹く。それが奇襲の合図だ。分かったか!」


男たちは声をあげ司令官に敬礼をした。軍服を着て、重たそうなリュックと剣を携えながら山道を歩いて行く。


その中にディオス・エリオットがいた。徴兵によって戦場へと駆り出された青年は逃げ出したかった。しかし、もし逃げ出したら家族が罰せられてしまうため苦汁を飲みこうして軍隊に紛れながら歩いている。さすがに山道になると脚に堪える。少し休みたいが皆黙々と登り続けている。ディオスはついて行くのに必死だった。


すると急に声が聞こえた。

『この先は行ってはダメ。意図的にがけ崩れに遭って大勢が死ぬ。』


ディオスは家系から受け継いできた「風の便り(エアーメール)」で危険を察知した。けれども、どうにかしてこの行脚を止めなければ。急に倒れこんだとしても全ての人を助けることはできない。


ディオスはこの後の結末を分かりながらも急に倒れこみ苦しそうな演技をした。ディオスから後ろの軍兵が止まり、後ろを着いて来てた軍兵が駆け寄りディオスに声をかけた。

「おい!しっかりしろ!」


その異変に気付いて前方を歩いていた二等兵が近寄ってきた。

「一体何事だ。」


「急に倒れだし、苦しみ始めました。」


「こんなやつ捨て置け。峠を夕方までには越え野営地近くに潜伏しなければならない。」


「ですが、こんな山奥に置き去りにしろと。」


「なら、介抱に付き添ってやれ。後の者はこのまま進め!」

二等兵はそのまま前方へ戻って行き隊列はそのまま進んでいってしまった。


介抱に残った軍兵はディオスを道のわきに引きずりリュックから寝袋を取り出しディオスを寝かしつけた。ディオスは演技とはいえ心苦しかった。ただ、一時とはいえ徴兵から解放されたことに安堵していた。


「おい、大丈夫か?昼に食べたものに当たったのか?」

軍兵に声を掛けられるもディオスはうなされている様子を見せた。

「まぁこんな状況だ。食べるものに贅沢など言ってられないが、食中毒は怖いぞ。気をつけないと。」


その軍兵の両親さにディオスはさらに罪悪感を感じていた。

その時、山の奥から大きな音と振動が伝わってきた。ディオスは起きてしまったと目を閉じながら生唾を飲んだ。


「一体何の音だ。地響きもすごい。俺たちが向かう先だよな・・・。大丈夫か?」


ディオスは夕方近くになったら体調が良くなったと言って起きようとしばらく眠りについた。そして、目が覚めるともう夜が更けてその軍兵が火を焚いて暖を取っていた。


「おぉ、起きたか?どうだ?良くなったか?」


「あぁお陰様で。だいぶ良くなりました。すみません。自分のために。」

ディオスは申し訳なさそうにしながらも内心ほっとしていた。


「気にするな。むしろ、戦場に病人がいた方が足手まといになるし、好きでやっていること。」


「いえ、本当ありがとうございます。えっと・・・お名前は?」


「ロジャースだ。」


「ディオスです。ところで、これからどうしましょう。」


「そうだな・・・明日にでも先に言った隊と合流したいところだが、夕方前に大きな音が山に響いていた。何かあったかもしれないな。通常だったらこの後、敵の野営地で襲撃を行うはずなんだが。」


ディオスは襲撃はおろか、がけ崩れによって隊が壊滅してしまったことはさすがに言えなかった。


「一度、駐屯基地にもどるかな。ディオスは医師にみてもらった方がいい。それと今さら合流したところで後の祭りだろう。」


「そう・・・ですね。ロジャースさん。休んでください。見張りは自分がやりますので。」


「けど、病み上がりだろ。」


「大丈夫です。ほんと良くなったので。」


「そうか。じゃあお言葉に甘えるとしよう。」

ロジャースは自分の寝袋を取り出し地面に敷いて休み始めた。


「明日は晴れるかな・・。」

ディオスがボソッと言うと風が耳元に囁いてきた。

『明日は明け方から雨が降り出して昼前には激しく降りそそぐ。』


ディオスが言った通りに引き返した方がよさそうだ。この先に向かった隊員たちは崖下で息絶え洪水に巻き込まれながら下流へと流されるのだろうか。想像しただけでもゾッとする。この予知能力があっても結局この状況だと誰も救えない。自分が生きるために今は死んでいった軍兵のことは考えないようにしようと思った。


翌朝、雨が降っていた。雨具で覆い下山していくと次第に雨脚も激しくなっていた。


「これはまずいな。だいぶ降りてきたとはいえこのままだと危険だ。どこかで雨宿りできそうな所は。」


ロジャースはぬかるみに脚が滑りそうになるも堪え一歩ずつ脚を確かめながら踏みしめた。ディオスはその歩いたところを踏み外さないように歩くのに精いっぱいだった。次第に歩いていると倒木がある所にたどり着いた。倒木はまだ新しく青々とした葉が生い茂っていた。


ロジャースはディオスに言った。

「この木の枝を切り落としてあそこの大きな木の下には運ぼう。少しは雨よけになるだろう。」


ロジャースは持っていた鉈を取り出し木の枝を切りはじめディオスはその切った枝を大きな木の下に運び幹を覆うように積み上げていった。簡易的な雨よけが完成し二人は大きな木の幹に持たれ雨よけで身を隠し寄り添いながら雨が通り過ぎるのを待った。


「ほんと、災難だな。隊の連中も無事であればいいんだが。」


「そうですね・・。この雨・・いつ止むんでしょう。」


「さぁな・・。」


ディオスに風邪の便りが届いた。

『夜には雨脚が弱まり夜更けには止みます。』


その知らせを聞いて、ディオスはロジャースに言った。

「しばらくは止みそうにないですね。ロジャースさんはここに来る前は何をしていたんですか。」


「俺か?俺は、炭鉱で働いていた。」

ロジャースはディオスに身の上話をし始めた。




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