鉢合わせ
俺がトイレから出ると心配そうな顔をした千堂と伊藤が待ってくれていた。
「…響子…。大丈夫…?」
う…まだ気持ち悪いがひとまずは落ち着いた……。カレーをリバースしきったからだろう。
もうリバースしたくてもなんにもだすものがないからな。
しかし災い転じて福となす、だな…。おかげで芹沢と一緒に着替えるというハプニングはひとまず先延ばしになった…。
「あ…あぁなんとか…。」
「楓がバスケに誘ったりなんかしてごめん、だって。さっきまでここにいたんだけど、さすがに時間だって言って今さっき帰ったわ。」
芹沢が?…別にあいつは悪くない…なんか悪いことしたな…。
だが危機は去った…。
「…明日謝っとかないとなぁ…。」
「そんなことより響子ちゃん歩ける?保健室行こう?」
「え…?いや大丈夫だよ?」
「なーにいってんの!まだまだ顔色悪いんだから!無理しちゃ駄目だって!」
「いやでも…」
「ほら早く!」
そのまま俺はほぼ無理やり保健室に連行されてしまった。
「うん。別にどこにも異常は無し、っと。あなた。これからは気をつけなさいよ?食事後に急な運動は体に悪いんだから。」
「はぁ。すいません…。」
「それにあなた、最近寝不足でしょう?そんなんなのに急にバスケットなんてするからこんなことになるのよ。」
なんでそんなことまで分かるのだろうか…?
俺は今まで保健室なる所に縁は無かったから知らなかったが、保健の先生ってのはすごいんだな…。
「今日はもう帰って休養しなさい。わかった?」
「はい。」
まぁ仕方ないな…。
「あなたたちはお友達よね?」
保健医が千堂達の方に向き直る。
「はい。」
友達……。
「じゃあこの子、家まで送って行ってあげてくれる?こんなフラフラじゃ危なっかしくて一人じゃ帰せないわ。」
「任せてください。」
なんだって?それは……。
「いや…それは悪いし…。」
「響子はそんなこと気にしなくていいの。」
さすがに勝手にバスケして、吐いて、家まで送ってもらったんじゃあかっこ悪すぎる…。
「でも…。」
「それに、別に先生に言われなくてもあたし達響子ちゃんを送っていくつもりだったよ?」
「え?」
「そんなに冷たい人間じゃないわよ私たち…。それに私たちにも責任はあるし…。」
こいつらも責任を感じていたのか…。俺の自業自得なんだが…。
「いい友達持ったわね。あなた。友達は大事にしなさいよ?」
保健医がにっこり笑って言った。
「…はい。」
「とりあえず着替えなさい。そんなんじゃ風邪ひくわ…。」
「あ!じゃああたしカバン取ってくるね!待ってて!」
確かに。いい奴らだ。
「響子って自転車通学なの?」
「いや、徒歩だよ。」
本来、俺は自転車で通学する予定だったが、俺の家には自転車が一台しかない。
仕方がないから徒歩で通うことになった。まぁ家が近いからそれでも20分も歩けば着くんだが。
「じゃあ私の自転車の後ろ乗りなよ。その方が楽でしょ?」
たしかにありがたい申し出だな…正直歩くのも若干しんどい…。
「あぁ。ありがとう。」
「あ!ずるいっ!あたしが響子ちゃんのせる!」
「残念でした。あんたは二人乗せるとこけるでしょうが。」
「うぅ…。残念…。」
俺としてはどっちでもありがたいが…
普通逆じゃないのか…?なぜ乗せたがる…?
「それにしても、軽いわね響子…。一体何食べてたらそんな細くなれるの?」
んなこと聞かれても…確かに自分でも男の時に比べて細くなっているのは自覚しているが…生憎この体になってからの日が浅い…何?…何って聞かれても…。
「か、カレーとか?」
「「え?」」
なに?変なこと言った…?
「ぷっ。あはははは!響子ってカレー好きねぇ!!」
「響子ちゃん!…今のボケ…最高!!あははははっ!!」
ボケ?俺はボケてなんかいないが…まだ家には3日前のカレーが残ってるからな…今日もおそらくカレーだろう…。
「う………。」
しまった…。カレーのことを考えると……。
「え?響子。また気持ち悪いの?もうちょっとだから頑張って!…あ。ここどっち?」
「さ…左折で…。…そうそこ。その白い家…。」
なんでもない住宅街のなんでもない普通の家。そこが俺の家だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺が家についてお茶を飲み一息ついていた時、玄関が開く音がした。響子だろうか。
「おうお帰り。早かった…な………?」
「………えーっと?」
「………。」
「……。」
なんだなんだ?伊藤…と千堂…だったか、なんで響子とともに…?
「え?なんで斎藤君が?」
伊藤が混乱している。
「なんでって……俺んちだから?だが。」
そう言うとようやく響子が口を開いた。
「お?なんだ帰ってたのか…?空手部は…?」
響子は俺がまだ帰って来てないと思っていたようだ。
「早々に逃げてきたよ。おまえこそ色んな部活まわってるんじゃなかったのか…?」
顔が真っ青だ。…いやそれ以前に表情でわかる。
ふむ。そういうことか…。この状況からだいたい事情は推察できる…。
「あぁ、斎藤君。実はね?」
千堂が説明を始めたが俺はそれをさえぎって
「響子、さっさと着替えて寝てろ。」
「あ?あぁ。そうするよ…。…ありがとう実希、藍花。助かったよ。」
そういうと響子はフラフラと二階に上がっていった。しかしあんなにフラフラになるまでバスケをするとは……やはりあいつはバスケ部にはいるのか…?俺はどうしようか?
おっと。いかんいかん。まだ伊藤と千堂がいたな。しかしどうしたものだろう…?心配して送ってきてくれたのだろうが俺は一体どうすりゃいいんだ?さすがにこのまま帰すのも…なぁ…。
「…まぁ。なんだ。上がってくか?お茶くらいしか出ないが…。」
「え?えぇ。そうしようかな?聞きたいこともあるし。いい?藍花。」
「へ?う、うん。」
まったく…厄介な事が終わってやっと家に帰ってこれたと思ったら…。
響子の奴め…今度ジュース奢りだな。もちろん150円のヤツ。