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ピンチ再来!!

困った…。非常に困った……。


高校入学三日目。

俺の通う県立陣台高校では今日からちゃんとした授業が始まるのだ。


昨日フラフラだった俺も、まぁ寝不足が原因の一つということもあり、あれからずっと寝ていたらすっかり治ってしまった。


そこまでは良かったんだが……。


「…体育……。」


そう。体育だ。しかも一時間目だ。

俺としたことがコイツの存在をすっかり失念していた。

別に体育が嫌いなんじゃあない。


着替えだよ…。それが問題なんだよ。


俺の通っていた中学には更衣室なんていう立派なものは存在しなかったため、体育の際には、一組は女子の着替えるクラス、二組は男子の着替えるクラス、というような方式をとっていたのだが、体育の前の休み時間の一組は、男子は絶対近づくことのできない女子の絶対守護領域と化していた。


ちょうど一年ほど前かな……。

うっかりして教室に入ってしまった後藤君は、その後半年間、卒業するまで女子に変態と罵られていた。


そんな中に俺が……?一体何の冗談だ!?


せっかく…、…せっかく芹沢事件を回避したばかりというのに……!!


体は女だが、中身は普通の男子学生なんだよ?

うれしいとか恥ずかしいとかいう前に、精神が崩壊しちまう。


「鏡哉~。響子~。早く下りてきなさいよ~。遅刻するわよ~。」


うぐ…。もう7時20分じゃないか……。


俺たちは徒歩通学なので、8時には出ないとマズイ事になる。


むぅ……。とりあえず制服の下に体操服を着ていくことにしよう……。

こうすればひとまず女子たちの前で服を脱ぐという罰ゲームをしないですむというわけだ……。


コンコン


ノックの音。


「おい、数学の教科書ってなんか二個あるけどこれどっち持ってくんだ?」


鏡哉のようだ。

鏡哉が知らないことを俺が知ってるはずもないのだが。


「あ?二個?どれどれ見せろよ。」


ガチャ…


「このなんか1って書いてるやつとAって書いてる奴が………って、うぉい!!!」


ん?なんだ?どうした?


「お…お前……着替え中なら着替え中と言え馬鹿野郎!」


「あ………。」


俺は今、スウェットを脱ぎ捨てた状態、つまりは下着のみの恰好で制服を前に悩んでいる最中だったのだ。

さすがに女物の下着をつけているのにも慣れてきた。

まぁ、この格好では俺自身も恥ずかしくて鏡を直視できないんだが……。

それ故に鏡哉の気持ちは十分理解できる。


普通の女性ならここでキャー!とか変態ー!とかいうんだろうが生憎俺は男だし、

知らん奴に見られたなら焦りはするだろうが、コイツに見られたところでなんとも思わないな。

だってこいつは俺なんだ。もしかしたら、今響子になっている俺の方が鏡哉のままで、鏡哉のままの俺の方が、響子になっちまってた可能性だってある、気がする。

なんか考えてて訳分からなくなってきた…。

まぁ客観的に見ればどっちも中身俺だから変わりはないだろうが、俺達の立場から見たらこれは意外と重要だ。


話がそれた……。


結果的に、俺は鏡哉に下着姿を見られたところで、別になんとも思わなかった…ってことだな。


「んで?数学の教科書って?」


「だから服を着ろ!!…勘弁してくれよ。」


ふん。これから俺は体育というこの何十倍もの試練を超えなくちゃならんのだ。

だから勘弁しない。お前も試練を味わうがいい!


「ちょっとー!聞いてんの二人ともー?ほんとに遅刻するわよー!?」


…と思いつつも、残念ながら時間がないのでさっさと制服を着ることにする。


その後、俺の寝ぐせまみれの髪の毛を母さんがいじくり回して、美容院での形を忠実に再現するのに思いのほか時間をとられ、あっという間に8時2分。


「うげ、もうこんな時間じゃねぇか。」


「ちょっと鏡哉!あんたも寝ぐせくらいは何とかしなさいよ!二人ともほんと誰に似たのかしら。」


そりゃ、もともと一人なんだからね。似てるも何もない。


「別に髪が少しくらい跳ねてたっていいじゃないか……。」


「全くだ……。」


ピーンポーン


「おーい。一緒に学校行こうぜー。」


ユージだ。

あいつの家は俺の家のあたりから少し南にいったところにあるので、ちょうど学校に行く時には俺の家のあたりを通ることになる。中学のときには俺がよく迎えに行っていたが、学校の場所が真逆になったから、こんどはユージが俺を迎えに来る番というわけだ。


「いいか響子。お前の両親は仕事の都合で海外にいったから、うちに預かられているんだ。いいな?」


なんだって?


「は?」


「だーかーらー。昨日あの二人組にそう言い訳しちまったから、ユージにもそれで通す。わかったな?」


そういや昨日藍花と実希に送ってもらったんだったな…。すっかり忘れていた…。


「了解。」





学校に着くなり実希と藍花が駆けつけてきた。


「あっ!!響子ちゃん!おはよう!もう大丈夫なの?」


「あぁ。もう大丈夫。昨日はゴメン…。」


「なに言ってんのよ。困った時はお互いさま。響子も、私が困ってたら助けてよね。」


当り前だ。


「そりゃあ勿論。」


「うん。元気になったみたいでよかったわ。」


そういや芹沢さんはどこだ?謝らねぇといけないんだが……。


「芹沢さんは…?」


「そういやまだ来てないみた…」


「響子!?来たの!?」


ナイスタイミング。芹沢さんが登校してきた。


「昨日はほんとゴメンね!!無理やり誘ったりなんかして!」


そして突如としてあやまってきた。

まったく…。謝るのは俺のほうだ。


「いや謝るのはこっちだよ。昨日は迷惑かけて本当にゴメン。用事があったのに…。」


用事とやらには間に合ったのだろうか……?本当に迷惑をかけてしまった。


「え…?あ、いや…それは全然構わないんだけど……。も、もう大丈夫なの!?(何!?すっげぇ可愛い!!この表情!)」


ん?なぜいきなり慌ててるのだろう?変なこと言ったかな?


「うん、全然大丈夫。それよりも昨日はほんとに…」


「はーいはい!二人とももう謝るのはいいから!いつまでもそんなとこ突っ立てたら誰も教室入れないじゃない!どっちも悪くないから!ね?」


教室の扉の前だった…。


「あ…、ごめんごめん。…それと体操服、返すよ。ありがとう。」


「こちらこそ!!」


は?なにがこちらこそ?なんでそんな笑顔?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



教室に入るなり昨日の二人が響子に駆けつけてきた。

俺とユージが席に着くと、誰だったか…前の席の奴が


「なに!?響子ちゃん昨日なんかあったの?」


なれなれしい奴だな。


「あぁ。なんかバスケしてて体調悪くなったみたいだな。」


俺がそう答えると、真剣な顔つきで


「マジで!?大丈夫かなぁ…。」


と、心配そうになにやらブツブツ言っている。


いやいやいや。それより誰なんだよ君は…。


「…よし、ちょっと俺話しかけてこよう…。」


そいつがそう言った途端、教室中の人間がそいつを睨んだ。…様な気がした。

なんだなんだ?


「抜け駆けは許さんぞ。桐沢ぁ…。」


…もう一人変なのが来た……。


「なっ?お前は長田!止めたって無駄だぜ。」


なんなんだこいつらは……?

…俺はユージのところにでも行くか…。


それからも奴らは、


「自分の体調が悪くなったというのに、相手の用事を気遣うとは、なんて優しいんだ!!」


とか


「そしてあの上目づかいはなんだぁ!?かっ可愛い!!」


などとわめき合っていた。


うむ、なんというか複雑な気分だな……。


ていうか響子ってそんなにかわいいか?

俺にはいまいちピンとこないが……。


ガラガラ…


扉の音とともに担任教師が入ってくる。


「はーい席つけよー。ホームルーム始めるぞー。」


そういや今日は空手だの柔道だのと誰も寄ってこなかったな…。

まったくうれしい限りだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


………しまった………。


まったくもって本当に、しまった………。


しまったとしか言いようがない。


しまった………。


体操服を………中に着てくるのを……忘れた…。すっかり忘れていた。


なんてこった。きっと鏡哉のせいだ。そうに違いない。

なんであんな場面で部屋に入って来るんだ…。


ど、どうしよう…。どうすれば…。


「…連絡は以上~。あぁ、今日はいきなり体育だったな……。そんじゃもう着替えろ。男はここ。女は更衣室が隣の棟にあるからな。はい、かいさーん。」


いやまてよ。いま体操服を着て無いって事は、体操服無いじゃん、俺。

忘れたんだ。それだ!!ひとまずそれでいこう!それでトイレとか行ってよう。


「んー?どうしたの響子ちゃん?更衣室行こう?」


「あぁ、それが体操服忘れちゃって。」


「……響子って、抜けてるわねぇ。楓の体操服はちゃんと持ってきたのに…。」


「あはは!すっげぇ可愛い!響子最高!でも安心して?アタシ二つあるから。響子が持ってきたやつと、自分で持ってきたやつ。それかしてあげるって!ね?」


……なん……だと……!?


「あ……ありが…とう…。楓…。」


「どういたしまして!」


ちくしょう……。なんてこった…。



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