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第五話 公爵暗殺


「……最後に、お父様を殺すの」


 お嬢様は振り返ると、覚悟を決めた顔をしていた。


「今夜、我が家に賊が入るわ。殿下が亡くなった今がチャンスなことはブライト家も理解しているようね」


 ブライト公爵家はグトケレド公爵家の対となるお家だ。ずっとお嬢様に刺客を送っていた家でもある。いくら刺客を送っても無理だとわかったのか、現在は、第三王子派と第一王子派として水面化で争っていた。その結果、第一王子の婚約者であるお嬢様は命を狙われていた。俺が刺客としてお嬢様と出会ったように。


「我が家が二重スパイを雇っているのは貴方も知っているわよね?」

「はい」


 ここまでお嬢様が刺客に狙われ、尚且つ成功しないのには何かあると探っていた時期があったこともあり、公爵様が二重スパイを雇っていることは俺も知っていた。

 そして彼は使用人じゃないからか、お嬢様の言うことを聞くことも。


「嘘を伝えたの。襲撃を迎える時間は20時だと。だから、20時が手薄だと伝えるようにと」


 混乱に乗じて公爵を殺るおつもりか。しかしそれだとお嬢様も危ない。何人の賊かは知らないが、お嬢様が死ぬのはもっての外だ。


「我が家の衛兵や使用人は貴方が事前に避難させるとして……貴方、賊になんてやられないでしょう?」

「勿論です」


 ああ、そうだ。俺が守ればいいだけだ。この命に変えてでも。どうせあの時拾われた命なのだから。お嬢様の腹が決まっているのに、俺は何を考えていたのだろう。


「さあ、フィナーレにしましょう」


 かつてない程悪い顔をされたお嬢様に、俺はついていく。どこへだって。もしそれが地獄だとしても。




「第三王子と婚約しなおせ」


 公爵様はそう言う。お嬢様から預かった紋章を使って使用人へ刺客が来ることを信じさせ、安全なところに逃げるように伝え、お嬢様の警護にきた時、もうすでに食事は始まっていた。

 相変わらずお嬢様を政治の道具としか見ていないようだ。もう何年振りかわからないほど久々に食卓を囲んだかと思えばこれか。


「第三王子殿下はブライト家の方と婚約しているはずですが」

「それも今日までだ。明日からはお前が婚約者となる」


 この表情……刺客でも送ったか……。相変わらず下衆なやつだ。

 対してお嬢様は全く表情を変えない。何を考えているのか、俺でもわからない。


「お父様、(わたくし)を、愛していますか?」


 っ!?

 ……お嬢様。


「ああ、愛しているとも。ここまで有能な道具は他にない」

「そうですか」


 どうしてこんなことをそんな表情で言えるんだ、この男っ……。心にもない言葉を余裕な顔で……。お嬢様がどれだけ傷ついて、どれだけ苦労して激務をこなしてきたかも知らずに……。


      (「……あっさりと切り)      (捨てたくせに。さよう)     (なら。お父様」)


 その直後、か細く聞こえた声があった。俺はそれを、聞き逃さない。

 公爵を睨みつけた時、乱暴に食堂のドアが開けられた。賊だ。


「いたぞ!」


 真っ先にお嬢様を殺しにかかるが、お嬢様はひらりと翻し、剣を持つ敵の腕を叩き落とす。


「借りますわ」


 そして奪った剣で、公爵の心臓を突き刺した。激しく散った返り血すらかからない速さの身のこなしだった。一瞬にして公爵は死んだ。


「私も、貴方を愛していませんの。お父様」


 まさかのお嬢様が刺したことで、場に衝撃が走り、場は一時鎮まり帰る。いつのまにか給仕の使用人はいなくなっていた。ちゃんと言った通り逃げたようだ。


「ど、どうなってるんだ!? ……く、くそ!」


 ヤケクソになった賊たちが次々に襲ってくるが、お嬢様はものともせず、ただただ冷静に処理していく。俺にも襲ってくるが、余裕で対処できる範囲内だ。


「死ねえええええええ!」


 お嬢様の背後を敵が狙う。前の2、3人を相手にしていて、手薄だった。

 咄嗟に体が動いた。お嬢様が手薄になんてするわけはない。わざと誘導したということだ。けれど、わかった時にはもう止まれなかった。


「お嬢様っ」


 腹部を刺された。が、同時に敵も葬る。

 手応えを感じた時には、もうすでに床にぼたぼたと血が流れ落ちていた。


「グッ!」


 お嬢様にも少し血がかかってしまっただろうか。証拠とならないように捨てる算段を立てねば……。ああ、その前に出血を止めるべきか。痛みと出血で頭が回らなくなっていた。

 俺がそんなことを考えている間に、お嬢様は敵を一掃し、駆け寄ってきた。


「酷い出血だわ……」

「このくらい、大丈夫ですよ」

「私、貴方だけは失いたくないの。私には貴方しかいないの」

 

 お嬢様からこんな言葉を貰えるなんて……死んでも死にきれない。

 悔しそうな顔をしながらも、止血してくれる。手際がいい。これも前世で学んだことなのだろうか。

 ドレスを破った布で、包帯のように傷口をキュッと結ぶと、お嬢様は覚悟を決めたかのように、


「今ここで、イザベラ・グトケレド公爵令嬢は死んだわ」


 と言って、ナイフで髪を切ってしまった。

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