表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第3話 放課後デート


 体育館――山田佳奈は集中してボールを高く上げると、全身全霊を込めて、それを叩いて弾いた。

 

「ふんっ!!」

「フォールト!!」


 佳奈のボールは虚しくネットに当たって勢いを無くし、自陣のコートに落ちた。そして相手チームの歓声が湧き上がり、今日の部活の練習試合は幕を閉じた。


「山田ァアアア!!!」

「ひっ……!」


 狂ったように大声で名前を怒鳴られ、佳奈は恐る恐る後ろを振り向いた。するとそこには、


 監督――盛山礼(♀体育教師兼生徒指導担当)が鬼の形相をしながら腕を組んで待ち構えていた。


「山田ぁ!! ダッシュ!!」

「ハイッ!!」


 佳奈は恐怖した。

 何故なら盛山が激怒すれば、必ずヒステリックを起こし、暴力を振るって来るからだ。

 

「山田ぁ!! 今日全然集中してないじゃん! アンタ舐めてんの!?」

「すみません監督……うっ!」


 案の定、盛山は佳奈の頬を思いっきりビンタした。あまりの痛さと恐怖に佳奈は目から涙が止まらなかった。

 

「今日の試合なんなの? あり得ないミスばかり、全部山田のサーブミス! ホントになんなの? やる気あんの?」

「あります!(泣)」

「ホントに? その割には最近色気づいて髪伸ばしんじゃない。どう見ても髪長いわよ、ホラっ!」

「痛ッ」

「女子バレー部は全員髪はベリーショート! 来週までに切って来なさい!!」

「ハイ……監督!」


「うわぁ。女子バレー部は男子と違って『アマゾネス』だなぁ」


 離れた位置から監督と佳奈の光景を見ていた男子バレー部の部員はドン引きしていた。

 

「全員集合!!」


 監督の号令に、女子部員達はキビキビと走って集合し、監督から何を指導されるのかとビクついた。


「アンタ達今日はほんっとしょーもない練習だったわね。どういうこと? 特にキャプテンの佳奈がこんなんだし、アンタ達レベルが全体的に低いんじゃないの!? 私達はレベルの低い男子と違って女子バレー部なのよ!?」


 佐藤の発言に対して、後片付けをする男子バレー部員達は一瞬立ち止まり、聞き耳を立てた。


 しかしそれでも佐藤の発言は止まらない。


「男子バレーときたら、パワーだけが頼りのなんの工夫もない単純でしょーもないバレーボールでしょ? だけど私達女子バレー部は全然違う! 可憐に美しく! チームワーク! 絆! 戦略! テクニック! その他全てを兼ね備えたレベルの高い競技をしてるのよ! そして、それを実行する為にはバレーボール一本に集中! 他の事に現を抜かすんじゃ無いわよ! いいわね!」

「「「ハイ!!」」」


「ちっ……なんだよ女子バレー部の奴ら。男子をバカにし過ぎだろ。ムカつく」


 男子バレー部と女子バレー部の仲はいつも険悪だった。というか、監督はあえてこうやってきた。

 

 こうすることで女子の男子に対する対抗心を煽り、女子バレー部員の気持ちを高めて精神と質を強化しているのだ。


「グス……」

「山田ぁ!! ビンタされたくらいでいつまでも男みたいに泣くんじゃ無いわよ! 」

「ッ……ハイ!!」

「女は男と違って、出産するから痛みに強いのよ! それともあんたは痛みに弱くてピーピー泣く男なの!?」

「いいえ!! 私は女です!!」

「そう、だったはすぐにその見苦しい泣き顔を拭きなさい! 弱さを見せるな!」

「ハイ、監督!!」

「それじゃあ今日は解散!!」

「「「ありがとうございました!!!」」」


 やっと佳奈にとって地獄のとも思えるバレーの練習が終わった。


 ……。

 

「あの……佳奈先輩。濡れたタオル持って来ました。これで顔を冷やして下さい」

「あっ……サンキュー狭間」


 佳奈の後輩の男子生徒で女子バレー部マネージャー――狭間光はざまひかるが、心配そうにしながら、佳奈の元へやって来た。

 

 彼は身長160センチで体重は軽く細い身体。そして容姿も可愛い系の男子で部員からの人気もあり、よく女子更衣室の中で話題に上がる男子だ。佳奈はその時の様子の事を思い出した。


 更衣室にて。


「ねえねえ、ウチらのマネージャー可愛くない?」

「わかる〜。彼氏にしたい」

「あんたじゃ無理でしょ」

「なによ〜!!」

「うーん……確かに顔はいいけど、私は、あともう少し身長が低かった有りかな」

「ショタコンきもっ」

「うっさい!」

「それよりもアレでしょ!」

「あーアレね! マジでたまんないわアレは。見ただけで興奮する」

「佳奈はどうなのよ〜」

「えっ、私は……」


 ……。


 じっー。


 相変わらず凄いモッコリね。抑える努力くらいしたらどうなのよ。


「もぉ、佳奈先輩のエッチ!」

「えっ!? きゅ、急に何よ……」

「さっきからずっと僕の下半身ばかり見てましたよね?」

「ッ!!! ち、違う! 見てないわよ!」

「誤魔化してもムダですよ。ほんっと女子って会話の最中に男子の下半身ばかり視線が行ってますね。丸わかりなんですからね」

「だから違うって言ってるでしょ! それに私はその……前より、後ろの方が好みだし」

「えっ、そうなんですか!? 初耳です! なら僕のお尻はどうですか?」

「ば、バカ!! なにしてんのよ! 後ろ振り向かなくてもいいから!」

「フフっ、慌てちゃって。冗談です♪」

「ふぅ……まったく」


 たまにこうして大胆にドキッとさせる後輩が佳奈は苦手であり、どちらかといえば、ごく自然に隙がある男子の方が好みだった。


「ところで佳奈先輩。もし良かったら、これから僕と一緒に帰りませんか? どうしても佳奈先輩と寄りたい所があるんです」

「えーー! どこどこ? 私も行きたいんだけど」

「土屋先輩はお呼びじゃないです」

「そんなぁ、冷たいよ光るくぅーん」

「気安く僕の下の名前を呼ばないで下さい。あとこの際ハッキリ言っときますけど。僕は土屋先輩みたいな巨乳で軽い性格の人はタイプじゃありません」

「がーん!! そんなハッキリ言うー?」


 土屋京子――佳奈の親友で愛称はツッチー。可愛い男子に目がない女子生徒だ。


「くっ……世の中の男子は貧乳の方が好きなのかチクショー! 佳奈! 私の胸の脂肪を吸い取って!」

「胸を押し付けて密着しないでよ、気持ち悪い」

「がーん……佳奈も冷たい。それでも親友か! チクショー!!」

「土屋先輩うるさい! それで佳奈先輩、放課後どうですか?」

「えーと……悪いけど、私一人で帰るから」

「そんな……僕、折角勇気を出して佳奈先輩を誘ったのに……シクシク」


 挾間は目を潤ませて佳奈を見つめる。しかし佳奈は男子ってほんっとどうでもいい事ですぐ泣いてウザイなと思っていた。


「ちょっと佳奈! こっちに来な!」

「なによツッチー」

「あんた、なんで挾間君泣かしてるのよ馬鹿!」

「別にどうでもいいじゃん。男子なんてすぐ泣くんだし」

「佳奈……あんた盛山監督に影響されすぎ。(てか、さっきあんたも泣いてたくせに)将来奥方関白になるわよ――て、そうじゃなくて! もしも挾間君が傷ついてマネージャー辞めるってなったら困るって言ってんのよ!」

「どこが? マネージャーならもう一人居るじゃない。ホラっ……」

「ウッス!! お疲れ様でーす!! ウッス!! タオルどうぞ!」


 大谷剛――もう一人のマネージャー。身長170センチ体重80キロで筋肉質。彼が何故男子バレー部に入部せず、女子部マネージャーをしているのかは謎。


「彼一人なら十分マネージャーできるわよ?」

「アレは見た目が論外。てかそういうことじゃなくて! ウチら体育会系女子って汗臭くてむさ苦しいから男子から人気なくてモテないじゃん! だけど、そんな中で可愛い光君がマネージャーしてくれるなんて奇跡よ! 寧ろ彼が居るから女子が癒やされて、あの盛山監督のきついシゴキに耐えれるんだから、居なくなったら超困るのよ!」

「そういうもん?」

「そういうもんよ! それとも佳奈って男子に興味無いの?」

「いや、あるにはあるけど……」

「えええ!! 佳奈先輩、男子に興味あるって……どこの誰なんですか!?」

「うわっ、挾間! あんたやっぱり嘘泣きじゃない」

「てへ☆ けど、どうしようかなぁ。佳奈先輩が僕と帰ってくれないならやっぱ悲しいし、ショックだし、もうマネージャーやめちゃおうかなぁ」

「佳奈!! 悔しいけど、バレー部のモチベーションを保つ為に、絶対に光君と今日は帰れ! そして何があったのか絶対に後から報告しろよ! このモテ女! チクショー!!」

「あーうるさい! わかっわよ。今日だけだかんね」

「やった! それじゃあすぐに着替えて外で待ってますからね」


 そう言って狭間光は、わざとらしく可愛いくキャピキャピして走って去って行った。


「あぁーもう! 光君マジ可愛い。佳奈はマジで〇ね」

「……親友やめるわよ?」

「嘘々、それよりもあんたって意外と人気あってモテるんだから、もうちょっと男子に優しく接した方がいいわよ?」

「ふん。別に興味ない男子からモテても嬉しくないし」

「あっ、ちょっと佳奈ぁ~待ってよー」


 ……。


「あっ! 佳奈先輩。待ちくたびれましたよ。なにしてたんですか?」

「普通に帰る準備よ。女子は男子と違って身だしなみを整えるのに時間がかかるんだから。それより私とどこに行きたいのよ」

「それがですねえ。最近近くにできた可愛い『牛丼屋』さんに行きたいです。今ならキャンペーン中で男女カップル限定でキャラクターグッズがもらえるんです。だから付き合って下さい」

「牛丼屋ねぇ。(男子って、ほんっとそういう店が好きよね)」


 男子と行くデートスポットの定番だ。他にも定番といえばホームセンター、カードショップ、プラモデル店など、女子には何が面白いのか理解できない場所ばかりある。


「まっ、ちょうど小腹も空いてるし、いいわよ」

「やったー! 佳奈先輩と牛丼屋デート♪」

「……はぁ」


 ……。


 牛丼屋へ行く道中、挾間光はやたらと佳奈に密着し、あれこれ質問してきた。


 その中で佳奈が一番答えにくい質問は「今日は何故集中力がなかったのか?」という問いかけだった。


 マコトの奴、今日蟻塚さんとばかり会話して、私に興味が無いなんて言った。


 もしかしてマコト、蟻塚さんが好きなのかしら。


 だとしたら、あんな男を取っ替え引っ替えしてるって噂がある蟻塚さんに近づかせたらダメだ。マコトが傷ついちゃう!


「佳奈先輩? どうしたんですか怖い顔して。もしかして本当僕と来るのそんなに嫌だったんですか?」

「別に……。ただ、ちょっと部活に集中できない理由が、幼馴染が悪い人と付き合いそうで心配なのよ」

「へぇ……。幼馴染が、心配ねえ。因みになんて名前なんですか?」

「あんたには関係ないわよ。それより、ここの牛丼屋でしょ?」

「はいそうです! さっそく入りましょう!」


 佳奈達が店内に入店すると、そこは内装がピンクの牛丼屋で、可愛いスーツに身を包んだ男性ウェイトレスが受付をしていた。


「(うわっ、こういう場所やっぱ苦手だわ。他にも誰か来てるのかしら)」

「――あっ、佳奈!!」

「えっ、マコト!?」


 奥の席に佳奈の幼馴染――有馬誠が座っていた。しかもあの黒い噂が堪えないクラスの女――蟻塚有珠まで一緒に居る。


「あんた、なんでこんな所に――って、それ!」


 マコト達の席には、牛丼屋来店カップル限定キャラクターグッズが置かれていて、佳奈はショックを受けた。


「佳奈先輩どうしたんですか?」

「えっ!? 佳奈が……男子とデート!?」


 一方、マコトの方も佳奈が自分が知らない男子とデートに来ている事に驚いた。


「マコト! これは違うの――」

「どーもー始めまして。佳奈先輩の彼氏で、1年生の挾間光でーす」

「佳奈の彼氏いいぃっ!?」

「だから違うって――!」

「あら、丁度いいじゃない。マコト君。折角だし同じ席になってダブルデートみたいにしましょうよ」

「ッ……(蟻塚有珠、何を考えてるの?)」


 こうして急遽、佳奈と光ペア。そして有珠とマコトペアのダブルデート(?)が始まった。


 続く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ