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ララの看病

お読みいただきありがとうございます。お楽しみくださっていると嬉しいです。

 ダニエルの意識が戻ったのは一週間後だった。気がつくと体中がギシギシ音を立てているように痛い。喉がすごく乾いていたので誰かいないかと思い目だけを動かしたらベッドに凭れ掛かるようにしてララが眠っていた。


自分はどうしてこうなったのだろうと思い起こすと事故の瞬間が生々しく浮かび上がってきた。暴れ馬が馬車に襲いかかってきたのだった。父親を奪ったのも事故だった。嫌な記憶が思い出されダニエルは唸り声を上げた。

その声でララが気がついたらしい。


「ダニエル様、良かったです。気が付かれたのですね。お医者様を呼んでまいります」

「み、水を」

「分かりました、頭を上げさせていただきますので我慢して下さいね」


ララはダニエルの頭を起こし後ろにクッションを三個当てると水差しからコップに注ぐと口元まで持ってきてゆっくり飲ませた。レモンの入った水は乾いた身体に染み渡るようでとても美味しかった。


「君が看病してくれたのか?」

「お嫌だったかもしれませんが私とリチャードが交代でいたしました」

「嫌などと思うはずもない。ありがとう」

「全治三ヶ月だそうです。肋骨が折れているとお医者様が言われていました。お命が助かって良かったです。ではお呼びしてきますね。あっその前に看病の為にお肌に触れてしまいました。契約に反してしまい申し訳ありません。契約を打ち切られますか?」

「どうしてそうなる、感謝こそすれ打ち切ったりしない。大変だっただろう、申し訳ないが良ければこれからもお願いしたい」

俯いてやっと言葉を発したダニエルは気弱な怪我人だった。


ララは口移しで薬を飲ませた事は墓場まで持って行こうと決心した。



ダニエルを診察に訪れた医師は意識が戻った事に安心をして、これまで通り大人しく寝ておくように言いつけ部屋を出ていった。


その後直ぐリチャードが入って来た。

「ご無事で良かったです」

「世話をかけた、すまない」

「一日も早い回復をお待ちしています。奥様に感謝されてくださいね。寝る間も惜しんで看病してくださったのですよ」

「もちろんだ。それで馬の暴走の原因はつかめたのだろう?」

「虫が馬の耳に入ったそうです。通行人が虫を追い払ったところ近くにいた馬の耳に飛び込んだそうです。何人も目撃者がいますので間違いはないかと」

「虫か、その為にこの様な事故に合ったのか。そう言えば御者はどうなった?命に別状はないか?」

「いまだ生死の境を彷徨っています。大怪我でしたので」

「治療は充分にしているのだろうな」

「家族が付きっきりで面倒をみています。先生は大忙しですよ」

「手を尽くしてやってくれ。疲れた、もう少し寝る」

「お休みなさいませ」



薬が効いているのかダニエルは泥のように眠った。目を覚ますとララがいて汗を拭いたり薬や水を飲ませてくれたりした。

パン粥をスプーンで食べられるようになった。体を拭くのはリチャードの役目だった。温かい湯で絞ったタオルで拭かれ気持ちが良かった。段々横を向けるようになったので、包帯を変える時に背中も拭いてもいいようになり、随分さっぱりするようになった。


湯に浸れるのが待ち遠しくなった。

大怪我をした御者は残念ながら息を引き取ったらしい。残された家族が当面の間困らないだけのお金を持たせるようにリチャードに指示を出した。四十代の妻だけだったらしいので半年間は働かなくても食べて行ける額を与えた。


ご主人様にお礼を言いたいというのでララに会ってもらった。ダニエルには人に会う気力まではまだなかった。


ララは未亡人になった御者の妻を痛ましそうな顔で見た。

「この度は大変な目に遭われてなんと言ったらいいのかわかりませんが、気をたしかに持って前を向いてくださいね」

「もったいないお言葉でございます。奥様も看病でご無理をなさいませんようにお身体にお気をつけくださいませ。お医者様にも診ていただけ、過分なお金をいただいたご恩は一生忘れません。有難うございました。遠くからお幸せを祈っております」

「次はどこに行くか決めているの?」

「暫く体を休めて仕事はそれから探そうと思っております。本当に有難うございました。では失礼いたします」


そう言うと御者の妻は深々と何度も頭を下げながら屋敷を出ていった。

ララは切ない気持ちで見送るしかない自分が嫌になった。




☆☆☆



「奥様お疲れでございますね、今日はお休みにされてメイドたちにマッサージをしてもらってはいかがですか?それからお庭の散歩や本を読まれたりするのはいかがでしょう?看病ばかりですと身が持ちませんよ」


メリーが進言してきた。

「ダニエル様がお辛いのに私だけ楽しいのはどうかと思うわ」

「それは間違いでございますよ。奥様の健康あっての看病です。さあ参りましょう。その間の看病はこのメリーがいたします」



久しぶりにゆったりお湯に浸かりメイドにマッサージをしてもらったララは生き返るような気がした。髪を綺麗にされ可愛いデイドレスに着替えると花が沢山咲いている庭園に出てみた。風ってこんなに気持ちが良かったのね。休みなくダニエルの部屋に詰めていたララは大きく息を吸った。




いつもの様にララが来ないなと思ったダニエルはメリーに

「今日はララは具合が悪いのか」

と聞いていた。




看病は疲れますよね。メリーが気が付いて良かったです。

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