ララの計画
読んでいただき本当にありがとうございます。皆様の隙間時間を少しでも埋めることができたら幸せです。
ララに契約終了後のことを言われたダニエルは事故で亡くなったと偽装して国を出ていく計画を聞いて衝撃を受けた。確かに別れただけではまた女性がすり寄ってくるかもしれないが、愛する妻に逃げられた哀れな男では駄目なのだろうか。家族が亡くなるという設定は公爵家にとって良いものではない。衝撃が強すぎて言えなかったが駄目な事を伝えなくてはいけないとダニエルは思っていた。
ままごとのような夫婦ごっこは心にやすらぎをもたらしてくれた。あれほど嫌だった女性との会話や間隔を置いての接近もララとだったら出来る様になっていた。このまま契約の延長を願いたいがララにとっては新しい人生を歩む妨げになる。誰かと結婚をして子供を産むかもしれない。
その幸せを摘む権利はダニエルにはないのだから。
自分勝手な男だと自己嫌悪に陥っていた。もう少しお酒を飲みたくなりワインを開けることにした。最初から自分に都合の良いことばかりを考えてララを選び二年以上放ったらかしにしていた。二ヶ月の偽夫婦が上手くいったからといって今更だ。アルコールに強いダニエルは飲んでも酔うことはなく眠れない夜を過ごす事になった。
ララは寝る前に飲んだワインのせいで気がついたらいつの間にか眠っていたようだった。朝日が眩しい。昨夜はダニエル様に契約終了後のことをお話できた。あと半年頑張るだけだ。仕事と勉強とままごとの様な偽夫婦生活を続けるだけ。
ララは自分に気合を入れた。
契約は契約だ。随分良くしていただいた。いつかご恩返しができたら良いなと思いながらララは朝の支度をメイドに手伝って貰いダニエルの待つ食堂に向かった。ダニエルはいつもと変わりなく新聞を読みながらララを待っていた。
整いすぎた顔に隈があるように思ったが、綺麗であることに間違いはない。
「おはようございますダニエル様、お待たせいたしました」
「おはよう良く眠れた?」
「はいおかげさまで良く眠れました。昨日のワインは美味しかったですね、ごちそうさまでした」
「また手に入ったら一緒に飲もう」
「そんなに貴重なものだったのですか?」
「そうでもないよ、食事をしようか」
今朝のダニエル様は何処か変だと思いながら美味しい食事に意識を移した。
その後のお茶の時に事故死は止めて欲しいと言われララは公爵様の心に土足で入ってしまったのだと大人しく頷いた。
☆☆☆
「ご主人何かありましたか?顔色が悪いですよ」
「昨夜飲みすぎた」
「珍しいですね、お酒には強いのに。これからの事を考えられたのですか?」
「リチャードには隠せないから話そうと思う」
ララの決意を聞いたリチャードは
「奥様は思い切ったことをお考えになりますね。良いんですか?手放しては二度と会えなくなるんですよ。でも知らなかったとはいえ事故死はきつかったですね」
「ああ、フラッシュバックしてしまった。それとは別に彼女の幸せが一番だ。温かい家庭を持つかもしれないだろう」
「へえ、ご主人の都合で連れてきたのに変われば変わるものですね」
「自分勝手だったと思っている」
「外国へ行かれるときには私が付いていきましょう。危なっかしいですよ、女性の一人旅に、一人暮らし」
「護衛をしてくれるのか?」
「ええ、一生でも良いですよ。ご主人次第です。良くお考え下さい」
「そうしよう」
「たまにはデートでも行かれたらどうです」
「デートとはどうすれば良いのだ」
「指南本を持ってきますよ。良く読んでおいてください。実際の店なんかはお教えしますよ」
こうしてリチャードが持ってきたのは女性向けの恋愛小説だった。
一冊読んだダニエルは真っ赤になってしまった。しかも挙動不審になっていた。
「リチャード、これは無理なんじゃないかな、ハードルが高いよ」
「この通りに喋れとは言っていません。女性の心理を理解して貰うためにお渡ししたんです。偽夫婦ごっこですか?それの時に織り交ぜればいいんです」
「買い物とかは無理だな。ピクニックでも誘ってみるか」
公爵家から一時間程馬車で行った所に一面に白い花が咲いている丘があった。此処にララを誘って来ていた。メリーやリチャードの他護衛が数人一緒に来ている。
『こんな素敵なところがあるのですね。連れて来ていただきありがとうございます。公爵家の庭園も素晴らしいですが、ここは自然が感じられて良いですね』
『君は初めて来たのか?もう少し早く連れて来たら良かった』
『いえ、こうして今来られたので満足です。あのまま実家にいれば知らなかったと思いますので』
こうしてダニエルとララは子供のようなデートを楽しんだ。
ダニエルはララに毎朝花を贈るようになっていた。小さめのブーケが好きそうな気がしたので庭師に頼んで小ぶりにさせた。
生まれて初めて花を貰うという体験をしたララは
「ありがとうございます」
とぱあっと笑顔になった。
「庭園で気に入った花を切ってもらってお部屋に飾っていたのですが人から貰うのって特別な気がします」
「そうなのか」
庭にいくらでも咲いているのだから勝手に切って飾れば良いと思っていたのは違っていたらしい。街へ出かけた帰りに手土産を買って帰るようになった。
これもすごく喜んでくれた。
恋愛小説のささやかなヒントはさらに関係を円満に回してくれるようになった。
幼少期からの女性恐怖症は根強かったが少しずつ良い方向に向かっているようだった。
☆☆☆
ララが図書室で本を読んでいた時だった。メイドが慌てて
「大変です、旦那様が街で怪我をされました」
と告げた。驚きすぎて慌てかけたが息をなんとか整えて
「今どちらにいらっしゃるのかしら?」
と聞いた。
「旦那様のお部屋でお医者が診察をしていらっしゃいます」
ララは走らないようにできるだけ急いでダニエルの寝室に駆けつけた。
鈍感カップルの行方はどうなるのでしょうか?テンプレにはしたくない。けれどテンプレになってしまうのか?と筆者も悩むところです。