大それた願いなんて必要ない。
大人になって祝日を休んだことがほぼない。なぜなんだ?国民は休めないのか?
会社によっては祝日休みなところがあるけど、無縁な生活を送っていると慣れてしまったというか
気にしなくなってしまう。それどころか、祝日だったのかと勤務してて取引先に電話したときに気づく
「ちくしょー、商社は休みかぁ!!」
もっと休みをふやせぇーと思うときあるけど、いざ休みをもらうと何をしていいのかと
とりあえず、掃除しようかなと思っていても結局ダラダラ過ごしてしまうんだよね。
こういう時に行動力が試される。もっと、いろんな興味を持って時間を有意義に使いたいところ。
アルヴァンは山小屋の前に立っていた。
「あれ?ここどこだ?」
辺りを見渡すとそこはどこかの山なのか森に覆われ、山小屋の裏からモクモクと煙が立っていた。山小屋の裏手にまわるとそこには坂に段々となった窯が連なっていた。そして、軒に置かれた棚には沢山の焼いた陶器が並んでいた。
「おや?お前誰だ?」
その声に振り向くと立派な髭を蓄えた大男がやって来た。アルヴァンは首を傾げて男を見た。
「魔物?ちっこいなお前。」
『うるせぇな!お前がデカすぎるんだよ。』
アルヴァンの怒った様子に男は笑った。
「正直者だな。ただ、仕事の邪魔になるから入るんじゃないぞ。」
男はアルヴァンを山小屋へ招き入れてお茶と鳥の燻製肉を裂いて味付けしたジャーキーを振舞ってくれた。
『これうまいな。』
アルヴァンが嬉しそうに食べる様子を見て男も嬉しそうだった。
「こんな山奥に迷い込んできたのか?ここらへんじゃ見ない魔物だけど。」
『俺もよくわかんない。光に包まれて・・・ここにいた?』
アルヴァンは男を見ながら首を傾げた。
「俺はダイチって言うんだ。ここで陶芸をしている。」
部屋には作られた食器やカメが置かれていた。
「もともと、村で暮らしていたんだがこうやって陶器を作るのが好きでここで仕事をしているんだ。」
『物好きも嫌いじゃないぞ。』
「村に陶器を納めて生活をしているんだが、俺だけしか作れない作品を生み出したいんだ。」
『芸術家気質なんだな。嫌いじゃない。』
「最近、願いを授かって上質な泥を手に入れられるようになったんだが・・・。」
『今なんて?』
アルヴァンは驚いてダイチの方を向いた。
「確かにきれいな作品は生み出せるようになったんだが、なんか俺の求めている形にはなっていないんだ。それは欲張りなのか。」
アルヴァンは状況を察した。
『そうか。ここは願いを授かった人間の記憶なのか。それより俺はここにいていいのだろうか・・・。』
アルヴァンは不安になった。
「どうだろう。お前は俺の作品を見て良し悪しが分かるか?」
『急にそんなこと言われても・・・。』
陶器に関して何の慧眼を持ち合わせていないし、良し悪しも分からない。単純に使えればいいんじゃないかと思ってしまった。その後、ダイチは実際に陶器を作っているところを見せてくれた。対照的にきれいに形作り、一つのカメを作り上げるところを見てアルヴァンは驚かされた。
『見た目に合わず器用なんだな。』
「ここに空気が入っていたりすると焼いた時に割れてしまうんだ。だから、土をからしっかり空気を抜かないとダメなんだ。」
仕事をしているダイチは生き生きしていた。一つのことに集中して悩みながらも一生懸命だった。アルヴァンは焼く前の干してあるカメを見ていじり始めた。
「おい!いじっちゃだめだぞ・・・?」
アルヴァンはカメの胴にわざと葉っぱをつけて模様をつけようとした。
『昔、花瓶を作ってた奴がこうやって自然のものを利用するとその場に馴染むっていってたぞ。』
アルヴァンがいじり終わるダイチはその側面の不揃いの模様を見て言った。
「面白いな。どんなふうに焼きあがるのか楽しみだな。」
『そうだな。ずっと同じことを直向きにやっていると型にはまっちゃうんだよな。こうやって、遊んでみてもいいと思うぞ。』
アルヴァンは二回頷いた。
「いろいろ試してみる価値がありそうだ。ありがとう。」
ダイチは嬉しそうにアルヴァンに言った。するとアルヴァンは突然姿を消した。
「おや!・・・あれ?俺誰と話していたんだ?」
ダイチは戸惑いながらも気のせいと思い仕事に戻った。
アルヴァンはどこかの広い川にいた。
「あれ?さっきまでダイチの山小屋にいたはずだが・・・・。」
辺りを見渡していると一人の女性に目を止めた。そして驚いた。その女性は圧縮の能力を使っていた。しかし、使い方が認識と違っていた。女性は大量の洗濯物を球体の中に留め、川の水につけながら球体を動かし最後は圧縮して水分を抜き脱水をしていた。
アルヴァンはその女性に近づいてみると女性が思わず「きゃ!」と驚いて声を上げた。
「まも・・・の?なの?やけに可愛らしいわね。」
『さすがに言われすぎて何も返す言葉はないが、語彙力はないのか?』
アルヴァンが不服そうにしているので女性は困ってしまった。
「何かしら?怒らせてしまったのかな?ごめんなさいね。」
女性は洗濯籠の横にあった包みからパンを1つ手渡した。
「これあげるわ。」
『おっ、分かってるなぁおまえ。』
ためらいもせず食べるアルヴァンの姿を見て女性は嬉しくなった。
「お腹空いていたのね。ごめんなさい、まだ洗い物が残っているの。」
『お前その能力って圧縮じゃないのか?』
女性は再び能力を使って洗濯を始めた。アルヴァンはその姿をじっと見つめた。女性が全て洗い終えると大きな洗濯籠を抱えだした。
「さて、干さないとね。あなたも来る?」
アルヴァンはその女性の後をついて行った。そこは丘に物干しがいくつも並んでいて村を一望できる。そして丘の下に一軒の平屋があった。女性は洗濯物を手際よく干し始めて、あっという間に丘の物干しに風に揺られた洗濯物たちが泳ぎ始めた。
「やっとこれでひと段落だわ。今日は風が心地いい、いい天気だからすぐ乾くわよ。」
『この量を一人で・・・ってそんなに家族がいるのか?』
アルヴァンが不思議そうに女性の顔を伺っていると女性はアルヴァンに気づいて言った。
「ん?どうしたの?まだ足りなかったのかな・・・お家で何か食べる?」
アルヴァンは女性に案内されて丘の下の家に招かれた。家に入ると一人の老婆が声をかけた。
「お帰りローサ。おや?そのかわいい子は?」
「洗濯しているときに会ったの。それで着いて来ちゃった。」
『おい、別に物乞いでも何でもないんだからな。』
アルヴァンは不満そうだった。
「そうかいそうかい。ちょうど、お昼ができているから一緒に食べましょう。」
台所の机に案内されてアルヴァンも席に着いた。老婆は机に料理を置きアルヴァンに取り分けた。不揃いの豆が入った塩のスープに、小麦粉を練った生地を薄く伸ばしてフライパンで焼き上げたものを出してくれた。
アルヴァンは食べてみると
『割とヘルシーだな。』
と言いながらもすぐ平らげてはお代わりをしてしっかり食べていた。
その様子を二人は唖然と見ていたが笑顔を見せた。
「気に入ってくれて何よりだわ。」
老婆は嬉しそうだった。
「私の家はおばあ様と二人で洗濯屋をして暮らしているの。」
『洗濯屋?じゃあ、あの圧縮の力は洗濯の能力だったのか。どうりで水分だけ落ちるわけだわ。』
アルヴァンは少し納得した。
「あぁもうしかして洗濯してるところを見て驚いていたのね。あの能力は神様が私に下さったのよ。今までおばあ様と二人で洗っていたけど、おばあ様が腰を痛めてしまって一人じゃ手いっぱいだったの。最初はどのように使えばいいのか分からなかったけどだんだんコツを掴んで簡単に洗濯ができるようになったのよ。」
『そうだったのか。ちゃんとその願いには意味があったんだな。それをあのバカ神様は利用して。腐ってやがるな。』
「この願いは継受できるって言ってたわ。だとしたら、私のこどもにもさらに孫にも伝わってずっと洗濯屋かもしれないわね。」
『本来、継受ってそういうことなんだよな。後進にも伝わっていくといいな。』
アルヴァンは頷いた。
その様子をみてローサはニコッと笑った。するとアルヴァンは光に包まれて姿が消えた。