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事故にあったダニエル

読んでいただきありがとうございます。とても感謝しています。

 領地から帰る途中のダニエルが乗っている馬車に暴れ馬が突撃してきたそうだ。馬車は避けようがなく横転し御者は放り出され生死の境を彷徨っているらしい。ダニエルの怪我は肋骨を折る大怪我で全治三ヶ月の重傷だった。


意識はまだ戻っていない。高熱にうなされていた。公爵家専属の医者は五十代くらいだった。ララが公爵家に来て初めて姿を見た。風邪ひとつひかなかったのだ。食事が良くなったからだと思う。



医者の手によって包帯がきれいに巻かれていた。病人用の吸い口に痛み止めだろうか深い緑色の液体が入っていた。半日ほどしたら痛み止めが切れるのでそれを飲ませて欲しいということだった。

どうすれば飲ませられるのか聞くと頭を支えて口に流し入れてくださいと言われた。夜中に痛がったときのために薬草をすり潰した物も置いて行ってくれた。


侍従のリチャードは留守番だったらしくご主人をお守りできなかったと青い顔をして様子を見に来た。

「貴方は護衛でもないのだからそんなに気にすることはないわ」

「奥様が休まれる時に替わります」

「執務があるのではないの?それに暴れ馬はダニエル様狙いではないのか調べたの?」

「護衛たちが辻馬車の馬だったと言っておりました。急に暴れ出したのを大勢の者が見ていたそうです」

「繋いでいたところが外れたのかしら。辻馬車の持ち主は処刑になったのかしら?」

持ち主が平民であればすぐさま処刑だろう。公爵家当主に大怪我を負わせたのだ、気の毒な事とララは同情した。



「詳しい調査は今騎士団が行っております。刑の執行はそれからになるかと思われます」

「早くダニエル様に良くなっていただかないといけないわね」


「看病を交代する時には私にお知らせください」

「貴方は執務があるでしょう」

「信用の置けるものしかお側に置けませんので」

「それなら交代して欲しい時には連絡するわ。意識がないのだから私がやっていても嫌がられる事はないわね。ずっとだと疲れると思うから交代して貰うと助かるわ」

「そうですね、たまに主の印が必要な書類もございますし奥様に押していただくこともあるかもしれません」

「勝手に印は押さないわ。ダニエル様の意識が戻られてからにさせてもらうわ」

「重要ではない物に印がいるときもあるのですよ。使用人の休みの許可の物ですとか暖房用の燃料を買うときですとか、色々ですが」

「執務のお手伝いはしていたけれど決済はダニエル様がしておいでだったものね、それくらいなら良いのかもしれないわね」

「では私は執務をして参りますので奥様はご主人をお願い致します」




リチャードはダニエルの怪我は時間がかかるが完治すると聞いていたので奥様に任せようと思っていた。鈍い二人はこのままだと別れてしまうかもしれない。この怪我が二人の距離を近くしてくれれば良いと思うリチャードだ。


ご主人が蕁麻疹を出さない貴重な女性なのだ。最初は見窄らしい方だったが、磨かれて美しくなられた。公爵家にとって貴重な奥様を逃がすものかと固く決意していた。



☆☆☆


ダニエルはリチャードが子供の時から仕えている主だ。前公爵が事故で若くして亡くなった時に歯を食いしばって泣かないように耐えてきたのを見ていた。

親戚があれこれ口を出してきたが当時の陛下が後ろ盾になってくださったのもあり上手く爵位を継ぐことができた。


周りに近くで守ってくれる者がいない子供を餌食にしようとするものは大勢いて、ご主人はすっかり対人恐怖症になってしまった。特に女性は少しでも触れると蕁麻疹が出るようになってしまった。



昔からの忠誠を誓った使用人は多くいても高位の貴族には逆らえない。手が出せない状況だった。陛下は影をつけて逐一報告させダニエル様の敵を捻り潰してくださっていた。



ララは包帯でぐるぐる巻になった意識のないダニエルの頭に手を当てまだ高熱があるのを確かめてからタオルを氷水に濡しぎゅっと絞って額に乗せた。タオルは直ぐに暖かくなり侍従を呼んで水を変えさせた。

ダニエルが苦しそうに

「父上ごめんなさい」

とうわ言で言うのを苦しい気持ちで聞いた。自分は親に恵まれなかったがダニエル様は小さな頃にご両親と死に別れたとリチャードから聞いたことがあった。


形は違えど愛情に飢えていたのは同じなのかもしれないとララは今更ながらに思った。契約だけの立場で立ち入ったことを聞く気にはなれなかった。せめて残りの時間を優しく接することができたらと込み上げてくるものを我慢しながら、せっせとタオルを取り替えた。



夕方痛みでうっすらと目を冷ましたダニエルに薬を飲まそうとしたがクッションを頭の後ろに当てても慣れていないので上手くいかなかった。溢れてはせっかくの薬がもったいないと思ったララは「これは医療行為、医療行為」と念じながら口移しで飲ませることに成功した。


幸い意識がないので蕁麻疹は出ないようだった。薬はかなり苦く意識のないダニエルが嫌がって頭をふるのでこうするしか仕方がなかった。


ララだって初めてはもっとロマンチックなものが良かったが仕方がない。これはカウントしないと自分に言い聞かせた。




誤字報告ありがとうございます。

怪我の前に契約完了時の話をララから告げられているので関係が良い方に行くのかは不明です。

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