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第4話 男子を巡る、女の戦い


 蟻塚有珠――容姿端麗で裕福な家庭育ち。しかも性格は社交的で、誰にでも愛想がよく、クラス学年問わず人気の女子生徒だ。

 

 そんな彼女だが、普段俺とあまりの接点が無いのにも関わらず、今日は急に話しかけて来たり。さらに放課後、図書室で調べ物をしていた俺の元にわざわざやって来て、一緒に帰らないかと誘ってきた。


 もしかして……蟻塚さんって俺に気があったりする?

 

 いやいや、そんなこと絶対にありえねえ。

 

 だってチビの俺じゃスラッと背の高い蟻塚さんにつり合う気がしねえぞ。


 蟻塚さんの身長は俺より高いし、スタイルも同年代の女子達と比べて、天と地との差で、あり得ないほど大人っぽくて魅力的な女子だ。


「有馬くん、危ない――!」


 蟻塚さんの事ばかり考えていたら、前を見ることを忘れていた。

 そして気がついた時には、なんと俺の目の前に誰かの『おっぱい』が迫ってきたというか――寧ろ俺から突っ込んでいた。


 ムニッ。

 

「ッ(柔らかっ!? しかもなんか良い香りがする!)」

「こら有馬! 廊下を歩く時はしっかり前をみなさい!」

「さ、佐藤先生!? すみません!」

「……(じっー)」

「あら? 蟻塚まで一緒なの? 珍しい組み合わせね。普段山田と一緒に居るイメージだったけど……」

「佐藤先生、しつれいします。行こっ、有馬くん」

「う、うん。(初めておっぱいに顔突っ込んじまった。あんな感触だったんだ)」


 ……。


「……はあ。ヒヤヒヤした。危うく教師クビになるところだったわ」


 有馬達とすれ違ったあと、佐藤はそう言って背筋をゾッとさせた。

 

 余談だが、この世界では、近頃ニュースで、女性が満員電車で男性に胸を不可抗力で当ててしまい、『痴女』として訴えられるケースが発生していた。


 また中には、性的興奮を得るために、わざと男性の背中に胸を押し当てて逮捕される女性の件数も多く、それが問題視され、男性専用車両が導入されたり――その他に、女性の自己防衛策として、満員電車に乗る際は、カバンやリュック等で自分の胸を隠す処置が取られているのである。


以上余談終わり。


 ……。


「ねえ有馬くん。寄り道して帰らない?」

「まぁいいけど、どこに行くの?」

「男子が気に入りそうなところ。そこで今日、有馬くんの事をもっと知りたいの」

「(ドキッ)う、うん。別に良いよ」


 男子が気に入りそうなところって、まさかあの場所の事か!?


 ……。


「ここよ」

「……。(ピンクのホテルの方じゃなかったんだ)」


 前の世界では、この場所に『ピンクのホテル』と呼ばれる宿泊施設があったのだ。

 

 しかし、どうやらこの世界では『ピンクの牛丼屋』にチェンジするという差異が発生していた。


「男子ってお肉好きよね。だから最近新しく、ホテル跡地にできたこの店にしてみたんだけど、どうかしら?」

「え? あぁ……うん……いいね。(なにその『女子って甘いもの好きだよね?』みたいな感じ! けど……小腹も空いてる事だし、家に帰っても多分母さんは料理を作らずに、飯は親父が仕事から帰ってきて作る筈だし……食って帰るか)」


 店に入ると、ピンク色の壁紙が眩しい店内の内装と、それとなぜかスーツに身を包んだ若い男性ウェイターに席に案内された。


 あぁそうか、要するにアレだ。このウェイターは元の世界に当て嵌めると、スイーツ店の可愛い制服に身を包んだ店員って訳か……違和感しかねえ。


「ねえ有馬くん。よかったらなんだけど。今キャンペーン中のメニュー注文しない?」

「キャンペーン? (えーとなになに?」


『カップル限定! 只今キャンペーンの商品を注文すると、牛丼屋LIKEマスコット――ちぃ&ギュウの可愛いキーホルダーをプレゼント!』

 

「どうかしら(キラキラ←欲しいオーラ全開☆)」

「うん、良いよ。(こういう意味わかんないゆるキャラが好きなのは、元の世界の女子と変化ないんだな)」


 ……。


「おまたせしました。ちぃ&ギュウセットでございます」

「――ッ。(げっ!?)」


 おいおい、なんちゅう体に悪そうな食いもんだ。

 

 やって来た牛丼は、大盛りのご飯の上に、コレまた馬鹿みたいな量の肉――そして極めつけがこれでもかというくらいに乗ったチーズのトッピング。見た目だけで、胃にかなり負担が来そうだ。

 

「お好みでマヨネーズも乗せてお召し上がりください」

「……。(まじかよ。デブまっしぐらじゃねえか)」

「すごいわね。いただきます」

「えっ! 蟻塚さん、コレ食べるの!?」

「あっ……そうよね。まずはイン〇タ用の写真も撮らなきゃいけないわよね。どうぞ有馬くん」

「いや、俺そういの撮らないし。というか、蟻塚さんが牛丼食べてる姿が意外……あっ! 悪い奴意味じゃなくて、普段の立ち振舞が清楚って感じだったから牛丼食べてるイメージが沸かなくて」

「へぇ、そういう風に見られてたのね。でもまぁ、無理もないわ。実際家ではこういうの出なくて食べれないし。けど、こう見えて私、結構激しいスポーツ習ってるから、カロリーの消費が激しくて、お腹がどうしても空くのよね。あと、他人のイメージの話なら、私だって今日、有馬くんがら今日の授業で、勇気を振り絞って、自分の意見を言ってる姿を晒したのは意外な光景だったわ。勿論それは良い意味よ」

「そ、そうかな……」


 蟻塚さんは、俺から見れば胃がもたれそうな牛丼を普通に『美味しい♪』とニコニコ上機嫌に食べ始めた。

 

 蟻塚さんにこういう一面があるなんてまったく知らなくて、俺の中の彼女に対するイメージが塗り替えられていく。

 

「ふぅ……」

「(すげえ、もう平らげちゃった)」

「有馬くん、食べないの?」

「えーと……ごめん。流石にちょっとコレは俺にはむりかもしれない」

「えっ……ハッ! もしかして……」


 蟻塚さんは、言葉の途中でハッと何かに気がついた素振りをした。


「そうよね。男子って自分の体重に敏感だし、余計な脂肪をつけないように、筋力トレーニングとか、食事制限しっかり管理してるものね。ごめんなさい」

「あー……(そう捉えるのか)」


 確かに。この世界の男子は女子の目を気にして、給食をあまり食べなかったり――かと思えば自宅からプロテインを持って来て飲んだり、


 あとは昼休憩に、体育館で筋トレに励むなどして、かなりストイックだ。てか体育館がもはやジムと化して、むさ苦しくなっている。


「因みに聞いてみたいんだけど、蟻塚さんって、どういう男子が好みなの?」

「そうね……例えば――有馬くんみたいな体型の男子かしら。中々身長の低い男子っていないし。あと適度に筋肉もあるのが好みかしら」

「――ッ(ドキッ)」


 ほうほう、聞きましたか?

 チビで困ってる男子諸君。この世界は俺等にとっては天国だぞ!

  

「そ、そうなんだ。だったら俺も、親友の千秋に誘われてるし、健康にもいいから運動してみようかな」

「いいと思うわ。もし良かったら有馬くんの運動に私付き合うわよ? 勿論二人っきりで」

「うん。蟻塚さんが良ければぜひ!(よっしゃあ!! なんかこの世界に転生してから調子がいいぜ!)」


 もしかすれば、この事がきっかけで、将来蟻塚さんと仲良くなって付き合えるかも――なんて考えていると、

 

 丁度店の入口から入って来る、背が高くてショートカットの髪型の女――佳奈が居て、俺と目が会った。


「佳奈っ!」

「マコト!? あんたなんでこんな所に――」


 ……。

 

「ねえねえ有馬くん。さっきもらった『ちぃ&ギュウ』のキーホルダー、スマホで写真撮りたいから、並べて置いていいかしら」

「うん、別にいいけど……」


 蟻塚さんが写真を取る間、佳奈が険しい表情をしてこっちに向かって来る。

 

 シッシッ! せっかく蟻塚さんといい雰囲気なんだからこっちに来んな!


「ま、マコト……そこにあるキーホルダーって……。(確かカップルでしかもらえないグッズの筈じゃ)」

「フフフ♪ どうも山田さん」

「蟻塚……さん? (なんで? どうしてあんたがマコトと一緒に居るのよ)」

「佳奈先輩、どうしたんですか? こちらの席の人達って、佳奈先輩のお知り合いですか?」

「(誰だ? ウチの学年で見たことないし、佳奈の事を先輩って言ってるから、後輩か?)」


 俺は思考を巡らせた。

 

 待てよ? 元の世界では、部活でスポーツしてる男子(陽キャ)には大抵彼女が居た。

 それをこの男女逆転世界に当て嵌めるとしたら……なっ! これって、まさかの!?


「えっ!? 佳奈が……男子とデート!?」

「マコト! これは違うの――!」

「どーもー始めまして。佳奈先輩の彼氏で、1年生の挾間光でーす」

「佳奈の彼氏いいぃ!?」

  

 バカな。

 元の世界では可愛げもなく、クラスのほぼ男子から超絶ウザがられて不人気だったあの佳奈が――この世界では後輩男子の彼氏がいる陽キャ女子だと!?


 ……イラッ

 

「へぇ……そうか、そうか。(こいつ、こっちの世界じゃリア充してんのな)」


 佳奈なんて、どうでもいいのに、なぜか俺は心の中に苛立ちが芽生えて来るのを感じた。


「マコト、本当に違うから――」

「ふーん……」

「あら、丁度いいじゃない。マコト君。折角だし同じ席になってダブルデートみたいにしましょうよ」

「はぁ? 何いってんの? てかデートって事は……マコト、あんたもしかして蟻塚さんと付き合ってるんじゃ――」

「佳奈先輩! そうしましょうよ♪ なんだか楽しそうじゃないですか」

「まぁ……いいんじゃね?」

「マコト、あんたまで……(なによ、マコトのやつ、蟻塚さんと付き合ってデートしてるところを私に見せつけたいの?)」


 こうして俺達は一緒に店内で過ごす事となった。


「有馬くん、もし食べれそうになかったら、私が食べてあげるわよ?」

「えっ、でも俺の食い欠けだし。悪いよ」

「私、有馬くんのだったら気にしないわよ」

「ダメよ! 行儀が悪いわよ」

「残す方が行儀が悪いと思うわ。食べ物は大切にしないと」

「へぇ意外ね。確か蟻塚さん家って結構裕福って聞いてるから、私達庶民が言うような事を言うとは思わなかったわ」

「佳奈! お前それは流石に失礼だぞ!」

「そうですよ佳奈先輩。流石に今の発言はよくないですよ」

「ッ――そうね。ごめんなさい」

「構わないわ。それより蟻塚くん。あーん――」

「ちょっと! 流石に人前でそれはマズイし文句言ってもいいわよね! そうでしょマコト!」

「……。(ゴクリ)」

「マコト、あんたまさか本気でやる気なわけ? 嘘でしょ?」

「(いいなぁ、羨ましいなぁ。逆に僕、佳奈先輩にしてほしいなぁ)」


 目をつむり、口を開けている蟻塚さん。真っ赤な口の中に、粘液が光っているのがよく見える。

 今から俺はここに自分の肉(※牛丼の肉です)をスプーンで入れるのだ。これが、なんか知らねえけど目茶苦茶ヤラしい気がする。


「あっ……あ……! (マコト、ダメ! やらないで!)」

「――っく! (入れたあっ!!)」

「ンッ♡……美味しい♪」


 食べさせたあと、俺はしばらく放心して、蟻塚さんが加えたスプーンを眺めていた。


 ――ったく、どうすんよコレ。

 このまま、もしもこのスプーンを使ったら、関節キスになっちまう。


「はいマコト。流石に衛星上良くないから代わりのスプーン」


 チッ! 佳奈の奴、余計な事を……。

 

「蟻塚さん――ちょっと話があるから着いてきてくれる?」

「ええ、いいわよ。ごめんなさい、ちょっと席を外させて貰うわ」

「あっ、だったら佳奈先輩。僕達も同じメニュー注文しといていいですか?」

「好きにしといて」


 そう言って佳奈は蟻塚さんを連れて奥のトイレに向かった。


「(へぇ、こっちの世界じゃ、女子も連れション行くんだ)」

「さて……あなたが有馬先輩ですか。佳奈先輩からよく話を聞きますよ」

「ふーん……で? お前は誰? 佳奈の彼氏って本当なの?」

「アレは嘘です。だけどいづれ佳奈先輩に好きになってもらって、僕を彼氏にしてもらうつもりです。というわけで、初めてまして、僕は狭間光――佳奈先輩が所属する女子バレー部のマネージャーです」


 狭間光と名乗る後輩は、見た目は華奢で、肌も白く。ヘアスタイルはフワッとした黒髪のマッシュで、どことなく女子の受けが良さそうな雰囲気だ。


 そして俺に対して素敵な表情を浮かべて、明らかに敵意をむき出しにしている。


「なるほど、だけどな……一言言わせてもらう!」

「何ですか? 有馬パイセン」

「そんな、あからさまに股間をモッコリ膨らませてる変態野郎なんかが佳奈に近づくのは、流石に幼馴染として見過ごせねえよ!」

「……これは、股間を大きく見せる為のパッドを入れてるんですけど?」

「……は? (なにそれ? もしかして胸のパッド的な?)」


 ……。


 一方その頃――。


「蟻塚さん、単刀直入に聞くけど、あんたマコトと付き合ってるの?」

「なんで貴方にそんな事聞かれなくちゃいけないのかしら?」

「いいから答えて! 私はあんた個人に、よくない噂が流れてるのを知ってる。だからマコトの幼馴染として、そんな奴がマコトの近くに居るのは見過ごせない!」

「ふーん……幼馴染としてねえ。(本当は好きなくせに)ところで有馬くんって、結構可愛いわよね。それにさっきみたいに押しに弱いみたいだし、すぐにヤレちゃいそうよね」

「ッーーーー!!!」


 コイツ! やっぱり噂通り最低の女だ! そんな奴がマコトちょっかいかけようだなんて、絶対に許さない!


「蟻塚あああああっ!!」

「さんをつけなさいよデカ女!!」

「死ねええええ!!」


 佳奈はバレーで鍛えた、渾身の脳天スパイクを蟻塚に放った――しかし、蟻塚の姿が消えた。


「……ハッ! タックル!? くっ!」


 佳奈は気がつけばあっという間に、床に倒されていた。そしてすぐに腹の上に蟻塚が跨り、起き上がれ無くされていた。


「あんた……何かやってるわね」

「ええ、ブラジリアン柔術っていう格闘技よ。主に寝技と関節技、それとさっきみたいに人を倒す事だって容易いわ」

「くっ……! (なんて強い力なの!?)」

「無駄よ、私の実力は青帯よ。素人がどうにかできるレベルじゃないわよ。フフフ♪」


 ※柔術の青帯は柔道の二段に匹敵する。


「さーて、どういたぶってやろうかしら♪」


 ダメだ。コイツに勝てっこ無い。このままじゃ私――いや、違う。私はどうなってもいい。だけどマコトがコイツに嬲られちゃう! そんなのイヤ!


「お客様! なにやってるんですか!? 店内で喧嘩してるなら警察呼びますよ! あと因みにここトイレでまだ掃除してないなで、床に転がって喧嘩したらバッチちいですよ!」


「「あっ……」」


 ……。


「「……」」


 佳奈達が戻って来た。えらく長い連れションだったようだかど、さすがにそれを言うのはデリカシーにかけるだろう。


「有馬くん、もう帰りましょう」

「挾間、悪いけど今日は帰るわよ」

「えっ、二人共急にどうしたの?」

「そうですよ佳奈先輩、来たばかりじゃないですか」


 二人は俺達を無視して、レジへと向かって、よくわからないが今日の放課後寄り道デートは終了した。


「(さすがに食欲が失せたわ)」

「(制服にトイレの臭いついたかも……)」

 

 続く。


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