プロローグ
3月。段々と暖かくなり、卒業ソングなんかが流行りだす月。
世の学生たちは皆、進級や進学の準備で何かと忙しいのではないだろうか?
かくいう俺もこの間、晴れて中学を卒業したので来月、といっても今日は31日だから、まあ後一週間ほどで高校に入学することになっている。
俺の中学での成績は中の上といったところで、運動神経もまあ人並みである。(いや、もう少し下か…)
そうなると必然的に進学する高校も地元の公立の中であまりぱっとしない所になるわけで…。
しかし俺は勉強が嫌いなだけで理解力は人並み以上にある。と、信じている……。いや信じたい。
テスト前でもロクに勉強しなかった割にこの成績というのはなかなか良いのではないか……?
むしろ良い。いやそうに違いない。うん。
などとといったくだらない現実逃避を中断し、俺は駐輪場に自転車をとめる。
2か月くらいほったらかしでもう肩までかかりそうなあたりまで伸びてしまった髪を切りに行く途中なのである。
しかしここは散髪屋でも美容院でもない。
髪を切られてる間なにもしてなかったらなんやかんや話しかけられてめんどいからな。だから散髪中に読むための漫画を買いにこの大型量販店『ザイエー』に寄ったのである。
「よう鏡哉じゃん。」
ふと声をかけられた方に顔をあげると元クラスメイトの鈴木湧二が入口の方から出てくる。
「おうユージ。」
こいつと俺は中学時代同じバスケ部だった上、ずっと同じクラスだったため、なかなか仲のいい友人である。
ちなみにこいつも俺と同じ高校に進学する事が決まっている。
こいつはスタメンで俺は補欠だったが…。
そのうえ顔がなんというか、爽やかな美青年?的な感じで、それを気取るわけでもなく誰にでも親切なものだからかなり女にモテていた。
背も俺より10センチくらい高くて180センチくらいある。まるで欠点が見当たらないな。
…別に悔しくなんかない。
「お前髪まだ切ってなかったの?もう卒業式から大分たつぞ。入学式までには切れよ?そんなんじゃダサくてモテないぞ?」
「嫌味かこの野郎。今から切りに行くんだよ。」
「なんだ今から行くのか。それじゃあ仕方ないな。今から中学行って部活に混ざろうと思って鏡哉も誘おうとしてたんだけど。」
生憎俺は引退し、卒業した後なんかに部活なんぞしたくない。バスケは好きだが、せっかくの休みなんだ。
「悪いな、他をあたってくれ。」
「まあ仕方ないな。堀田でも誘ってみることにするよ。んじゃ。」
「ああ。またな。」
きっとあいつは高校でもバスケをするんだろう。俺は…どうしようか…。
そんなことを考えつつ目当ての漫画を入手し、ぼんやりと書店からでる。
今日は日曜日。かなりの人だかりだ。
エレベーター混んでるな…階段で下りるか……。
この時のこの選択を、俺は心から後悔することになる。
来たるべき高校生活について思案に暮れながら階段を下りていると突然、背中に衝撃のようなものを受けた。ような気がした瞬間に視界が一気に暗転し、気づくと俺は、階段から転げ落ちている最中だった。
なっ。なんだ!?俺はこけたのか!?
それを考えるだけで精いっぱいだった。
ーーーーードサッッ。
……………いってぇ……。俺、死…ぬか…も…。
そう思った後、俺は意識を手放した。