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偽夫婦

読んでいただき嬉しいです。よろしくお願いします。

 ダニエルは愛情というものが良くわかっていなかった。両親は政略で結婚し母親はダニエルを産んだせいで亡くなってしまった。父親は乳飲み子を乳母に任せ仕事ばかりして息子を見ようとはしなかった。


後妻を貰わないでいてくれたのは良かったと思う。後継争いは御免だからだ。

見目が良かったダニエルは小さな頃から女難に悩まされた。公爵家の令息なので社交界に出なくてはならない。寄ってくる女性は立場と見目に吸い寄せられるようだった。香水と派手な衣装を纏った虫のようだと嫌悪感しかなかった。



あの夜会でララを見つけた時は弱々しい小動物の様だと思った。連れて帰れば助けてやれるし、自分にも利がある。

ダニエルは傲慢にもそんな事を考えていた。

その考えは直ぐに覆された。勉強やダンスをしている時のララは楽しそうだった。執務さえ有能だった。



きちんと食事を食べるようになったララは肉が程よくつきメリハリのある身体になっていった。

何より使用人達に愛されるようになっていた。メリーなどその筆頭だ。甘やかしたくて仕方がないらしい。

天然の人誑しかもしれないと思うようになった。




けれど自分は絆されてはいない、ダニエルは自分を利己的な男だと思っていた。もう少しララを利用してみようと思った。

「私は家族というものが良く分からない。なので君と家族ごっこをしてみたい。契約の条件には違反しないから」

「家族ごっこですか、それはどういったものですか?」

「君を愛しているふりをしてみる。誰にもそんな事を言ったことがないので言葉で言うことが出来るのか試してみたいのだ」

「嘘の言葉で何が分かるのですか?」

「わからなくても構わない。小さい子供のままごとだと思って欲しい。契約している君にしか頼めない」

「そうでしょうね、気が変だと思うか、本気にしてしまうかのどちらかになりますもの。分かりました、その遊びにお付き合いします」



ララは公爵が長年のストレスで変わった遊びを思いついたのだと納得した。

公爵様も愛情に飢えているようだし自分も愛情には飢えている。遊びで満足が得られれば言うことはないし、恩返しににもなるのだ。否やはなかった。



それから毎日朝食と夕食を一緒に摂ることになった。食堂で顔を合わせておはようとにこやかに挨拶をされ綺麗だねと言われるのだ。あまりにも棒読みだったので給仕係が苦笑いを何とか隠そうとしていて気の毒だった。



小さな頃の人形遊びを思い出しララは感情を込めることができた。

「おはようございます、ダニエル様。今日もいいお天気ですわね」

「そうだな、今日もよろしく頼む」

右の唇の端が少し上がったような気がした。笑ったつもりなのだろう。

「笑顔も素敵ですね」

「分かるのか?」

「はい、妻ですから」

耳が赤くなったような気がしたが気にしないことにした。ままごとだもの。





あれからニヶ月ほど経ちままごと遊びもスムーズに行くようになった。残り半年だ。事故で死んだことにしてもらい恋しい妻を亡くしずっと思い続けているやもめを演じてもらおうかと思っている。後継は親戚からという約束だった。私は隣国へ行き家庭教師でもしようかなと思っている。礼儀正しい平民ということで雇ってもらえないだろうかと考えている。




ままごと遊びはなかなか楽しいものだった。最初は公爵様が可笑しくなったのではないかと思ったものだが二人の間を埋めるのにちょうどよかった。この頃では甘い言葉まで言えるようになっていた。髪や額にキスまでするようになってしまった。やり過ぎではないかしら。使用人の中には微笑ましい視線で見てくる者までいる。



今夜、契約後のことをお話しようと思っている。この二年半随分楽しかった。ダニエル様と交流したのは二ヶ月程だけどこの環境を与えてくださって感謝している。



扉を叩く音がした。シャツとパンツの軽装でワゴンにワインとおつまみを乗せて来てくださった。生まれつき綺麗な人は何を着ても美しいなと思った。


「こんばんは、入って良い?」

「お待ちしてました、さあどうぞ」

「美味しいワインがあったので持ってきたんだよ一緒に飲みたいと思って」

「嬉しいです」


私達はワインで乾杯をした。赤いワインがグラスの中で輝いているような気がした。甘くて飲みやすいワインだった。それなのにコクがある。



「美味しいですね」

「だろう?君に飲ませたかったんだ」


あまり酔わない内に話をしておこうと思い契約が終了した後のことをダニエル様に話した。前々から折につけ話していたはずなのに傷ついたような顔をされてしまった。この関係は契約、悲しいが終わりは半年後。


「居心地が良すぎて離れがたくなりますがダニエル様にとって私は仮の妻です。もしかしたら恐怖症も治ったかもしれませんよ。そうしたらどんな美女も選び放題です。私も現実と向かい合わないといけませんし」


「現実とは何だ?次の結婚か?」

「隣国での就職です、この国では死んだことにするんです。結婚なんて出来るはずありません」

「私のためにそこまでしなくて良い」

「別れるだけで次の公爵夫人の座を諦める令嬢が減るとは思えません」

「死に別れでも後釜を狙う者はいるはずだ。それに他の女性では蕁麻疹が出る」

「それは試してみないとわかりませんよ」

「このまま側にいてくれないだろうか」

「あと半年はいますよ。契約ですから」

「仲良くなったと思っていたのは私だけだったのか」

「仲良しごっこはダニエル様が言い出されたことです。お互いに愛情は持たないと契約したではありませんか。破ることになったら困るのです。約束は破りたくありません。今夜はもう話し合いはやめましょう。おやすみなさい」



ダニエル様はしょぼくれて部屋を出ていった。ずるいと思う。ぬるま湯は気持ちがいいけど冷めたらどうしてくれるのだ。何かしらのことはしてくださるとは思うがその時の放り出された私の気持ちはどうしてくれるのだろう?えっ私の気持ち?友情でもない愛情でもない、中途半端な私の気持ちだ。契約上の妻の立場は不安定だった。





かなり良い感じになって来ている二人ですが、お互いに気がついていません。

残り半年で関係に変化は訪れるのでしょうか?

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