ピンチ到来?
なんとか着替え終わった俺が体育館に入ると、早速、
「おう斎藤来たか。よし。じゃあ今からこいつら一年入れて5対5するぞー。」
5対5か…
「頑張ろ!!斎藤さん!!」
「あ、うん。」
この芹沢さんのカバンを開けるのには苦労した。
別にファスナーがすごい堅かったとかじゃなくて、俺のメンタル面上の問題で、だ。
なんか抵抗があった。
覚悟を決めて着替えたはいいが、果たしてちゃんとプレーできるだろうか。いくら俺が元バスケ部とはいえ、補欠だし…。芹沢とほかの部活体験の3人を除けば、皆、上級生だしな…。
「チーム分けは、斎藤が入って一年が5人になったから、一年対二年だ。三年は5分休憩。」
マジですか。勝ち目ないじゃないですか…。
まぁ皆一年だったら少しは気が楽だな。
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「楽しみだなー!どんな先輩がいるんだろうな!?」
「どんな?ってなんだよ?普通の先輩だろ?そりゃ。」
三棟ある校舎の一番南の校舎から続く渡り廊下を通ったところにある体育館は、去年改築したばかりだそうで、ずいぶんと綺麗だ。さっきの柔道場とは大違い…というよりむしろ体育館だけが綺麗で変な感じだ。どうせなら全部の設備を改築してしまえばいいのに…。まぁ公立じゃ無理か…
俺達が体育館に入ると、女子バレー部と女子バスケ部が練習をしていた。あれ?
「おいユージ。これはどういうことだ?」
「ん?あぁ。男子の練習は3時からなんだ。」
なんだって!?
「…今何時だと思ってる。」
「1時半だけど?」
「アホらしい。俺は帰る。」
こいつのバスケ魂には脱帽する。
俺は正直こいつほどバスケに熱心なわけではない。そりゃ上手くなりたいとは思うけど。
部活とかじゃなく、そう、趣味でいい。そんな心境だな。最近は。
「なんでだよ女子の見てたらすぐだって!」
「好きにしてくれていいが、俺は帰る。」
「なんだよー…。…ん?ちょっと。あれ、響子じゃないか?なんか部活見て回るようなこと言ってたが、いきなり会うとは。」
「あ?」
確かに響子だ。あんなとこで何してんだ?って、バスケなんだけども。伊藤と千堂も一緒だな。
「へぇー響子上手いなぁ。」
確かに響子はよく働いていた。別にドリブルでびゅんびゅん抜いていくわけでも、シュートをバンバン決めていたわけでもないが、いいところで良い場所にでてくる。なにげにディフェンスにもしっかり戻ってるし…。
「…俺はあんなに上手かったかなぁ…?」
「何言ってんだ?…でもなんか響子と鏡哉の動きはそっくりだな。…お、シュートフォームまでも!」
響子はバスケ部に入るんだろうか?
そしたら俺はどうするかな…。
ま、ひとまずここで突っ立ってても仕方ない。ユージには悪いが帰るとしよう。
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ピーーーーーーーーーーッ
「はい終了。お疲れさーん。次、3年。早く入れー。」
「お疲れ!斎藤さん!!」
「あぁ…。うん。はぁ…はぁ…。」
「あははは!なに!?バテバテじゃん!!」
はぁ…。バスケをなめていた…。半年のブランクでここまで疲れるとは。
俺の体力は女になったのと運動不足とでかなり落ち込んでいるらしい。
なのについ、現役バスケ部の時代のノリで行ってしまった。はぁ…はぁ…。
「だから…若干って…いったじゃないか…はぁ…。」
「いやいや上手かったよ!!なのにそんなバテバテだから面白くてつい!!」
さすがは女版ユージ。まだまだ余裕そうだ。
それにしてもお世辞が上手い奴だな。
「皆、なかなかやるなー。それともウチの二年が弱いのか?ふむ。練習メニューを変えてみるか…。」
確かに即興チームにしては俺たちは善戦していた。まぁ俺はあんまり点取ってないがな。
「芹沢。お前はまぁ言うこと無いが…あえて言うならもっと冷静になれ。もっと味方に気を配ってな。お前が突っ込まなくても味方がノーマークの時が2,3回あったぞ。」
「はい!すいません…。」
「斎藤。お前は飛び入りなのによくやっていたぞ。まぁお前も上手かったがもう少し積極的に攻めたらもっとよくなる。あぁ、あと張り切り過ぎだ。バテバテじゃないか。」
「はぁ。すいません。」
これは意外な評価だ。上手いだって?まさか。
「次、田中。お前はシュートが上手いなしかし…」
「おつかれ響子。」
「はいタオル。」
「あぁ。ありがとう。さて、次はどこ行く?」
あまり待たせるのは悪いし、もうバスケは十分楽しんだ。
「もういいの?別に気使わなくていいのよ?ねぇ藍花。」
「うん。見てるの楽しいしね。」
そう言われてももう体力の限界だ。
「いや、もう疲れたし十分。じゃ、先生に挨拶してくるから。」
「そう?」
しかしこの顧問。千堂や伊藤じゃないが俺の第一印象と全然違うな。昨日教室に入ってきたときの第一印象は『だらけたフリーター』だ。
「先生、私はこれで…。」
「お?…おうお疲れ。まぁほかの部も回るんならこんなもんでやめといた方がいいな。…しかし少し顔色悪いぞ?大丈夫か?」
そんなに顔色悪かったのだろうか?
べつになんともないが……。
「え?いえ大丈夫です。あ、芹沢さん。これ洗って帰すから。」
「んー?別にいいのに…。じゃあ先生。私もそろそろ…。」
「あぁ。お疲れさん。しかしお前。今日用事あるんなら別に入部届け明日だもよかったんだぞ?」
「いえ。早く出したかったんです。」
「熱心なやつだな。まぁ明日っから頑張ろうじゃないか。じゃあな二人とも。帰りには気をつけろよ?」
「はい!」
いやまて芹沢。お前用事って…帰るって…
まさか…。
「よし!じゃあ着替え行こっ。斎藤さん。」
ぐはぁ!!!やはりそう来たか!!!なんてこった!!!
おい!!羨ましいとか思ってる奴!!自分の身になって少し良く考えてみろよ!!!
嬉しいどころか恥ずかしさマックスだよ!!
自分のだけでも恥ずかしいのにだよ!?
精神衛生に非常に毒だよ!
うわぁ!誰か何とかしてくれ!
「芹沢さんって下の名前なんていうの?」
「ん?楓っていうんだ。これからは楓ってよんでよ!」
「あ、じゃあ私は実希ね。こっちは藍花で、斎藤さんは響子よ。」
「オッケー。よろしく実希!」
「それにしても楓ちゃんも響子ちゃんもうまかったね。」
「ははは!なんかちゃん付けされるのって新鮮だよ!」
「あぁ。藍花の癖みたいなもんね。私は慣れたけど。響子はどう?」
おいおい後10メーターも行けば部室だぞ?どうする!?
どうする俺!?
クソなんで芹沢よりによって今日用事!?
あぁ…。覚悟決めるしかないのか…?
「…ちょっと!…響子!?どうしたの?顔色悪いけど!?ねぇ!聞いてる!?」
我に返ると3人が俺の顔を覗き込んでいる。
「おーい。響子ー。どうしたんだー?固まってるぞー?」
と芹沢。うん。そうなんだ。やばいんだ。
「すっげぇ気持ち…悪い……。」
やばい。とにかく気持ち悪い。吐きそうだ。さすがにカレーを無理やりかきこんだ後にバスケはまずかったか…?
「えぇ!?大丈夫?ほ、保健室!保健室行こう!!」
うわぁ。やばい。カレーが…カレーが戻ってくる……。
「か…カレーが…。」
「ちょっ。響子耐えろ!!もう少し!!トイレまで!!」