間近に迫った別れ
読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけたら嬉しいです。
朝投稿していたのにバタバタしていて一段落するとうっかり又投稿してしまいました。笑って許してやってください。
「奥様は休養日です。今迄根を詰めて看病されていましたので休んでいただかないと心身ともに疲労されますので」
「そうか、それはそうだな。ゆっくり休んでもらってくれ」
「直接お伝えになったほうが喜ばれると思いますよ」
二年以上前に夜会で見つけ騙すようにして契約をして連れてきた妻はしっかりと役目をこなし、契約以上のことをしてくれていた。
この胸の痛みは罪悪感だろうか。ダニエルには分からなかった。
次にララが部屋に来た時に
「看病をしてくれて有難う。余計な仕事を増やしてしまい申し訳ないと思っている。疲れないように侍従と交代しながら看病をお願いできればと思っているのだがどうだろうか」
「契約上でも妻なので看病は当たり前です。でも休憩を挟むとリフレッシュしますので先生と相談して看病のできる侍従を二人ほど推薦していただこうかと思いますわ」
それから三ヶ月ほど経ちほとんど怪我は治ってきた。ダニエルはお礼にダイヤモンドのネックレスを贈ろうとしたが、もうすぐ別れるのにいりませんと断られてしまった。ララとしてもこれから平民となって自立するので豪華なネックレスを貰っても困るだけだった。着けていくところもないだろうからと丁寧にお断りした。
契約満了まで三ヶ月を切っていた。
ララは離縁後隣国で生活するつもりだった。商業ギルドに登録すれば家庭教師か翻訳や通訳の仕事を紹介してもらえるだろう。三年前の無一文のときとは状況が違う。自立の足がかりを作ってくれたダニエル様には感謝してもしきれない。
ご恩返しの一つとしてこの度の看病が含まれていれば何よりの喜びだ。
残りの僅かな日々を公爵家の為につくせたら思い残すことはないと思うのだった。
ゆったりとしたソファーにダニエルが座り向かいにララが座ってお茶会が開かれていた。屋敷に来て初めてだった。
「こうしてお茶を飲むのは最初に契約をお願いした時以来だね。こういう時間をもっと設ければよかった」
「あの頃のダニエル様は言葉は悪いですが毛を逆立てている猫のようでしたわ」
「周りを信用出来なかったからだ。申し訳ない」
「少しは平気になられたのでしょうか、それならお役に立てたと思えるのですが」
「充分お世話になった。貴方とこうして話せているのが証拠だ。怪我の面倒までみてもらいなんとお礼を言っていいのか分からない。宝石は受け取ってもらえないし気持ちをどうやって表せばいいのか分からないのだ」
「言葉だけで充分です。美味しい食事、教育、温かな寝る場所を惜しげもなく与えてくださいましたもの」
「当たり前の事だ」
「私にとっては奇跡のようなことですの。あの頃は無一文の何の価値もない人間でしたから」
胸に何かが込み上げた気がしたダニエルは
「十分に価値はあるよ。そっと抱きしめてみてもいいだろうか」
と聞いた。
「良いですが、大丈夫ですか、その蕁麻疹とか出ると大変ですよね」
「薬はいつも持っているから大丈夫だ」
ダニエルはララに近づきふんわりと抱きしめた。ララは良い香りがした。蕁麻疹は出なかった。
二人でほうっと息を吐いた。
「蕁麻疹治ったかもしれませんね。これで私なんかよりもっと綺麗な方と結婚できるかもしれません」
「そんなつもりはない。契約が終了したら妻に捨てられた哀れな夫を演じる予定だ」
「綺麗なお顔と優秀な能力を遺伝子として残さないのは勿体ない気がしますが、ご本人が嫌だと言われるのを無理になんて誰にも言えませんもの。あっ、大変申し訳ありません、言い過ぎました。平凡すぎる私からしたらとても羨ましかったので」
「これはこれで苦労があるんだよ」
「出過ぎた事を申しました。お許しください」
「良いよ、悪意がないのは良くわかっているから」
「恩のある方に何ということを言ってしまったのでしょう。穴があったら入りたいです」
「気にしなくて良いよ、言われても嫌な気持ちにはならなかった」
「有難うございます。もう二度と申しません」
執務をしながら残りの時間に隣国の情報やギルドに関しての手続きを取り寄せて読むことにした。隣国ではまずは宿を決め、ギルドで登録をし、仕事を決めよう。慎ましく暮せばなんとかなりそうだった。
公爵家で貰っていたお金はほとんど銀行に預けていた。いざというときのために残しておきたかった。
メリーやリチャード達事情を知っている者たちにはそれとなく別れの挨拶をしておいた。公爵家は居心地が良すぎて出ていくのが辛くなりそうだった。
リチャードはダニエルに詰め寄っていた。
「どうして奥様を手放すのですか、性格も容姿も教養も申し分ないではないですか」
「ここから自由になって自分の幸せを見つけて欲しいのだ。騙し討のように契約をした償いだ」
「奥様のことをお好きではないのですか」
「嫌いではないがどうしても欲しいという訳では無い」
「旦那様は恋愛偏差値が幼児並みだったのですね、残念です。では家族から始めれば良いじゃないですか」
「彼女に悪い」
「貴族の結婚はそんなものでしょうに、歩み寄っておられるじゃないですか。もし私が攫っても平気ですか。知らない男が隣に立っても良いんですか」
「構わない」
「奥様の味方になります。隣国へ付いて行きます、心配ですから。馬鹿ですか、貴方は」
怒ったリチャードは執務室を出ていった。
メリーにも同じ様な事を言われ、煮えきらない様子を見せたら可哀想な子を見るような目で見られた。
誤字報告を有難うございます。
なかなか女性恐怖症が根強いダニエルです。後で後悔しなければ良いのですが。
今後もお楽しみくださると嬉しいです。




