部活
「えっと、よかったら台所貸してくれない?」
リビングに入るなり千堂が言う。
「え?」
「響子さっきすごい吐いてたと思うから、お粥でも食べさせた方がいいと思って…。」
吐いただって?おいおいマジかよ…。
「あぁ…。わざわざ作らなくていいって…。」
「でもなんか栄養取らないといけないじゃない。」
「そうじゃなくて…。お粥くらいなら俺にも作れるって言ってんの。」
「え?………へぇ。斎藤君料理できるんだ……。」
なんだよ…その意外そうな顔は…まだ知り合って一日しか経ってないんだぞ?
一体俺をどんな奴だと思ってたんだ…?
「ねぇ!なんで響子ちゃんと斎藤君がおんなじ家で暮らしてるの?」
うっ、いきなり本題に入りやがったな伊藤…。
どう答えたものか……。
「そ、そりゃあ親戚だからで」
「ソレ昨日聞いたけど?」
「だ、だからだな…うん。あいつの両親は…そう!仕事の都合で海外に居てだな…。」
「ふーん。それで斎藤君の家に?」
「ああ。そうだ。」
我ながら苦しい言い訳だ…。
「ジュース…やっぱねぇな…お茶で良いか?」
「あぁ。別に気を遣わなくてもいいのに…ありがとう。」
気を使うなって言われても、残念ながら俺の家に女の子なんて来たこと無いもんで。
気を使わない方が難しいのさ…。
そういや聞きたいことがあるとか言ってたな…。
「で?聞きたいことって何だ?」
「うん。昨日藍花とも話してたんだけどね?響子って、なんかあんまり人と話したがらないというか………いや、喋りかけたら普通に喋ってくれるんだけどなんというか…こう、打ち解けてくれないっていうか…。」
「そうなんだよね~。仲良くなりたいのにね。」
そりゃあそうだろう。もともと男なんだ。
ていうかなぜそんなことを俺に?関係無いじゃん、俺。
…いや、言いかえれば俺が一番関係あるだろうが?うーん。よくわからないな。
「知り合ったばっかりだからじゃないか?」
「う~ん。そうなのかなぁ。」
と伊藤。
「ま、そのうち打ち解けるんじゃねぇの?」
すいません。今俺適当な事言いました。
「そうだといいんだけど…。」
これは千堂。
「そんなことより。なんでそんな響子を気にするんだ?」
俺としては非常に気になるところだな。
「え?そんなこと言われても困るけど…。あのコ、気づいたらいつもボーっとしてるし…。今日だってテスト始まってすぐ窓の方見てボーっとしてたし、なんか危なっかしくてほおっておけないじゃない。」
あ~。それはおそらくボーっとしてたんじゃなくて、公式が思い出せなくて問題が一問もとけないまましかたなくテストをあきらめ、今ハマってるとあるマンガのストーリーについて色々考察していたんですよ…。
俺がそうだったからな。まず間違いないだろう。
言わないけどな。
だいたい俺はボーっとするのは嫌いだ。こいつら大分誤解している。
「そうそう。変な不良に捕まっちゃうし。今日だって無理してバスケしちゃうし。」
あの展開になったのは本人にも責任はあると思うんだが……見てないなら仕方ないが…。
しかしまあ、クラスで浮くよりはこんなやつらがいてくれたほうがいいに決まってるよな。
「あー。まあ、あいつも入学したてで緊張してたんだろ。これから仲良くしてやってくれよ。」
「もちろん!」
「いわれなくても、ね。」
ま、よかったと言うべきなんだろうな。
「よし。玉子がゆ完成っと。」
「へぇ。上手いのね…。あ、じゃあ私達そろそろ帰るわね。御馳走さま。」
「お邪魔しました。じゃあ明日ね。斎藤君!」
お粥に上手いとか下手とかがあるのかはわからないが、まぁ褒め言葉として受け取っておこう。
さてあいつらも帰ったし、持って行ってやるとするか。冷めちまう。
コンコン。
返事がないな。寝てるのか。
俺はノックはちゃんとする主義だ。いくら中にいるのが自分だとしても。
「おい。入るぞ。」
ガチャ…。
俺の入った物音で、響子は眼を覚ましたようだ。
「…ん?あぁ…。なんだ?」
「ほれ。お粥だ。食っとけ。」
「ああ。悪いな…。」
「まったく…。そんなヘロヘロになるまで、アホかお前は。」
「…いいのか?自分にアホって言って。」
おぅ…しまった…。そういやそうだな。
「アホは取り消す…。」
「…まさかここまでバテるとは思わなかったんだよ。昼飯食った直後だったし。」
「そんなんでバスケ部なんか入って大丈夫かよ?」
もともと補欠なんだし。
「は?」
といって響子が俺の顔を覗き込んでくる。あれ?
「え?バスケ部入るんじゃねぇの?」
「誰がそんなこと言ったんだよ。…え?何?お前入るの?」
…あれ?
「俺は今んところ入る気は無いが。」
「だろ?俺もだよ。」
なんじゃそりゃ。…色々考えてて損したぜ。
「なんだよ。てっきり俺はお前がバスケ部入るとばかり思ってたぜ。」
「なんでだよ。バスケは嫌いじゃないが入る気はそんなに無いよ。お前も俺なんだからわかってただろうに。」
「まぁそうなんだが、あの日の段階ではまだはっきりと決めてなかったからな。」
「ま、入ったところでどうせ補欠だろうしさ。」
「違いねぇ。……あ、そうそう。お前、今度ジュース奢りな。」
「は?」
そんなわけで俺と響子の帰宅部入りが決定した。