絶対守護領域
わいわい、きゃぴきゃぴ。
今の俺のまわりの状況を正確に形容するならば、まさしくこの言葉があてはまるだろう。
そう。俺は、本来ならば一生足を踏み入れることのないだろう絶対守護領域の中にいる。
見渡す限りの……いや、これは言わないでおこう…。
とにかくさっさと着替えてしまおう………。
まったく…。俺が少年誌の主人公とかだったら鼻血出してぶっ倒れてるぜ、確実に。
「斎藤さんってほっそいよね~。」
「ホントホント。」
「響子ちゃんうらやましい!!」
やばい…。なぜか話題が俺の事になっている…。とっととこの服を着てしまおう。
すると突然楓が
「みてよ皆、このひきしまったウエストッ!!」
とか言って俺の腰に抱きついてきた。
……パンツ一丁で。
「のわひゃぁぁっ!!」
これは俺の声だ。まったくなんと恥ずかしいことか……。
「うおぅ。可愛い反応!その上肌すべすべ!」
「ちょっ!はなっ…!!頼むから!!」
勘弁してくれって!!なんだこの最悪の展開は!!
藍花と実希!!笑ってないで助けろよ!!
「ねぇところでさ、斎藤さんバスケ上手いみたいだけどどこの部活はいるの?」
突然、話の流れをぶった切って質問してきたのは、俺の前の席の…小泉…だな。
「ひぃぃぃぃっ!!はなせぇぇぇ!!」
「足もほっそいなぁ~。どれどれ胸の方は、」
しかし生憎俺はそれどころじゃないのである。
楓…まさかこんな危険な奴とは……。
「ん~胸はもうちょっとほしいかな?」
「はなせぇぇぇぇぇっ。」
「おーい、二人ともー。聞こえてるー?」
「こっ小泉さん!!たすけて!」
藁にもすがる思いとはこんな心境だろう。
「なんだと~?体操服貸してやったのはアタシだろ~?」
「ひぃぃぃぃっ!!」
朝、来た時とはもはや別人だ。
「もう……。楓ったら…。」
と小泉。
「あれ?小泉さんは楓ちゃんと仲いいの?」
これは藍花。
「ん?まあおんなじ中学だったからね。」
「へぇー。そうなんだ。」
て言うか二人とも!!助けろよ!!なんでスルーなんだよ!?
「斎藤さんの反応…可愛いなぁ…。」
「ホント。普段とのギャップがいいよね。」
「そうそう。普段は異様にサバサバしてるのに。」
「…芹沢さん……いいなぁ…。」
なんかあっちの方では聞き捨てならない会話をしてる連中がいる!!
なんだその生温かい視線は!?
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「なー、体育って何をするんだろうな?」
「どうせ最初なんだから体力測定だよ。男女合同とか言ってたし。」
「あぁ!そうか!よっし、やるか!!」
なんでユージはこう、すべてに対して前向きなんだろうか……?
俺には生徒の握力やら50mのタイムやらを計って記録する意味が理解できないしやる気も起きない。
「それにしても女子が遅いな。もうチャイムなるぜ?」
「うほっ、来た来た。」
「見ろよ、斎藤ってやっぱ細いよな。」
「おまえ斎藤ばっかだな。て言うか皆可愛いなー。」
合同で体育ということで何やら変なテンションの輩が多いが、まあ、たしかにウチのクラスの女子生徒達は、他と比べて、可愛い人が多い気もするな。
ただその中に響子も入ってるってのが不思議だ。
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「よしみんな揃ってるな。んじゃまずは準備体操からだ。誰か適当に前でてやってくれ。」
…まさか担任が俺たちの体育の担当とは…。
なんとか楓のセクハラ攻撃に耐え抜き、やっと体育が始まったのだが…終わった後にも着替えが待ち受けているかと思うとぞっとする。
そして何やらさっきから男子共がこちらをじろじろ見ている気がして落ち着かない。
いや、合同体育なんだから仕方ないな。男どもが見ているのはおそらく女子全体だろう。
それにしても、体力測定なんて……気が重い。
もともと速くもない足が女になってもっと遅くなってんだろうな…。
「……すごーい……。」
「カッコいい…。」
「やるなぁー…。」
「すごっ。響子速い速い!!」
驚いた………。
走るスピードはたいして落ちてないようだ。
男の時と比べて少ししか落ちていないということは、相対的に見て速いということだ。
これは女になって初めての嬉しい発見だな。それでも楓にはかなわなかったが。
さすがは女版ユージだ。
しかしその後の持久走で俺は、半分も走らないうちに体力が底をつき、しぬほど苦労した挙句、タイムはクラスで最下位だった……。
その上クラスの女子の一部からは
「バテた斎藤さんも可愛い!!」
とか言われる始末。これって絶対馬鹿にされてるよな?
まったく。今日は踏んだり蹴ったりだ。
体育の後の着替えの時も楓にセクハラされまくったのは言うまでもない。